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「愛してる、そばにいて」
第1章 泡沫に沈む月①

愛してる、そばにいて0016

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 「しっかし、司がこうも変わるとはな」
 一通り来賓を見送り、最後の最後、少しは個人的な話もしたいとわざと残った総二郎とあきらが、司を取り囲む。
 自分の肩に肘をかけられ揶揄られる言葉に、司はニヤリと笑った。
 「ふざけろ、俺様の真価だろ?」
 「真価ねぇ。十年前のお前が聞いたら、臍が茶を沸かすんじゃね?」
 「アホか、お前。臍で茶なんか湧かせられっか。それでも茶人なのかよ」
 やれやれ、と心底呆れたように言い返してくる司に、総二郎とあきらの方が呆れる。
 「…いや、そういうところは変わってないんだけどよ」
 「そもそも、沸かせるで湧かせるの漢字違いだし」
 「それ言ったら、臍でじゃなくって、臍がだろ」
 ブツブツと言いあう二人を何気にスルーして、司が傍を通りかかったウェイターを呼び寄せる。
 「つくしはどうした?」
 ウェイターが数人の同僚に問い掛けるが、誰も見ていた人間はおらず、ちょうど広間からでてきたレセプタント(パーティコンパニオン)が、レストルームで見かけたと司に告げた。
 「相変わらず、牧野、牧野、だな、お前は」
 「愛妻家っつーより、もうストーカー?」
 「ぬかせ。自分の女房心配して何が悪い?ストーカーとはなんだ、ストーカーっつうのはよっ」
 司は憤慨して、自分の肩にかけられた総二郎の腕をはらい落とす。
 呆れた顔のあきらがニヤニヤ笑って、司の肩を叩いた。
 「まあまあ。しかし、総二郎じゃねぇけど、ホント、お前、いい方に変わったよ」
 「ふ、ん?」
 「お前の噂は日本でも聞いてるよ。NYでもそうだけど、ヨーロッパでも評価が高いんだって?」
 「ああ。俺も畑違いだけど、何かと司のことは聞いたな。鉄の女の容赦のなさとは真逆に、温情派なんだって?お前が!」
 司は柔らかい笑みを浮かべるのみで、特には答えない。
 「本当は、ヨーロッパの赤字も大規模なリストラで対処しようとしてたのを、お前が立ちはだかって建て直したってのは一種の伝説だってな」
 実際、リストラを敢行した方が安易ではあるが即効力があり、財閥的には望まれていた。
 司がそもそもヨーロッパに飛ばされたのも、その施策の実行係として。
 憎まれ役となり、司の意気地を削ぐための嫌がらせでもあったのだろう。
 だが、司はそれを逆手にとり、一発逆転を果たす。
 もちろん、並々ならぬ努力と苦行の末のことだったが、人は成功した部分だけを取り上げ、ミラクル(奇跡)と囃し立てる。
 総二郎とあきらはそんな一般大衆とは異なり、司の苦労も慮っていたが、それよりもそんな苦労を買って出てまで、円満な立て直しを選んだ司の施策の方に驚愕する。
 一人の女がここまでこの男を変えた。 
 自分の孤独に押し潰され、憤懣、哀しみ、寂しさを周囲に八つ当たりすることで晴らしていた男が、大きく成長し、称賛されるようにまでなったのだ。
 つくしなくして、この男の今はありえただろうか?
 その答えを二人は知っている。
 「お前が慈善事業にも力を入れてるって、聞いた時にはぶっ飛んだね」
 「…いまや、企業にはクリーンなイメージも重要だからな」
 「お前自身の個人資産も割り割いて、数多のNPO法人や有象無象の個人活動も支援しているんだって?」
 司はなんでもないように肩を竦める。
 「アメリカじゃあ普通だろ?名だたるスターや、セレブたちが率先して行ってる。実際、お前らだってやってんじゃねぇか」
 「まあな」
 「多少はな」
 海外ではハリウッドを初めとした有名人たちの間で、チャリティなどの社会貢献には積極的だ。
 “ノブレス・オブリージュ(社会的地位の高いものは、それに応じた社会的な義務も負うべき)”という考えが浸透し、むしろそういう方面に興味がない者たちは白眼視される。
 日本でも規模は異なるものの、著名人たちの間ではかなり浸透していて、ただ、海外セレブよりはメディアで取り上げられることが少なかった。
 道明寺司の慈善事業活動は、アメリカや海外のセレブたちの中でも群を抜いていて、それがまたヨーロッパでの信用を勝ち得る重要なファクターになったことは楓さえ無視しえない。
 「…つくしが熱心なんだよ。元々、活発な奴だから、邸でのんびり閉じこもってるってことができねぇ。
本当は道明寺の嫁修行だ、今回みたいなパーティの企画だ、進行だ、と多忙なんだが、少しもジッとしてねぇんだ」
 司の顔には、つくしへの限りない愛と、そんな妻への賞賛がある。
 その満ち足りた友の顔に、長年彼を心配し続けてきた親友二人はホッと息をつく。
 「お前のそんな顔を見ると、安心するよ」
 「相変わらず、おせっかいな奴だぜ、お前も」
 司の照れ隠しな言葉に、あきらが顔を顰めた。
 「俺だって、好きでお節介してまわってるわけじゃねっ!お前らが俺に面倒かけるからだろっ?」
 「おい、俺まで、司と十把一絡げかよ」
 「俺にとっちゃ、お前も司も似たようなもんだ。いつまでも、女から女に飛び回りやがって」
 聞き捨てならないとばかりに、司の方から肘を外した総二郎が、片腕を回してあきらを締め上げる。
 「ぐぇ、やめろ、ガキか」
 「よく言うぜ、自分が美女と婚約したからって、いきなり真面目顔か?数年前までのお前の行状を、桜子嬢に告げ口すっか?」
 「…なんだ、隠して結婚か?」
 「馬鹿言え!俺に秘密なんかねぇよ。…だいたいは、な」
 最後の一言に、一同が爆笑する。
 「ぶっ!言えねぇんじゃん、やっぱ」
 「アホか。だから、不潔な関係はやめておけって以前から言ってんだ」
 「不潔とはなんだ!俺のは総二郎と違ってずっと純愛だったのっ!つーか、ずっと一人の女で一つ穴なお前に言われちゃ、俺の立つ瀬がないだろっ。お前のは純情すぎんだっ」
 「まあ、司は確かに、一つ穴だあな。高校生の時から牧野一筋10年てか?」
 「10年…すげぇよなあ、改めて言うと。つーか、それまで他の女を見たこともねぇから、人生28年牧野だけっ!」
 すげえ、すげえと囃し立てる総二郎とあきらの方がよほど子供のようである。
 「いいんだよ。最高の女を手に入れて、他の雑魚ども見る必要がどこにある。それより、“牧野”って呼ぶのははやめろ。あいつはいま、“道明寺”なんだよっ」
 司の抗議に、総二郎とあきらが首を傾げる。
 「やめろって言ったってなあ。じゃあ、なんていうんだよ?」
 「つくし?」
 呼び捨てた総二郎の頭に、すかさず司の鉄拳が入る。
 「いてっ。それこそガキじゃねんだ、やめろっ。他に言い様はねぇだろうよ?今更道明寺夫人てか?」
 「それでいいだろ?」
 憤然と答える司にあきらが苦笑し、
 「おいおい、俺らは牧野を高校生の時から知ってるんだぜ?そりゃあ、そんなに親しかったわけじゃねぇけど、親友の女房に水臭い呼び名だろうよ、それじゃあ」
 「ん?そういえば、あきら、親友の女房で思い出したけど、桜子嬢は?」
 総二郎がキョロキョロと周囲を見回す。
 「ああ、どうせ遅くなるのがわかってたから、先帰らせた」
 「ほお?フェミニストなお前らしくねぇな。送ってやらないなんて、釣った魚にゃあ、餌やらねぇってか?」
 総二郎の与太に、あきらは肩を竦めて苦笑する。
 「なわけあっか。桜子が、いいって言ってくれたんだよ。皆さんでお会いするのは久しぶりなんですからってさ」
 「へえ、よくできた女だな。美人で気も利くってか?」
 感心する総二郎に、あきらがニヤリと笑う。
 「羨ましいか?」
 「いや、全然。俺はまだまだ一人の女に縛られるなんて、ごめんだからな。司といい、類といい、まさかお前までも…とはね」
 「類…か、そういえば、類はどうした?」
 司が眉根を寄せ、周囲を伺うと、総二郎も見回す。
 「ああ、そういえば、さっきから姿が見えねぇけど、類だからな。どうせ、どっかで寝てんだろ」
 「なんだよ?相変わらず、三年寝太郎か?」
 「…まあな。一応、この後、俺んちで飲みなおす話はしてあるし、うちの車が桜子送って戻ってくるのを待つ話はしてあっから、帰ってはいねぇだろ?お前もうちに来るだろ?」
 あきらの問いかけに、司が考え込む様にすると、総二郎が後ろから司に抱き付いて、顔を覗き込む。
 「んだよっ!行こうぜ。F4全員集合なんて、何年ぶりだよっ!女房持ってから、お見限りすぎんじゃねぇの?」
 「と、いうか、牧野も連れて来いよ」
 言われて、司が首を振る。
 「いや、つくしは無理だろ。あいつ、夜に戒を一人にするのを極力嫌がるから。どうしても仕方がない時は諦めてるが、それ以外は、家を空けたがらねぇな」
 「ふうん。お前ん時とは真逆だな」
 司の幼少時を知る幼馴染みの感嘆に、司が微笑む。
 「お前ら、このまま、俺の邸で呑めばいいじゃねぇか?」
 「…いや、鉄の女と同じ屋根の下じゃあさすがになあ」
 「ああ、また脳みそ溶けるって言われそうだしな」
 あきらと顔を見合わせ、愚痴る総二郎の言葉で、一同の脳裏に、まだ少年の日のことが蘇る。
 『司さん、いつまでもこんなお友達と遊んでいたら、のーみそくさってとけますよ』
 大人になってもそんなことを言われるとも思えなかったけれど、けっこう強烈なあの言葉は忘れられない。
 「…類の奴もな、変わらねぇつーたら変わらねぇんだけど、こうまで変わったお前を見てると、なんかな」
 ポツリと呟いたあきらを司が見返す。
 「なんだ?」
 「いや、一人の女に執心…つうたら、ある意味類もそうだったからさ」
 歯切れの悪いあきらに、総二郎とあきらが、ああ、と頷く。
 「静、いま、どうしてんだ?」
 「知らねぇーの?司」
 「まあな。高校ん時、藤堂の家出て弁護士になるって聞いて以来か。噂には多少聞いてるけど、フランスでバリバリやってるんだろ?」
 「ああ、念願の国際弁護士ってやつだな」
 「相変わらず見事な女だよな」
 静ほど完璧な女を彼らは知らない。
 美貌、才能、家柄、他人が羨むすべての物を持ちながら、それらすべてを容易に捨て去り、あえて茨の道を選び成し遂げた女。
 その女を愛し続け、ついには置いて行かれてしまった類。
 類が執着したのも、気にしたのも後にも先にも静ただ一人だ。
 …本当に?
 もう一人だけ、類が気にかけた人間がいた。
 静のような存在ではなかっただろうけれど、類が心を揺らし、信じられないことに手を差し伸べた人間が。
 だが、その名前を、この場で誰も口にすることはできなかった。
 それを口にすれば、司の欺瞞を、司の10年を否定することになる。
 「…類とはこの10年、ほとんど没交渉みたいだな」
 「ああ。おそらく静にはそんなつもりはなかったんだろうけど、類が受け付けないらしい」
 「なんだよ、お前ら静と連絡とりあってるのか?」
 司の問いに、総二郎とあきらが顔を見合わせ、
 「…俺は、けっこうヨーロッパの方にも回ってるからな。それでも一年に数度くらいか?総二郎?」
 「俺は2年前に会ったきりか。女で訴訟になったら幼馴染の誼で弁護してやるって、言われたぜ」
 小さな笑いが一同を和ませる。
 「あっちで知り合った弁護士仲間と結婚して、今は子供もいる。俺らにも結婚式の招待状届いたんだから、お前んとこにだってきてただろ?出席はしてなかったが」
 「ああ、そう言えばそうだったか。俺もこの10年、かなり激動の10年で、とてもじゃないが他人のことどころじゃなかったからな」
 あきらの言葉に、浮かんだ笑みが、そっと溜息に変わった。
 「それもそうか。ま、そんなこんなで、みんな結構、いろいろ変遷あんだから、久しぶりに呑もうぜ。こんな機会、そうそうないだろ?お前だっていつまで日本にいるのかわかんねぇだろうし、あきらや類だって、ご同様」
 「いつまでも変わんねぇのは、お前だけってか?総二郎」
 「ぬかせ。こっちもいろいろ忙しいんだよ。ただ、日本が本拠地ってだけだぜ。来いよ、司」
 迷ったものの、司がかぶりを振る。
 「わりぃ。今日はやめとくわ。すぐに帰んだろうが、まだこっちにババアがいるしな。俺がいねぇ間に、
つくしにいちゃもんつけるかもしれねぇ」
 いかにもな司の愛妻家ぶりな言葉に、二人が苦笑しつつ頷く。
 「そうか…まあ、しょうがねぇな。次は絶対に付き合えよ。しかし、類のヤロウ、寝こけて出てこねぇつもりじゃねぇだろうな」
 時計を見だした総二郎を見るともなしに見て、そういえば、つくしも出て行ったままずいぶん戻ってこない。
 あとでね、と言っていたのだから、司に黙って母屋に戻っているとは思えず、司も気になりだす。
 類…。
 自分でも、おかしな疑いだとわかっている。
 この10年、二人…類とつくしの間にはまったくの接触がなかったことは、司も十分承知している。
 それ以前に、元々つくしが類に片思いをしていただけで、類はつくしに対してそういう感情をもっていたわけではない。
 ましてや、そのことさえも、今のつくしの中には存在しない記憶だ。
 ありえない。
 だというのに、いつも司は不安だった。
 この生活が、この日々が、まやかしであっという間に消え失せる幻のなのだとでもいうように。
 つくしが司と結婚していながら、類とどうこうなるような女ではないことは嫌というほどにわかっている。
 なのに、類とつくしが一緒の空間で同じ空気を吸っていると言うだけで、暗闇に落ちてゆくような不安と焼けつくような嫉妬に、司は叫び出したくなった。
 「…ちょっと、見てくる」
 司が業を煮やして、歩き出そうと体の向きを変えようとしたその時…。
 「お、類」
 「あれ?牧野も一緒だったんか?」
 広間に戻ってきた類のすぐ後ろ、まるで連れ立つように立つつくしの姿に、司の胸が大きくさざめきだった。




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