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「愛してる、そばにいて」
第1章 泡沫に沈む月②

愛してる、そばにいて0030

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 「え?司が…?」
 タマから聞いた司の様子に、つくしは首を傾げた。
 わりと頻繁に口争いになり、しょっちゅう痴話喧嘩なんて当たり前だったから、当然邸内の使用人たちにもそんな二人の喧嘩が単なる愛情を高め合うレクリエーションにすぎないことは十分に知られてしまっているはずだ。
 それを恥ずかしいと思いつつ、わかっていてくれているはずのタマが、
 「…なんだか、すごい機嫌が悪いんですよ。あんな顔した若旦那様は、若奥様と日本に帰られて以来見たことがない」
 眉根を顰め、溜息をつくタマにつくしも、不安になる。
 仕事でなにかあったんだろうか。
 そうは思いつつ、たとえ仕事で嫌なことがあったとしても、それを家に持ち込む司ではなかったし、10年の結婚生活でつくしに八つ当たりをしたことなど一度たりともない。
 「とりあえず、部屋で待ってらっしゃるから、行ってやってくださいまし。戒坊ちゃんと咲嬢ちゃんのお世話は見ておきますから」
 帰ってから『ただいま』の挨拶だけをして、時間が押していたことから、ロクに相手をしていない二人を気にしつつ、頷いて部屋へと向かう。
 「…どうしたっていうんだろうね、あんな若旦那様、久しぶりにみたよ。あまり、待たせない方がいい」 
 心配そうなタマの呟きを背に、ぼんやりと嫌な予感がする。
 …いやだ、なんだか私、行きたくない、かも。
 不安がしっかりとした形になる前に、夫婦の寝室に到着してしまう。
 ドアに手を伸ばし、しばしの躊躇の後に大きく息を吸い、ドアノブに手を伸ばした。
 ガチャリ。
 目に映る範囲に司の姿がないことに小さく安堵しつつ、はためくカーテンに目を凝らすと、窓辺に片肘をついて外を眺めている司に気が付く。
 「…遅かったな」
 タマの言う通り、相当機嫌が悪いのだろう。
 地を這うような低い声音に、つくしはビクリと肩を揺らした。
 …わ、私は何も悪いことしてないんだから。怯えることなんて何もない。
 そうは思うものの、普通に返事を返すことにさえ躊躇する。
 だが、何も疚しいことなどないので、唾を飲み込み、震える声を内心で叱咤した。
 「えっと、ちょっと車が混んでてお邸に帰りつくのが遅れちゃったから。その、中国語のお勉強の時間が少しズレこんじゃったの」
 先生には申し訳ないことをしちゃったわ、とわざとお道化て舌を出すつくしにチラリと視線を走らせただけで、司の雰囲気はまったく変わらない。
 怖い…。
 ありていにいえば、そう、つくしは司が怖いのだ。
 普段、つくしにベタ甘く、自分の方がよほど子供みたいな男が放つ怒りの波動に、つくしは大きな怖れを抱く。
 そして、その感情が初めて抱く感情でなく、また、こういった司の態度が初めではないことに、つくしは唐突に気が付いた。
 司は八つ当たりでも、不機嫌なのでもなく、私に怒っている。
 不満を抱えていて、いまにも噴出しそうな激怒を抑え、待ち構えていたのだとつくしは悟った。
 大なり小なり、司がつくしに対して激怒する…それは、常につくしの周りに司以外の異性の影が見え隠れした時のみだ。
 だが、今日はあきらの婚約者の桜子と外出し、中国語の教師は初老の女性だったし、他に司以外の男性とは接触ももっていない。
 もちろん、つくしは司が心配するように司以外の男性に目を向けたことはなかったし、それを司もよくわかっているはずなのだ。
 だというのに、いつも司は些細なことに嫉妬し、独占欲をあらわにする。
 時にはその執着の激しさに辟易し、呆れながらも、それを司の自分への愛情の裏返しだとも嬉しく思っている部分もあった。
 だが、ときおり、こうして暴発する司の言われない激情につくしは困惑する。
 殊更、今のようにまったく身に覚えがない時にはなおのこと。
 「ねえ、なんかあんたご機嫌が悪い?どうしちゃったの?」
 後退りたい気分を抑えて尋ねる。
 「…お前、俺に隠してることあるんじゃねぇ?」
 「え?」
 思わぬことを言われ、つくしが目を瞬かせる。
 もちろん、まったくつくしにとって意味不明なことだったから二の句が継げなかっただけなのだが、司をそれをつくしの疚しさだと勘違いした。
 突然、寄りかかっていた窓辺から体を起こし、そばにあったサイドテーブルを蹴り上げる。
 ガンッ、ガッシャーンッ。
 「ひっ」
 テーブルの上に置いてあった花瓶が吹っ飛び、甲高い音を立てて砕け散る。
 「あんたっ!なんてことを」
 音に驚いて身を竦めたつくしが、床の惨状に憤り、司をキッと睨み上げる。
 だが、大股でつくしに歩み寄った司が、手荒につくしの手首を掴み、ドアに縫いとめ拘束した。
 爛々とした眼光の鋭さが、つくしを射抜き、息を呑みこませる。
 「…類と会ってたんだってな」
 「…っ?!」
 「先週の金曜日だ。確かお前、姉貴や戒たちと出かけるつーてなかったか」
 思い当たった出来事に、唇を震わせ、つくしは握られた手を振り払おうとして、叶わずドアと司の胸に挟まれた体を腕を突っ張ることでもぎ離そうともがいた。
 「な、何言ってんよっ、あんた。突然に!?」
 「類とお前が二人っきりで、ホテルのラウンジで、逢引よろしく笑いあってたってのを目撃した奴がいる」
 「なっ」
 目を見開くつくしの顔に、何か…そう司がいつも恐れている兆しがないかと、司は凝視した。
 「お前、そんなこと、俺に一言も言ってなかったよな」
 「ち、違う。二人っきりだなんてっ。その日は、確かにお姉さんと戒や咲ちゃんと、フルラージュのプールにっ」
 「…類とは会ってないってか?」
 「ぐ、偶然プールで会って、は、話は確かにしたけど。もしかしたら、そ、そのラウンジでちょっとくらいは二人で話したりしたこともあったけど、ずっと、お、お姉さんや子供たちも一緒だったのよっ」
 手首をギリギリと握りしめてくる司の凶暴な力と、怒りにつくしは脂汗を流して、華奢な体を震わせる。
 いつもの司じゃなかった。
 たとえ嫉妬にかられたとしても、つくしに肉体的な痛みを感じさせたり、怖がっているつくしを責めたて続けたことはいままでなかった。
 いったいつくしの何が、司をここまで激昂させ、我を忘れさせているのか。
 「ただ、それだけ。他に何もないよっ」
 ギリリと歯ぎしりをして、司はつくしをドアに張り付けたまま、昏く歪んだ顔を俯ける。
 そして、絞り出すようにして出された司の声は、憎悪と怒りにしわがれ、ひび割れて。
 「…そんなことは、お前のSPの中野に裏をとったんだよっ」
 だが、その顔に浮かぶ怒りの中にある怯えと、傷ついた苦悩に気が付かなかったつくしは、怯えながらもカッと頭に血を上らせた。
 「裏って…、なにそれ?なんで、私に聞く前に中野さんに聞く必要があるわけ?」
 「お前が黙っているからだろうがよっ!」
 「黙ってって、司、ここのところ忙しくて、中々話す機会がなかっただけで、特になんの意図もないわよっ」
 「…ふ、ざけんなっ!」




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