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「愛してる、そばにいて」
第1章 泡沫に沈む月①

愛してる、そばにいて0025

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 「あの、花沢類?」 
 意を決したつくしに、ビー玉みたいな透明な薄茶色の目が彼女を真っ直ぐに見る。
 …やっぱり、この目を私は知っている。
 吸い込まれそうなその眼に、何か遠い記憶を揺さぶられる気がして、つくしは胸の動悸を意識した。
 「…その、花沢さん…花沢類とは、高校時代、面識あったんですよね?」
 「まあね。それなりにけっこう顔合わせてたよ」
 「あの、花沢類と私が友達だった…て、本当?」
 遠慮がちに問い掛けられる言葉に、類もまた遠い記憶を呼び起こし、複雑な色合いの笑みを浮かべる。
 実のところ、類もまたつくしに対してどういう態度で接すればいいのか思いあぐねていた。
 生来の無表情でつくしには悟らせてはいなかったが、久しぶりに再会したつくしの変貌ぶりに驚いたこともある。
 だが、それだけでなく、自分の心にも生まれた不思議な懐かしさと親しみに戸惑っていたのだ。
 当時ですら…類にとってつくしは他の人間たちとどこか違った。
 真っ直ぐな眼差しが、生き腐れて停滞し続ける彼とは真逆に、一生懸命に生きる彼女の姿勢が眩しく、そして健気だと度々感じることがあったのだ。
 だからこそ、何事にも無関心だった彼が、司に虐げられ、全校生徒を敵に回して奮闘するつくしを庇うような青天の霹靂的行動に出てしまっていたのかもしれない。
 あの頃、類は静とのことで一杯一杯で、そんな自分の違和感を追及する暇がなかった。
 つくしに心を揺さぶられ、確実な変化の兆しが確かにあったというのに、静に置いて行かれる苦しみと哀しみ、恨みで、類はつくしを見る余裕がなくなっていた。
 そして気が付けば、いつの間にかあれほどつくしを虐げていた司がつくしを囲い込み、司の影に隠れるようにして自分を見た彼女は変わっていた…まるで別人のように。
 いや、実際に別人になっていたのだろう。
 あの日、あの時、久しぶりに見たつくしの変貌ぶりに走った自分の衝撃を思い起こし、類は軽く動揺する。
 世界の誰もが自分を傷つけるのではないかと、まるで怯えた小動物のように自分を見た彼女。
 手に握りしめた司の腕の温もりだけが、唯一自分を守る砦であるかのように、司を頼り司に寄り添っていた。
 あの位置は自分の場所だったはずだ。
 沸き起こった不可解な感情を厭い、類はそれっきりつくしに会うのを辞めた。
 あの時の不快な感情を怖れ、つくしを見捨て無視したのだ。
 司がつくしをNYへと連れ去り、その後、道明寺家の反対を押し切って勝手に結婚した時にも報告だけ受けて2人に会いにはいかなかった。 
 総二郎とあきらは結婚式にも出席したらしいが、ドイツの片田舎であげた二人の結婚式は、道明寺財閥の御曹司の結婚式にしては質素でひっそりとしたものだったらしい。
 以来、10年。 
 こうして再び会いまみえたつくしは、またかつての彼女を蘇らせているようにも感じる。
 ポッキリと手折られ、萎れかけていた花は再び、雑草の強さを取り戻そうとしているのか、類に新鮮な風を感じさせた。
 ふいに、先ほど赤の他人の子供を怒鳴りつけ、その母親に説教していたつくしを思い起こす。
 「…花沢さん?」
 急に噴出しかけた類に、つくしが怪訝に問い掛ける。
 「ぶっ」
 怪訝に眉根を寄せる表情が、何かツボに入ってしまったらしく、笑いが止まらない。
 「くくくく、はははははは」
 「なんなんですか、いったい…」
 最初はキョトンとしていたつくしも、一方的に笑われることに憤慨してきたらしく、子供みたいにプクッと頬を膨らめ、唇を尖らせる。
 それがまた、類に子供の頃見た図鑑の小動物を思い起こさせ、楽しくなってしまう。
 「ひ~、あんた相変わらず、おもしれ~。なんか、いるよね?」
 「はあ?」
 「ほら、目がでっかくて食べ物をほっぺた一杯に頬張ってるげっ歯類!」
 …それって、リスかい?もしかして。
 つくしの眉がピクピクと痙攣する。
 かつて、テーブルマナーの教師にさんざん「つくしさん!リスのように頬を膨らめて、食事をしないっ」と叱咤された記憶が蘇り、忸怩たる思いが蘇る。 
 けれど、無邪気に転げまわる類の顔が、すっかりとっつきにくさを払拭していて、2人の間にあった壁のようなものがいつの間にか取り払われているような感覚に、心が解される。
 …なんか、こんな風に子供みたいに笑う男性って、司以外には初めてかも。
 司も時々少年のような笑顔を見せることがあったけれど、類の笑顔はまた別の感慨をつくしに感じさせる。
 司に感じる愛しさではなく、なんだか可愛いというか優しい気持ちになって。
 まあ、いいか。
 と、楽しそうな類を許容してしまった。
 「ふ~、なんだか久しぶりに笑わせてもらった」
 「…そうですか。なんだかよくわからないけど、楽しかったなら良かったです」
 「…友達だったよ」
 「え?」
 唐突に重ねられた言葉に、つくしが目を瞬かせる。
 「たぶん、友達だった…かな?」
 疑問形はなんなんだ。
 問い掛けられるように見返されても、記憶のないつくしには答えようがないし、そもそも質問していたのはつくしの方だ。
 「だって、あんたが言ってたんだ。あんたと俺は非常階段友達だって」
 謎な言葉に聞き返そうとして、
 「失礼します」
 割って入った声に、つくしはハッと、背後を振り返った。



 結局、あの後、ホテルの支配人を伴ったオーナー夫人に声をかけられ、確信に触れる前に、つくしと類の会話は中断されてしまった。
 2人は彼女の親類の娘である非常識な母親の非礼を詫びられ、一同を食事に招待したいとの誘いを受けたが、幼い咲と戒はすでに疲労で船を漕いでいた為、後日改めて…ということで、その場は辞退した。
 類と別れ、つくしと椿たちが帰宅した頃には19時を回り、それぞれの母親に抱きかかえられた子供たちはすでに夢の世界へ。
 戒はともかく、かなり大柄な咲は広い道明寺邸を椿が抱いて歩くのにはかなり大変で、SPの一人に抱き上げてもらって邸内にちゃんと確保されている椿の部屋と続きの子供部屋へと2人は引き上げていった。
 いつもだったらつくしはなるべく戒を人任せにはしないのだが、今日はさすがに足の裏を怪我しているため、彼女もSPの一人に戒を抱き上げてもらい、子供部屋へと運んでもらう。
 丁寧にベッドに子供を下ろし、辞去するSPに礼を言い、眠る我が子に視線を投じた。
 「…可愛い寝顔しちゃって。ホント、こうしてると司そっくり」
 元々司よりの綺麗な顔立ちの子供だったが、不思議につくしにもよく似ていて、司に瓜二つという印象はない。
 髪質の遺伝はさすがに強く、司と同じく強い癖のあるクルクル巻き毛ゆえによけいに似て見えるのではないだろうか。
 もっとも、それは戒を見慣れた家族の印象で、初めて戒を見た他人やつくしの顔を知らない人間は、父子でそっくりだという印象を持つらしい。
 つくしにしてみれば、どちらに似ていても可愛い我が子だし、むしろ司の美貌を受け継いだ方が戒の為にも喜ばしいだろうとは思っていたけれど、どちらかというと戒の容貌よりもその性質の酷似の方を心配していた。
 今のところ、戒の性格は引っ込み思案なきらいはあるものの、おおむね司よりは温和で大人しく見える。
 だが、司の幼少時を知る椿やタマにしてみると、司も戒の年頃の頃には甘えっ子で人見知りの強い印象の目立つ子供ではあったが、それほど特殊な性質を持つ子供ではなかったという。
 司が荒れ、暴れだすようになったのは、もっと物心がしっかりとして、自分の置かれた立場、両親が自分の傍にいないという不遇な哀しみ、その特異な家に生まれたことによる他人からの排斥(大人とは違って子供は阿るよりも、彼を排斥した)を理解するようになってから。
 多少我儘なところや我が強かったり生意気なところはあっても、当時の司は手におえない癇性な子供などではなかったのだ。
 司の横暴さ、粗暴さ、凶暴性は、多分に愛情不足による孤独が原因だったのだろう。
 それを思うたびに、司への憐憫とたまらないほどの愛しさを感じ、同時に戒を真っ直ぐに育てることへの決意と難しさを感じていた。 
 つくしはつくしなりに精いっぱい戒に愛情を注いできたつもりだ。
 実際に戒もまた、母のつくしにべったりなほどつくしを慕っていて、父である司もまた戒に十分な愛情を注いでいる。
 自分の不遇な子供時代を打ち消すような司の父性に、むしろつくしが感心するくらいだった。
 だが、時々…いや日本に帰ってから頻繁にだろうか。
 なぜか、この司と戒…彼女がこの上なく愛する二人の傍に自分がいない未来を想像する時がある。
 自分の生ある限り、この二人から離れることなど想像することさえできないはずなのに、司にそっくりな性質を持つ戒の未来を危惧してしまうのだ。
 この子は私がいなくなったら、どうなってしまうのだろう。
 戒の肉体を育ててくれる手はいくらでもある。
 有り余るほどのお金と物が常に戒の周囲に満ち溢れ、どんな子供よりも遥かに手にするものは多いだろう。
 しかし、戒の母親はつくししかおらず、また、おそらく戒がもっとも必要としているのはつくしの手に違いない。
 幼子の薔薇色の頬を優しく撫でさすり、つくしは胸の中の不安を振り払おうと頭を揺らす。
 そして、またいつもの葛藤に苛まれる。
 …真実なんて必要ないじゃないの。この生活が、司がいて、戒がいて、それ以上に望むことなんて何一つないはずなのに、なぜ?
 でも胸の中の小鳥が、囀り続ける。
 真実がどんなに苦く苦しいものであったとしても、知らないままの人生はどこか空しく空虚ではないのか。
 司の不安はつくしの記憶の中から発しているのに、それに目を瞑り続けていて、本当にそれでいいの?
 「…つくし?」
 自分の中に沈み込んでいたつくしは、突然かけられた声に、ビクリと肩を揺らす。
 「司…」 
 「どうした?ボウッとして、飯、食ったのか?」
 気が付けば時間は21時を過ぎている。
 なんだかんだで、夕食もスキップしてしまっていた。
 「今日は早かったのね。…幹事長との会食は?」
 司は溜息をついて疲労を逃し、ネクタイを緩めながら、バサリと上着をソファに投げ捨てた。
 そしてそのまま、戒のベッドに歩み寄り、最愛の息子の寝顔に指先を走らせる。
 「あっちの都合でキャンセル。今日はなんだか疲れたから、直帰した。戒、ずいぶん早く寝たんだな。いつもだったら、お前に絵本読んでもらってる時間だろ?」
 「あ、うん。ほら、昨日言ったでしょ?お姉さんに、ニューオープンのリゾートホテルに連れて行ってもらって、プールで半日遊んだから疲れたみたい」
 「へえ?どうせ、咲に引きずり回されたんだろ」
 ニヤリと笑う司に苦笑する。
 咲は外見こそ椿の夫によく似ていたが、性格は椿そっくりで、おとなしい目の戒をかなり強引に連れ回している。
 椿と咲の違いは、兄弟とたまに会う程度の従兄弟という関係柄、さすがに暴力は振るわれなかったが、司が椿に弱いように、やはり戒も咲には逆らえなかった。
 クスリと笑ったつくしの顔を覗き込み、司が唐突に抱き込んでくる。
 「…ちょっと、何よ」
 「黙ってろよ」
 「こんなところで、変なことしないでよね。戒が起きたらどうするのよっ」
 セクシャルな雰囲気ではなかったが、ところ構わず押し倒してくる夫の非常識を知っているので、油断はできない。
 だが、抱き込む腕が存外の柔らかさと温かさが、つくしの心を優しく包み込む。
 その心地よさに、振り払う気になれない。
 「…なんだか、お前、今にも消えちまいそうな顔してる」
 「え?」
 驚いて見あげるつくしの頭に顎を乗せ、優しく背を撫でる司の声の方が消え入りそうだ。
 「…どこにも行くなよ」
 「司」
 「愛してる、そばにいろ」
 ずっと、永遠に…。
 たとえ死が二人を別つことがあろうとも、必ず捕まえてみせる。
 つくしは司の肩越しに、ぼんやりと陰る窓の外の月を見ていた。




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