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「愛してる、そばにいて」
第1章 泡沫に沈む月①

愛してる、そばにいて0020

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 桜子と楽しい数時間を過ごしたつくしは、次のショッピングやお茶の約束をしてその日は別れた。 
 元々つくしはあまり自分の楽しみのための買い物をするたちでなく、もっぱら司や義姉の椿の贈り物でたいていのものは賄えていた。
 だが、桜子との交流で、同年代の友達との会話…そういうものに飢えているということに、初めて自分で気が付いた。
 ヨーロッパでも司の仕事関連の奥方たちから買い物やお茶に誘われることもあったけれど、それはあくまでも夫の仕事を絡めての社交上のもので、つくし自身がまだ若いこともあって、既婚で子供がいるといえば、つくしよりもだいぶ年齢層も高いことが珍しくなく、また極めて儀礼的なものが大半。
 当然個人的な嗜好や好意が介在する関係ではないので、つくしには楽しいと言うより気疲ればかり。
 少しでも気を抜けば、庶民の出、卑しい下層階級の女と蔑まれ、自分ばかりか司や戒、ひいては道明寺家の恥となる。
 そんな環境下で、気の置けない友人などできるはずもなかった。
 おそらく、司の親友の婚約者という立場ゆえに気を許している部分もあるのだろう。
 だが、この10年のうちで、ほとんど初めてともいえる友人ができたことに、つくしはかなり舞い上がり、ウキウキとしていた。
 楽しかった。
 もしかしたら、初めてできるかもしれない友達。
 嬉しい気分のままに、邸に帰宅したつくしは、使用人から戒が帰宅していると聞いて子供部屋へと気持ちを向ける…と、
 ドドドドドドドドドッ!
 地響きを立てるような足音に面喰って、音のやってくる方向に顔を向けた。
 「つくしちゃああああああんっ!!」
 ドーンッ!ガッ!!ぎゅううううううううううううううううう。
 「…ぐえぇ」
 押し倒されんばかりに飛びついてきた大柄な女性に、絞殺されんばかりに抱き付かれた。
 相手は、自らの興奮のあまり蛙が押しつぶされたような、なんとも色気のない苦鳴をあげているつくしの状態にも気が付かずに、黄色い悲鳴をあげて喜んでいる。
 「やん!相変わらず、この子ってば、小さいんだから~。ん~。なんていうか、私が子供の頃に持っていたテディベアのヌイグルミみたいな感じ?」
 いったいどんだけデカイんですか、そのクマは。
 それって、等身大?
 酸欠で気を遠くさせながら、どうでもいいことを疑問に思うつくしは、両肩を掴まれ、グラグラ頭を振られているので半分脳震盪気味だ。
 「どうしたのっ!?つくしちゃん!?もしかして、私のこと忘れちゃった?まさか、また…記憶喪」
 「お嬢様、そんなに若奥様の頭を振り回しては、若奥様だって答えるどころじゃないですよ。
半分白目向いてんじゃないでしょうかねぇ」
 カカカと、笑えない冗談を笑顔でいうタマの言葉に、椿が顔を覗き込むと、つくしはヘロヘロになりながらも必死で引き攣った笑顔を浮かべていた。
 「…い、いえ、大丈夫。記憶喪失にもなってません」
 …いま、ちょっとお花畑が見えたけど。
 「よかった~。つくしちゃんたら、ちょっと見ない間に、ずいぶんやつれたんじゃない?」
 心配性な姉の顔をする椿に、ほっこり心が温まる。
 この椿とは、NY時代に初めて会って以来、実の姉妹も同然の付き合いをしていて、何かと『つくしちゃん、つくしちゃん』
とつくしを可愛がってくれていた。
 それはもう猫可愛がりに近く、ヨーロッパとロスアンゼルスという実質的な距離があるにも関わらず、盆暮れなくかなり頻繁に顔を合わせている。
 その可愛がりようは、実の弟の司などそっちのけの愛情の示し方で、記憶もなく権高い人たちの中で、司一人を頼りに慣れない環境で過ごさなくてはならなかったつくしの10年間を力強く支えた。
 強くて、綺麗で、本当に優しい人。
 椿を思うとき、つくしの胸には、司に対するものとはまた別の柔らかい親愛の情と、感謝の気持ちが湧き上がる。
 「お姉さん、いついらしてくださったんですか?」
 「ふふ、さっきついたばっかり。つくしちゃんを驚かしたかったから、内緒で来ちゃった」
 「もうっ!本当に驚きました。でも、すっごく嬉しいです!咲ちゃんは?」
 いつもだったら椿と一緒になってつくしに飛びついてくる、椿の愛娘の咲の姿がない。
 「ああ、最近なんか戒ちゃん戒ちゃんて、ついて回るようになっちゃって。邸についてそっこう、戒の部屋に直行してわねぇ」
 ね?というように、椿がタマをみやると、ニヤリと笑って見せる。
 「今とまったく同じ光景を、戒坊ちゃんの部屋で見ましたよ。もっとも、坊ちゃんの方は持ちこたえられなくって、烈火のごとく怒ってましたけどね」
 「あららら。咲ったらダメねぇ。ちゃんと、さじ加減は考えなくっちゃ」
 呆れたように頭を振っている椿を眺めながら、微妙な顔のつくし。
 さじ加減をしているにしては、毎回椿と会うごとに窒息死やら、絞殺される危機やら、全身骨折の懸念に苛まれている。
 「ねっ、つくしちゃん。明日時間ある?」
 「明日ですか?」
 明日一日のスケジュールを頭の中で思い浮かべる。
 今日は習い事をかなりスキップして、桜子と出かけたのでできれば明日にその分を消化してしまいたかったが、いつもつくしを気遣ってくれて大好きな椿のお誘いだったから、できるだけ断りたくない。
 とりあえずは、司に関わる重要な取引相手の奥方との付き合いや、パーティ、慈善団体とのセッションはなかったので、つくしは椿の誘いを快諾した。
 「良かった~。ドバイで友人がリゾートホテルの建築を計画していて、そこで使ってみたい建築家がデザインしたホテルが来月オーブンするんだけど、そのプレオープンに出資に関わった人たちのみに一部の施設を開放することになっててね。友人に頼まれて、ちょっと偵察したいのよ」
 「はあ。えっと」
 それは道明寺もしくは椿の婚家の一員としての仕事なのか、どういう心構えで行けばいいのかと頭を悩ましかけたつくしに気が付いて、椿がニッコリ笑う。
 「ああ、仕事じゃないからね。招待も道明寺やうち名義じゃなくって、友人の友人経由だから、完全な覆面。普通に、会員制プールや娯楽施設、レストランなんかを楽しみに行きましょうってことなの。ほら、つくしちゃんも戒もいっつも邸内のプールばっかりじゃあ飽きるでしょ?さすがにウォータースライダーなんてないし」
 カラカラ笑うつくしの脳裏には、ドイツの邸に設置してあったウォータースライダーが思い浮かぶ。
 小型とはいえ、戒がテレビで見たプールの滑り台を羨ましがった数日後には設置されていて、つくしは仰天した。
 もちろん、椿とて司の姉なのだから、そんなものの一つや二つで驚きはしないだろうが、子供の言葉一つでそんなものを設置してしまう司の親馬鹿ぶりを知られてしまうのは、なんとはなしに気恥ずかしい。
 「…ま、戒やつくしちゃんが望めば、ウォータースライダーの一つや二つ、司のことだから邸にも設置しそうだけどね」
 さすがに姉には読まれている。
 「ダメかしら?」
 「はい、お供させていただきます。戒も喜ぶと思いますし」
 「うんうん、嬉しいわ。つくしちゃんと久しぶりのデート。夜には、司も帰ってくるんでしょ?」
 「はい、さすがに定時というのは無理だとは思うんですけど、まだ新規の大きなプロジェクトに関わってはいないので、泊まりや出張はしばらくないみたいです」
 その分、夫婦ともに顔を出さなければならない社交的な付き合いは多く、つくしの負担は大きい。
 内心の溜息を知られないように、何食わぬ顔でタマに促されるまま、椿と居間へと移動する。
 「ふうん。まあ、じゃあ、しばらくはあの子も寝不足でフラフラしなくって済むってものね。つくしちゃんが一緒にいないと不眠症って、どれだけヘタレなのよ、あのバカは」
 「…ははは」
 辛辣な姉の呆れたような物言いに、恥ずかしさで顔を上げられず、乾いた笑いしか出てこない。
 実際、つくしに一人でヨーロッパに残れなどと、下手な気遣いをした司だったが、短期の出張ならいざしらず、結婚以来、長期の出張や転勤につくしを伴わなかった時は一度もない。
 その理由というのが、単純につくしを離したがらないという理由の他に、つくしがいないと冗談ではなく、本当に眠れないのだ。
 不眠症…というには、不可解なことではあるものの、本人が医者の介在を嫌がるので詳しいことはわからなかったが、つくしが一緒に眠らないと深い眠りを得ることができないらしい。
 それが司の愚痴のみのことならば、単純に司の我儘、埒もない子供っぽい言い草と無視をするのだが、結婚して少しした頃、実際に、司が倒れたことがある。
 1ヵ月の予定の出張で、その半分の日程…半月で限界がきた。
 以来、何があっても、長期の出張には司はつくしを同行し、そのことに、椿は呆れ半分、あとの半分は苦笑いしていた。
 NYの司の両親はそのことに関してどう思っているのか、特には何も言ってこないが、一々妻を同行することに対してあまりよく思っていないことはつくしだとて容易にわかる。
 けれど、仕方のないことだと諦め、また、自分も司がいなければ、不眠症とまではいわないまでも、やはり寂しい思いがするので、仕方のない事なら思い悩むことをやめていた。
 たぶん…自分の記憶のことが心配なんだろうな、とは思う。
 司がいない間に、つくしが嫌な過去を思いだし、傷つき苦しむのが心配なのだろうと。
 そう、つくしもある程度は覚悟している。
 あれほど司や周囲が気遣うつくしの過去の記憶だ。
 そこには、思いもよらぬほどのつくしを傷つける何かがあるのだろう。
 そして、それが司を苦しめているのなら、見て見ぬふりをするのも愛情だと思いつつ、一方では、自分がたとえ記憶を取り戻すことを諦めたとしても、司が気に病み苦しみ続けるのなら、司の意に反しても、記憶を取り戻す努力をするべきなのではないだろうかと、ここ数年思う様になっていた。
 …大丈夫、過去にどんなことがあったって。私には司がいて、戒がいる。
 この二人さえいれば、どんなことがあったって耐えられるんだから。
 『苦い思い出ばかりで、思い出されるのも嫌な過去なのに』
 昼間の桜子の言葉が蘇る。
 もしかしたら、桜子は知っているのだろうか。
 その答えは、高校時代にある?
 思えば、つくしが記憶を失ったのは17才以前の記憶だ。
 大いにあり得る。
 と、すれば、桜子がそのカギを握っている…もっとハッキリ言えば、つくしの過去そのものを桜子が知っている可能性が高い。
 知りたい。
 人間は、神話の中で、かつて神から贈られた箱を決して開けてはいけないと言われたにも関わらず、好奇心から開け放ち、世界に悪や絶望をはこびらせたという。
 つくしの記憶の中に閉じ込められたものの正体は…。
 つくしは決意する意志とは裏腹に、底冷えする恐怖の正体を考えまいと不安を振り払った。




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