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「愛してる、そばにいて」
第1章 泡沫に沈む月①

愛してる、そばにいて0017

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 司の中で、まるで10年もの歳月が逆流したかのような錯覚が湧き上がる。
 あの頃とは姿も立場もまるで違うと言うのに、英徳学園の非常階段で、ガラス越しに不思議な空気の中で微笑み合う二人を見ていた時のような錯覚とどす黒い感情。
 あの誰に対しても無関心で冷たかった類が、静以外に唯一つくしにだけは、気安い何か好意めいた態度を示していた。
 類本人がわかっていなくても、誰が気が付いていなくても司だけは知っている。
 愛とか恋とかそんな熱い感情でなくても、確かに類もまた、つくしに特別な何かを感じていたのだ。
 もしかしたら…、司が非道ともいえる強引な方法でつくしを手に入れていなかったら、いつの日か、つくしにとっての自分の立ち位置に立っていたのは、類だったかもしれない。
 つくしが本気で惚れて、惚れない男が本当にこの世に存在するだろうか。
 寒気にも似た疑念が、突然に、司の脳裏を走り抜けた。
 そんなわけあるかっ、妄想だ、そんなの。
 自分で自分の考えにムカついて、司は頭を振る。
 「…類、何やってたんだよ」
 「寝てた」
 あきらが問い掛けると、予想通りのそっけない類の答え。
 「なんだ?牧野と一緒だったのか?」
 怪訝そうな総二郎の問いにも、眠そうに溜息をつくだけで、類は曖昧に首を振る。
 「…テラスにいらしたので、酔って気分でも悪いのかと思いまして」
 困った様に首を傾げるつくしに、総二郎とあきらが大げさに溜息をつく。
 「こいつって、昔からそういう奴なんだよ」
 「そうそう。真冬の非常階段で、寝っ転がってても風邪一つひいたことないから、心配しなくても大丈夫」
 「真冬の非常階段ですか?」
 目を瞬かせるつくしに、総二郎がニヤリと笑う。
 「そうっ!どこでも寝て、いままともに仕事してんのが不思議なくらいだぜ。むしろ、司の方が風邪ひきやすいんじゃね?」
 「ああ、そうですね。そうかも」
 思い起こしてみれば、司はきわめて体力のある男だったが、意外に繊弱な部分もある。
 疲労や過労に強かったが、ちょっとしたことで風邪をひいたり、熱をだしたりすることもあった。
 大抵は気力で持ちこたえているが、逆にそういう司の無理をするところは、常々つくしの心配の種だ。
 さすがに幼馴染みだけあってそんな司をよく総二郎たちは知っていたが、つくしに対しても気さくな二人は、とても話しやすく一緒にいて心地よい。
 自分でさえそうなのだから、日頃激務で気を抜くことができない司にとって、彼ら気の置けない親友たちといることはどれほど慰められ、心の支えとなることか。
 「…司、もう、戻ってもいいよね?」
 「ああ、そうだな。こいつらで今日の来客は最後。もう、戻るか?」
 「あ、うん。お先に失礼させてもらうね、戒も心配だし」
 つくしの言い分に、首を傾げて司がつくしの腰に腕を回す。
 「ん?俺も戻るぜ?」
 「ええ?だって、美作さんのお宅で集まって、この後呑みなおすんでしょ?明日はちょうど、パーティの翌日で午前中は半休とってるんだし…ムチャ呑みしない程度に楽しんできて?」
 気を使って勧めるつくしに反し、すでに司は友人たちに背を向け、つくしの腰に回した手に力を込めて歩き出している。
 「じゃあな」
 「おうっ!またな」
 「また、司」
 「じゃあね」
 友人たちもあっさりしたものだ。
 「あ!そうだ、牧野!先日も言ったけど、桜子に、今度、お前と一緒に買い物へ行きたいって頼んでくれって言われたんだ。後で桜子から連絡行くと思うけど、一緒に行ってやってくれよっ」
 司に引きずられるように歩きながら、つくしが懸命に振り向き、会釈で返す。
 「ええ、こちらこそ。桜子さんによろしくお伝えください。…っ、もう司ったらっ!」
 「いいんだよ。どうせ、当分日本にいるんだ。いつでも機会はあるさ」
 それはそうかもしれないけど…と呟きつつ、ふと見上げる司の顔がひどく疲れていることに気が付く。
 「…疲れているの?」
 それはそうだろう。
 だが、肉体的な疲れをつくしに悟らせるような男ではなかったし、先ほど、パーティの終了間際に見た夫の顔は精力的でそれほど疲労を色濃くはあらわにしていなかったはずだ。
 それなのに、この短時間でなにがあったのだろう。
 「司?」
 「…そりゃあ、疲れてねぇつーたら嘘だろう。ここ数日、お前を抱く余裕もなかったくらいなんだからな」
 「ばかっ!誰がそんなこと聞いたのよっ」
 周囲の目を気にして見回すが、会場を整備する使用人たちも広間の片付けにてんやわんやで、母屋へと向かう通路に他に人影はない。
 茶化す司の顔には、もう先ほどまでの疲労は見受けられなかった。
 けれど、気遣うつくしにふざけて返した司の態度に膨れて、つくしがソッポをむく。
 だが、甘えるように身をぴったりとくっつけてくるデカイ男に、つくしがいつまでも不機嫌でいられないのはいつものことだった。
 「…なあ」
 「なあに?」
 「類となんか、話したか?」
 何食わぬ調子でされた質問に、つくしは特に疑問を覚えない。
 わずかに固い口調に、強張った司の表情につくしが気が付くことができれば、もしかしたら、この先、何かが変わったかもしれない。
 しかし、司はけっして自分の心情をつくしに悟られたくはなかったし、つくしもまた、露とも司のそんな凍えた想いを感じ取ることができなかった。
 後に…それこそ十数年の後に、つくしはこの時のことを後悔することになる。
 なぜ、あの時、彼女は司の傷ついて、子供のように怯えてた心の奥底をもっと深く覗き込み、拭い去ってあげようという努力をしなかったのか。
 せめて、思い出だけでもそれからの十数年を荒んで過ごさずに済む様に、愛して…信じさせてあげられなかったのかと。
 もちろん、罪なきつくしには何の責任もなく、また、司が隠し続けていた以上、悟りようもなかった。
 だが、愛していたのなら、司の血を吐くような祈りにも似た願いの真意に気が付いても良かったはず。
 『愛してる、そばにいて』叶うことがなかったその願いは、いつまでもつくしの心を縛り付ける。
 けれど、この時はまだ…。
 「ん~、特には、話さなかったかな。花沢さんて、いつもああなの?」
 「ああ、って?」
 「なんていうか、掴みどころがない?」
 つくしの正直な問いかけに、司も相好を崩す。
 「あ~、掴みどころつーか、わけわからん奴だよな。あいつが何考えてるか分かる奴なんていないんじゃね?」
 「なによ、それ。あんたの友達でしょ?」
 いつものように他愛無いことを言い争って、笑いあい、肩を寄せ合って。
 互いの体に回し合った腕の温かな温もりに微笑み合って、この上ない幸福を感じ合う。
 「ああ、そうだ」
 「あ?」
 「なんか、変な質問されたわ、そういえば」
 「変な質問?」
 怪訝に問い返す司に、つくしも困った顔で首を傾げる。
 「うん、そ。今、私は幸せなのかって」
 「…類が、か?」
 「そうよ~。花沢さんて、本当に変な人」
 思いだし笑いをするつくしの顔が不思議に華やいで、少女のようなハニカミを浮かべている。
 何か言おうと司が口を開く前に、人気がないはずの屋外の連絡通路に人の気配を感じて司が周囲を見回す。
 その途端…。
 ガサッ。ザッ。
 「…って!」
 「道明寺…だ。…じゃない…か」
 「で…、よ。…たら、つまみ出される…よ」
 突然の物音と押し殺した複数の話し声、背丈の低い低木の影で蠢く人影に、司がつくしを自分の後ろに押しやって、誰何する。
 「誰だっ!出て来いっ」




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