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「愛してる、そばにいて」
第1章 泡沫に沈む月②

愛してる、そばにいて0045

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 「おい…?」
 あのね…と言ったまま黙ってしまったつくしの肩を、司が軽く揺すぶる。
 「眠い…なんだか、すっごく…また…眠く…なっちゃっ…た」
 あまりにつくしが眠そうなので、司も諦める。
 「…しょうがねぇな、わかったよ。今日はいろいろありすぎて、疲れただろ?眠れ」
 「…でも」
 つくしは決意したことを司に伝えたかった。
 でも、疲れが、眠気がその暇を彼女に与えてくれない。
 「今日はずっとそばにいるから」
 「…うん。明日…早い…の?」
 抱き込んだつくしの頭に顎を乗せ、優しく優しく、愛しい女の長い髪を撫でおろす。
 そして、つくしの小さな手を取り、二人の愛の記憶を留めるおそろいの結婚指輪にそっと口づけを落とした。
 この無情の幸せ。
 「まあな。でも2、3日で戻ってくっから。今は眠れ」
 「う、ん」 
 「おやすみ、つくし」
 「おや…すみ、つ、か…さ」
 明日頑張って早起きして、話そう。
 あんたを赦すって。
 愛してるから、そばにいるって。
 もう二度とどこにも行かない。
 あんたと戒と私と、ずっとずっと一緒にいよう。
 司はつくしが眠ってしまっていても、話すともなく思いついたことを話し続ける。
 この10年間、二人がずっとそうやって過ごしたように。
 「…前にお前が、言ってた、二人目?いいよなあ」
 「……」
 もうすでに、眠りの世界へと旅立ってしまったつくしは何も答えない。
 だが、司は不思議な安堵にも似た何かをつくしの表情から感じて、あれほど疲れて眠かったはずなのに、逆に目が冴えてしまった。
 なんだろう、この感覚は。
 赦されて、愛されて、すべてが受け入れられたような幸福感。
 つくしと一緒にいた10年間はいつでも、この上なく幸せな日々だったけれど、それでもいつも不安と焦燥、苦悩が付きまとっていた。
 肌と肌を合わせて、その温もりを共有していてさえ、いつの日か真実が明るみに出てこの幸せは崩れ去ってしまうのではないか、つくしは自分を憎み、恨み、彼を捨てどこかへと行ってしまうのではないか、という恐怖から逃れることができなかった。
 …何で、この女だったのだろう。
 つくしに問われずとも、司自身が何度も自分に問いかけた問いだ。
 そのたびに同じ答え以外、彼には存在しなかった。
 『つくし』だから。
 彼女だから、愛さずにいることなんてできない。
 何度自分は彼女との出会いから始めなおしたとしても、恋せずにはいられなかっただろう。
 何度拒絶され、絶望の淵に立たされ、苦悩に苛まれようとも、彼女を手に入れずにはいられなかっただろう。
 どんなに辛くても、どんなに苦しくても、彼女に出逢って得られた幸福に比べれば、たとえ絶望の底を転げまわる痛みが待っているのだとしても後悔などしない。
 どんな栄光が、どんな愛が、他に用意されていたのだとしても、彼女に出逢うことができない不幸に代えられはしないのだから。
 だから、毎日願い続ける。
 祈り続ける。
 彼にとって神にも等しい愛する女に。
 この幸せが続くようにと。
 愛してる、そばにいて。
 「お前に似た女の子も生まれたら、すっげぇ嬉しい」
 「すぅ…」
 「誰にもやらねぇし、嫁にだって行く必要ねぇ。この俺が幸せにしてやる。どんなことがあっても、守って辛い事や哀しい事なんて一度だって味あわせたりしねぇ」
 「す~、ん~、すぴ~」
 「お前がいて、俺がいて、戒や娘がいたら、俺ホント、何もいらねぇよ」
 「…ん…すうぅ~、すぴ~、すぴ~」
 「あ!でも、別にお前と戒がいてくれるだけでもいいんだけどよ」
 「ZZZzzzz~~~」



 夢だと自覚する夢がある。
 つくしは、夢を見ていた。
 まっすぐに伸びた道。
 暗闇に伸びた道はどこまでも白く、歩くたびに、つくしの横をさまざまな光景が通り過ぎて行った。
 …日本へ帰国する前に、スイスで過ごした最後の休暇。
 司がいて、つくしがいて、生まれて初めて手に入れたポニーの背に乗り、戒が嬉しそうにはしゃいでいた。
 …あれは、戒が生まれた日だ。
 まだヨーロッパに来たばかりで、やっとの思いで憶えた英語もよく通じず、片言のフランス語で過ごしたフランスの片田舎。
 毎日が心細くて、不慣れなことの連続だった。
 それでも、司が優しくて、どんなに忙しくても彼女を大切にしてくれて、そばにいてくれてどんなに心強かったことか。
 陣痛の苦しみを終え、胸の上に乗せられた濡れた小さな温もり。
 弱々しくて、か細く泣く赤ん坊に、胸が軋むような愛しさを感じた。
 初めて見た我が子が、司にあまりにもそっくりで、この上なく嬉しかったのを憶えている。
 そして戒を見た司が、『お前にそっくりだ。すげえ可愛いっ!』と言って、嬉しそうに笑った。
 もしかしたら、あの時にこそ、自分は彼を真実愛していると気が付いたのかもしれない。
 …NYでの日々。
 毎日が不安と苦悩の連続だった。
 いくら教えられても、自分の正体がわからない苦しみ。
 他人から身分違いだと嘲られ、財産狙いだと白眼視される痛み。
 姑である楓によって受けた様々な仕打ち。
 司の他に知る人もなく、愛する人もなく、周り中が敵だった。
 寂しかった、孤独だった、辛かった。
 婚約者だと言う司と唯々諾々と結婚してしまって本当に良かったのかと密かに悩みながらも、流れてしまった我が子を思って散々泣いた。
 愛している記憶などないのに、押し付けられる愛情に、逆らうことができず辛かった。
 司が優しければ優しいほど。
 彼女に縋りつけば縋りつくほどに、違和感を感じながらも、彼を愛していない自分への葛藤と罪悪感にいつも逃げ出したかった。
 けれど、どこに行けば良かったと言うのだろう。
 どこにも居場所なんてなかったのだ。
 夜中にふと目が覚めて、深く眠る司に抱きしめられながら、彼を起こさないように声を殺して啜り泣くたびに、自分はなんて泣き虫なんだろうと、何度自分を卑下し、自己憐憫に浸ったことか。
 それでも、そこかしこに、そんな彼女を抱きしめ、労わる司を思い起こせる。
 いつも傍にいた。
 あれほど粗暴で、俺様な男が、どうしてこれほどまでにつくしに尽くすことができるのかと不思議に思うほどにつくしを愛してくれた。
 司…司。
 つくしは愛しい男の名前を唱え続ける。
 5年前まで感じ続けていた不信感ではなく。
 10年前に叫んだ恐怖ではなく。
 ああ…、司に逢いたい。
 つくしは、いま、この刻…真実、司に出逢いたかった。




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