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「愛してる、そばにいて」
第1章 泡沫に沈む月②

愛してる、そばにいて0038

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 「ん~、ん~、ん~」
 口を塞がれ、唸り声を上げ続ける息子の声をバックに、滲む脂汗を拭うことも出来ず、つくしは相手の指示に従うしかない。
 友達だと信じていた洋子に裏切られたのもショックだったが、今はマヒしているのかあまり痛みを感じない。
 だが、現実に差し迫る危機が、つくしの心臓をドキンドキンと激しい鼓動を打たせ、空転する頭で、ひたすら頼りにしている男を呼び続けた。
 司…。
 司、ああ…あれほど言われていたのに。
 自分の身の安全よりも、戒を守らなければならない。
 この子は道明寺家の跡取り息子。
 抵抗しなければ、殺されたりひどく傷つけられたりはしないはず。
 戒を確保されてはつくしに抵抗する気力もなく、唯々諾々と脅迫者の意のままになる道を選択する。
 「ぐすん、ぐすん…戒ちゃん。ぐすっ」
 父親に怒鳴られ助手席に向かったトオルが、グスグスと泣き出す。
 何も知らなかったのだろう、突然の父親の暴挙や場の異様な雰囲気にのまれ、まだわずか4才のトオルは怯え怖がっていた。
 「馬鹿野郎ッ!泣くんじゃねぇっ。とっとと乗らねぇかっ」
 父親も苛立ち、おそらく通常の精神状態ではなく、グズる我が子にすぐにカッとなり片手を振りあげる。
 「やめてっ!あなたっ」
 とっさにその凶行から我が子を守ろうと、洋子がトオルを庇おうために身を乗り出す。
 と、
 「痛っ!」
 洋子が悲鳴を上げ、戒の口を塞いでい手をとっさに放す。
 我が子に気を取られ、戒への注意が散漫になった彼女の隙を突き、戒が自分の口を塞いだ指に噛みつき、その縛めから抜け出したのだ。
 「戒っ」
 「お母さんっ!」
 つくしへと手を差し伸べ、逃げようと戒が足を一歩踏み出したところを目にした男が、カッと頭に血を上らせ、我が子に上げていた拳をそのまま戒へと振り落す。
 「ダメッ、やめてぇっ!!」
 とっさによけようとした戒が、すぐ後ろに広がる階段を踏み外し、体が宙に浮いた。
 「いやああああ、戒ッ!!!」
 「…奥様あぁっ!!」
 離れていたところから親子を見守っていたSPの中野が、駆け寄りながら叫ぶ声もつくしの耳には入らない。
 落下しようとする我が子の姿を目にした瞬間、つくしの中には自己保身も先のことも、何もかも脳裏から消えた。
 ただ、戒だけを。
 事の成り行きに茫然としている一同の隙を掻い潜り、つくしは階段を蹴り、戒へと飛びついた。
 不気味な浮遊感。
 「きゃあああああっ!」
 驚きに目を真ん丸に見開いた戒の腕を掴み引きずり寄せ、体の中に抱き込んで庇う。
 ゴロゴロゴロゴロ、ドス、ダンッ。
 階段を転がり落ち、何度も堅いコンクリートに体を打ち付けながら、つくしは必死に我が子の頭と体を守り続ける。
 まるで時間がスロー再生された映像のように、ゆっくりとつくしの周囲を流れていった。
 とっさにつくしに向かって伸ばされた男の手。
 驚きに目を見開き、アの形に開いた口を両手で覆う洋子の顔。
 焦った顔で駆け寄ってくる中野。
 それは唐突に起こった。
 まるで死を前にすると、その人の人生が走馬灯のように駆け巡ると言う。
 『お前は俺んのだっ!絶対にどこにも逃がさねぇっ。地獄までだって追いかける』
 伸ばされた男の手が、司の手へとかわり、つくしは絶叫した。
 ダメ、いやだ、思い出したらダメッ。
 それは彼女の魂があげる断末魔の悲鳴。
 あれほど求め続けた記憶の欠片が、真実が、つくしを一瞬で恐怖のどん底に落とし、怯えさせる。
 だが、一度封印を解かれた扉は、もう再び鍵をかけることなどできないのかもしれない。
 次々に飛来するビジョン。
 つくしが恐れ怯えるその記憶のそこかしこには…必ず司がいる。
 『…お前は俺と永遠にここにいる。俺とお前で、そのお前の胎の中にいる子供を育てるんだよ、夫婦になるんだ』
 どこか陶酔した声音の司の声は、その言葉の内容とは裏腹に狂気を含んでいて陰惨だった。
 厭わしくて、汚らわしくて、憎くて…。
 司の手を力いっぱい振り払い、絶望しきっていた自分はあの時、何を思い、何を決意したのだろう。
 『よせっ、牧野っ!落ちるっ。そこから落ちたら、お前の胎の子はっ!』
 …なかったことにできる。
 この煉獄から決して逃れることができないというのなら、せめて。
 ダアアァーンッ。
 叩きつけられた衝撃に、つくしは痛みよりも息がつまり、朦朧と意識が呑み込まれかける。
 「だ、誰かが階段を転がり落ちたぞ~っ!」
 「やだあっ、誰か救急車っ!」
 騒ぎに気が付いた人々が遠くから、叫びをあげ、次々につくしの元へと殺到する。
 「わああああん、わあああああん」
 誰かの泣き声が聞こえる。
 そして、悲鳴が…遠く、わぁんわぁんという耳鳴りの奥から聞こえてくる。
 『いやああああ、生みたくないっ、生みたくないっ。ケダモノッ。来ないでえぇっ!!』
 いつの日か見た悪夢が。
 眠れぬ夜の静寂に、彼女を怯えさせた過去が。
 箱の中に閉じ込められた真実が。
 溢れ、蘇る…。
 あれほど、望んだのに。
 それはけっしてつくしにとって甘くも優しくもなかった。
 軋るような痛みに、いつの間にかつくしはか細く弱々しい声で啜り泣いていた。
 現実と幻が交差し、ショックと混乱した頭で怯え惑う。
 だが、ただ一つのこと…腕の中でぐったりとした小さな温もりが彼女を現実に繋ぎ止め、つくしはひたすら誰にとも知れず祈り続けた。
 戒、戒、私の子。ああ、この子だけは。どうか、どうか、誰か助けて。
 誰に願えばいいのだろう。
 この10年間…つくしを助け、支え、守ってくれた司は今やこの上なくつくしにとって遠く、まるで泡沫に沈む月のように頼りなかった。
 「奥様っ!しっかりなさってくださいっ。奥様っ」
 つくしの傍らにたどり着いた中野が、つくしを呼び、励ます。
 だが、つくしの意識はやがて完全に沈み込み、暗闇に呑まれ、もはや我が子の安否も自分のことさえも、知る由はなかった。



 
 「なんだとっ!?」
 司は、中東から帰国する自家用ジェットの中で、つくしと戒の誘拐未遂事件の報告を受けた。
 時は事件からすでに数時間の後。
 日本では夕刻を回り、そろそろ宵闇に包まれた頃だろうか。
 誘拐…司もかつてさんざん悩まされ、それゆえに幼い頃から格闘技などの護身術の訓練を架せられた。
 それが皮肉にも、彼を凶行へと容易に走らせる手段となって、数々の暴行事件と怨嗟を引き起こす要因の引き金となったけれど、その甲斐もあってか、実際に実害を受けるようなことはなかった。
 つくしは嫌がっているが、戒の英才教育やそうした護身訓練もゆえないことではない。
 ざあっと血を引くような思いに、司はとっさに立ち上がったものの、あまりのショックにふらりと倒れ掛かった。
 「ふ、副社長っ!?」




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