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「夢で逢えたら…全207話完+α」
第一章 もう一度逢いたい

夢で逢えたら018

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 そろそろ残暑も終わり、ビル風が行きかう秋の夕暮。
 渡米1週間もしないうちに、急性盲腸炎のため、緊急入院となった第一秘書の遠藤の見舞いに類は、メイルズフォート病院の白い廊下を歩きぬける。
 大学卒業後、その秀逸さを見込まれ、花沢物産御曹司付となって十余年。
 類の右腕として切磋琢磨してきた身も、突発的な病には勝てず、あえなく撃沈。
 その忠誠心と忠義に誇りを持ち、真面目一辺倒でも、類には甘目な男の意気消沈ぶりに、自他ともにチャランポランを認める類は苦笑を得ない。
 別に気にしないで、のんびりしてればいいのに。
 遠藤がいないのは、確かに花沢物産専務としては痛手だったが、そんな時のために遠藤自身が教育してきた第二秘書他、精鋭もそろっている。
 さすがの三年寝太郎の類にしてみても、腹心の部下の鬼の霍乱には、きわめて真面目に対処する心づもりでもいた。
 そういえば、このメイルズフォートは大都会の中枢にあって、広大な屋上庭園の充実した休息地としても、名高い。
 さすがに場所柄、まったく関係のない部外者が立ち寄るというわけにはいかなかったが、こうして見舞い客として覗いてみるのは絶好の機会だった。
 まとまった時間が取れれば、せっかくのNY滞在中に思い出のあるセントラルパークを散策してみたいとも思っていたが、遠藤がこの有様ではそれも怪しい。
 第一、最近の類は散歩する暇があれば、一分一秒も惜しんで寝倒したいのが本音だった。
 病院の窓から差す西日が類の横顔を照らし、眼下に広がる屋上庭園の木々の囁きが、どこか類を誘っているようだ。
 まだ、社に戻るまではちょっとくらい時間とれるかな。
 夜から確か、道明寺との折衝への対策会議を兼ねた、プロジェクトチームメンバーとの交流会が計画されていた。
 専務である類が参加する義務はないのだが、直接現場に関わる人間とのコミュニケーションはなるべく図るようにしている。
 かつての類からは想像もつかぬことであったが、一社会人としてでなく、企業の経営者としても実際的に社会に出るようになって、類は実務以外の様々な
面での成長を遂げていた。
 エレベーターを下り、全面ガラス貼りの自動ドアを抜けると、ムッとした熱気と入れ替わるように爽やかな風が、類の頬を擽る。
 ビルの谷間にポッとできたスペースに広がる広大な空間に、赤茶色の太陽の残り火が、赤く周囲を染め変えていた。
 ベンチに寛ぐ人、佇んで沈みゆく夕日に見惚れる人、一日を無事に終える喜びに語り合う人々、思い思いに過ごす人々の仲間入りを果たし、類は久しぶりにホッと肩の力を抜いた。
 「ええっ?うっそぉ」
 そこへ、潜めたような女のハスキーボイスが、庭園の芝の下生え近く、大人の声が聞こえるには奇異な場所から届いた。
 「しぃっ!声が大きいよ、キャサリンっ」
 「そうだよ、見つかっちゃうよ、キャシー先生」
 数人の子供の声と思われる甲高い声が、それに続き、きゃあきゃあと明るい燥ぎ声が上がった。
 何とはなしに、その明るい空気に誘われ、類は相手に気が付かれないようにこっそりと近づく。
 この病院の医者なのだろう白衣を着た大人の女性が一人と、東洋人の男の子が一人、白人の女の子と男の子がそれぞれ一人づつ、そして黒人の男の子が一人。
 長く伸びた影を背に、円陣を組むように肩を寄せ合わせて座っていた。
 「で、でもさ、まさか、Dr.シュルツのところから持ってきただなんて。ま、まずいよっ!」
 癇性な眼科の医師を思い浮かべて怖気上がる大人に、綺麗な顔立ちをした東洋人の少年がニヤリと笑った。
 「なんだよ、キャサリン、怖いのかよ~」
 「こら!呼び捨てにすんな。怖いって、怖いに決まってるでしょ~。どうすんのよ、この間も、あんたらの悪戯のせいで、あたしはえらい目にあったんだからねぇ~」
 大の大人が情けなそうに訴える姿は、傍から見るとすっごく可笑しい。
 いったい何を持ってきたんだと、気づかれないようにこっそり類が覗き込むと、女性の手の中にあるのは、ファイリングされた何かの絵のようだった。
 …さすがに、この距離だとなんだか、よくわからないな。
 「だから言ったじゃん。欲しいやつがあったら、パパに言って俺がいくらでも手に入れてやるって。いてっ!」
 少年が頭を押さえて蹲った。
 「なにすんだよっ!この暴力医者!年増なだけでなく、凶暴じゃないかよっ!」
 「この口か~、この口が悪いのか~」
 「キャシー先生、許してあげてっ!」
 女が口の悪い少年の口元を両手で引っ張って、悲鳴を上げさせているところを外の三人の子供たちが引き留めている。
 子供と一緒のレベルで相対している女の一生懸命な姿に、陰に潜んでいることも忘れて、類は思わずプッと吹き出してしまった。
 「「「「「誰っ?」」」」」
 草原のミーアキャットのように、うちそろった動きで背後をふり仰ぎ、同じような驚き方をする大小の影に、ますます類は笑い転げてしまう。
 「あっははははは!」
 なんだか、これだけ笑わされてしまうのは久しぶりだ。
 学生時代はもちろん、社会人になってからも、仕事と家の往復で個人的な生活を犠牲にしてきたせいもあるけれど、わずかなりとも心を揺さぶられるようなことがなかった。
 こんな他愛無いことで!
 顔を見合わせる子供たちと女は、類の身をよじるような笑い方に、自分たちもなんだか可笑しくなってきたのかクスクスと笑いだす。
 笑いは電波するのだ。
 ひとしきり笑うと、まだ震えている口元を抑え、改めて一同を見回した。
 目が合うと瞬いていた大きな目を更に大きく見開いて、ポカーンと大きく口を開けたまま固まっている女はまるで子供のようだ。
 インテリジェンスな黒縁のメガネの目元は、それでもその職業柄に相応しく理知的で聡明。
 小作りな顔立ち、医師という職業からおそらく類と同年代、あるいはそれ以上なのかもしれなかったが、どこかあどけなく、東洋人にありがちな童顔なのか、ひどく若くも思えた。
 「…口から虫が入りますよ?」
 笑い含む柔らかな声音に、女はハッと両手で口を押え、赤面する。
 また笑ってしまいそうになりながら、似たり寄ったりな子供たちの顔を一巡し、見覚えのある少年の顔をマジマジと見直した。
 「要?」
 「…だけど。あんた、誰?」
 やはりと、類は納得する。
 本人とは初対面だったが、少年の顔は、幼い頃いつも一緒だった、幼馴染の親友とうり二つだった。
 「俺は、君のパパの友達だよ」
 「パパの?」
 「ああ。ずっと日本やフランスに住んでたから、君と会える機会もなかったけど、しばらくNY在住だから、今度はパパが来てる時にでも顔を出すよ」
 不審げに類を見上げたものの胡散臭げに顔をそむけると、要は女医の後ろに隠れるように下がった。
 だが、興味はあるのか、チラリチラリと視線を類に向ける。
 ふて腐れたような天邪鬼な態度が、幼い頃の司を彷彿とさせた。
 「要の主治医の方ですか?」
 「あ、ええ、そうです」
 「お名前は?」
 「…マーベルです。小児循環器内科の」
 「Dr.マーベル。俺は花沢です。要君の父親の友人にあたります」
 ニッコリ微笑み片手を差し出した類にマーベルは戸惑ったような笑みを浮かべ、一瞬の躊躇の後に握手を交わす。
 「さっきは、何をみんなで覗き込んでいたんですか?」
 それぞれに少年たちの関心はほかに移り、子供らしい無邪気さで再びじゃれ合いだす。
 それを見るともなしに見ながら、マーベルの手元のファイルを見つめて類は小首を傾げた。
 この年代の男性で、こんな仕草に違和感がないなんて…半分微苦笑気味のマーベルの内心の思いなど気が付いているのかいないのか。
 「えっと、実は今度小児科の子供たちで、ちょっとしたパーティをするんですが、その時の飾りつけでいま人気の日本のアニメの絵を描こうという話になりまして。
参考に…えっとその、病院内の医師が趣味で集めているものがあったので、え~」
 どこまで類が聞いていたのかわからず、また馬鹿正直な性格なのか、目をキョトキョトさせながら、女医はしどろもどろに話す。
 その子供じみた挙動不審さに、また類の笑いの発作が起きそうになる。
 なんだか、懐かしい感じだ。
 「もし、よかったら、僕の会社でスポンサーをしている作品がいくつかありますので、ポスターや参考資料を提供しますよ?」
 「え?いや、そんな」
 遠慮する女医とは裏腹に、臆面もない子供たちがわっと歓声を上げる。
 「なんだよ。パパだってお願いすれば、簡単にそんなの手に入れてくれるのに、キャサリンがダメだって言うから」
 「当たり前でしょ!なんでもパパに頼ればイイってもんじゃないでしょ。病院の図書室だって、インターネットだって使えるんだから、工夫しようだってあるのっ!」
 「ちぇ~」
 ぶーたれる要を尻目に、紅一点の白人の女の子の目が、類を見上げて煌めいている。
 「…花沢って、王子様みたい」
 男の子たちは、その発言に顔を見合わせる。
 「ねっ!キャシー先生もそう思わない?」
 カチーンと固まるマーベルの心情は正直で、女の子と同意見らしいのは、普段、まったく他人の思惑など興味のないる類にもわかりやすく、微笑ましかった。
 「僕の場合はおねだりされたわけではないですし、資料はお貸しするだけですから、その分、描きこむ方に力を入れればいいのでは?」
 「ええ、でも…」
 いいじゃん、いいじゃん、と子供たちの目は煌めいている。
 類はすっとマーベルの耳元に近づき、小さな声でとっておきの説得文句を告げた。
 「ほら、また、子供たちがDr.シュルツのコレクションを持ち出したら、大目玉をくらっちゃうでしょ?」
 「…っ」
 赤面しながら目を白黒する様は、まるでハムスターみたいで可愛い。
 「じゃあ、2,3日中に、持ってきますから、僕もそのパーティに招待してくださいね」
 「えっ?!」
 世の中は何事もギブ&テイクなのである。

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