FC2ブログ

「愛してる、そばにいて」
第1章 泡沫に沈む月②

愛してる、そばにいて0036

 ←愛してる、そばにいて0035 →愛してる、そばにいて0037
◇更新情報他雑文 『こ茶子の日常的呟き』へ
【君を愛するために】オススメ作品!?
ランキングもよろ(・ω-人)
ブログランキング・にほんブログ村へ
いつも応援ありがとう♪
**************************************

 幻聴が聞こえる。
 司と類のことで言い争った時に聞こえた、恐ろしい声。
 『…この目が類を映すのか。この唇が俺以外の男の名前を呼ぶのか。絶対に赦さねぇ。お前は俺の…』
 携帯電話に現れた発信表示に、震える指先を当てる。
 トゥルルルルルルル~、トゥルルルルルルル~、トゥルルルルルルル~。
 優紀にはまだ一度も電話をかけたことがない。
 携番も受け取ったのみで、渡していなかったので、見知らぬ番号に警戒して中々出てくれないのかもしれなかった。 
 『…はい?』
 プッ。 
 とっさにつくしは通話を切ってしまった。
 ハッと我に返り、切れてしまった携帯電話を茫然と見つめる。
 …やだ、私ッたら。これじゃあ、まるで悪戯電話じゃない。
 猛省し、もう一度通話表示を押そうとして、ふと手が止まる。
 『つくし、幸せなら、いまが幸せだと感じているなら、過去なんて本当に必要なのかな?』
 唐突に優紀の言葉が蘇る。
 優紀がつくしに幸せかと問うた時、自分はどんな答えを思い浮かべただろうか?
 そしてすぐに答えを思い出す。
 そうだ。
 間違いなく幸せだと、司を愛し、戒を愛していて幸せだと断言できる。
 そう思わなかったか。
 顔の見えない昏い影が、少しづつ遠ざかる。
 もしかして、あれは司なのかもしれない。
 つくしが怯え、怖れるものの正体が司なのだとしたら?
 それでも自分は、司を愛し続けることができるのだろうか。
 どんな過去があったとしても、彼を愛し、彼を赦すことができるのか。
 つくしにはわからなかった。
 その恐怖の正体がわからない以上、何も答えは出ない。
 でも、これだけは言える。
 つくしは司を愛していたかった。
 司を愛して、今の幸せを守っていたかった。
 そして、戒の幸せを守りたいのだ。
 …何よりも大切なのは、過去じゃない。
 初めてつくしは、ハッキリと自覚する。
 表示した優紀の名前を消し、再び司のメールアドレスを表示する。
 『仔犬飼ってもいい?』
 司は、何と答えてくるだろうか。




 久しぶりにつくしの心は晴れ晴れとしていた。
 いまなら、手厳しい中国語教師の嫌味も簡単に聞き流せる気がする。
 白眼視してくる奥様お嬢様の嫌がらせもドーンと来いだ。
 こんなにスッキリした気分なのに、会うことも出来ず、中東へと出張に出かけてしまった司に少しだけ恨めしい気持ちにさえなった。
 でも、もうすぐ逢える。
 …現金なもんだよね。
 もやもやした気持ちが燻っていた間は、むしろ司の不在にホッとしていた。
 もちろん寂しかったし、帰ってきてほしい気持ちもあった。
 だが、司の顔を見て、作り笑いする自分の気持ちの嘘くささに、悩み苦しみ、困惑もしていた。
 また司の哀しげな顔も見たくなかった。
 懇願するような、罪悪感に満ちたらしくない顔。
 …司が帰ってきたら、今度こそ、よそ見をするのはよそう。司が嫉妬する暇もないくらいに、司に纏わりついて、司に負けないくらい司に愛情表現するんだから。
 元々の性格が違うつくしにそんな真似ができるかは疑問だったが、それくらいの意気込みであることは確かだ。
 一昨日は優紀に悪戯電話まがいの電話をかけてしまったが、就業時間帯でも狙ってもう一度電話をかけてみよう。
 過去にこだわるのではなく、久しぶりに日本に帰ってきて、かつての親しい友人と再び交流するための第一歩。
 たとえ記憶がなくても、かつての自分がことのほか好いた友人だ。
 きっとまた親しくなれる。
 そしてこれからは、自分もまた、自分の殻の中に閉じこもるのではなく、桜子や司の友人たち、これから出会うまだ知らぬ新しい誰かとの交流も楽しもう。 
 砂場で他の子供たちがつくる砂山を見るともなしに見て、つまらなそうにつくしの横に腰を下ろしていた戒が突然立ち上がる。
 「あ!トオルっ!」
 戒の目が輝き、さっきまでブーたれていたのが嘘のような笑顔で友達に駆け寄り、嬉しそうな笑い声をあげ、はしゃぎまわる。
 今まで友達らしい友達もいない子供だった。
 戒自身の人見知りの性格以上に、そのおい立ちの特殊さゆえの孤独で、戒にはなんの責任もないことが多く、つくしは内心心を痛めていた。
 …日本に帰ってきてよかった。
 戒の為にだけでも、つくしはそう思う。
 牧野の両親とだって、もっと親しく付き合って、戒を可愛がってくれる人が増えれば、きっと戒の為になる。
 過去のことにばかりこだわって、両親にわだかまりを抱いていた自分を反省し、つくしも笑顔で歩み寄ってくる洋子親子に微笑みかけた。
 「つくしちゃん、今日は早いね~。お姑さんもお出かけだったの?」
 洋子はつくしの家の姑が口煩い人で、その姑がつくしが外出するのを嫌がって、日曜日にも午後のホンの数十分から1時間ほどしか外出を許されていないと思い込んでいた。
 つくしもその勘違いを増長する態度を、ついとってしまっている自覚がある。 
 住まいから遠方の公園にわざわざ来るのも、その素行を姑に監視されるのを嫌い、実家近くに来ている…そう思っているらしかった。
 「ん~、そういうわけでもないんだけどね。お天気が良かったから」
 曖昧に答えるつくしを不思議そうに眺め、、戒の代わりにつくしの傍らへと腰を下ろす。
 「ねね、この間の、仔犬の件、考えてくれた?」
 期待に満ちた目が、キラキラとつくしを見みつめている。
 あ、すっかり忘れてた。
 結局、司には仔犬の件はメールしていなかった。
 どうせなら、あの図体と態度がデカイ男が、つくしのおねだりにどんな顔をするのか直接見たくなってしまったからだ。
 顔を引き攣らせて、それでもつくしと戒のお願いだからと無理をする顔がみたいなんて、人が悪すぎるだろうか?
 そんなこんなで、ついついその後も、自分の中の答えを探るのに一生懸命で、正直、仔犬どころではなかったのである。
 「…えっと、実は出張に行ってた主人が今日の夕方に戻るから、その時に聞いてみるね」
 「そっか~。旦那さん、今日戻ってくるんだ…」
 言葉じりが呟くように沈む洋子に、つくしが首を傾げる。
 「洋子ちゃん?」
 「あ、ううん。貰ってくれるといいなあ。つくしちゃんなら可愛がってくれるだろうから、ぜひ、貰ってほしいんだ。…自分より小さくてか弱い生き物がいることって、絶対に戒君にも良い影響があると思うし。…えっと、旦那さんが帰ってくるんだったら、やっぱりあんまりゆっくりできない?」
 「うん、そうなのよ。戒がどうしても、トオル君と会いたいって言ってきかなくって。ちょっとだけ、って約束でここまで来たの」
 「そっかあ。つくしちゃん、寂しそうだったものね、旦那さんが出張に行っちゃって」
 何気ない洋子の言葉に、つくしは頬を微かに紅潮させる。
 そんなつもりはなかったけれど、やはり他人にはバレバレだったのか、邸を出る時にも、タマにカラかわれた。
 本当は、帰国すると言っても、ほとんど駆け足に近く、今日明日を日本で過ごして明後日の早朝には、香港に出立しなければならない。
 香港のアジア経済会議に出席する予定の司は、ただつくしと戒に会う為だけに、必要のない日本への寄り道をするのだ。
 香港に滞在した後は、しばらく日本に腰を落ち着け、いつになるかはハッキリしていなかったが、久しぶりの休日も予定している。
 つくしは、昨日の電話を思い起こした。
『…無理して帰ってこなくてもいいのに』
 『無理も何も、お前や戒に会えねぇ方がよっぽど無理だぜ』
 電話の向こうで溜息をつく司の声が、疲労に掠れてどこか力なかった。
 おそらく、どんなに疲れていても部下や他の人間にはそんな風情を欠片ともみせない司だったが、つくしにだけは正直な彼をすべて見せる。
 『ちゃんと眠れた?』
 『わけねぇだろ?お前がいねぇのに』
 『…もうっ。なんであんたはそんなに甘えたになっちゃったの?戒より悪いじゃない』
 『いいんだよ。お前は俺の女なんだから、この先も、ジジイになっても、ずっとそばにいる奴なんだ。この世で一番大事で愛してる女を傍においておきたいって思うのも、いなくて不安になるのもおかしくねぇことだし、それともお前こんな俺、嫌になるか?』
 おかしいよ、あんたほどの男が。
 そう言おうとして…、だが、つくしは別の言葉を選び、口に出す。
 『…私も』
 『あ?』
 『あたしもあんたがいなくて寂しくて、あんまりよく眠れなかった』




web拍手 by FC2

関連記事


総もくじ 3kaku_s_L.png イベント
総もくじ 3kaku_s_L.png だから今日も I'm so happy…百回分の花をあなたに
総もくじ 3kaku_s_L.png ******【司×つくし】******
総もくじ 3kaku_s_L.png 愛してる、そばにいて
総もくじ 3kaku_s_L.png 百万回の微笑みを愛の言葉にかえて
総もくじ 3kaku_s_L.png 陽のあたる処でシリーズ(短編集)
総もくじ 3kaku_s_L.png Fly me to the havenシリーズ…36話完
総もくじ 3kaku_s_L.png アネモネ…全171話完+α
総もくじ 3kaku_s_L.png ******【類×つくし】******
総もくじ 3kaku_s_L.png 中・短編+
総もくじ 3kaku_s_L.png パッション…①24話②22話完
総もくじ 3kaku_s_L.png 陽だまりの詩シリーズ(短編集)
総もくじ 3kaku_s_L.png ****【総二郎×つくし】****
総もくじ 3kaku_s_L.png 中・短編-
総もくじ 3kaku_s_L.png ****【あきら×つくし】****
総もくじ 3kaku_s_L.png 中・短編^
総もくじ 3kaku_s_L.png ***【その他CP】***
総もくじ 3kaku_s_L.png 中・短編'
もくじ  3kaku_s_L.png 倉庫
総もくじ  3kaku_s_L.png イベント
総もくじ  3kaku_s_L.png だから今日も I'm so happy…百回分の花をあなたに
総もくじ  3kaku_s_L.png ******【司×つくし】******
総もくじ  3kaku_s_L.png 愛してる、そばにいて
総もくじ  3kaku_s_L.png 百万回の微笑みを愛の言葉にかえて
総もくじ  3kaku_s_L.png 陽のあたる処でシリーズ(短編集)
総もくじ  3kaku_s_L.png Fly me to the havenシリーズ…36話完
総もくじ  3kaku_s_L.png アネモネ…全171話完+α
総もくじ  3kaku_s_L.png ******【類×つくし】******
もくじ  3kaku_s_L.png 拍手小話+
総もくじ  3kaku_s_L.png 中・短編+
総もくじ  3kaku_s_L.png パッション…①24話②22話完
総もくじ  3kaku_s_L.png 陽だまりの詩シリーズ(短編集)
総もくじ  3kaku_s_L.png ****【総二郎×つくし】****
総もくじ  3kaku_s_L.png 中・短編-
総もくじ  3kaku_s_L.png ****【あきら×つくし】****
もくじ  3kaku_s_L.png 拍手小話^
総もくじ  3kaku_s_L.png 中・短編^
総もくじ  3kaku_s_L.png ***【その他CP】***
総もくじ  3kaku_s_L.png 中・短編'
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
もくじ  3kaku_s_L.png ストック
もくじ  3kaku_s_L.png R短編集
もくじ  3kaku_s_L.png アネモネ R
もくじ  3kaku_s_L.png 恋愛の品格 R
もくじ  3kaku_s_L.png 愛妻生活 R
  • 【愛してる、そばにいて0035】へ
  • 【愛してる、そばにいて0037】へ

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【愛してる、そばにいて0035】へ
  • 【愛してる、そばにいて0037】へ
にほんブログ村 小説ブログへ💛
スポンサーリンク