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「愛してる、そばにいて」
第1章 泡沫に沈む月①

愛してる、そばにいて0027

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 夕方からの語学教師の来訪時間を気にして、腕時計の時間を確認しながらつくしは、道明寺邸からの迎えを待っていた。
 タクシーを拾うかと悩みつつ、あの豪邸に驚く運転手に根掘り葉掘りと聞かれるのも気が滅入り、リムジンの運転手を呼ぶことにする。
 また警備の関係上、一緒にSPを同乗させるのでなければ、なるべく通りすがりのタクシーなどは使用しないように厳命されてもいた。
 …今日は、中野さんなんだよね。
 チラリと背後を伺うが、普通の通行人を装うSPの姿は見えない。
 基本的に、SPたちは冷静な判断力を鈍らせないために、警備する相手と個人的な接触をもたない。
 中野はつくしの3才年上の30才のまだ若い女性で、かつて警察の特殊部隊に勤務していたという経歴の持ち主だったが、その経歴に相応しく、いかめしく厳格な女性だった。
 当然、つくしと慣れあうことを厭い、傍近くに同伴していたとしてもほとんど会話に応じてくれない。
 最低限の応答はしてくれるものの、そうした中野の態度につくしは中々慣れることができなかった。
 はああっ、ともう一度時計を見て溜息をつく。
 厳格といえば、今日彼女の中国語を見てくれる教師もまた、つくしにはとっつきにくいタイプだ。
 SPや教師たちの中のほとんどが、気さくなつくしに好意的で、楽しい時間を提供してくれることも少なくなかったけれど、今日に限ってつくしの苦手人物ベスト1、2が揃ってる。
 街路樹の影に滑り込んだ長大なリムジンの姿を見つけ、周囲のざわめきを避けて、つくしは歩み寄ろうと足を踏み出しかけた。
 「…もしかして、つくし?」



 肩の凝る興味も欠片もないオペラ鑑賞に、危うく寝てしまうところだったのを忌避して司は欠伸を噛み殺す。
 ここのところ、再び長距離の移動も余儀なくされ、深夜帰宅早朝出社も本格化した司の疲労も蓄積しがちだった。
 …昨日は、2ラウンドで寝ちまったもんな、ありえねぇ。
 つくしにしてみれば、毎晩毎晩野獣の体力に付き合わされ、まだ若いとはいえ、荒淫に近い夫婦生活はかなりの負担。
 さすがにオールナイトは断固として拒否していたが、司にとってはつくしとのそうした時間がストレス解消、心の健康を保つ重要な要素で、どんなに疲れていて、睡眠が不足していようと元気の源だった。
 「…道明寺様のこうした文化活動への理解ある支援が、一般大衆の教養を深め、さらなる発展を促していることは間違いありません」
 今回の興行主からのおもねりを右から左に聞き流し、見るともなしに会場を見回し、ふと見覚えのある顔を人ごみに見つけた。
 ずっと自分を見ていたらしい女がにっこり人形じみた笑みを浮かべて、会釈してくる。
 確か、あきらの婚約者だっけか。今日、つくしが一緒に買い物に行くって言ってたな。
 今朝方交わした会話を思いだし、何食わぬ顔で腕時計を確認する。
 そろそろつくしも邸に帰った頃か。
 必要ないと言っているのに、つくしは次から次に語学や経済、さまざまな分野の教師を迎え入れ、司もかくやというハードスケジュールを自分に課している。
 それらがすべて自分や戒に恥をかかせたり、他人に卑下させないための努力だということは十二分にわかっている。
 そのつくしの決意が健気で愛おしく、そして同時に不憫でもあった。
 自分と結婚しなければ、しなくてもよい苦労を背負い込んでいる。
 そう思う端から、つくしを手放すことはおろか、もはや彼女がそばにいなければ息をしてゆくことさえできないことはわかっていた。
 大切にする。どんなことがあっても、俺はつくしや戒を守って、幸せにしてみせる。
 時折訪れる不安や恐怖、罪悪感を無理やりに塗り込め、前だけを見てきた10年間。
 なのに、できるだけ接触を絶っていた友との交流や日本での生活が、自分やつくしにとって新しい兆しを運んできている気がする。
 内心の戦きを振り払って、興行主に別れを告げ、その場を立ち去ろうとしたところへ、当のあきらの婚約者が声をかけてきた。
 「こんにちは、道明寺さん」
 「……」
 「お久しぶりです。覚えてくださっていらっしゃいますでしょうか?」
 計算しつくされた女の婀娜が、蠱惑的に男たちの目を集める。
 だが、百花繚乱、そうした自分に対する媚びを物心ついた時から寄せられ続けてきた司には何の感慨も感じられない。
 それどころか、かつては嫌悪の対象でしかなかった。
 「あきらの婚約者だよな?」
 「はい、三条桜子です。覚えてくださって嬉しいですわ」
 次のスケジュールを気にする秘書を先に行かせ、とりあえずリムジンまでの移動距離を相手との世間話の時間にあてる。
 桜子の方も、あきらのペースでこちらの事情が分かっているのか、特に何も言わずとも心得て、歩を合わせ話を続ける。
 「たしか、昼間、うちの妻が世話になってたらしいな。日本に帰国してから、なにくれとなく面倒みてもらってるって聞いてる」
 「いえ、こちらこそ。先輩…奥様には何かと仲良くしていただいて、とっても光栄に思っています」
 優等生的回答は、特に司にどうということもなく、単なる社交辞令でしかない。
 つくしにしてみても、おそらく桜子の実家の背景と、あきらの婚約者という立場を慮っての付き合いが主なものなのだろうが、こういかにもお嬢様然とした女との付き合いに、楽しそうにしていたのは司にも意外だった。
 つくしは、司の目にも、高校生の時の彼女と現在の彼女とではかなり変わった。
 それは、道明寺家の嫁として淑女教育の賜物だったと言えなくもなかったが、その原因のほとんどであった司自身が本当の原因を十分にわかっている。
 傷つき、一度死にかけた彼女の心は、雑草の逞しさ、明るさを失い、再生しかけてはいたものの、それでもどこかに陰りを帯びていた。
 「先輩は、相変わらず花沢さんのことがお好きなんですね」
 物思いに耽りかけていた司は、突然かけられた耳障りな言葉に、瞬時に鋭い視線を桜子へと向ける。
 風にも耐えられない風情の美貌の女は、司の睨みにもたじろぐ程度でしっかりと視線を受け止め、わずかに青ざめた顔に微笑みを浮かべた。
 その顔は触れなば落ちんばかりの花の盛りの美しさを称えてはいたが、司の目には炉辺の石にも劣る。
 だが、その言葉じりに含まれた棘が、司の神経に触った。
 「久しぶりにお二人でいらっしゃるところをお見かけしましたけれど、まるで高校時代のお二人を見ているようでしたわ」
 「…何のことだ」
 「フルラージュ・ホテルのラウンジでお二人をお見かけしましたのよ。高校時代もよく非常階段でお会いしてらっしゃいましたよね?」




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