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「愛してる、そばにいて」
第1章 泡沫に沈む月②

愛してる、そばにいて0033

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 「司」
 優しい姉の呼びかけに、司が顔を上げると、自分にそっくりな美しい女が心配そうに彼を見つめていた。
 出かけた先のパーティドレスを身にまとったまま、彼を心配して帰るや否や、駆け付けてくれたのだろう。
 「…つくしちゃん、大丈夫なの?」
 椿の問いに答えぬまま、無言で姉を促がし、居間の一つへと腰を落ち着ける。
 ミニバーから取り出したスコッチを自らグラスに注ぎ、氷も水も入れぬままに一気に飲み干す。
 喉を焼く強いアルコールが、いつもだったら司に酩酊をもたらし、緩やかなリラックスを呼んでくれるはずが、今日は少しも酔えそうにない。
 二杯、三杯、四杯と飲みほし、五杯目を注いだところで椿が司の腕を抑え、無抵抗な弟からグラスを取り上げてカウンターに置いた。
 「やめなさい、明日も仕事なんでしょ?無茶な飲み方をしたって、酔えたりはしないわよ」
 こんな時、飲んでも飲んでも酔いつぶれることなんてできない自分の酒に強い体質を恨めしく思う。
 普段は、一口二口飲んだだけで真っ赤になって酔ってしまうつくしをからかいつつ、そんな彼女を介抱できる自分の体質に満足し、つくしにとってのそうした立場に喜びを感じていたのだが。
 椿は溜息を一つ落とし、司から取り上げたグラスの酒を二つに分け、それぞれに冷凍庫から取り出した氷を入れて一つは司へと返す。
 そしてもう一つを引き寄せ、優雅な仕草で口に含んだ。
 「さんざんパーティで呑んできたんだろ?姉ちゃんこそ、やめとけよ」
 「これくらい平気よ。知ってるでしょ?私もあんたと同じザルの口なんだから」
 「…ふん」
 しばし、姉弟二人無言で晩酌を交わし、グラスの酒がなくなったところで司が口を開いた
 「姉ちゃん」
 「ん?」
 「姉ちゃん、昔のことで後悔したことなんてあるか?」
 弟らしくない問いかけに、無言で先を促がし顔を見ると、予想に反して司の顔には何の感情も浮かんでいなかった。
 ただ虚ろな眼差しが、空になったグラスの氷を見詰め、カランコロンと手持無沙汰にグラスを揺らして弄んでいる。
 「そりゃあ、私だって人間なんだから、それなりにああすればよかった、こうすればよかったて後悔することだってあったわよ」
 「…俺は、ないぜ」
 弟の性格を熟知している姉は呆れもせず、肩を竦める。
 「まあ、あんたはそうでしょうねぇ。バカだもの」
 「バカなのが関係あんのかよ?」
 「バカは後悔するほど物事を深く考えたりしないんだから、そりゃあ、あんたに後悔がなくたって不思議じゃないわよ」
 子供っぽく口を尖らせた司の顔が、まんま幼い頃の彼を彷彿とさせ、椿は思わず昔を思って懐かしい気持ちになる。 
 寂しがりやな子だった。
 甘えたで、いつも愛情に飢えていた。
 そんな自分を他人に知られるのが嫌でいきがって、他人を傷つけることで自分を支えて、彼を愛さなかった父や母に抗議し続けていた。
 弱い子だったのだと思う。
 脆くて繊細で、それだけに一人で自分を立て直すことができなかった。 
 どんなに他人に嫌われても憎まれても、ロクデナシだと罵られても、椿はこの弟が愛しくて可哀想で仕方がなかった。
 椿のその甘やかしが司をよけいに堕落させ、弱さを克服させることができなかったのだと今となっては反省することしきりだったが、椿もまた、子供だったのだ。
 司と同じように知らない愛情を、上手にそそぐことなどどうすればできたというのだろうか。
 そして、その心の荒廃のままに暴力と怨嗟に彩られた青春時代を過ごした司。
 それがいつの間にか、道明寺財閥の将来の支柱と言われるまでに成長を遂げた。
 一人の少女の存在が。
 たった一人の女が司を変え、成長させ、姉の椿でさえ見たことがない幸福そうな笑顔を引き出させた。
 司を見上げる椿に儚く微笑み一つ残し、ポンと肩に手を置き、司が部屋を出てゆく。
 去り際…。
 「それでもあの時、…いや、俺は俺にしかなれねぇ。別の奴になれない以上、俺はあの時のことは後悔できねぇんだ。後悔したら…」
 呟き、首を緩く振たまま、後の言葉を司が続けることは決してなかった。
 …つくしちゃん。
 …つくしちゃん。
 椿は、愛する弟のためだけに祈る。
 身近に感じたことさえもない神や仏などという不確かな存在などではなく、確かにそこにいてそこに存在する優しい義妹に願わずにはいられない。
 どうか司を見捨てないでやって。
 どうかやっと手に入れた愛情と優しさに、人を愛することを知り、幸せそうに微笑むことができるようになったこの可哀想な弟を、どうかどうか。
 迫りくる嵐の予感に、椿もまた、ただただ、項垂れた弟の後姿を見守る以外何もできなかった。


 次の日、鎮静剤のもたらした眠りから目覚めたつくしは、いつものつくしだった。
 会社に行く仕度を整え、眠るつくしの枕元に座る男は、いつもの俺様男の面影もなく。
 手荒な扱いをしたことを謝罪する司に、つくしは軽くねめつけた。
 「…もう、いつも見当違いなヤキモチ焼くんだから。花沢る…花沢さんにだって失礼でしょ?どこの世間に、美人でもない子持ちの女に横恋慕する人がいるのよ。相手にだってされないわ。それも、あんたの親友でしょ?」
 「…お前は、綺麗だよ」
 臆面もなく真顔で告げられた言葉に、思わず赤面し、照れ隠しにバシッと枕元に座る司の背中を力いっぱい叩く。
 「いってえっ」
 相当痛かったらしく、顔をしかめ、悶絶している。
 いつもの朝、いつもの二人、表面的には何一つ変わらぬ彼ら二人の日常的姿だった。
 「大げさねっ。私の方がよほど痛かったわよっ!見てよ、この手首、あんたが力いっぱいひねるから、捻挫しちゃって、手形の痣までできちゃったのよっ!」
 「なんで褒めて、叩かれるんだよ」と、ブツブツ言いながらも、
 「…悪かったって」
 殊勝にもう一度、頭をたれる。
 「ホント!もう二度とバカな疑いなんてもたないでよねっ。あんたのことだから、お姉さんにだって裏を取ったんでしょ」
 「面目ない」
 他の人間が見たら、他人に頭を下げる道明寺司など見物であっただろうが、それでも疑惑の裏を取ったことを否定しない司につくしは溜息が禁じえない。
 「私だってまだ若い女なんだから、そりゃ…その素敵な男性を見れば見惚れることだってあるし、少しくらい憧れたりすることだってあるかもしれないわよ」
 「お前っ!やっぱり…」
 「ちょっと、ちょっと、最後まで聞いてって。そんな怖い顔しないで」 
 ギョッと仰け反り、青ざめたつくしの顔色に、昨日の狂乱が蘇って、さすがの司も息を吐き、湧き上がりそうになったどす黒い感情を覆い隠す。
 「…でも、私にとって一番素敵な男性であり魅力的な人なのは、あんただけだよ。私が好きになったのも、愛したのもあんただけ」
 真摯な眼差しが司を見上げ、柔らかく潤む。
 照れ性で、いつもそうそう愛の言葉など囁いてくれない妻が告げてくれるこの世でもっとも尊い言葉に、司の心は緩み、熱い塊が喉を塞ぐ。
 …お前が好きになったのは俺だけじゃない。お前が本当に惚れて、選んだのは。
 そう脳裏で囁かれる小さな声から耳を塞ぎ、頬を染めて自分を見つめる愛しい女の頬をそっと掌で包み込む。
 愛しさと、労わりと、申し訳なさをこめて、額に優しく口づけを落とし、司はそっと立ち上がった。
 「…今日から帰るの午前様になるかもしんねぇから。今週末の中東への出張に向けて準備期間に入るから、あるいは帰ってこれねぇ日もあるかもな」
 「私たちは?」 
 「今回は1週間程度だから、お前は戒とこっちに残ってろ」
 「でも、大丈夫なの?」
 司はつくしが傍にいないと熟睡できない。
 「まあ、それくらいなんとかなんだろ。お前も日本に帰国したばっかで、いろいろ不慣れなことも多いし、疲れてんだろ?」
 いつもだったら無理にでもついてゆくつくしだったが、今回はなぜか気が進まない。
 おそらく司もそんなつくしの真情に気が付いているのだろう。
 そして…。
 「…類も、あと10日ほどで南米に戻るんだとよ」
 「……」
 司の意図が測り兼ねて、つくしは無言でいるしかない。
 「…お前を信じてる」
 クシャリと司がつくしの髪を掻き混ぜ、踵を返す。
 「司っ!」
 「…信じてるけど、俺はきっと今日本にいない方がいい。俺が帰ってくる頃には類も日本にはいねぇだろうし、そん時には沸騰してどうかしちまってる俺の頭もちょうど冷えてんだろ」
 「司、本当に、私、花沢さんのことは…」
 「わかってる、わかってんだよ。ただ、俺の中だけの問題なんだ」
 ベッドから出て、司を追いかけようとするつくしを司を押し留め、ドアへと手をかける。
 「…俺はいままで一度も後悔なんてしたことがねぇ。したことねぇけど…時々、あの時、あの瞬間、沸騰した頭が冷えてたら、違う未来もあったかもしれねぇなって思ったことは何度もある。ごめんな」
 閉められたドアを見つめ、つくしは両手で額を抑えて、絞り出すように長く息を吐きだした。




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