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「愛してる、そばにいて」
第1章 泡沫に沈む月②

愛してる、そばにいて0035

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 「へ?」
 びっくりするつくしに、洋子が両手を合わせる。
 「お願いっ。あと2匹なのよ~。雑種だけど、チワワとダックスのミックス犬だからそんなに大きくならないし、大人しいから小さな子がいる家庭でも飼いやすいと思うの。貰ってくれない?!」
 飼おうと思えば広大な道明寺邸のこと。
 犬の1匹や2匹、それこそ100匹だって飼えないことはない。
 …司、確か犬とか動物って苦手だったよね。
 あの見かけから想像もつかないけれど、司はかなり動物が苦手だ。
 小さい頃に噛まれたとか聞かないから、慣れの問題だとは思うが、果たして許してくれるだろうか。
 「ね?良かったら、とりあえず考えてみてくれるだけでもいいから。あ、そうだ、これからうちに見に来ない?それから考えてみてよっ」
 困った顔をするつくしに、洋子が懇願する。
 「俺も犬、欲しい!」
 どこで聞きつけたのか、間髪入れずに戒がつくしにおねだりする。
 「…う~ん」
 即答できず、つくしはとりあえず、お父さんに聞いてからね、ということでその場を収めた。
 …まあ、いざとなれば、牧野の家で飼ってもらうって手もあるかなあ。
 そうは思うものの、いつも近くまで来ているにもかかわらず、寄ることができない実家のことを思い、気が重い。
 実はこの牧野の家の近くの公園まで遠征してくる目的の一つに、牧野の実家に寄りたいという気持ちもあった。
 実の親の家なのだから、特に理由もなく帰ってきても良いはずだったが、記憶がないつくしには敷居が高く、気兼ねが多い。
 また、逆に実家の両親にしても道明寺家への遠慮があり、訪ねてくることも出来づらければ、つくしに帰って来いということも難しかった。
 お互いに、心配していないわけではなかったが、ギクシャクして中々に歩み寄れない環境でもあったのだ。
 『もっと遠慮なく帰ってきなよ、姉さん』
 ホンの数時間のうちに、あっという間に打ち解けた弟が言ってくれた。
 進とだけは電話で何度かやり取りもしていて、そのたびに、血が呼ぶ慕わしさとでもいうのか、話すたびによそよそしさは消えていった。
 進にも、記憶に関して尋ねたことがある。
 進は両親や司とは異なり、言い渋るということはなかったが、当時中学生に過ぎなかった彼はほとんど事情を知らず、つくしに教えるべき情報を持っていなかった。
 ただ、
 『…姉さんに、彼氏はいなかったと思う。あんまり学校楽しそうじゃなかったし、もしかしたら…苛めにもあってたんじゃないかって心配したこともあったんだ』
 進によると、何度か制服を汚されたり、青あざを作って帰ってきたことがあったと言う。
 物を盗られていたようでもある。
 ひどく身なりを乱して帰ってきた時には、さすがの呑気者の両親も驚いて心配していたのだが、そのうち学園の実力者であり、かの道明寺財閥の跡取り息子である司が遊びにくるようなこともあって、すっかり玉の輿に頭をもっていかれ、正常な判断力や観察眼が失われたのだろう。
 『姉さんも、学校のことは何も言わなかったし、俺もあの道明寺さんが姉さんを訪ねてきたりしてすげえなあ、と思うくらいで、何にもわかんなかった』
 『司…やっぱり、訪ねてきたりしたんだ』
 初めて聞く、司と自分の接点に、安堵したのを覚えている。
 そう、安堵したのだ。
 あまりに接点のなさすぎた不自然さに、いつも理由のない不安を覚えていたから。
 『…ただ、俺、高校になってから知ったんだけど』
 『うん?』
 『いや、なんでもないよ。………俺の思い過ごしだったんだと思うし』
 『なんなの?』
 『たぶん、ガキだった俺より、松岡さんの方が姉さんからいろいろ聞いてたと思うよ』
 『松岡…優紀さん?』
 「…ちゃん、つくしちゃん」
 「え?」
 いつの間にか物思いに耽っていたらしい、丸顔の洋子が片手をフッて、つくしの眼前で上下させている。
 「やだ、どうしたの?いきたり、ボウッとしちゃって」
 「あ、はははは、ごめんね。仔犬、可愛いんだろうなあとか夢想しちゃった」
 「でしょでしょ?まあ、中々貰い手もつかないし、旦那さんに聞いて、次回会った時にでも返事ちょうだい」
 つくしはいくら親しくなっても、洋子と携番やメール番号の交換はしていなかった。
 正直、洋子ともっと親しくなりたいと言う気持ちもあったが、道明寺若夫人という立場が、おいそれと他人に携帯番号を知らせる愚を侵せなかったし、またつくしがあの道明寺司の妻だと知られて、引かれたくはなかった。
 おもねられても、ショックだっただろう。 
 『道明寺』という珍しい名前ながら、つくしの庶民的な雰囲気や態度が、洋子や他のママ友たちに疑いを持たせなかったし、極力、戒にも気をつけさせて正体を知られないようにしていた。
 「…あ、そろそろ、あたし、パートの時間だから」
 「ああ、私もそろそろ帰らないと。洋子ちゃん、パートに出てるんだ、えらいね」
 つくしの言葉に、洋子はちょっと困ったような笑みを浮かべ、首を傾げる。
 「…えらいっていうか。まあ、今どきパートに出ている主婦は珍しくないんでしょうけど。いま、旦那が失業中で私が働かないとね」
 思わぬ言葉に、つくしは口を噤む。
 「…ごめんなさい」
 「いいのよ。これも珍しいことでもないって。幸い、私、簿記検定持ってたから、事務員として重宝されてるし、働くのも性にあってるから、旦那に子供を預けてあたしが…ていうのも悪くないんだよね」
 屈託なく笑う洋子の顔が眩しい。
 「そっか。私も洋子ちゃん見習って、夫が失業してもたくましく頑張れるようになりたいな」
 …司が失業することなどまずないが(その時には、日本は大恐慌か?)、それだけの意気込みを持ちたい。
 大きく手を振る親子を見送って、つくしも戒の手を引き、家路へとついた。



 夕食を終え、戒を就寝させて一人の時間。
 ここ数日、宣言通り、司はほとんど午前様だった。 
 会社に泊まって帰ってこない日もある。
 連絡だけは小まめにとってくるが、つくしは司が屈託を囲っていて、彼女を避けているように思えてならない。
 この10年間、どんなに忙しい日も、つくしの顔を見ずには一日を終えることがなかった司だ。
 たとえ、会社に泊まることになっても、まだつくしが起きている時間に顔を合わせ、トンボ返りで会社に戻るのが常だった。
 …寂しい。
 正直、つくしはベッドの隣に司の温もりがないのがかなり堪えていた。
 普段は、しつこすぎるくらいに熱烈な愛情表現をする司を持て余すこともあったが、司の優しい微笑みと温もりは何にも代えがたいつくしの幸福の源だ。
 司がつくしを愛するように、つくしも司を愛しているのだから。
 『今日も、会社に泊まる。腹出して風邪ひくなよ』
 子供の様な心配をメールでしてくる司に、唇を尖らせ、小さく文句を言う。
 「いつもは自分が人を真っ裸にするくせに、よく言うわ」
 自分で自分の言葉を耳にして、思わず周囲を見回して赤面する。
 当然、夫婦の寝室に、つくしの他に誰がいるはずもない。
 『あんたこそ、無理しすぎて倒れないように。明日から中東でしょ?少しでも時間があったら顔見せて?戒もあんたに会いたがってるから』
 愛してる…そう打とうか迷って、結局事務的な返信だけを送る。
 逢えなくて寂しいって打てば良かったかな。
 少しの後悔を胸に、一つの名前をアドレスから呼び出す。
 松岡優紀。
 他人に電話するには非常識な時間だろうか。
 でもメールなら?
 『松岡さんの方が姉さんからいろいろ聞いてたと思うよ』
 昼間に思い起こしていた進との会話に、つくしは様々な想いに心を揺らし、迷い惑う。
 『…道明寺さんの名前は、聞いたことあるよ。あんたの口から聞いたことがある、何度も』 
 つくしは携帯電話のアドレスに、そっと触れた。




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