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「愛してる、そばにいて」
第1章 泡沫に沈む月①

愛してる、そばにいて0012

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 司の東京本社副社長就任パーティは二部構成になっていて、前座ともいえる前半は主に軽微な立場にいる者、会社的にも小規模の経営者などが、そして後半の二部目は知る人ぞ知る政経済界の重鎮、大立て者たちなどの顔ぶれが居並んでいた。
 その後半部に招待された紳士淑女たちは、さすがに堂に入った佇まいで、俄仕込みのエグゼクティブであるつくしなどでは、容易に太刀打ちできない。
 そうは言っても、この道明寺財閥の次期総帥である道明寺司の妻として、滞りなく招待客を接待し、財閥の繁栄と安泰を見せつけなければならなかった。 
 そして、長らくこの巨大財閥の中枢を担い、取り仕切ってきた姑の楓の姿がないのは、つくしにとって幸いだったか、それとも荷のかちすぎる役割を負わされた禍だったというべきか。
 楓は…パーティの数日前には日本に帰国する予定だった楓は結局、激務に忙殺され、本日のパーティに出席する旨はそのままに、まだ姿を現していない。
 そのことがかえって、自分の不手際を後で指摘され叱咤されるのではないかというつくしの不安を増長させた。
 いまのところ目立って困った不備は発生していない。
 だが…。
 一通り、集まった招待客を見回し、つくしは軽い溜息を零す。
 先ほども、誘導役の接待係の一人が誤って、本来とは違う席へと招待客を案内し、運が悪いことに対立派閥同士を隣に座らせそうになって、あわや険悪な雰囲気に…となるところだった。
 すぐに気が付いたつくしが、別の席へと案内し、接待したことで事なきを得たが、些細な失敗の積み重ねがパーティでの失敗に繋がる。
 前半の立食式での時よりも体力的には楽だったが、心理的気疲れという分ではその数倍もつくしの負担が大きい。
 先ほど檀上挨拶を済ませた司が、つくしの横に並び、つくしの労をねぎらう。
 「大丈夫か?」
 「…うん、ありがとう。なんとか、滞りなく進んでる?」
 「ああ、おかげでな。いつもながら、お前には苦労かけるよ」
 司の優しい言葉が、気遣いが、つくしの疲れを拭い去り、不安を励ます。
 いつでも、自分の振る舞いが、采配が咎められるのではないか、やはり庶民出の女は…と自分ばかりか司までもが白い眼で見られるのではないかという不安に苛まれ、つくしの苦しみの大半は自分のことではなく、司を思うが故。
 それを知られたくないと思いつつ、十二分に思いやってくれる夫の気遣いがやはりこの上なく心強く、嬉しい。
 一通り、来賓の挨拶が終わり、とりあえずは無礼講の会食へと移行し、その間に司とつくしの夫婦が各テーブルに挨拶へ向かうことになっている。
 内心どうしても出てしまう溜息を抑え、差し出された腕をとると、司が心配そうに見下ろしていた。
 「…無理すんな。まだ日本に戻って1週間しかたってねぇんだ。その間も、挨拶回りやら、挨拶に来る連中の接待やらで、お前も相当無理してるだろ?」
 「でも、あんたの方がよほど無理してるでしょ?ここのところ、連日真夜中の帰宅で、朝も早いし。それに比べたら、お邸でのんびりさせてもらっている私は全然大丈夫」
 …それに、司はともかく、誰も彼もがつくしの失敗を固唾を飲んで待ち構えている。
 少しでも粗はないか、少しでもつくしの化けの皮を剥ぐことはできないか、と。
 なんだかんだと、序列の上から挨拶を順番に済ませ、気が付けばもう21時を回っている。
 後半部のパーティまでの間に様子を邸に見に戻りたいと思っていたが、なんだかんだと雑事に忙殺され、昼に一度、昼寝する戒の寝顔を見たっきり、子供の様子は見ておらず、そろそろ戒の就寝時間を過ぎた頃だ。
 もう、一人で寝ることもできるようになったけれど、毎日、つくしが絵本を読まないとグズることも多い。
 今日の状況はあらかじめ予定していたので、昨日のうちにかなり言い聞かせておきはしたが。
 戒のことを気にして挨拶がおざなりになっている自分に気が付き、改めて笑顔を貼り付け、自分にカツを入れる。
 と、トンと組んだ手を優しく叩かれ、つくしが顔をあげると、司が目で会場の入り口へと視線を促がした。
 やっと見慣れた邸のメイドの一人が、つくしたちの視線に気が付き、パーティ会場に浮かない程度のよそ行きの姿で入り口付近から会釈を向けてくる。
 戒に何事かあったのかと気にするつくしに、司が耳打ちした。
 「…ちょっと行って来いよ。次のテーブルにいるおっさん方は話がなげぇから、適当に引き延ばしておくから」
 挨拶初めに自分がいないことに躊躇しつつ、確かに気にして上の空になっていたら本末転倒だ。
 つくしは「ごめん、じゃあ、ちょっと」と言って、次の席へと向かう司の傍を離れ、足早に入口へと急いだ。
 足早といっても、どうしても自分は注目を浴びているので、招待客に不審を招かない程度の足取りだ。
 急く気持ちとは裏腹に、ところどころで声をかけられ、笑顔で応対する。
 やっとの思いで入り口にたどり着くと、促がされ外へと出た。
 「…あ」
 腰の曲がった老婆に連れられた戒が柱の影から走り寄ってくる。
 「お母さん!」
 驚いて、見返すつくしにタマがゆっくりと頷いて、微笑む。
 「今日は一日、お母様にほとんどお会いできなくて、戒坊ちゃんが寂しがって寝るのを嫌がってらっしゃったのでね」
 普段、自分でも自覚するほどにかなり戒を甘やかしていた。
 もちろん、道明寺の跡取りとして何でもかんでも言う通りにするような間違った甘やかし方をしているつもりはなかったが、スキンシップやいつも傍にいてあげること、話をできるだけ聞いてあげること、できる限り戒に寂しい思いをさせないことを心掛けてきた。
 結果…かなり戒はつくしにべったりで、なるべく傍に纏わりつきたがった。
 つくし的には、まだ戒は4才…それも別に奇異なこととは思えない。
 ましてや、確かに戒は他所の子供達よりも物質的にはしてもらえることが多かったけれど、制約や努力しなければならないことも多い。
 また、母親のつくしだとて立場上家を空けることも珍しくなく、今のように我慢しなければならないことも度々あった。
 司も自分の幼少時の寂しさを振り返り、そんなつくしの教育方針を支持してくれていた。
 だが、皆が皆、そんなつくしの母親としての姿勢を支持してくれるわけではない。
 しかし、抱き合うつくしと戒を見守るタマの顔はどこまでも温かく、否定的ではなかった。
 つくしにも平気でピシャリと厳しいことを言う老女だったが、タマからは悪意や白眼視を感じたことがなく、甘い言葉ではないが、真心がいつもある。
 「少し顔を見るくらいいいでしょう。まだ4才なんだからね。十分、坊ちゃんはいい子にしてましたよ」
 「…タマさん」
 「お母さん、今日、すごく綺麗」
 つくしに抱き付いたまま、見上げる息子の顔にはお世辞ではない賞賛がある。
 おもねりでも諂いでもない素直な心。
 …もしかしたら、司に言われるより嬉しいかも。
 夫に聞かれたら、憤慨されそうなことを思いながら、つくしがニッコリ笑う。
 「ありがとう、嬉しい。今日一日、いい子でいられたんだって?」
 「うんっ!俺、もうすぐ5才だもん。留守番くらい平気!」
 自分でも矛盾していることを言ったことに気が付いたのか、気まずそうに上目遣いでつくしを見上げて言い訳をする。
 「…まだ、眠たくなかっただけで、もう寝ようと思ってたんだよっ。タマがかってに寂しがってるとか、勘違いしたんだ」
 そんな戒を抱き上げ、鼻をキュッとツマむ。
 「意地っ張り。お父さんそっくり」
 「いひゃい…」
 そんな息子の頬にチュッとキスを一つ落として、
 「今度こそ、ちゃんと寝るんだよ?タマさんや、他の皆さんに我儘言っちゃダメだぞ」
 「…うん、大丈夫。お母さんも頑張って」
 母親のこの綺麗な格好が、彼女の大事な仕事の一部だと聡い子供はよくわかっている。
 そんな幼い子供の気遣いが涙がでるほどに嬉しくて、頑張ろう…、新たにつくしの気持ちを支える力となる。
 「おやすみ、戒」
 つくしが戒を下ろすと、タタタタッと、タマの傍らに走り寄ってその手を握った。
 そして、会釈して踵を返すタマに手を引かれ、戒がバイバイと手を振ってくる。
 それに手を振り返し、つくしは老婆とメイドに深く腰を折る。
 「戒をよろしくよろしくお願いします」
 上流階級の奥方らしくないと誰に言われようと、つくしの一番の宝物を慈しみ、守ってくれる人たちへの感謝の気持ちを惜しみたくない。
 三人をそっと見送り、つくしはグッと拳に力を入れ、さっきとは違う気持ちで再び戦場へと戻った。
 
 
 「…戒、大丈夫だったか?」
 何食わぬ顔で話していた相手に、司がつくしを紹介し、ひとしきり雑談を済ませると、2人は次のテーブルへと向かう。
 囁かれた顔に、笑顔で返して大きく頷く。
 「うん。知ってたの?」
 「いや、お前心配してたからな。晴れ晴れした顔して戻ってくりゃ、そうかなってな」
 相変わらず司はつくしのことをよく見ている。
 それを嬉しく思いながら、つくしは司の腕をギュっと握った。
 司と戒…この二人がいれば、自分はどこでも生きてゆける。
 たとえどんな辛いことがあったって、どんな過去があったって、自分は笑顔で立ち向かっていけるだろう。
 「次のテーブルは、俺のダチ」
 「え?ああ、美作さんたち?」
 「そ。あきら、昨日帰国したってよ。噂の婚約者ってやつも連れてきてるから会えるぜ」
 「そうなんだ」
 一応つくしもパーティの出席者の名前は把握している。
 あまり興味はなかったけれど、司の親友であるあきらとはこの先も立場上、何かと付き合う必然性がでてくるはずだ。
 学生時代とは違うとは言っても、幼馴染みである彼らにつくしが冷たいのでは、あまりに司に申し訳なさすぎる。
 ましてや、自分は憶えていなかったが、それなりにつくし自身も知人であったというのだ。
 「総二郎もいるし…類も来てる」
 一拍置いて言われた名前にも淡泊に頷くが、つくしはふとジッと自分を不思議な色を含んだ視線で見下ろしてくる司に気が付き、不審に見返す。
 「なに?」
 「…いや、なんでもねぇ」
 司のそんな不審な行動に…実は、以前からつくしは気が付いていて、決まって司がそういった態度をとる時、決まった名前が関係している。
 花沢類。
 あきらと同じく、司の幼馴染みで親友。
 F4と学生時代に呼ばれていた花沢物産の御曹司。
 つくしにとってはそれだけの感慨しかない人物だったが、司はなぜいつも彼をそんなに意識し、つくしの反応を伺うのだろう。
 皆に聞いてみても、別につくしと特別な関係にあったわけでなく、ただ単純に夫の親友…それだけの関係の相手だったはずだ。
 その証拠に、つくしが司と共に日本を離れ、10年の夫婦生活を過ごした間に、一度の接触もない。
 日本にいた当時、一度くらいは顔を合わせたこともあるはずだが、不思議なほど、花沢類に関して、つくしは記憶に残っていなかった。
 つくしが記憶をなくした当時、日本道明寺邸に何度か見舞いに来てくれた総二郎やあきらとは異なり、類は一度か二度顔を合わせたっきり。
 それも個人的な会話は皆無。
 当時の記憶があいまいなつくしにしてみれば、なおいっそう印象に残るはずがなかった。
 ただ、不思議そうな視線を向けてきていたな、とは思う。
 思い返せば、という程度だったが、妙に同情的で傷ましく後ろめたそうな目でつくしを見ていた総二郎やあきらとはまた違った視線で自分を見ていた。
 そう、いうなればまさに不思議そう…それが一番の当てはまる言葉な気がする。
 「おっ、司っ!」 
 「主役のご登場か」
 艶やかな男たちの明るい声に、つくしがハッと我に返る。
 煌びやかなパーティ会場でも一際、華やかな一角。 
 総二郎とあきら、見慣れぬ美女と共に、興味なさそうに冷たい美貌の青年が座っていた。
 視線と視線が合う。
 一瞬のデ・ジャブ。


 『かわいいじゃん』
 一晩かぎりの夢…。 




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