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「愛してる、そばにいて」
第10章 贖う⑤

愛してる、そばにいて1017

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 和気藹々とは言えないが、それでもホテル側の用意した車に乗り込み、一息つくと先ほどの諍いにもならないあれこれの気まずさはだいぶほとんどなくなっていた。
 いつまでも引きずっていても仕方がない。
 つくしに関しては自分は嫉妬深い男だと、開き直られてしまっては、つくしとしてもどうしようもなかったから。
 …たぶん普通は、司にそこまで言ってもらえたら、逆にうっとりしちゃうんだろうな。
 女は熱烈に自分を愛してくれる男性を一度は夢見るものだ。
 しかも、司のような男にそこまで言われては女冥利に尽きるだろう。
 実際に、そうして男性に愛情を示されて、戸惑わずにはいられないかと言えば別の話なのだが。
 「なんだよ、まだ怒ってるのか?」
 「え?……ん~、別に怒ってないよ」
 まだ、と言われたが、最初から最後まで、戸惑っていただけで、つくしとして怒っていたつもり自体がない。
 バツが悪そうなところからして、むしろこだわっているのは司の方だ。
 そうした様子を見てしまえば、逆に怒ることなどできるはずもない。
 「腕、痛ぇ?」
 「あぁ、大丈夫、大丈夫」
 たしかに真っ赤な手形はついてしまっていたが、そこは司も多少なり気を使っていたのだろう。
 鬱血するほどではなかった。
 「でも、ハァ………、ミス・チャーチルになんて言おう」
 「なんだよ?家庭教師には俺から連絡して、後日に変更させたって言ったろ?」
 「……そりゃそうなんだけどね」
 本来なら、司とは別々の車に乗って、朝一の授業にはつくしも屋敷に帰りついている予定だった。
 しかし、予定していた送迎の車が事故に巻き込まれたとかで、幸いどちらの車にも被害はでなかったが、現在、秘書に西田とともに道中足止めをくらってしまっているらしい。 ホテル側と交渉して代車を用意させたが、仕様等の問題でとりあえず道明寺財閥御曹司夫妻が乗るに耐える高級車を一台しか用立てることができなかったからとかで、司と同乗して会社経由で屋敷に帰宅することに。
 おかげで朝一の授業はキャンセルせざるえず。
 「家庭教師はあくまでもこっちが雇ってんだ。雇い主のお前が、たかが一度授業をキャンセルしたくらいで気に病んでどうする?第一、お前がイヤならドンドン合うヤツに当たるまで変えればいい話なんだし、なに遠慮してんだよ?」
 「うーん」
 司の言うとおりなのかもしれなかったが、教えを乞う身としてはどうしてもそういう考え方はつくしにはできなかった。
 「会社寄るついでに、俺の部屋見てくか?夜じゃねぇけど、そこらの展望台行くより、よほど遠くまで見えるぜ?」
 「いやいやいや」
 たしかにめったに『イイ』ということがない司が言うくらいだ。
 一望の価値はあるのに違いなかったが、司はあくまでも仕事に行くのであって、いくら経営者一族に連なる身分とはいえ、会社と無関係な自分がおいそれと就業時間中の社屋をウロついていていいはずがない。
 …私だけだったら、別に普通のレンタカーか、タクシーで十分だし、どうせ授業を休まなきゃならないなら、ホテルで時間を潰して送迎車が来るのを待っていてもいいんだけどな。
 しかし、司は基本、つくしだけで外出させるのをあまり好んでいないのをつくしも承知していた。
 もちろんあらかさまにそうしたエゴを表には出さなかったし、SPを連れて歩けば好きに買い物なり気晴らしに出かけても構わないと言われてはいたが。
 どちらにせよ、道明寺家の事情的にも、彼女を表に出したくないのが、彼の実家の意向であることもわかっている。
 「ま、しょうがないことだし、諦めるから気にしないで。それより司は車の中でもやることあるんでしょ?」
 「別に、お前と雑談するくらい片手間で出来るからかまわないぜ?」
 そうは言っても、彼女が話しかければどうしても、手元の小型ノートパソコンから視線を外してチラリとでも彼女に視線を向けてくれているし、足止めを食らっている西田の不在で、いつもはスケジュールに確認や出社前に事前の打ち合わせも済ませられるだろうことができずに、司もいつもとは買ってが違って滞ってしまっていることもあるだろう。 
 小さく曖昧に笑んで、特に否とも応とも答えず、つくしはパソコンに見入っている司から視線を外して、車の窓から流れてゆく外の景色へと顔を横向ける。
 それで司も特に何を彼女に話しかけるではなかったから、やはり正直なところ彼女が黙っていた方が仕事に集中できて都合がよかったに違いない。
 …大変だな。
 本当にそう思う。
 司はたびたび、激務の自分がつくしをかまってやれないことを気に病んでくれているが、彼がどれだけ頑張っているのか、同じ年頃の青年が成し得ぬことに立ち向かっているのか、ごく身近で見ているだけに、そんな不満を持つこともできなかった。
 もちろん寂しさは否めないし、彼以外の身内がこのニューヨークに、いやある意味、この世に誰もいないのだから、ふっと孤独感や閉塞感を感じることもあったけれど。
 …ワガママなんてとても言えないよ。
 たくさんの誰かと繋がっていたい。
 ―――知り合いたい。
 もっと広い世界を見て、自分の可能性を試してみたい。
 誰かと一緒にいたい。 
 司と普通の夫婦のように、もっとたわいない話をして笑い合って、互いを労わり合い、彼の役に立ちたい。
 司の妻としての自分の存在意義をたしかめたい。
 今の生活に満足したかった。
 そして、時々は、恋人同士のようにデートして、日々の大変さを慰撫しあって、明日の英気を養う。
 …でも、全部しょうがないことだよ。
 司はそうしたことを普通とできる普通の男ではないのだから。
 そして、自分はそういう男である司の妻なのだから。
 道明寺司の若夫人。
 名前のないそんな称号が、今の彼女の立場であり呼称だった―――たとえ司以外の道明寺家の誰一人として認めてはくれていなかったにしても。
 いや、司の姉の椿は歓迎してくれていたか。
 あの司に似て美しくもパワフルな女性を思い浮かべると明るい気持ちになれる。
 …またお義姉さんとおしゃべりしたいなぁ。
 やたらと買い物好きで、つくしにあれこれと司以上に買い与えたがるのは閉口してしまうが。
 そういえば、先日もどうしてもバイオリンが上手くならずに音楽の教師に叱られてしまう話を彼女にした時に、バイオリンのサイズが合わないのでないかと心配されて、オーダーメイドで作ってあげると提案されてしまった。
 『別にプロになるわけじゃなくって、教養の範囲なんだから別にフルサイズにこだわらなくてもいいじゃない?楽に弾けるならそれに越したことはないし、叱られて弾くなんてストレスもいいところだわよ』
と。 
 そういう椿はバイオリンどころかピアノやフルートも卒なくこなし、音楽のみならずあらゆる分野で並ならぬ腕前や才能を持つ完璧な女性だった。 
 生まれながらの血統や富、地位だけではなく、美貌、才知、人格、すべてにおいて同じ人間であることが信じられないくらい。
 …すっごく優しいし。 
 憧れることさえ、恐れ多い相手なのだ。
 そんな女性が義姉。
 そして、そんな彼女の弟である司もまた、並ならぬ男性だった。
 「あ、そうだ」
 司の仕事の邪魔にならないように、もう雑談はふらないつもりだったのに、つい口に出してしまっていたらしい。
 「なに?」 
 「ご、ごめん、気にしないで」
 「いいよ。仕事に行く前からガッツリ集中して仕事なんてしたくねぇし、せっかくお前といるんだから、できるならお前になんか適当な話でもしててもらった方が俺としてはリラックスできていい」
 「そ、そう?」
 うんうん、と頷く司の言葉はどうやら社交辞令ではないようだ。
 そもそも妻であるつくし相手に司がおもねる必要もない。 
 「じゃ、お言葉に甘えて。そういえば聞いたことなかったけど、司も楽器を演奏できるんだよね?」
 「あ?」
 「バイオリン。私って、以前……記憶をなくす前に、司にバイオリンを弾いてもらったことがあるのかな?もしかして」




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