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「愛してる、そばにいて」
第1章 泡沫に沈む月②

愛してる、そばにいて0040

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 「絵里ちゃん」
 「はいっ。ああ、良かった!お目覚めになったんですねっ!?」
 少しばかりミーハーなところもあるが、基本人が良く親しみやすいこのメイドは、年が近いこともあってつくしとそれなりに親しかった。
 もっとも、司もタマもつくしが使用人たちと境を作ろうとしないことを苦々しく思っていて、司はともかくタマはとかく線引きをさせようとメイドたちにもしつけていたので、さすがに友達付き合いするような気安い時間を持つことはできていなかった。
 …タマさん、大好きなんだけど、こういうところは堅苦しいんだよね。
 他に目上の人間がいなくて、何事も自由奔放だったヨーロッパのお邸やマンション時代を思い、つくしも溜息が出る。
 「良かった…、それはもう、タマ先輩も皆も心配したんですよ~」
 「ありがとう、ごめんね。えっと、私、どうしてここに…?」
 今一寝起きの頭がボウッとしていて、今の状況を把握しきれていない。
 「…若奥様、もしかして、何も憶えていらっしゃらないんですか?あ、坊ちゃんは私がお抱きしますっ」
 つくしが不自由な体で、無理やり自分のベッドに戒を引き上げようとしているのを見かね、絵里が慌てて駆け寄り戒を受け取ろうとする。
 「いいわよ、この子、入院したわけじゃないんでしょ?とりあえず、私の横に寝かせてくれるかな?」
 見れば、おそらく邸の物が着替えさせたのだろう昼間着ていた服とは違ったが、パジャマではなかった。
 「え、あ、はい。さっきまでMRIとCTもとられたんですが、特に異常がないようなので帰宅しても良いと病院の先生の許可が下りたんですよ。でも坊ちゃん、若奥様のおそばを離れるのを嫌がってらっしゃいまして」
 「…そう」
 涙の痕が、どれほど自分を心配していたのかよくわかる。
 絵里が横たえてくれた息子の体に上掛けをかけ、愛する夫に瓜二つな巻き毛に指を絡め、頭を優しく撫でる。
 「えっと、…私たち、誘拐されそうになったのよね。それで戒と私が犯人と揉みあった時に振り飛ばされて、階段から落ちた」
 昼間の恐怖が蘇り、つくしはブルリと体を震わせた。 
 だが、同時にあの時には感じなかった親しい友達に裏切られらという喪失感も蘇ってきて、何とも言えぬ哀切に唇を噛みしめる。
 「はい…。私は詳しいことは伺っていないのですが、若奥様が戒坊ちゃんを庇われたから、坊ちゃんには傷一つないんだと聞いています」
 「そう」
 守りきることができた温もりに、つくしはほんのりと唇に笑みを浮かべる。 
 私の命にかえても…意識していなくても、あの時確かに自分が願った願いが叶ったのだ。
 そのことの他に大切な何があるというのだろう。
 そう思いながらも、いざ無事に戻ることができれば、やはり人はさまざまなことに思い悩むずにはいられない。
 「…洋子ちゃんとトオル君は?いえ、犯人の人たちは?」
 「それが、中野さんも、怪我をされた若奥様と坊ちゃんのことでてい一杯だったらしく、救急車の手配が終わった時には男の方は逃げてしまっていたそうです。他のことについては、私は…」
 「そっか~」 
 「中野さんはお邸と若旦那様への報告で席をはずされるまでずっと若奥様の病室の警備を引き続きされていたんですけど、ちょうど今さっき交代するように指示を受けて戻られたんです」 
 生真面目で融通の利かない中野のことだ。
 さぞ今回のことで責任を感じていることだろう。
 つくしはけっして馴染みやすいとは言えない中野を好きだとは言えなかったが、仕事に対する真摯な情熱と意欲は誰よりも知っていた。
 そして、今回ことはどう見ても、中野の責任などではなく、彼女が傍近く警備することを厭い、不用意にほとんど知らない他人を信じてしまったつくしに責任がある。
 常々、司やタマがいうとおり、自分は常に自覚していなくてはいけなかったのだ。
 つくしは道明寺財閥次期総帥・道明寺司の妻であると。
 そして、その司の息子・戒の母親であり、我が子の安全の為にももっと懐疑的に用心しなくてはならなかったのだ。
 「…中野さんに気落ちしないように伝えてくれる?今回のことは、彼女にはまったく責任ないんだから。司にもそのことはハッキリと私から言う」
 司のことだ。
 本当は誰が一番悪いのかわかっていても、彼女に甘い夫は、まずは中野に怒りをブツけるだろう。
 つくしへもお小言くらいは言うかもしれなかったが、それでトバッチリを他の人間が食うのでは割に合わず、申し訳ない。
 「あ、私、お邸と三木谷さんの方に連絡してきますね。若奥様がお目覚めになられたら連絡するように申し付かってたんですっ」
 三木谷とは司の第二秘書で、おそらく機上の山田と連絡を取り合っているのだろう。
 さぞや司にも心配かけただろうと思うと、申し訳なさに、気持ちが沈む。
 「あの、お医者様にも連絡するように申し付かってるんですけれど、ナースコールしても良いですか?」
 「うん…今、押すよ。邸と会社の方、よろしくお願いね」 
 「はいっ!」
 一礼し、部屋を出てゆく絵里を見送って、つくしは再び布団の中へと潜り込む。
 ひどく疲れていた。
 日本に戻ってからこっち、NYやヨーロッパではほとんど蘇ることがなかったつくしの記憶の断片が戻りつつある。
 だが、その記憶がけっしてつくしや司にとって、その幸せを守る要因にならないことを悟り、希求する気持ちを諦めた。
 なのに…今になって、その封印は解かれようとしている。
 一度走り出した運命は、もはや止めることができないのか。
 鳴りやまぬ頭痛が、いらぬ哀しみを呼び起こしそうで、つくしは寒さを感じながらそっと目を閉じた。
 あれは夢だったの?
 恐怖が生みだしたまったくの想像上の白昼夢?
 そう信じたい気持ちのどこかで、あれは確かにあった過去の出来事なのだとつくしの魂が訴えていた。
 司…。
 司…。
 ただ、一つの名前を心の中で唱え続ける。
 いつも辛い時、哀しい時、寂しい時…そして幸せな時も、常に彼の名だけがつくしのすべてであった時と同じように。
 強さを、何があっても、何が過去にあったのだとしても、この幸せを守り、変わらぬ不変の強さこそ欲しい。
 愛する二人。
 司と戒と共にいるために。
 『愛してる、そばにいて』そう囁き続けた司の願いをかなえ、そして自分もまた育んできた愛しさと温もりを失わいたくないのだから。
 『つくしって雑草よね!?ふまれてもけられても春には芽が出るつおい植物よねッ。そうよ、あたしはね、温室でぬくぬく育った坊ちゃんたちとはわけが違うのよっ』
 かつて自分が叫んだ言葉が、意図も容易く甦る。
 横に眠る戒の顔を見守るつくしの目から、熱い涙が溢れだし、頬を伝い落ちた。




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