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「昏い夜を抜けて…全483話完」
第二章 誘惑①

昏い夜を抜けて019

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 たかだか一社員が並み居る幹部たちの前で、意義を唱える無礼さに、周囲がざわめき非難の視線がつくしへと集中する。
 「どうして?」
 楽しそうなのは類ただ一人だ。
 「私は食品部門の菓子…それも洋菓子の一企画部員にすぎません。幅広い経験を提供するには経験が限定されすぎていますし、当社には私より経験も実力も遥かに勝る人たちがいるかと」
 「経験ね。まあ、一理あるけど、今回は花沢にとってまったく新しい試みなんだ。新しい風だと思っている。新しい風には風に相応しい、新鮮で柔軟な力が必要なんじゃないかな。…俺自身まだペーペーだしね」
 悪戯っぽく微笑む自信満々な顔が、まだ自分を新米だと言うその物言いを裏切っている。
 「専門が限定されてる、ということだけど…君は以前、技術交流スタッフとして、技術提携を結んでいる会社数社との研修の経験があるよね?」
 「たった一年だけです」
 それも、ほとんど新入社員になりたてホヤホヤという時に、だ。
 中規模とはいえ、フレッシュラインは業界ではかなり斬新な手法でシェアを獲得してゆく会社として注目を浴びている。
 その中に、社員たちの教育・育成、そして社内の戦力増強を狙って、もともとの親会社を筆頭に何社か技術提携を結んでいる会社との交流をかなり積極的に行っている。
 その一つが、社内の目ぼしい社員たちを一時的に、研修という名目で他社へと出すことだ。
 そして、その一人がつくしで、何を見込まれたのかほとんどが4年目、5年目の社員の中で異例のことだった。
 もっとも、当時、社内の設備投資やなにやらで、数年の間新入社員を採用していなかったので、その関係もあるのだろう。
 つくしは当時、久々の新入社員の一人だった。
 「今回のこれも、その技術交流の一環だと思ってくれればいい。花沢はCVS事業は初めてだけど、食品流通は経験がないわけじゃない」
 それどころか、十八番の一つのはずだ。
 それが、なにゆえに、わざわざこんな中規模の、海のものとも山のものともしれない一部署の平社員を…。
 不審は当然のことだった。
 けれど、一社会人として、上司から行けと言われれば行くしかない。
 断るのは職を失うのと同意であるのは、想像に難くない。
 ましてや、中堅どころのフレッシュラインにとって、花沢物産との提携は大きなチャンスだ。
 一平社員の個人的なわだかまりごときで、その機会を潰すことなど許されるはずもなかった。
 さすがに、この話一つを断ったところでつくしを首にまではできないだろうが、この先の会社員生活が辛くなるのは目に見えている。
 内心で、…今朝、幸せが逃げると言われたばかりのため息をつきたくなった。
 「君にとってもいい経験になると思うよ。技術交流でうちに来るのは君だけではないし」
 澄ました顔での類の念押しに、
 「…はい」
 そう答えるしかなかった。



 「すごーい!つくし!あの花沢物産の花沢類さまと会ったんだ~」
 事務所の自席に戻ると、待ち構えて横に立った香帆の第一声がそれだ。
 「…よく知ってるわね、あんた」
 「受付のミキちゃんが言ってた。あんたが呼び出された応接に類王子がいらしてたんだって?」
 なんだか高校時代の時が思い浮かぶ。
 F4に憧れ群がる女の子たち。
 つくし自身、憧れの王子様、そんな風に類を見ていたこともあったけれど。
 「…憧れの王子様、か」
 「ん?類様のこと?」
 「類様…ってあんた、アイドルじゃないんだから」
 呆れて肩を竦めるつくしに、香帆が両手を合わせて、神様お願い、ポーズで夢見る乙女を演出する。
 「アイドルじゃないからいいんじゃない。…まあ、玉の輿なんてさすがにおこがましくて、夢見たりもできないけど、イイ男は目の保養になるんだし。ちょうど、類様も傷心のおり、もしかしたら…って、それくらいはねぇ」
 「…傷心?」
 特に興味もなかったけれど、引き出しに資料をしまいつつ、ぼんやりと聞き返す。
 「あんた、そういうの疎いもんねぇ。類様、つい最近婚約者と破局って雑誌に出てたじゃない」
 「婚約者?」
 「そう。どこだっけ…どこかの旧華族のお嬢様。お似合いだったんだけどね…なんか、華道だか茶道の家元の御曹司と噂になって、とかなんとか。…あたしだったら、あんなイイ男が婚約者でよそ見なんて絶対にできないのに~」
 くううぅ~と一人で盛り上げっている香帆を見ながら、ふと、先日のF3との会合を思い起こす。 
 『ダチの女、ね…お前にそういうことを言われるとは思わなかったな、総二郎』
 類の総二郎へと向けた刃のような言葉とその場に流れた微妙な空気。
 ブンブンとつくしは頭を振る。
 あの人たちの相克なんて、あたしには何の関わりもないことだ。
 たとえそれが、高校時代の友人たちに関わることであっても、今となっては世界そのものが違う。
 「で~?なんの話だったわけ?」
 聞かれて、特に口止めもされていなかったと、気乗りしないものの口を開く。
 「…もしかしたら、来月あたりから、あっちの会社に出向になるかも」
 「あっちって?」
 「…花沢物産」
 目をパチパチと瞬き、ついで、香帆がきゃあっと大声で歓声を上げる。
 「ちょっと!大声出さないでよ。まだ、内々の話でオフレコかもしれないんだから」
 そうは言っても、社長を前に内示があった話だ。
 この先、花沢物産の都合でひっくり返しでもされなければ、潰れる可能性はほぼない。
 あるいは…つくしがこの会社を辞めるか。
 無理だわね…進もまだ大学卒業まで間があるし。
 溜息を禁じ得ない。
 「ごめんごめん、でも、それってチャンスじゃない!」
 「何がよ?」
 また玉の輿がどうのと、言いだすつもりだろうか?
 夢見がちで浅はかな両親ではないけれど、この友人もややミーハーなところがある。
 だが、つくしの不機嫌に歪めた顔に、違う違うと片手を振り、
 「花沢物産って言ったら、幅広く海外にも進出している企業じゃない。あんた元々、世界中のいろんな土着菓子に興味があって、そういうのも企画に取り入れたいって言ってたでしょ?うちもさすがに海外にまで支社はないし、そういうのを学ぶチャンスかもよ?
 「…そうかな?」
 そう言われてみると、これも一つのチャンスかと気持ちが上向きになってくる。
 我ながら単純だったが、本来、一つのことにクヨクヨする性格じゃない。
 …類との間に、あんなことがなければ、確かに喜ばしい事態だったのかもしれなかった。
 「でもさ、そうしたら、どうするの?」
 「え?」
 香帆が困ったような曖昧な顔で、首を傾げる。
 「…ほら、山崎さん。聞いた話だと東北に転勤らしいよ?もしかして、これを期につくしと結婚したいって話もでるかもしれないじゃない」
 香帆の話を聞きながら、手に持った携帯電話の履歴を確認するつくしの指が…止まった。

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