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「愛してる、そばにいて」
第1章 泡沫に沈む月②

愛してる、そばにいて0037

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 『……』
 珍しく素直なつくしの言葉に、司は絶句していた。
 『早く逢いたい』
 嘘偽りない真実の言葉。
 まるで少年の日のように、真っ赤になって嬉しそうに笑う司の顔が容易に思い浮かぶ。
 『ば、バッカ野郎!クソッ、今すぐお前を押し倒してぇ。なんて可愛いこと言いやがんだっ!』
 『ば、バカはあんただっつーのっ!』
 最後はいつものようなじゃれ合いで、電話を切って。
 本当にバカなんだから。結婚して何年もたっていて、子供だっている夫婦なのに。
 何年たっても司は変わらない。
 つくしに対して情熱的で、ストレートで甘すぎるほどに甘い恋人。
 つくしの心は、いつものようにほんわかと優しい温もりに包まれた。
 そして…あれほど司を狂乱に陥れた花沢類は、プールでの一件以来個人的に顔を合わせる機会もなく、どこだかの会社主催のパーティで遠目に見ただけで、すでに2日ほど前に再び中東へと旅立っていった。
 もちろん、つくしはそのことを知るべくもなく、また、知ろうともしなかったのだが、なぜか桜子が知らせてくれた。
 その時感じたのはいつか感じた懐かしい慕わしさなどではなく、これで司の嫉妬が収まるという安堵感だけだったことにむしろ自分でもホッとしていた。
 「いいなあ、つくしちゃん、旦那さんとラブラブみたいで」
 一人で照れたり、困ったり、百面相をしているつくしの顔をどう思ったのか、自分の膝に片肘をついた洋子がポツリと呟く。
 「ええっ?いやいや、ラブラブっていうーか」
 「ラブラブなんでしょ?幸せそうな顔してるもん。きっと、つくしちゃんの旦那さんは、つくしちゃんが大好きで大切で、つくしちゃんの為ならなんでもしちゃうんだろうな~」
 本当のことなので、なんとも否定しがたい。
 「…そんなラブラブの旦那さんが出張で帰ってくるのに、無理は言えないかあ。つくしちゃんいつも忙しそうで、いくらうちに誘っても来てくれないしねぇ。だから、せめて一目でも仔犬を見てもらいたくて、今日、車に乗せてきてるんだあ」
 「え?」
 「可愛いって言ったでしょ?どうせなら、実物見てもらった方が、貰ってくれそうだし。いつもどおり、公園の出入口の階段の上のところに車停めてるから、一緒に見に来てくれる?」
 いまはまだ戒のことも心配事が多く、出張・転勤が多い司に同行することが普通のつくしとしては、仔犬を貰うことにはあまり乗り気ではない。
 戒の為に…確かに、一理あるけれど、かといってそのためだけに飼って、ほとんど自分で世話ができないのでは本末転倒だ。
 それでも、かなり執拗に誘ってくれる洋子を無碍にはできなくって、見るだけの約束で洋子の車へ同行することにする。
 「戒く~ん、徹~、そろそろ帰らないといけないから、戻ってきて~」
 つくしの返答を待たずに、洋子が子供たちを呼び集める。
 これも付き合いというヤツなのだろう。
 
 


 アップダウンが多い土地柄、公園の規模の割には階段の段数はかなりある。 
 その上の道路部分がわりと道幅が広いため、公園に遊びに来るママたちが車を駐車場がわりに利用していた。
 つくしもその例にもれず、車で来園していたが、リムジンほど派手ではないとは言えけっこうな高級車だったので、目立たぬように運転手と共に、近場の路地に駐車してもらっている。
 運転手を待たせることは申し訳なく思っているのだが、司はつくしが運転免許を取って自分が運転することを許してくれなかった。
 曰く、
 『お前のことだから、自分で運転できるようになったら、SPの目を盗んでホケホケ平気で一人で出かけるだろ?』
 そんなつもりはなかったけれど、まあ確かに、今の監視づくめの生活がいささか窮屈なことは否めない。
 司だって学生時代、SPなしに一人で好き勝手して、かなり?ヤンチャをしていたということはタマや椿から耳にしている。
 戒がまだ幼いのである程度は仕方のない事だったが、司の心配性は病的に過ぎるとつくしは思っていた。
  とりあえず、日本に帰ってきてSPの人数は縮小してもらったので、まあ仕方がないかと当分は諦めることにする。
 …別にその気なら電車やバスだってかまわないんだしね。
 つくし的には、まだ日本に帰ったばかりで、いきなり飛ばすつもりがないだけのこと。
 記憶を失っていても、何とはなしに電車などの公共機関に戸惑いはなかった。
 元々牧野家は根っからの庶民だ。
 おそらく、そうして高校生の頃のつくしは、電車やバスも度々利用していたのだろう。
 そういうところで、生まれながらのセレブで、電車に乗るどころか乗り方さえ知らないだろう司と自分は、本来まったく別世界の人間なのだと痛感する。
 少しづつ、司や道明寺家の使用人たちと渡り合ってでも、もう少し自由な生活というのを手に入れたいものだとつくしは思った。
 「まだ小さくて、抵抗力が弱いから外にはあまり出せないの」
 案内された水色の車は、何の変哲もない軽自動車で、丸っこいフォルムが可愛らしい。
 特に車好きというわけではないが、いつも無骨なカンのあるリムジンか、ド派手なスポーツカーといった高級車しか馴染みのないつくしには、新鮮で羨ましかった。
 可愛いなあ。悪目立ちしなそう。やっぱり、私もこういう車を運転してみたい。
 運転したいというよりも、自由に人目を気にせず好きなところへ行ったり過ごしたいという願望だったが、司の妻である以上それは叶わぬ夢。
 その代価のごとく車に執着している自分に、つくしは気が付いはおらず、司の方がむしろつくしの本当の望みを熟知していた。
 自由が欲しい。
 自分の手で足で歩いて、自分の道を切り開きたい。
 道明寺司の妻という、司の付属品としての人生ではなく自分自身の人生を生きたい。
 かつてのつくしであれば、当たり前のように望み、また、そうあるべく努力し邁進していたはずなのに、彼女の人生は司によってねじ曲げられ、歪められてしまった。
 だが、そんな自分の真実の人生への希求である記憶を取り戻すということさえも、つくしの司への愛が、彼を愛するためにという一点の為に諦めようとしていた。
 それもまた、彼女の選択だったのだ。
 洋子に促されて中を見ると、確かに車の後部座席の下にケージが置いてある。
 「…中のケージにいるから、つくしちゃんも戒君も入って、入って」
 「可愛いんだよ~」
 気さくな洋子と、トオルが嬉しそうにつくしたちをしきりに中へと促した。
 耳を澄ませば小さな仔犬の声が聞こえてきて、戒も興奮気味に中を覗き込む。
 「すげえ、俺、犬の赤ちゃん、見たことない。いいなあ」
 ドアハンドルに手を触れ、つくしが開けようとしたのを見計らったように、つくしの肩にかけていたトートバッグの携帯電話が呼び出し音を発した。
 RuRuRuRuRuRuRuRu、RuRuRuRuRuRuRuRu、RuRuRuRuRuRuRuRu、
 「あ、ごめんなさい。うちの方からだと思うけど、電話みたい」
 急き立てるような電子音に、つくしは慌てて戒を連れ、車から離れて公園へと戻ろうとする。
 中野さんからかな…。
 そろそろ司を出迎える準備をしなければならない。
 SPの中野からの帰宅の督促だろう。
 内心溜息を洩らしながら、つくしが踵を返そうとした途端…。
 グイ、ガチャッ。
 「え?」
 唐突に背後から乱暴に腕を掴まれる。
 車の影から突然現れた男が、車のドアを開け、つくしを車の中へと突き飛ばした。
 ドンッ。
 キャンキャンキャン、キャン。
 「お母さんっ!?…ムグッムグムグっ!!?」
 体勢を崩しながらも振り返るつくしの目に、暴れる戒を洋子が羽交い絞めにし、口を手で抑えているのが映る。
 「洋子っ、さっさと子供ごと車に乗り込め」
 つくしを突き飛ばした男が、洋子を怒鳴り飛ばした。
 緊張にだろうか、わずかに声を震わせる熊のように大柄な男が、髭に覆われた口元の歯を剥き出しにして、つくしを威嚇する。
 「おいっ、あんた、道明寺家の若奥様。騒ぐと、あんたの子供が痛い目に合うことになるから、静かにしてろよ」
 「…つくしちゃん、ごめんなさい。大人しくしていてくれれば、戒君もつくしちゃんのことも、傷つけたりしないって約束する」
 青ざめた洋子が哀願するような目でつくしを見つめてくるも、逆につくしに見返されて視線を反らす。
 「パパ、ママ」
 「徹、お前は助手席に乗るんだ」 
 ギョロギョロとつくしたちと両親を見比べるトオルの顔も青ざめ、思わぬ出来事に小刻みに震えていた。
 …なに?何が起こったの?
 そんなこと決まってる。
 誘拐…。
 道明寺家という、資産家の一家につきものの災厄。
 誰か、人は?
 まだ、公園の向こうでママたちが笑いさざめき、日常の噂話やよもやま話に花を咲かせている声が聞こえる。
 のどかな公園。
 だが、その一角…昏い場所でよもやこんなことが起きているとは誰も想像だにしていないだろう。
 中野さんっ!
 「早くしろっ!」
 男の再度威嚇する声に、つくしは突き飛ばされて後部座席に突っ伏していた体を引き上げ、車へと体を引き入れる。
 どうしよう、どうしよう。
 司っ!
 足元のケージに入れられた仔犬がいつもまでも、鋭くか細い鳴き声で吠えつづけていた。




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