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「愛してる、そばにいて」
第1章 泡沫に沈む月②

愛してる、そばにいて0034

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 司が中東へと旅立った次の日、椿も娘の咲を連れてアメリカへと帰って行った。
 一気に寂しくなった気がする道明寺邸で、戒の小さな手を握りしめながら、青い空を見上げる。
 この空の向こうには司がいて、ヨーロッパで知り合った人たちがいる…そして知らない人たちもいて、
たくさんの人たちが毎日一生懸命に生きている。
 ある人は誰かを愛し、ある人は憎んでいるのかもしれない。
 過去があって現在があって、そうして自分という人間を形作り、未来を歩んでゆく。
 ぽっかりと空いてしまった空洞。
 17年間という歴史を持たない自分はなんて薄っぺらいのだろう。
 そう思う端から、その後の10年間が極めて濃く激しく、司に愛され充実した日々であったことを思う。
 辛いこともあったし、苦しいこともあった。
 けれど、司がいて戒がいて、いつもそこには幸せが満ち溢れていた。
 自分が、愛する人たちを傷つけてまで過去の記憶にこだわることは、そんな彼らを傷つけ苦しめる結果にしかならないのだろうか。
 「…お母さん?」
 「うん、どこ行こうか?」
 少し離れてついてくる中野の苦虫を潰したような顔をチラッと見て、戒に微笑む。
 「あそこがいいよっ!」
 「あそこ?」
 「うん、この間、進とひなが連れて行ってくれた公園!」
 「進とひなじゃないでしょっ?!」
 スラッと何気に叔父とその恋人を呼び捨てにする我が息子に、つくしが拳骨に息を吐きかける。
 「…進君とひなちゃん」
 母親のゲンコツの痛さを十分に思い知っている戒が即座に言を翻し、それでも小さく、
 「チェッ、面倒くせぇな」
 生意気な口を利くのを聞き咎める。
 まったく、どうしてこう生意気になってくるんだか。
 もう少し前までは、我儘なところはあっても、ここまで生意気じゃなかった。
 やっぱり、幼稚園に行きはじめた頃からだろうか。
 血筋的にも血は争えない部分は大いにある。
 この調子で、他の子供たちにも尊大な口を聞いたり、傲慢な物言いをしていなければいいがと、つくしの悩みは尽きることがない。
 「…トオルもいるかなあ」
 戒の将来を早くも思い煩って、額を抑えていたつくしに、戒の嬉しそうな声が耳に届く。
 「トオル…君?」
 「うん、そ。前に、牧野のじいちゃんのうちに行った時、進…君が、公園に連れて行ってくれただろ?その時、トオルがママと一緒に遊んでいて、俺たち友達になったんだ」
 「へえぇ」
 物言いは生意気だが、人見知りな戒が友達を作るなど珍しい。
 それ以前に、司も経験していたらしいが、英徳やヨーロッパのスクールでは身元が知れて、逆にセレブと言われる人々の中でも特異な存在である戒は仲間外れにされることが多かった。
 幼児の中にも阿りや、異端視がある。
 それはたぶんに、その子供たちの親たちの影響が強いのだろうが、司に対する排斥よりも戒に対する排斥はなお根深く、陰湿だ。
 大財閥の御曹司という立場。
 生まれに反して、母親は庶民の出という立場の弱さ。
 そして、司の唯一無二の息子でありながら、道明寺の祖父母には認められていないという立場が戒をいっそう難しい立場に置き、白眼視などの悪意ある視線にさらされる要因にもなっていた。
 不憫な子だ。
 そう思いつつも、ただ不憫だ、可哀想だとつくしは甘やかすことをよしとしなかった。
 本当は懐の中に囲い込み、いつでもつくしが守って、辛いことも哀しいことも少しも味あわせたくない想いもある。
 だが、それでは戒の為にはならない。
 歪んだ愛情は歪んだ人間しか生み出さず、結果、その本人を不幸へと突き落す。
 戒の為に、できるだけつくしは一人でも生きられる強さを身につけて欲しい、他人に揺るがされぬ心の強さを育みたいと苦心していた。
 司のように愛情不足、愛情への飢えから、誤った道を選び、自らを不幸にしてもらいたくない。
 戒にも普通に友達を作り、やがては愛する人を見つけて欲しい。
 「…遊びに行ってみよっか」
 「行きたい!行きたい!」
 「あ…でも、確かあんた、午後から英会話の先生来るんだっけ」
 言われて口を尖らせつつも、シュンとする息子の哀しい顔に、つくしは一つ頷く。
 「ま!明日、頑張ればいっか」
 「本当!?」
 「うん、あんた、頑張ってるもん」
 「やった!」
 明るく笑ってつくしの手を引く戒に、つくしは微笑みつつ、そっと呟く。
 「…戒、ごめんね」
 「え?」
 こんなお母さんで。
 道明寺家の跡取り息子なのに、いらぬ苦労をさせて。
 あるいは、普通の家の子だったら、こんな小さい頃から英才教育だなんて受けさせないで済んだのに。
 「…なんでもないよ、さ、いこ」
 明るい笑顔を守りたい。
 愛する人たちの幸せを壊したくない。
 ほんの少しだけ蘇った底冷えする声の記憶を頭から振り払い、つくしはもう一度司がいるはずの青い空を振り仰いだ。



 ここ数日、牧野家近くの公園へと日参する日が続いている。
 さすがに毎日は無理なのだが、2日と日を置かず、通い続けていた。
 と、いうのも、世田谷の道明寺家とはあまりに離れていたため、周辺の住民にはつくしと戒の正体は知れてはおらず、子供を通じて、何人かのママ友を作ることができたからだった。
 …楽しい。
 まるで女学生の様な姦しい母親たちの楽しいおしゃべりは、社交界で取り澄ました奥方や令嬢たちのおもねりとは全く違う。
 ママ友にもママ友の、噂話やお節介、あるいは多少の押しつけがましさもあったが、不思議につくしにはそれらが苦にならず、あっという間に馴染んだ。
 思えば、ヨーロッパでもNYでも、あくまでも道明寺司の妻という立場があって、いわゆる庶民と言われる人たちと交わる
機会がなかった。
 一つには道明寺家の人間の目を気にしたせいもあったし、司があまりそういうことを喜んでいないのがわかっていたからだ。
 でも、海外と異なり、銃を持つことができず、治安も飛躍的によい国だということもあって、司もそれほど神経質に心配することが少なくなった。
 もちろん、つくしとの良好な夫婦関係にもその理由はあったのだろう。
 NY時代の司は、とかく、つくしを誰かに奪われるのではないかという強迫観念に囚われていたように思う。
 当時はつくしもかなり心を病んでいて、そんな司に依存していたこともあったが、道明寺家の監視の目もあまり強くなかったヨーロッパでの生活は大変なことも多かったが、おおむね司とつくしにとっては良い方向へと導いてくれた。
 …こんなことなら、スイスでももっと積極的に幼稚園での集会とかに参加してみれば良かったかな。
 そんな風にも思える。
 「ねね、つくしちゃんの家も犬を飼ってるんでしょ?」
 「あー、飼ってると言うか」
 警備犬だ。
 愛玩犬とは異なり、専門の訓練士や警備員がついていて、あまり身近な存在ではない。
 「どんな犬?」
 「えっと、かなり大型犬で、まだ戒が遊び相手になるにはちょっと無理があるからあんまり接触させてないの」
 「そうなんだ!なんかね、この間、戒君がうちに仔犬が生まれたって話にすごく興味を示していてね」
 クリクリっとした目元をキラキラさせて話す女性・洋子は、戒の一番の仲良しトオル君のママだ。
 ぽっちゃりとした顔は美人には程遠いが、親しみやすく、愛嬌がある。
 性格もおおらかで、公園では新顔だったつくしにも気さくに話しかけて、みんなへと溶け込ませてくれた。
 つくしに事情がなければ、家に呼んだり、呼ばれたり、そういう付き合いもしたいと思えるほどに、二人は仲良くなっていた。
 もちろん、子供たちは言うに及ばず。
 彼女の息子の『トオル君』も母親そっくりなぽっちゃり体型の子供で、お坊ちゃま然とした美形の戒と並ぶとアンバランスもいいところだったが、慣れれば押しの強い戒にも上手く沿って、大人しい穏やかな子供だった。
 「トオル!今度は、どんぐり拾おうぜ。お前、袋持ってろよ。俺が、探すからさ」
 「うん、わかった。たくさん探そうね、戒君」
 万事この調子で、すっかり戒はトオル君を子分扱いである。
 それでもトオルも楽しそうなので、つくしも特には干渉せず、見守るに徹する。
 時には少し大きな子と諍うこともあったが、大概つくしや洋子が介入せずとも、穏やかなトオルがとりなし事なきを得た。
 「戒君、もう犬を飼ってるっていうからどうかな…とは思うんだけど、うちで生まれた犬ってこ~んな小さな小型犬なのよ」
 「へえ?そうなんだ。可愛いだろうなあ」
 「そうなのよ、可愛くてかわいくて」
 つくしを見る洋子の目が期待に満ちている。
 「で!?」
 「で??」
 「つくしちゃん、仔犬いらない?」




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