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「昏い夜を抜けて…全483話完」
第二章 誘惑①

昏い夜を抜けて017

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 ぼんやりと、携帯電話のメッセージを見ながら、何度となく繰り言が思い浮かび、、無意識の動作で周囲を見回す。
 いつの間にか、ちゃんと電車に乗り、いつも通いなれた道を歩き、茫然と自宅のアパートを見上げていた。
 よくも途中で交通事故にでもあわなかったものだと、自分で自分に感心する。
 カンカンと響く鉄製の階段を音高く上りかけ、まだ早い時間だったと速度を落とす。
 生々しい感触を振り払いたかった。
 体を庇うようにゆっくりな動作でいると、かえって節々の痛みや違和感が際立ってきて、自暴自棄な気持ちが湧き上がってくる。
 簡素な呼び鈴を鳴らすと、もう起きていたのだろう弟の進が玄関のカギを開けて出迎えてくれた。
 「姉ちゃん、ずいぶん早い時間だったんじゃない?」
 「…うん、ごめん。昨日は連絡もせずに無断で外泊して」
 つい弟の顔が真っ直ぐに見れなくて、俯いてしまう。
 「いいけど。でも、姉ちゃんだってまだ若い女なんだから、いくら母さんたちがいないからって…あんまり朝帰りとかって感心しないな」
 普段は頼りない弟が、いやに真面目くさった説教をしてくるのが耳に痛く、胸を刺す。
 「ごめんって。それより、あんたはこれからバイト?」
 「…いや、ちょっと眠れなかったから、早めに大学行ってレポートでも仕上げようかと」
 「そっか。あたし今日は休みだから、シャワー浴びたらちょっと寝るね」
 「うん」
 不審げに見る進の視線が痛い。
 それでも、何食わぬ顔で進の横をすり抜け、カーテンで仕切っただけの小さな洗面室へと篭る。
 バッグを脱衣籠かわりのドラム式洗濯機の上に置き、上着とブラウスを脱いだところで、ピロロロロ♪というメール着信音が入った。
 山崎からだろうか。
 自分の中の疚しさから素っ気なさ過ぎた?
 一瞬の躊躇の後、やはり疚しさから気乗りしないものの、メールの着信を開く。
 見覚えのないメールアドレスだった。
 開くか開かないか迷い…けれど、何か予感めいたものがあったのだろうか。
 いつもは知らない送信先からのメールなどは決して開かないと言うのに…。
 『またね』
 短く簡潔なひと言メッセージに添付されたファイル。
 携帯を持つつくしの手が、ブルブルと震え、立っていられない。
 いつの日かの既視感。
 …ぽわんと陶然とした顔で目を伏せ、ベッドにうつ伏せるつくし自身の写真。
 その背中には何の衣類も身に着けず、うつ伏せたシーツに隠れた胸元も素肌なのは一目瞭然。
 それは、明らかにつくしへの一つの意思表示が込められていた。
 これで終わりじゃないよ…耳の奥に類の声が甦った気がして、つくしは冷たいフローリングの床へと崩れ落ちた。



 どんよりと曇った空が、まるでここ数日のつくしの気持ちを代弁しているかのようで、なお一層気が滅入る。
 仕事が立て込んでいるせいもあってか、過労でクタクタになって帰宅するのに、ここのところどこか眠りが浅い。
 つくしは、妙に重い足取りで通いなれた通勤路を歩きつつ、額に手をやり、落ちてきた前髪をかき上げた。
 ババ臭いと進などには不評だけれど、時間がない時などは後ろで結い上げてしまえば手間が少ない。
 山崎という恋人を得て、ここのところ多少なりともシャレっ気が出てきたつくしも、さしものここのところの絶不調に、身の回りを気遣う余裕がなかった。
 ドンッ。
 後ろから小突かれ、怪訝に背後を伺う。
 「おっはよ~」
 同僚の香帆がニコニコといつもながらの愛想のよい笑顔を浮かべ、つくしと肩を並べる。
 「…おはよ。いつもながら、元気そうだね」
 「まあ、あたしはね。どうしたの?あんたは景気悪そうじゃん。朝から影しょってるよ?」
 言われて自覚のあるつくしは、はああっと溜息をつく。
 「溜息つくと幸せが逃げる…があんたの口癖じゃなかったっけ?つくし」
 指摘され、そういえばそれが座右の銘みたいなものだったかもと、今更ながらに思い起こす。
 そうはせずにはいられない激動の時期が多すぎたからゆえの反動ともいえた。
 とはいえ、そうは思うものの、溜息を吐かずにはいられない。
 「なに?マジで体調が悪いの?」
 「…いや、そういうわけでもないんだけどね。忙しいせいか、ここのところ夢見が悪くて」
 「へえ?珍しいね。快眠快食だって日頃から自慢してるあんたが」
 時折すれ違う顔馴染みたちに挨拶をしつつ、会社建物へと入りタイムカードを押す。
 企画営業という職業柄、他社の社員たちと会う機会も多く、基本がスーツ着用で制服等には着替える必要がない。
 そのまま事務所に向かおうとして、香帆がポンと両手を叩き合わせた。
 「…もしかして、山崎さんのことで悩み事?」
 恋のキューピッドは、何かとつくしの恋愛にも首を挟みたがり、時にお節介だ。
 実際、奥手で経験値の少ないつくしにとって、香帆の助言が有益なことも少なくない。
 けれど、今回のこの溜息は…山崎のことが原因なのではなかった。
 いや、ある意味、山崎にも関係がないわけではなかったが。
 山崎とは…類とのことがあった当日はさすがに顔を合わせることはできなかったが、男との情交の痕跡も消えた1週間後には顔も合わせている。
 ちょうど、おりよく山崎の方に大型案件が入り、忙しさゆえにすれ違い、気まづいつくしにとって救済となった。
 その後は特に波乱もなく、何を疑われるでもなく、以前の通り付き合っている。
 とはいえ、さすがのつくしも、山崎と付き合っていながら他の男と寝てしまったことに対して疚しさを感じないわけではない。
 けれど、つくしにしてみれば犬に噛まれたようなもの…初恋の男性に対して思うにしては寂しい心境だったけれど、結局そう結論付けて、事を荒げるようなマネはしたくなかった。
 もちろん、このことはF2どころか桜子…香帆、弟の進、恋人の山崎も含め、誰にも一切洩らしていない。
 類の社会的地位がうんぬんというより、自分自身が忘れ去りたかったのが一番。
 ついで、高校時代の友人たちによけいな心配をかけたくなかったのこともあり、なおのこと身近な友人や家族…恋人に打ち明けられるものではなかった。
 それに、類と別れたすぐ後に、仰天するようなまるで脅迫メールのような写メを送られビビったのもつかの間、あれ以来、すでに2週間もすぎようという今日になっても特に類からのアクションも接触もない。
 そうとなれば、あの出来事はすでに自分の妄想だったのではないか…そうと思うまでに非現実的な出来事となった。

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