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「愛してる、そばにいて」
第1章 泡沫に沈む月①

愛してる、そばにいて0019

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 「ここは、私の幼馴染みが開いたお店なんですよ」
 にっこり完璧な微笑みを浮かべて優雅にコーヒーを啜る桜子に勧められて、彼女ご推奨のデカフェに口をつける。
 つくしと桜子は、桜子が幼少期過ごしたドイツでの友人が日本で経営しているというカフェで、買い物に疲れた体を一休みさせていた。
 ヨーロッパ各地を回ったとはいえ、あまり庶民的な店に入る機会がなかったつくしは、この日本にありながらドイツ風のカフェの異国情緒な物珍しさを目を輝かせて楽しんだ。
 カウンターに立つのは、ドイツ人とのハーフだという美青年で、一見日本人の血を感じられない。
 話す言葉は流暢な日本語だったが、それでもその軽快で洒脱な喋り方や、どこか花沢類を思わせる王子様チックな見かけが、他に詰めかけている女性客たちのハートをつかんでいるらしかった。
 小さな店内には花をモチーフにした絵画やオブジェがところどころに飾られ、優しい陶製のイスや木造のテーブルとマッチして、カフェというよりどこかギャラリーといった佇まいがある。 
 日本のカフェにはあまりないことだが、朝食メニューが充実していて、午後でもゆっくりと食べられるらしい。
 しかも、カフェでありながら、カフェ以外の飲み物も充実していて、ノンアルコールのビールや、ハーブティなどバラエティに富んだ飲み物が充実していて、つくしは驚いた。
 だが、桜子に言わせれば、これがドイツの一般的だそうで、この店一押しと勧められたデカフェは最たるもの。
 席に腰を落ち着けた当初、つくしは最近ちょっと夢見が悪くて、寝つきが悪いから…とカフェインを控えている話をしたら(本当は妊娠に備えて、妊娠しやすい体というものを心掛け、食生活他飲み物にも気を使っていただけなのだが)、ノンカフェインのコーヒー『デカフェ』を勧められたのだ。
 「…美味しい」
 デカフェの香ばしい匂いを楽しみながら、疲れた体にたっぷりと砂糖とミルクを入れた少し甘苦い味が、ホウっと体に染み入る。
 客のカップの中身具合を常に気にして、水だ、お代りだと、マメに聞いてこないところも逆につくしの気に入った。
 「ドイツのカフェは文化人のたまり場でもあり、フリーランサーたちのオフィス代わりになったりもしますからね。少しでもカップに飲み物が残っている間は、何時間でも滞在しても嫌な顔をされません」
 「へえ…あ、いえ、コホン、そうなんですか」
 つい地で返事をしそこなって、咳払いして言い直す。
 つくしの言い直しに気が付いたのだろう桜子だったが、クスリと笑っただけで、他の上流階級のお嬢様や奥様の様な蔑みや、面喰った顔はされず、つくしの方が驚いてしまった。
 当初、どんな格式ばったお嬢様のお供なのかと戦々恐々としていたつくしだったが、桜子は見た目の『いかにも』さに反して、かなりサバけた女性だった。
 さすがに立ち振る舞いは上品で、礼儀作法や言葉使い全般に長け、見るからに上流階級のご令嬢だったが、それを振りかざしてつくしを緊張させたり、恐縮させたりするような振る舞いをしない。
 かなり社交的で話題も豊富で会ったので、初対面に近くても、なにくれとなくつくしに話しかけ、ついには楽しいとまで思わせ、失われたつくしの学生時代のような心地よい時間を与えてくれた。
 …桜子さん、素敵な人だな。さすがに、美作さんが選んだ人。
 出会いは見合いだと言うことだったが、やはり相性や品性も大切だ。
 気遣いのあるあきらなら、たとえどんな人とでも幸せになろうと努力するのだろうけれど、できるなら最初から気持ちのいい人がいい。
 そして、今後しばらく日本にいる以上、司の友人であるあきらとの付き合いもそれなりに深まることもありえる関係上、桜子のような女性があきらの婚約者であったことに、つくしは内心ホッとしていた。
 「夢だったんです」
 「え?」
 桜子の言葉に顔を上げると、少しほんのりと頬を上気させ、小首を傾げている。
 うわあっ、なんて綺麗なの。
 同性同士だというのに、世の中にはこんな綺麗な人がいることに驚き、嫉妬したり羨んだりするよりも素直に感心してしまう。
 司や道明寺家の人々で美人は見慣れているとはいえ、綺麗な人に飽きると言うことはなく素直に目に嬉しい。
 「…牧野先輩と、こんな風にお茶、できるなんて、桜子幸せです」
 だから、言われた言葉に、つくしはびっくりして言葉を詰まらせる。
 桜子とは面識はなかったようだが、高校の先輩後輩という共通の経歴がある。
 同時期に英徳に在籍していて、もしかしたら、司と自分が彼氏彼女として笑いあっていたり、喧嘩したりしていた一コマを見聞きしていたこともあったかもしれないのだ。
 つくしはゴクリと唾を呑み込み、何気なさを装って、聞いてみる。
 「桜子さん、在学中の司…道明寺のこと知ってた?」
 「ええ!もちろんです。F4の皆さんは、全校生徒の憧れの的で。今もそうですけど、当時もそれはもう、熱烈なファンやシンパの方々もいらっしゃいましたよっ」
 少し興奮にか、勢い込む桜子の目には、本物の賞賛がある。
 もしかしたら、憧れていたという生徒のなかには桜子も含まれていたのかもしれず、こんな美人はさぞや学生時代も美少女だったんだろうなと、つくしは思った。
 「えっと、話したりしたことも?」
 とたん、シュンとした桜子につくしが慌てた。
 「あ、いや、その」
 「…いえ、残念ながら、そんな光栄な機会はありませんでしたよ。F4の皆さんは私なんかには、高嶺の花で、とてもとてもお近づきになんか」
 「そんな、桜子さんは、綺麗だし、優しいし、お話もとてもお上手だし、他の生徒たちに逆に憧られていたくらいだと思うんだけど?」
 「そんなまさか。私なんて。美作さんが、私との婚約を受けてくださったのも信じられない幸運で」
 頬を染めてはにかむ桜子を見ていると、本当に深窓の御嬢様なのだと、つくしは感心した。
 「でも、そのおかげで牧野先輩とこうしてお話できたんだから、もう私の一生分の幸運を使い果たしちゃったのかも」
 両手を頬に当てて、困ってる。
 「そんな大げさな。でも、その、先輩って?」
 「あ、すいません。牧野先輩は、ああっ!私ッたら、道明寺さんでいらっしゃるんだから、奥様ってお呼びしないといけなかったのに」
 「いえ、そんなに気を使わないで?…その、もしよかったら桜子さんにはお友達になってもらえたら嬉しいから、奥様っていうのは…ちょっと。牧野というのも、えっと、なんというか」
 言葉に困る。
 つくしにとっては、自分が道明寺と呼ばれるか牧野と呼ばれるかということより、『牧野』という苗字に馴染みがなさすぎて、ピンとこない。
 普通既婚になりたての女性は、その逆で旧姓から夫の姓名に変わることへの戸惑いを抱く人もいるようだったけれど、気が付いた時には司の婚約者としての自分が存在していて、まるで攫われるような激しさであっという間に『道明寺』と呼ばれる立場になっていた。
 そういえば、おぼろげに、日本の道明寺邸にいる時は、「牧野」って司にも呼ばれていた気がする。
 あまり接触はないから意識してなかったけれど、高校時代にも知人だったと言うF3もそうだ。
 「…じゃあ、先輩ってお呼びしていいですか?道明寺さんでも牧野さんでもありませんし」
 「うん、それがいいかな。て、いつの間にか私たら、タメ口…ってあわわわ」
 ついつい桜子の柔らかい雰囲気に、さっきから道明寺夫人の化けの皮がパラパラと剥げ落ちている気がする。
 「いいんですよ、お楽になさってください。私、高校時代の先輩を存じ上げてるんですよ。そりゃあ、お話した
ことはなかったですけど、憧れの人だったんですもの」
 「えっと、憧れって?なんだか、私のことじゃないような気がしちゃうんだけど」
 そこで、桜子が困った様に小首を傾げる。
 「…すいません」
 「え?」
 「きっと先輩には苦い思い出ばかりで、思い出されるのも嫌な過去なのに、私が昔のことばかり言うから、先輩を困らせちゃってますよね」
 桜子の言葉に、つくしは怪訝に眉根を顰める。
 実際、何のことを桜子が言っているのかわからない。
 「…先日も、不愉快なことを思い出しちゃうような物言いをしてしまって、美作さんにも注意されたばかりなのに…。道明寺さんも怒ってらしたでしょ?」
 「え、いや、その…」
 桜子の言葉に、先日…桜子と初めて顔を合わせたパーティ会場での出会いを思い起こす。
 確か、桜子が今のように、つくしを憧れの先輩だったといい、何か言ったら、司が不機嫌になった。
 そして、妙な雰囲気で、あきらや総二郎が取り繕う様に、司を宥めていた。
 何を言っていた?
 他愛無い話だったはずだ。
 いや…今も桜子の言葉が引っかかった。
 『苦い思い出ばかりで、思い出されるのも嫌な過去なのに』
 確かにそう言ってなかったか。
 「あのね、桜子さん」
 ブーブーブー。
 「あ、すいません、私の携帯です」
 桜子の膝の上に置かれた小さなハンドバックが、携帯電話のバイブの呼び出しで振動を伝えている。
 「少しだけ、すいません」
 つくしに断りを入れて席を立った桜子の後ろ姿を見送り、窓へと視線を向けていると、街路樹の向こう側、高校生くらいの女の子一人を囲む様に似たような年代の女の子たちが立ちはだかっているのに気が付いた。
 あまり楽しそうな雰囲気でないのが、つくしの気にかかって、
 「あっ」
 ドンッと音がしそうな感じで、取り囲んでいる女の子の一人が囲まれている女の子の胸元を小突いた。
 思わず立ち上がって、どうしようかとつくしが迷っていると、背の高い男の子が現れて、女の子たちに何かを言っている。
 すると、一人の女の子を苛めていた女の子たちはサッと波が引くようにその場を後にし、残った女の子と男の子も手を繋ぎその場から歩き去ってゆく。
 何とはない光景。
 だが、不思議な感覚に、つくしの意識はすっと吸い込まれるような眩暈を憶え、ストンと椅子へと再び腰を落とす。
 『…大丈夫かよ』
 つくしの耳に馴染んだ、心地よく優しい男の声がする。
 その時の口惜しさ、哀しさ、切なさまでも蘇って、つくしは胸元をそっと抑えた。
 男の声を聞いたあの時、思わず気が抜けてポロっと涙が出てしまった。
 『泣くなよ、お前らしくねーじゃん』
 大きな手が差し出されて、つくしの指先に触れ…。
 「…コーヒーなくなりましたね」
 現実の声に呼び起こされて、つくしはノロノロと顔をあげた。
 「え?あ、コーヒー」
 カップを見下ろすと、いつの間にかカップの中身は空になっていて白い底が見えていた。
 「なにか、かわりの飲み物をお持ちしましょうか」
 「先輩?トーマス?」
 ちょうど桜子が戻ってきて、小首を傾げている。
 「どうしたんです?なんだか、ちょっと顔色が悪いみたいですけど。トーマス?」
 「ああ、そういえば、そうだね。俺は、飲み物のお代りを聞いただけなんだけど」
 「ごめんなさい、私ったら。ちょっと立ちくらみみたい。えっと、飲み物ももう十分です」
 目を瞬かせ、急いで二人の心配を振り払うと、先ほど蘇ってきた映像を何度も反芻する。
 …見つけた。
 きっと、さっきのは立ちくらみの見せた白昼夢なんかじゃない。
 それは時々やってくる失われた記憶の一片に違いなかった。




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