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「愛してる、そばにいて」
第1章 泡沫に沈む月①

愛してる、そばにいて0026

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 「そろそろ美作さんもイギリスから帰ってらっしゃる頃よね?先日はパーティの為にわざわざトンボ帰りにで帰国してもらって申し訳なかったわ」
 つくしのドレスを見立てながら、すぐにもう一枚に手を伸ばしていた桜子がにっこりと笑う。
 「いえ、いいんですよ。美作さんも久しぶりに会った幼馴染みの親友の帰国を祝いたかったんですから。あ、こっちの方がお似合いですよ、先輩」
 さすがに全身ファッションセンスの塊のような女性で、桜子の選ぶドレスはつくしが今まで着なかったタイプのものだけれど、すごく素敵だ。
 司や椿もよくつくしに似合うものをセレクトしてくれるが、また違うセンスの人間が選んだドレスは、つくしにとっても新鮮で斬新だった。
 これから着る夏物のドレスを何着か選んで、次はあきらと同伴するパーティで身に着けるアクセサリーが欲しいと言う桜子の要望に従い、宝飾店を見に行くことにした。
 途中、買い物に疲れた足を休めるために、先日立ち寄った桜子の幼馴染みが経営するカフェでお茶をすることにする。
 「…あら、桜子じゃない?」
 かけられた声に二人が振り向くと、いかにも若い有閑マダムと言ったような少し派手めの女性が桜子に微笑みかけていた。
 「香奈枝」
 親しい間柄らしく桜子もにっこりと笑って出迎える。
 ひとしきり挨拶を交し合うと、香奈枝と呼ばれた女は桜子の横に立つつくしに興味津々の眼差しを向け、会釈した。
 「こちらは?珍しいわね、桜子がお友達と買い物だなんて」
 会釈を返すつくしに、桜子が苦笑して香奈枝を引き合わせる。
 「…先輩、こちらはIMCエンタープライズ代表取締役夫人の柴崎香奈枝さん。以前に、ちょっとしたサロンで会って以来の友人なんです。香奈枝、こちらは道明寺つくしさん。私の出身校の先輩なのよ」
 紹介されお互いに改めて、挨拶しあう。
 「初めまして。柴崎です。桜子さんとは気が合って、何かとご一緒させていただいているんですよ」
 「初めまして、道明寺です」
 簡潔なつくしの挨拶を聞きながら、何か思い当たったことがあったのか、おそるおそる問い掛ける。
 「あの…、もしかして、道明寺って、あの道明寺さんですか?」
 あの、と言われても困ったものだが、桜子の友人であることから、つくしも素直に頷く。
 「えっと、どういうふうにお答えしたらよいのかわかりませんが、主人は道明寺ホールディングスの副社長を務めています」
 「やっぱり!ご主人の道明寺司さんのことは、私も学生時代からファンなんです!」
 見た目の高慢さとは裏腹に、意外に気さくでミーハーらしい香奈枝は、女子高生のような黄色い声をあげて頬を紅潮させている。
 その表情から、案外単なる社交辞令なのではなく、司のファンだというのは本当のことなのかもしれなかった。 
 聞いてみると、香奈枝は元々中産階級の出で、夫の会社はIT系のベンチャーだということだった。
 業績は好調で、香奈枝も結婚後、専業主婦で家計は十分賄えていて、それどころか習い事や旅行、友人たちとのお茶会にと優雅なマダム生活を送っているらしかった。
 彼女に比べて、桜子の方は生まれながらの上流階級出身。
 だが、不思議に桜子は同じ階級の権高い令嬢たちとの付き合いよりも、こうした気さくな付き合いを好んでいるらしく、幅広く友人知人との交際があった。
 そんなところも、つくしに対して偏見を持ったり、特権意識を持って蔑んだりしない一因なのかもしれない。
 昔の記憶がなく、友人を持たないつくしにとって、桜子や香奈枝との会話は思いのほか気安く楽しい一時だった。
 気が付けば、一緒に入ったカフェで、ガールズトークを楽しみ、互いの夫への不満や惚気を披露し笑いあう。
 桜子の場合はまだ婚約中ということもあり、愚痴よりも、期待や不安が多いらしかった。
 …こんな綺麗な人でも、普通の人と同じようなことを感じてたりするんだな。
 ますますつくしは桜子への好意を深める。
 ここのところ、何かと桜子に誘われ、つくしはショッピングやサロン、あるいはパーティへと同伴していた。
 日本に帰国して一か月、生活も落ち着き、挨拶回りも一段落した為、、あきらへの義理や桜子の持つ旧華族社会への顔利きを兼ての交際だったが、いまではこの一つ年下の美しい友人が本当に好きになっていた。
 「あ、ちょっとレストルームに失礼しますね」
 桜子がトイレに立つのを見送り、つくしが何気なく時計を確認していると、香奈枝が唐突に顔を寄せてきた。
 「…つくしさん」
 「はい?」
 その顔には不思議な笑みがある。 
 嘲りとも、悪意ともいえぬ卑しい悦びがそこに透けて見えていた。
 馴染みあるその表情に内心眉を顰めているつくしに気が付かないらしく、香奈枝が今、席を立った桜子の陰口を嬉々としてつくしへと告げる。
 「ご存知ですか?桜子のこと」
 「えっと…」
 「あの顔、すっごく綺麗ですよね。まるでお人形みたい」
 あの顔…妙な言い方をするものである。
 綺麗な人、綺麗な顔、そういう意味でならなるほど、その通りだな、と納得できるのだが、つくしは香奈枝の言い回しの違和感に首を傾げた。
 「あれ、作り物なんですよ」
 「え?」
 「一部の人間の間では公然の秘密なんですけど、あの顔、なんども整形手術で作った紛い物なんです。元はすっごい不細工だったとか。以前から付き合いのある上流階級や彼女の親戚の多い旧華族の中では知れ渡っているから、私たちみたいな…いわゆる格下の人たちとの交際を彼女、好んでるんですよ」
 つくしを見る香奈枝の顔には、同意を求め、共に噂話を愉しもうという意地の悪いものがある。
 つくしも聖人君子のつもりはないし、突っぱねるほど青くはないつもりだが、親しい人、好意を持っている人を傷つけるような言葉を本人が不在とはいえ、楽しみたいとは思えない。
 なので、
 「そうなんですか」
 つくしの淡泊な返事に、香奈枝がキョトンと顔を見返す。
 けれど、つくしが自分の言った意味がわかっていないのかと、逆に聞き返してくる。
 「えっと、それだけ?元々はすごいブスなくせに、他の女は格下だと彼女、見下げているんですよ?」
 「桜子さんが、他の女性に対してどういうふうに思っているのかはわからないですけど、少なくても私に対してはとても親切で、気持ちの良い人です。それだけじゃあ、いけませんか?」
 「…いけなくはないですけど、なんというか、つくしさんって優等生的なんですね」
 香奈枝の美しい顔には白けて鼻白んだような表情が浮かんでいる。
 「桜子さんがもし、他の女性を格下だと思っているのだとしたら、それは姿勢に対してなんじゃないでしょうか?桜子さんはとても努力を怠らない人です。自分の美しさ、自分の教養、自分の魅力、より他人に素敵に見てもらえるように頑張って努力している。その一つとして、整形という道を選んだとしても、それは桜子さんの自由であって、あげつらわれるようなものではないのではないでしょうか?」
 「でも、その顔できっと美作さんのことも誑かしたんじゃありません?確かに、三条家は名門の旧家ですけれど、血筋だけで斜陽の家ですよ?あの美作商事の、それもF4の美作あきらさんとではとても釣り合う人だとは思えませんけど?」
 悔しそうに絞り出される香奈枝の声には、確かな羨望と嫉妬が見える。
 司のファンだと言っていたが、実は司というより、身分あり、美貌、金、力と兼ね備えた御曹司たちへの憧れなのかもしれなかった。
 「…香奈枝、あなた、そろそろお花の時間なんじゃない?」
 背後からかかった桜子の声に、香奈枝がギョッと振り返る。 
 ちょうどレストルームから戻ってきた桜子が、店の壁にかかっている時計を指し示していた。
 「あ、あらやだ、本当!」
 ドキマギと、目をギョロつかせた香奈枝が急いで席を立つ。
 桜子の顔には相変わらず美しい笑みが張り付いていて、先ほどまでの醜い陰口が届いていた風情はない。
 「会計は済ませておくから、急ぎなさいな」
 「わ、悪いわね。またの機会に、お返しするわ」
 バッと音がしそうな勢いで離れてゆく香奈枝の動揺が、滑稽なくらいだ。
 桜子に対して悪意を持っていても、面と向かって対峙するほどの気概も意志もないのは明らかだった。
 毒気を抜かれたように、つくしが息を吐き、紅茶を啜る。
 何食わぬ顔で、席に戻った桜子が、ボソリと口を開いた。
 「…どうして、面白そうな顔をなさらないんです?」
 最初、聞き間違いかと思った。
 だから、紅茶を口に含んだまま、つくしはとっさに反応できなかった。
 「この顔が作りものなのも、昔すごいブスだったのも、それを知られたくないから同族とはなるべく付き合っていないのも本当です。家も香奈枝の言う通り斜陽で、血筋と旧家という誇りばかりが残るだけ。美作商事の御曹司と本当は釣り合うような家じゃないんですよ」
 吐き捨てるような言葉じりには何の感情も宿っていなかったが、それだけに桜子の心の痛みがつくしに悲痛に響く。
 いつもは華やかな笑みを浮かべる美貌は青ざめ、どこまでも虚ろな目と無表情な顔が、いかに彼女が傷ついているかを伝えてくる。
 「美作さんが私と婚約なさったのも、どういう気紛れなんだか。たぶん、この顔と、体、こういう性格ですから、互いの私生活に煩くいうつもりがないことがわかって都合が良かったんじゃないでしょうか」
 「…桜子さん」
 「いいんですよ、そんな同情しているような顔なさらなくても。面白おかしく陰口を言えばいいじゃないですか」
 何と言ったらよいのか迷って、結局つくしはただ桜子を見つめていることしかできない。
 「先輩って偽善者なんですよ、結局。他人を庇って泥を被って、バカを見る。昔からそんなんだから…だから、道明寺さんだって」
 「…私、桜子さんが好き」
 ハッと桜子がつくしを見返す。
 「顔が作り物だとか、家が斜陽だとか、そういうのとは関係なく、こうして桜子さんとお茶してお買い物して、桜子さんの豊富な話題を聞いているのが楽しい。それじゃあ、ダメなのかな?」
 「…何言ってるんですか」
 「桜子さんを見ていると、本当に綺麗だなあって思う。それは桜子さんの顔やスタイルだけの話じゃなくて、上品な所作や、柔らかで華やかな表情、立ち振る舞い、そういうすべて込みのことなんじゃないかな。美作さんだってきっと、そういう桜子さんの全部を見て、結婚を決めたんだと思うよ?」
 「……」
 何の根拠もないのに、つくしがそう言うと、本当のように聞こえる。
 少なくても、つくしを…昔のつくしを遠目からであっても知っている桜子は、信じたくなってしまう。
 けれど、素直につくしを信じるには、あまりに長い間ひねくれ、ねじくれ過ぎていて、年を取りすぎたのだ。
 だから。
 「…花沢さん、いつまでこちらにいらっしゃるんです?」
 「え?」
 唐突な話題変換に、つくしはついていけない。
 「もうかれこれ一か月近くになりますよね、日本にいらっしゃるの」
 「そ、そうなんだ」 
 類の話題は、つくしに不可思議な動揺をもたらす。
 知ってか知らずか、それほど類の動向に興味があったわけではなかったのか、桜子はあっさりと席を立つ。
 「そろそろ、出ましょうか」
 つくしも夕方には語学の授業が待っている。
 忙しい道明寺夫人にも、そろそろ帰宅の時間が迫っていた。




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