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「愛してる、そばにいて」
第1章 泡沫に沈む月①

愛してる、そばにいて0009

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 つくしと戒がなんとか、牧野の家族と一緒にいることに馴染み、ぎこちないながらも会話が弾む様になってきた頃。
 司は社から入ってきた連絡で、急遽会社に直行することとなり、牧野家からそのまま出社していった。
 つくしも一緒に出るつもりだったのだが、さすがに10年ぶりの実家。
 千恵子に引き留められると、記憶がないながらも実母だと言う思いから無碍にもできず、宿泊までは断ったものの、もうしばらくは滞在することとあいなった。
 進の連れてきた恋人のひなは、幼稚園の先生という仕事柄もあって、とても子供好きで子供慣れしていた。
 人見知りな戒もあっという間に、進やひなに馴染み、
 「戒君」
 「進くんとひなちゃん」
 と、呼び合う間柄になっていた。
 最初、
 「進とひな」
 と呼び捨てにしようというので、いくらなんでも叔父さんと、将来叔母さんになるかもしれない人に、その呼び方はないだろうとつくしが拳骨を落とすと、不承不承、なんとか「進くん、ひなちゃん」に落ち着いた。
 人見知りが激しく、見た目が天使のように愛くるしいので誤解されることも多かったが、やはり戒は司の息子。
 司によく似て偉そうで、我の強い生意気な子供だった。
 司と異なるのは、つくしの教育とかなり手荒な薫陶の甲斐もあって、凶暴ではないし、司よりずっと素直な甘えっ子。
 お母さんが大好き、お父さんが大好き、メイドのマリアが大好き、番犬のトニーが大好きと、好きな人や生き物、物がたくさんある。
 たぶん…司が愛情をふんだんに与えられて育てば、こんなふうになるのだろう、そんな想像が容易なほどによく似ている戒。
 容姿的に言えば、確かに司にかなり似ていたが、表情の作り方や生き生きとした大きな目はつくしによく似ていて、両親の良いところだけをとったような息子だった。
 お天気も良いので公園に行きたい…ヨーロッパから日本という長旅の疲れも見せず、戒がダダをこねだすので、進とひなが快く戒のお守をかってでてくれた。
 当然SPつきでもあるので、二人が同行しなくても行けないわけではなかったが、戒にとってはおそらく公園にゆくことより、好きになった二人と遊びたい気持ちが強かったのだろう。
 戒にとってSPは、身に着ける洋服のように人というよりもごく日常的な自分の身にまとう一部であって、愛情を交し合う肉親とは雲泥の違いがあった。
 長く、そばを離れていた娘が気になって、気になって…だが、ぎこちない空気に耐え兼ねた晴男が、孫と息子、その恋人につきあい公園へと同行した。
 必然、取り残される形となったつくしと、引き留めたとうの千恵子がダイニングのテーブルで向い合う。
 道明寺邸の豪華なダイニングとは比べるべくもないが、ほどほどに立派で、こじんまりとしたそれらの家具に小さな違和感を覚えながらも、それでも今は自宅であるはずの豪邸よりも遥かに落ち着く。
 二人、湯呑の熱い日本茶をすすりながらも、母子だと言うのに会話が続かない。
 それでも、千恵子はつくしと共にいたいのか、席を立とうとはしなかった。
 つくしにしてみれば、戒についてゆきたかった気持ちが強かったが、さすがに10年ぶりに会う千恵子に対して、逃げる様に家を出るのでは不義理にすぎるだろう。
 落ち着かない気分を堪えながら、つくしは緑色の茶に浮かぶ茶柱を眺めながら、内心溜息をつく。
 「あ…」
 千恵子の唐突にあげた声に、つくしは顔を上げる。
 つくしと同じく、茶碗を無言で覗き込んでいた千恵子が、ポカンと口をあけ、子供のような顔でマジマジと中を見つめていた。
 「…茶柱が立ってる」
 「え?」
 「あ」
 思わず顔をあげるとつくしとバチッと目が合い、怖気たように千恵子が仰け反る。
 その珍妙な表情につくしがプッと噴き出すと、目をぱちくりさせた千恵子もクスクス笑いを洩らした。
 「それはすごいね。私、茶柱がたったところなんて、ほとんど見たことないよ」
 「でしょ~?ママ、けっこうこれで運がいいのよ」
 一気に緊張感が解け、慕わしげな空気が二人の間を流れる。
 …記憶になくても、何年も会わなくても、その血縁を明確に表すそっくりな顔立ちに浮かぶ表情が、千恵子の目に浮かぶ愛しげな視線が、2人が親子なのだと証明しているではないか。
 「お母さん」
 自然に、言葉が零れた。
 「…つくし」
 千恵子の声はわずかに潤み、震えていたのは気のせいではない。
 「お母さん、ただいま」
 「おかえり。よく、帰ってきたわね」
 久しぶりに言葉を交し合った親子の会話はそっけなく、だが親身に満ちた愛しげなものだった。


 小さな頃のアルバムを千恵子に見せられながら、これは幼稚園の入学式、これは小学校の遠足…と説明を受ける。
 そのたびに、不思議に懐かしい感慨がこみあげてきて、新鮮な驚きと、それら大切な思い出の全てを憶えていない寂しさが湧き上がり、少しだけセンチメンタルな気分にしんみりとしてしまう。
 「…これが、英徳にあんたが入学した時の写真」
 おさげ髪の彼女が緊張した顔で、父と母、弟と4人で英徳学園の門の前で映っている。
 横に写る通行中の高級車が、一家の素朴な雰囲気にひどく違和感を与えた。
 「ホント、あんたが英徳に入学した時は嬉しかった。鼻が高かった」
 その声音の響きの中に、つくしもお馴染の虚栄心の響きが含まれていて、ほんの少したじろぐ思いもしたが、それよりも、その入学式の写真を最後に、自分の学校での写真がないことに不審な思いが湧き上がる。
 「…ねえ?なんで、これ以後の写真がないの?」 
 パラパラと以後のページをめくると、家族での写真はあるのに、不思議に家や、出かけた先での写真ばかりで学校や友達の写真がない。
 中学時代の写真には、友人に囲まれて笑う制服姿の自分や、修学旅行や遠足と思しきやはり友達と笑いあう写真がたくさんある。
 なのに、高校時代にはそんな写真が一枚もないのだ。
 「…ああ、そうね。あんた、ちょっと学校に馴染めてなかったから」
 「馴染めてない?」
 「ええ、お金持ちの子がほとんどの学校だったからね。あまり友達がいなかったみたいで、学校外でも中学の時の友達と遊んだりすることはあったみたいだったんだけど…」
 言葉を濁す千恵子の言葉に、そういえば、と思い当たる。
 つくしは高校2年生を最後に、記憶喪失になったり、司と学生結婚をしたりで、結局まともに学校に通っていない。
 記憶がある範囲では、たぶん一度もこの英徳とやらいう高校には通ってなかった。
 それでも一応高卒の履歴を持っているのは、道明寺家が裏から手を回したからだ。
 教育に関しては、道明寺の嫁として恥ずかしくないようにと、かなり厳しく教育を施されている。
 つくしを認めていない楓にしても、事実として司と結婚している以上、つくしを無教養のままに放置できなかったのだ。
 結果…かなり過酷ともいえる英才教育を施され、ニューヨークでの3年は、つくしを消耗させもしたが実を付けさせもした。
 感謝しているというには、辛い数年間だったが、いまになってみれば、確かに司の横に立つ妻という立場としては必要な時間だったのだと思う。
 以前ほどではないが、今も毎日が勉強であり、それ相応の教師もつけてもらって日々、つくしは勉強していた。
 「…司は?」
 「え?」
 「司とは友達…というか、お付き合いがあったんでしょ?」
 司の名前に千恵子の顔が輝きだす。
 千恵子の自慢、千恵子の誇り、そしていまのこの何不自由ない生活の基盤である娘の婿。
 千恵子の司を褒めそやす言葉の中身には、司自身の人格のことよりも、司の財力、地位、家柄に対する強烈な自負とおもねりがある。
 それはごく珍しくないことだったが、その言葉を吐くのが自分の母親だと言うのが、つくしには少し切ない。
 傲慢で他人の気持ちを蔑ろにする部分も確かにあったが、司はそれだけの男ではなかった。
 財産や地位、家柄、その卓越した美貌だけの男であったなら、自分はけっして司を愛しはしなかっただろう。
 そんな表向きの部分だけの人間でなかったからこそ、かつての自分は彼を選んだに違いない。
 「司と私、高校の時にも仲が良かった?」
 もう、ラブラブよ~、意外にミーハーなところがあるらしいこの母なら、そんな風に言いそうだ。
 苦笑の準備をしていたつくしは、微妙な顔で困った様に微笑む千恵子の顔に、眉根を寄せた。
 「…えっと、喧嘩ばかりしてた?もしかして」
 「ええ、そうね。その…けっこう、邪険だったかな、あんたは。恐れ多いことだけどね」
 邪険…まあ、いまでもやたらとベタついて、人前でもところ構わずいちゃついてくる司にかなり手荒いマネをすることはある。
 それでも、困ったな…とは思っても、内心では司を嫌がるどころか、そうまで自分を思って愛してくれる司を嬉しくも思っていた。
 …昔からなんだ、私の意地っ張りって。素直じゃないのは筋金入り?
 「…あんたはかなり拒絶反応起こしてたから、正直無理かな…とも思ってたんだけどね」
 「え?」
 不審げに聞き返したつくしに、焦った様に千恵子は両手をふり、自分の言葉を取り消そうとする。
 「いや、昔の話!そう、もう化石みたいに遥か昔の話よっ!あんたは憶えてないだろうけどね、昔あんたが風邪で寝込んだ時、当時住んでたえらく狭くて汚い社宅にも、わざわざ道明寺さん、訪ねていらっしゃってね。うちのご飯なんて、庶民的な物食べたこともないだろうに、美味しいって残さず食べてくださったのよ!もう、ママったら感激したわあ、あの時は」
 まったく憶えていないことながら、どこか空々しい千恵子の顔を見ながら、在りし日の二人の様子をうかがい知る。
 「司と私って、どうやって知り合ったんだろ」
 「ん?そりゃあ、学校ででしょ?」
 「まあ、そうだろうけど。うちって、普通の庶民なのよね?」
 問われている意味がわからないのか、千恵子が首を傾げる。
 「司なんて、庶民っていう家からかけ離れた家の御曹司なのよ?その私と司の接点が、学校って不思議な気がする。いくら同じ高校を通ったって言っても、司は私より一学年上だし、同じクラスになることもないし…接点がね」
 母なら何か聞いているだろうと、聞いてみるが、千恵子はやはり困った顔で曖昧に頷くばかり。
 記憶を無くした頃は、自分もパニックでかなり落ち込んでいて、司と自分のことを聞くどころか、母や父に対しても拒絶的な態度で接してしまい、とてもじゃないけれど込入った会話をするどころではなかった。
 知らない人たちだったのだ。
 だが、この10年の間の、司からの献身的な愛情がつくしの不安を宥め、心を癒し、見知らぬ母親とこうして穏やかに話せるほどに回復させた。
 そこまで愛してくれて、大切にしてくれている司との出会いを知らないなんて…つくしはそれがとても哀しく、寂しかった。
 何も思い出せないにせよ、せめて、司との思い出の一部でも知ることができれば。
 「ねえ、ママ。私、どうして記憶をなくしたの?婚約するほどに付き合いが進んでいたはずなのに、どうして私のことを道明寺家の人たちは誰も知らなかったの?なぜ、司は何も話してくれないのっ!?」
 「…昔はどうあれ、今はあんたは、道明寺さんに贅沢させてもらって、大切にされてるんでしょ?」
 贅沢…。
 つくしは息を呑み、だが、諦めたように曖昧に微笑む。
 それはそのとおりなのだが、贅沢をさせてもらってる=大切にされていると肯定するのは、司に対する冒涜であり、自分たちの愛情を邪にみられているようで、それが実母からの言葉であることが疎ましかったのだ。
 唐突に、この人も老けたな…とつくしは思う。
 つくしの記憶が始まった日から10年…それだけの時がたったということだろう。
 両親のちぐはぐな外見ばかりに目が行き、時の変化が運ぶ、二人の老いに気が付かなかった。
 だが、一貫して当時から変わらないこともある。
 「絶対に、あんたは今のままで幸せなんだから。思い出しても仕方ない昔のことなんて、ほっておきなさい。よけいな
詮索はしないの」
 母の言葉が、染みのように心に焼き付いて、小さな疑惑をつくしの胸の残す。
 …司との関係を道明寺家に反対されて、流産したショックで記憶をなくしたんでしょ?
 それなのに、どうして司も、両親も、真綿に包む様に私を囲い込み、何も教えてくれないの?
 たとえ自分のことを思ってのことにしろ、自分は子供じゃない。
 悔しい思いに、つくしは思わず唇を噛みしめ、俯く。
 だが、ふと浮かんだ考えにつくしは背筋を粟立たせ、その考えを即座に振り払う。
 …その囲いはつくしを守るためのものではなく、もしかして、つくしをけっして逃さぬための檻なのかもしれない。




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