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「昏い夜を抜けて…全483話完」
第二章 誘惑①

昏い夜を抜けて020

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 腕時計の時間を確認すると、そろそろ待ち合わせの19時を回ろうとしている。
 ここのところ仕事の立て込んでいる山崎には、定時退社など難しいところだっただろうが、来週にはつくしの方でも花沢物産への出向を控えて何かと忙しく、互いの都合を合わせにくい。
 そんな事情を鑑みて、大事な話があるという山崎との待ち合わせは満を期しての、今日ということになった。
 一時期は、半ばヒステリックな強迫観念にも囚われ、そこへもってきての類本人まで登場の花沢物産への出向、という思いもよらぬ事態に直面させらて、つくしはかなり一杯一杯だった。
 とてもじゃないけれど、何か言いたげな山崎に対して、自分から気遣いを見せるという余裕もなく、快眠快食のつくしが不眠気味になるなど、本当に辛い数週間を過ごした。
 …ストレスによる一時的な自暴自棄もあったのだろう、何の問題もなく交際を続け、司の時のような激しい恋愛ではなくとも、平穏で…このままいけばおそらく結婚、ということも考えていた山崎との別れまで考えるに至っていた。
 まともな精神状態じゃなかったな…とはつくし自身、自分でも思う。
 雑草だ、多少のことではへこたれない等、自分を買い被っていた感があり、類との小さな間違いなど自分には何ということはない、とやせ我慢をしてきたけれど、結局、自分も一人の弱い女にすぎなかった…そう悟ることしきり。
 何事もなく時間が過ぎてみれば、まさに踏まれても立ち上がる雑草のように、痛みは残っても、和らげることには成功していた。
 …ホント、犬に噛まれたようなもんだったわよ。犬にしては…まあ、ちょっと、いや、とんでもない相手だったけど。
 そこまで自嘲を含むものとはいえ、振り返ることさえできる。
 と、なれば、精神的に参っていた時には、単純に山崎に対して疚しさや、隠し事をする面倒さやそういった一切のことに対する疎ましさから、山崎に会うのを厭っていたが、通り抜けてみれば…今度は、本当に山崎への申し訳なさがつくしの密かなる悩みとなっていた。
 昔から奥手で貞操観念の堅いつくしにしてみれば、恋人がいながら他の男性と肉体関係を持ってしまったなどという事態は手に余る。
 浮気…という意識はなかったけれど(当然だ。つくしの中では、ハッキリとあれは自分が悪かったのではない。あれは強姦だったという意識がある。…もちろん、迂闊ではあったが)、それにしてもとてもじゃないけれど、いけしゃーしゃーと山崎との交際を続けていけるものではない。
 言うべきか、言わざるべきか。
 言った場合、山崎によって別れを切り出される覚悟をしなければならない可能性も考えなくてはならず、たとえ別れることにならなくとも、今までと同じ…というわけにはいかないだろう。
 そして、言わない場合…言えないにしろ、言わないにしろ、現在山崎との結婚を考えている以上、一生隠し通す覚悟が必要になる。
 そんな重い秘密を一生涯…そんな長い間、果たして自分はたった一人で抱えて生きていけるのだろうか。
 ドツボからは抜け出してはいたが、山崎のことを考えるたびに、やはり溜息を抑えることができない。
 どうしよう、本当に。
 自分から別れるにしても、理由を言わないわけにはいかないし…。
 そう思うこともまた、それはそれで悩みは尽きなかった。
 「…つくしちゃん!」
 呼びかけられ、アイスティのストローにつけていた口を離し、声の方向へと顔を向ける。
 はあはあ、と息を洩らし、ファミレスのドアに入るか入らないかのところで、キョロキョロと男が視線を彷徨わせている。
 熊のような大きな体躯に五分刈りの髪型…さすがに大手企業の人間らしくスーツ姿はそれなりに様になっているが、どちらかといえばエリート営業マンというよりは、野暮ったい肉体労働系の男だった。
 だが、清潔感のある身だしなみと、ゴツイ顔立ちのわりにクリッとした目元の愛嬌のある顔は、本人の温厚で純朴な性格をよく表していて、つい人を微笑ませずにはいられない。
 実際に、真面目で誠実で、秀逸さで他者を圧倒させるというより、その人柄で信頼を得ている。
 そのため、体育会系の外見とは裏腹に、営業成績は良く、会社でも重用されていた。
 27歳の若さで主任職。
 次期課長職も間近と会社では囁かれているらしい(会社の同期の友人・松坂香帆談)。 その山崎が、注目を浴びることに躊躇して声を返しかねていたつくしを発見し、大きく顔を綻ばせた。
 「つくしちゃん、遅れてごめん!」
 まるで大好きな主人を見つけた大型犬のように顔いっぱいに喜びを浮かべて、駆け寄ってくる。
 正直、大声での声掛けはかなり恥ずかしかったが、それでも怒れないのはこの男の純粋な好意と性質に怒る気概が失せてしまうからだろう。
 …道明寺の時は、意地張っちゃってたのにな。
 ついここ何年も脳裏にも浮かべなかった名前が、容易に浮かんでギョっとする。
 おそらく、数年ぶりに彼を思わせる人たちと再会したことによる影響であろうが、つくし的には嬉しくなかった。
 「…正輝さん、走ってきてくれたの?少しくらい遅れても大丈夫だったのに」
 「いや、いつもつくしちゃんは遅刻しないからね。待たせるなんてできないよ」
 ふうう~と息をついて、ハンカチで汗を拭きつつ、対面側に座る。
 学生時代はそれなりに待ち合わせに遅れることもあったが、さすがに時間に追われ、対価をもらう社会人となっては仕事柄、遅刻はしないようになっていた。
 たとえそれがプライベートであっても、時間区切りのスケジュールで動いている習慣から同様。
 汗を拭きつつ、ウェイトレスが持ってきた水を一気飲みをして、それでも足りなそうな山崎に苦笑しつつ、自分の分の水も提供する。
 「あ~、人心地ついた。で、そっちどう?出向の準備はだいたいできた?」
 「あ、うん、まあね」
 花沢物産への出向の内示を受けてから、話はトントン拍子で決まっていった。
 つくしの密かな願い…花沢物産の都合でこの話がポシャらないかという儚い願いはやはり叶わなかった。 
 やはりチャンスだなんだとポジティブに考えようとも、類の魂胆がしれぬまま…あるいは魂胆など本当になくって、あの意味深な写メも単なる悪趣味な悪戯だった可能性もあるがどうにも感情が拒否感を抑えられない。
 それでも、決まった以上、Xディに向けて担当している仕事を引継がなければならなかった。
 なんだかんだで、山崎からの話、おそらく転勤の話をする機会は、そうした事情で保留となり、いよいよ山崎の東北行が間近に迫っての話し合いとなった。

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