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「愛してる、そばにいて」
第10章 贖う⑤

愛してる、そばにいて1008

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 「……大丈夫か?」 
 今日のデートの締めくくりは、定番といえば定番だが、レストランの上階の夜景の美しいホテルのスウィートに宿泊する予定ではあった。
 格的には同列ではあるが、普段司はザ・メイプルを常宿にしている。
 だが、道明寺系列のメイプルでは、楓が出没する可能性が高く、どうせならできるだけ道明寺家のことや、彼の両親のことは彼女の念頭から一時でも忘れさせ、ただ楽しませたい、リラックスさせてやりたいという気持ちで、つくしを連れている時には、司はメイプルを避けてていた。
 …この場合、それが裏目に出たか。
 メイプルは完全に楓の勢力下だったから、メイプルのレストランだったのなら、そもそも大伯父と司が鉢合わせすることもなかっただろう。
 あきらかにどこからか、彼らが来店することが大伯父の耳に筒抜けに報告されていたのはたしかだ。
 すでにつくしにつけていた、大叔父側のSPたちは引き上げさせているにも関わらず。
 …ま、案外、ニュースソースはババアかもしんねぇけどな。
 あの母親がただの意趣返しや嫌がらせをするとも思えないが、司が選んだ選択肢のせいで、これからの数年間を実質更迭する大伯父の残すだろう残党とのヘビーな闘争に明け暮れなければならなくなったのだから、そうされたとしても不思議ではなかった。
 せっかくのホテル自慢の夜景だというのに、見事な眺望を展開している居間の窓辺からの景色を見るでもなく、つくしは部屋に入るなりカーテンを締め切った寝室に引きこもってしまった。
 かといって寝るでもなく、ベッドの上で体育座りに膝を抱え込み、その膝に顔を埋めて蹲ったままだ。
 「…………」
 眠っているわけでもなさそうなのに、先ほどから司が何を問いかけても、ウンともスンとも言わない彼女は、あの遠い日―――記憶を失う前の司や周囲のすべてを拒絶して、ひたすらベッドに座り込み蹲っていた頃の不安定な彼女を思い起こさせ、司に苦い思いを蘇らせる。
 「………はぁ」 
 そんな理由から、司は最初、その溜息が自分のものだと錯覚した。
 しかし、
 「ごめん。……もう大丈夫」
 もう一度、小さく肩で吐息を付いたつくしが、意を決したように顔を上げ、ぎこちなく司へと微笑みかけてくる。

 「少しは落ち着いたか?」
 「ん」
 まだ顔色は悪く、声音に先ほどまでの動揺は隠せず頼りなく掠れていたが、それでも大丈夫だという言葉通り、ひとまずの落ち着きは取り戻したらしい。
 異常なまでの怯えからも解放されたようで、彼が抱き上げている間中ずっと震えていた体の震えも収まっていた。
 「……で?どうしたよ?」
 「怖かったから」
 「……………」
 そうだろうとは司も予想してはいた。
 誰でも人が人と争う姿は気持ちのいいものではないし、恐怖を感じることも普通のことだ。
 …俺は平気だけどな。
 司のように常に暴力を奮う側だった人間の感性は別として、勝気ではあってもけっして無法の世界の住人ではなく普通の少女だったつくしが、そうした場面を恐れてもおかしい話ではない。
 だが、それにしても彼女の怯え方はあまりに大仰だったように思う。
 これまで司は極力、つくしの前では冷静を努め、……激易い自分の性質を抑えるように努力して、声を荒げることも控えてきた。
 以前にはできなかったことだったけれど、それでも過去の過ちとその結果が、彼女への愛が、尋常ではない自己自制を成し遂げることを可能にしたのだ。
 実際、それが成功していたというよりも、つくしといれば心が安らぎ、少年の日のようにイラつくことはほとんどなかったし、彼自身もだいぶ変わったことを自覚している。
 それでも三つ子の魂百までも、という格言もあるが、本質が変わったわけではなかった。
 言動の端々や、周囲の反応からも、つくしだとてけっして彼が穏やかな性質の男だとは思ってはいなかったはずだ。
 …まさかいまさら、俺のことが怖くなったのか?
 「俺か?」
 「…え?あ……えっと、怖くなかったかって言われたら、正直怖かったけど」
 遠慮がちではあっても彼女の正直な気持ちに軽いショックを受ける。
 「俺は…」
 司の苦しい表情に、つくしが慌てて彼を遮って、言葉を重ねる。
 「あ!でも、誤解しないで、怖かったけど、司が私に何かをしたり、怖いことをしたりするはずがないってわかってるから。……その、ああいう場面なんだもん。私じゃなくても誰でもびっくりしちゃって、怖くなるのは普通だよね?怒った司って、凄い迫力があるし。だから、ちょっとは怖かったのも本当だけど、だけどそれで司のことが怖くなったとか、嫌いになったとかそういうわけじゃないから」
 ちょっと………というには、さきほど彼女の態度は尋常ではなかったが、それでも彼女が言葉を控えめにしたのは、司が顔色を変えたからに違いない。
 実際、彼女の言葉に安堵している。
 …俺もどんだけだよって話だよな。
 大伯父が、心中でも…という言葉で彼を揶揄したが、まさに司としては、つくしを捨てるくらいならそれくらいの心持ちなのだ。
 もっとも、司に心中などという後ろ向きな選択肢はなかったが。
 それくらいなら、
 …連中全部を道連れに、道明寺ごとブッ壊してやるさ。
 おかしいくらいにつくしに囚われている。
 自分では自覚してないことも、彼女の言動や態度から逆説的に窺い知ることも、今ではけっして珍しいことではないのは、彼女が自分にとってそれだけすべであるからなのだ。
 それだけ司が彼女の一挙一動に影響され、支配されていると同義のことでもあるのだろう。
 かつてはそうしたことが、どれほどプライドに触るかと恐れて、彼女を傷つけることを繰り返していたというのに、いまではそんな自分を容易に認められる。
 認めてなお、プライドが軋むこともなく、むしろそんな彼女の為にありとあらゆることに耐えることさえ厭わないのだから、さぞや他人―――以前の自分をよく知る親友たちがこの様を見れば、驚き呆れて、彼を別人ではないかと疑うのではないか。
 「それより……伯父様の怒った声の方が、凄く怖くて」
 「……ああ」
 「胸がドキドキして、震えが止まらなくなっちゃったの」
 それはそうかもしれない。
 ただでさえ、侮辱されイヤな思いをさせられたのだ。
 あきらかな悪意やネガティブな感情を、彼女が厭うのも当然のことだ。
 高校時代の―――司に囚われてしまう前までのつくしは、他人が争うところどころか、学校中の人間に集団でイジメを受けても立ち向かう勇気と気概を持った少女だった。
 だが、今の彼女には司と闘った記憶もなければ、かつての気丈さも失ってしまっているのだから。
 ―――いや、憶えていればこそ、イジメを受け、彼に虐げられた過去がある彼女が怯えるのも当然だったか。
 まさか?
 「なんか、思い出したのか?」
 「え?」
 「……………」
 ただ彼女の顔をじっと見るのみで、なにがとも答えない司につくしは首を傾げて、だが、すぐになんのことか彼女も思いついたのだろう。
 「……そういうわけじゃないんだけど」
 俯き、自分の中の何かを探るように顔を顰めて、……緩く首を横に振った。
 「なに?」
 「ううん、思い出したとか、たぶんそういうことじゃななくて………ただ、男の人が怒鳴る声が、自分でもおかしいくらいに恐ろしくてしょうがなかったの」
 「………」
 「司?」




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