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「愛してる、そばにいて」
第1章 泡沫に沈む月②

愛してる、そばにいて0042

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 「…ねえ、ちょっと」
 無言でつくしのうなじから、首筋、顎の下、喉のくぼみへ伝い落ちる司の顔をベタッと片手で押しのける。
 だが、その手さえもものともせず這いまわり続ける司の顔を、今度は強くガツンと一発殴って押しのけた。
 「うげっ、舌噛むだろっ」
 「舌噛むだろ、じゃないでしょっ!?あんた、こんなところで何するつもりよ!」
 片手で司の顎を抑えながら、もう一方の手は腋の下の戒を守るようにベッドにつき、つくしは自分と司の体重でプルプルと震えていた。
 一応は司も片手でつくしの背を支え、もう片方の手で戒を潰さぬように自分の体を支えてはいる。
 だが、双方、子供を下敷きにせぬような無理な姿勢で、とてもじゃないが、甘い雰囲気に浸る状態ではない。
 「…何って、ナニ?」
 ガンッ、とイイ音が今度は司の頭で鳴った。
 「いってえっ!!この暴力女っ!すぐ殴るのはやめろって、いつも言ってんだろうがよっ!」
 「あんたが、いつもいつもアホなこと言うからでしょっ!?何考えてるのよ、このバカッ」
 「道明寺グループの副社長様を捕まえて、アホバカ言うんじゃねぇっ」
 「だから!デカイ声出すなっ。この非常識男っ!」
 「デカイ声出してるのはお前もだつーのっ!」
 いつの間にかいつもの言い争いに、だんだん声の大きさがエスカレートしてくる。
 「う…ん」 
 ビクッ。
 眠りの深い子供も、両親が耳元で騒ぐ声に、いやいやをするように身動ぎした。
 顔を見合わせて固まったままだった夫婦も、すぐに聞こえた寝息に脱力する。
 「…とにかく、こんなところで絶対にヤダからね」
 「ヤダって何がだよ」
 「何って、ナニでしょっ!」
 司の形の良い耳を引っ張り、ヤケクソで言い捨てる。
 声は抑えていたとはいえ、耳元で出された大きめの声に、キーンとした司が耳を抑え仰け反った。
 「…お前な、鼓膜破る気がよ。この凶暴女」
 ぶつぶついいながら諦めたらしく、やれやれと髪をかき上げ体を起こす。
 ジト目で愛する妻子を見下ろし、司は溜息を零した。
 「しょうがねぇな。今日のところは大人しく寝とくか。俺もさすがに疲れたし」
 「あんた、そういえば、中東からいつ帰ってきたの?」
 「いまだよ…。ジェット下りてここに直行した。どうでもいいけどよ、このベッドじゃ、三人寝るのきついよな」
 「……、はあ?」
 つくしが?を飛ばしている間に、さっさと司が外に顔を出し、警備しているSPに言いつける。
 「おい、ここの病院長にベッドをデカイのと入れ替えるように言って来い」
 「な、何言ってんのよ、あんた!」
 「こんな狭えのじゃあ、いくらお前と一緒でも疲れ落ちねぇからな」
 「阿呆っ!ゆっくり休みたければ、邸に帰れぇ~っ!!つーか、それこそ控室があるでしょっ!?」



 結局、金と権力でごり押しし、さすがにWベッドは病院に置いていなかったので、後日…(そんなに入院必要か?)邸から入れ込むと言うことで、もう一つのシングルをつくしのベッドとくっつけて並べることで落ち着いた。
 邪魔なので、さっきまでしていた点滴も外してもらっている。
 元々大した怪我ではなかったので、それは幸いだった。
 でもねぇ…。
 ブツブツいうつくしとは裏腹に、司の方は自分の欲求が通ってご満悦。
 …ホント、ガキなんだから。
 そんな無邪気な夫の喜びようを見ていると、つくしも怒っていることがバカバカしくなる。
 自分の危機を聞き、心配して血相まで変えて駆け付けてくれた最愛の夫なのだ。
 しかし、一息ついてみれば、当然のごとく司に説教され。
 「…だから、わかったって。今度からはちゃんと気を付けて、SPにも傍にいてもらう」
 「本当だな?」
 「うん、これは本当に反省した。危うく、戒のことも大事にするところだったんだもん」
 シュンと項垂れるつくしを見つめ、司も険しくしていた顔を優しく緩める。
 そして、傍らに寝そべる彼女の頬に手をやり、ゆっくりと撫でた。
 今日はいつもとはちょっとイレギュラーな川の字。
 つくしを真ん中に、壁際に戒、反対隣りに司が陣取っている。
 つくしにしてみれば、バカ夫婦そのまんまで医師や看護師に対して恥ずかしいもいいところだったが、久しぶりに感じる夫の気配や温もり、匂いは安心できて、嬉しいものでもあった。
 密かに司と一緒にいて怖かったり、拒絶感があるのではないかと恐れていたが、自分でも不思議なことにそういった感情は湧かなかった。
 おそらく、まだ思い出した過去が自分の物になり切れておらず、どこか映画でも見たような客観的なものでしかないからだろう。
 自分が『牧野つくし』と言う名の人間で、高校時代に司と出会うまでごく平凡に生きていた少女にすぎなかったことも思い出していたし、けっして司と交際してなどいなかったこともわかっていた。
 もちろん、かつて司がつくしを丸め込んだように、婚約者であったことなどはありえなかった。
 まだ、ところどころの欠落は埋められていない。
 それでも、司との間にあったものは、ただ好きだ腫れただけでは片付かぬ、重く辛い現実が横たわっていたことはもはや疑いもなかったのだ。
 なぜ、あの階段を転落した時に蘇った記憶の事態に陥ったのか。
 おそらく、手を伸ばせば簡単に手繰り寄せられる…ただ、その勇気が、覚悟だけが必要だった。
 「中野は首にする」
 思わぬ言葉に、自分の中に沈んでいたつくしはギョっと司を振り仰いだ。
 片肘をベッドにつき、つくしの長い髪に指先を絡めていた司の言葉は、つくしに対する指先や眼差しの優しさとあまりにかけ離れて酷薄で冷淡だ。
 司の優しさも、温かさも、愛情でさえすべてはつくしが基準でつくしに寄っている。
 「中野さんは関係ないよっ!」
 「お前、アイツが嫌いだっただろ?」
 心の内で留めていたはずの中野への苦手意識を司に言い当てられ、つくしは気まづく言葉を詰まらせる。
 だが、そのまま咎のない中野を解雇させるわけにはいかなくて、バツの悪さを押し殺し、つくしは言葉を継いだ。
 「…そりゃあ、ちょっとは苦手に感じることもあったけど、中野さんはいつもよくやってくれてた。今回の事件はほとんど私が悪い」
 「ほとんど?そうじゃねぇだろ、お前が全部悪いんだ」
 「ええっ!?」
 「前から言ってんだろ、お前はこの俺の、道明寺の若夫人なんだ。戒のことがなかったって、金が欲しかったり、俺を恨んでいる奴らにしてみれば格好の的なんだよ。それをお前はいつも不用心にしやがって。お前は俺を殺す気なのかっ!?」
 そしてまた、堂々巡りへと戻る。
 「そんな、あんたを殺すつもりなんて。大げさだよ…だいたい、さっきSPにはそばにいてもらうって約束したじゃん。もう、司ったら、しつこすぎ」
 粘着質は元々だったが、さすがのつくしの忍耐も切れてきた。
 もともと、つくしも司の唯々諾々なんていうのは性分ではないのだ。
 だが、今回は自分が悪かったと言う気持ちから、なるべく司の意志に沿おうと言う反省をこめて、口答えは控えていたのだが…。
 「ばかやろうっ!何が大げさなもんかっ!」




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