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「愛してる、そばにいて」
第1章 泡沫に沈む月②

愛してる、そばにいて0039

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 歩み寄ろうとした秘書の山田は、すんでのところで硬直し、結果手を差し出し損ねる。
 自分でシートの肘掛に縋って体を立て直した司の顔は、憤怒と焦燥に強張り、青ざめた顔からは幽鬼のように生気が失せ、その鋭い眼光だけが爛々と熾火のように燃えていた。
 なまじ彫刻のごとく整った美貌の男であるだけに、その非人間的で壮絶な表情は沈着なエリートであるはずの山田をも怖気させ、震え上がらせた。
 「…つくしは、戒は、無事なんだろうなっ!?」
 地獄の底から這いあがってきたようなしゃがれた声が、俯いた司の喉から絞り出される。
 つくしっ!
 背筋を流れる冷たい汗が司の体を瞬時に冷やし、体とは裏腹に沸騰した頭が司の頭をつくしと戒の名前だけで一杯になる。
 山田は、司の発する威圧感と激しい怒気を堪えた。
 怖ろしい…。
 自分より何才も年下のはずのこの青年の意志が怖ろしく、そして狂気に怖気た。
 密かに舌先で乾く唇を舐め、震えそうな舌先を叱咤し、心持ち声高に司へと報告する。
 「お、奥様と戒様はすでに救出されております。ただ、犯人ともみ合った際に、戒様が階段から投げだされたようでして。奥様が戒様を庇われて階段からともに転落…」
 「…っ!?」
 つくしっ!戒っ!
 つくしと戒が救出されたと知り一瞬安堵しかけたものの、二人が階段から転落した下りで瞬時に頭に血が上って、司は先ほどまで飲んでいたワインのグラスをなぎ倒す。
 ガシャーンッ。
 「ひっ」
 甲高い物音をたてて、その薄い高価な器は砕け散り、司の怒気に触れた山田は身を強張らせた。
 「ご安心くださいっ!さ、さ、幸い、奥様に命の別状はありませんっ。肩と右足首の骨を損傷されたようですが、戒様の方も怪我など別状はなくっ。お二人ともただいま病院にて検査及び治療中だということです!」
 つくしの怪我が大したことがないことを聞くと、今度は心配が瞬時に怒りにすり替わる。
 山田の決死の言葉は、司の確かに狂乱の爆発を防いだものの、不完全燃焼のまま燻らせた。
 完全に鎮火できたわけではない。
 しかし苛立ちを隠せない司も、空の上ではどうしようもないことに気が付き、それ以上、山田へと八つ当たることを思いとどまる。
 飛行機の中とは思えない毛足の長い絨毯に染み込む真っ赤な液体が、つくしの流した血のようで司は身震いし、だが息を吐くことで強張った体を弛緩させた。
 「中野は何をしていた」
 中野は他のSPたちとはまた違う。
 つくしの為だけに探し出してきた超一流の警備要員で、警察時代はSAT(特殊急襲部隊)の経験もある特に優秀な婦警だ。
 つくしは中野の性質に馴染めず敬遠していたようだが、他のSPはともかくこの中野を外すことだけは司が許さなかった。
 それだけ、中野を信頼し、見込んでいたのだ。
 「…詳しいことはまだ報告が上がっていませんが、どうやら少し離れて警護していた隙を突かれたようでして」
 おそらくつくしがそう命じたのだろう。
 つくしは、周囲から浮き上がる原因となるSPを傍近くに警護させることを疎んじている。
 司も自由な学生時代を過ごし、その気持ちがわからないではなかったが、さんざんつくしには注意し、警告していたことだ。
 金と権力には、それにともなう危険も付随する。
 つくしが司の妻である以上、戒が道明寺の跡取りである以上、そうした危険は常に背中合わせなのだ。
 「日本に何時間後に到着するっ」
 「おそらく、あと2,3時間で関東圏に到着する予定かと」
 「クソッ!」
 収まらぬ腹立ちのまますぐそばの座席を蹴り上げ、司はそのままドサリと腰を落とした。
 片手で頭を抱え、晴らすことの出来ぬ苛立ちを指先に込めてコツコツと肘かけを打ち付け、長く熱い息を何度も吐く。
 つくし…つくし、怪我は酷いのか?肩と足首を損傷したっていってたなっ。ちくしょうっ。
 交互に訪れる不安と憤怒。
 だが、司は頭をふと振りすることで気分を変え、顔をゆっくりとあげ、傍に控えた山田を強い意志をこめて見据える。 
 「…犯人は抑えてるんだろうな」
 「それが、主犯と思われる男は逃亡しておりまして。その共犯の妻と幼い子供は確保しております」 
 「虱潰しに探せ。俺の家族に危害を加えようとした奴はどんな目に合うか、骨身に染みて思い知らせてやる」
 司の目が危険で凶暴な光を浮かべ、その美しい唇の端を歪んだ笑みの形にあげる。
 それを見守る山田は我知らず小刻みに体を震わせ、まるで飢えた肉食獣に出くわしたかのような錯覚と恐怖に怖気あがるのを抑えることができなかった。



 つくしがふと目を覚ますと、すでに時刻は夕刻を過ぎ、薄闇が室内を覆い隠していた。
 シンとした冷房を冷たさに、少し身震いをすると、ふと自分の足元の重さとしびれを自覚し、視線を投じる。
 泣きつかれたのか、涙の痕も痛々しい戒が、つくしの左足に取りすがるように眠り込んでいた。
 「…戒」
 昼間のことが思い浮かんで、涙が目に滲んでくる。
 無事でよかった。
 我が子の怪我一つない健やかな姿に、あれほど感じた恐怖が消えてゆき、守ってあげることができた安堵に涙がこぼれた。
 可愛らしい寝顔をさらすいとし子の頭を撫でようと、身を起そうとすると、途端に走った鋭い肩の痛みと全身を覆う鈍い痛みに顔を顰めた。
 よくよく見れば肩には包帯が巻かれ、左の腕には点滴が繋がれている。
 気が付いていれば全身もかなり痛く、動かしていない右足首にも違和感があった。
 おそらく戒を抱き込んだまま階段を転げ落ちた際に、全身を強打し、どこか骨折くらいしたのかもしれない。
 だが、包帯でグルグル巻きにされていたり、機械だらけにされていないので、せいぜい全身打ち身と脳震盪くらいなものなのだろう。
 ズキリ。
 「あ、いた」
 ちょうど頭に意識が向いたところで、案の定頭痛が走り、とっさに触れた後頭部に大きなたん瘤がある。
 触れるとさすがに相当痛く、小さな子供の頃以来の懐かしい痛みだ。
 「…もう、冗談じゃないっつーの」
 特別室とかいえ、冷房がやや効きすぎているカンのある部屋で寝こけている我が子が心配で、痛みを堪え、つくしは体を起こして戒の体をベッドへと引きずりあげようと手を伸ばした。
 ガチャリ。
 「あ、若奥様」 
 顔を上げると、顔馴染みの若いメイドが目を見開き、ついで嬉しそうに相好を崩した。




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