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「愛してる、そばにいて」
第10章 贖う⑤

愛してる、そばにいて1006

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 …チッ。
 驚いているつくしを横目に、無作法に押し入ってきた親族である初老の男の姿を無表情に眺めて、司は内心で舌打ちをする。
 心労からくるのだろう窶れた顔には以前の覇気はなく、以前に会った時よりもさらに老け込み、その目だけが憎悪と怨嗟に滾り、ギラギラと底光りしていた。
 大伯父も、さすがに腐っても道明寺一族の一員だ。
 いくら気持ちが荒んでいようとも泥酔して醜態を晒しているということはなかったが、小競り合いをしたことによるものか、いつもとは違う様子はあきらかに酔っていた。
 酒による自暴自棄というわけでもないだろうが、素面な状態だったら、司に負けず劣らずプライドの高い男だ、こんな無意味な真似をすることもなかっただろう。
 「人が面会を申し込んでも、いっこうにアポが取れないと思ったら、よもやこんなところで油を売っているとはな。偉大な道明寺家の一員ともあろうものが、自分の立場も弁えず行動した結果、自分に降りかかった災厄の原因も、その意味合いもいまだにわからない愚か者らしいっ」
 嘲る言葉には力がなかった。
 司にしてみればしょせん負け犬の遠吠えだ。
 …バカバカしい。付き合ってらんねぇ。
 こんなところで、つまらない恨み言を聞きたいものではない。
 久しぶりに過ごす、せっかくのつくしとのデートだったのに。
 「お前はいったいつまでこんな茶番を続けるつもりなのだっ!」
 不安そうに司の顔を見上げているつくしへとチラッと流した大伯父の視線はには、言葉以上の彼の気持ちがあらわになっていて、海千山千の経済界人と渡り合ってきた沈着さは大いに失われているようだ。
 …まあ、それもそうか。
 鼻息荒く、憎々しげに彼とつくしを睨み据える大伯父を内心で嘲笑する。
 どちらにせよ、楓と司にしてやられて、唯々諾々と黙っているとは思っていなかったのだ。
 もっとも、よりによってつくしと楽しいデートの時間を過ごしているこのプライベートの一時を、邪魔されるとは思っていなかったが。
 「おじさま、ご無沙汰しております」
 自分に注意が向いたのを期に、つくしが席を立ち上がって遠慮がちに、大伯父へと頭を下げた。
 「あの…差し出口だとは思いますが、ここはわたくしたちの家屋敷ではなく、公共の場です。お話を伺うのなら、もっと相応しい場所で、余人のいない時に改めませんか?」
 もっともな忠告。
 彼らは名もなき一般人などでないのだ。
 少なくても、司の顔をしている、彼の身の上を察している人間がこのレストラン内にも何人もいるに違いない。
 いくら個室でもこれだけ大声で怒鳴られていれば、物見高い人々のいいゴシップネタになってしまうことだろう。
 「差し出口、まさにだな。ふん、あの女ーーー、楓も顔を顰めつつも、上手く教育したものだ。どこの馬の骨ともわからない小娘が、まるで生まれながらの上流階級だとでも言うように、平然と私に話しかけ、賢しげな口をききおる。若奥様ヅラだけは、よく板に付いているではないか」
 「………お気に障ったようなら申し訳ありません」
 もちろんつくしだとてわからなかったわけではないだろう、あきらかな侮蔑の言葉。 
 複雑な微苦笑を浮かべたつくしの表情は、わずかに顔色が悪いくらいで、特になんの感情も浮かべていなかった。
 怒りも、嘆きも。
 むしろ、気色ばみ、憤りも顕に大伯父を睨み据えたのは、それまで黙っていた司の方だ。
 「俺の妻を侮辱するのはやめていただけませんか?」
 「……妻?その女がか?」
 フンと鼻を鳴らし、どこまでも権高く傍らに立つつくしを見下す大伯父は、司が纏いだした危険な空気に気がついていない。
 どれだけ荒れようと、一応は道明寺家の跡継ぎである仮面はさすがの司も表立って外していなかったから、たとえ日本での彼の噂を聞き及んでいたにしろ、大伯父には危機感がなかったのかもしれない。
 むしろ、不安そうに司と大伯父の顔を交互に見やって、彼らのやり取りを固唾を飲んで見ていたつくしの方が、司の酷薄な空気に怖気づいたようにその場を後退り始める。
 「たとえお前がどう取り繕うと、社交界の誰も認めていやしない。……もちろん、お前の親ばかりではなく、私を含めた道明寺一族の誰一人として、だ!現にお前の父親も―――、いや誰よりもお前の母親自体が、その女を疎んじて、認めていないのは誰もが知る周知の事実だろう。せいぜい愛人にでもしておけば―――」
 「ダメっ、司ぁっ!」 
 椅子に腰掛けたままだった司が、許可もなく対面側の席を下ろしかけた大伯父を、テーブルごしに椅子ごと蹴り飛ばしたのが先か、あるいはつくしが声をあげたのが先だったのか。
 ドガッ!
 「ぐわっ!」
 虚を突かれた大伯父がまともにふっ飛ばされる。
 ‘Mr.!!(※ミスター)’
 ‘っ!?’
 司とつくしのSPたちと、大伯父が連れて来たのだろう見覚えのない男たちが、一瞬騒然として、室内へと殺到しかけた。
 ‘ドア閉めろ’
 しかし、殺気立った一同の雰囲気とは裏腹に、司の声音はどこまでも怜悧で、一同の興奮を鎮める冷たさで、その場を一瞬にして鎮圧してしまう。
 いや、おそらく司が席を立ち、今にも大伯父へと危害を加える風情を見せていたのなら、司の威圧やSPたちの妨害にも関わらず雇い主を守ることを最優先したのに違いなかったが、しかし、司は長い足の一撃で椅子を蹴り飛ばしただけで、椅子に腰掛けたままその場を動いていなかったからこそだったに違いない。
 司側のSPたちはその言葉に軽く頷き、……だが、それで収められるはずもない大伯父側のボディガードたちが、判断に迷っていまだ床に這いつくばっている大伯父へと指示を仰ぐようにして視線を向けていた。
 「き、貴様、司っ」
 ‘別に危害なんか加えるつもりなんかねぇよ。こんなところでいらねぇ騒ぎになって困るのは、人のプライベートにズカズカと踏み込んで、この俺に喧嘩売りやがったそこで吠えてるおっさんだけじゃなく、俺もだからな’
 その言葉に、ある一定の理解と納得を得たのか、あるいは、ただ単に人数的に司の連れている人数の方が多く、その場を荒立てることのデメリットを天秤にかけたのか。
 司側のSPたちの威圧も受け、二人のうちの一人だけが室外へと戻りもう一人は司側のSP二人と共に室内に残って、置物然としながらもさりげなく司とつくしの傍らに移動した司側のSPたちを警戒しながら、腰を落としたままの男の傍らに腰を落とす。
 ‘大丈夫ですか?ミスター’
 しかし、護衛の気遣いの言葉にも応えることなく、怒りにブルブルと体を震わせ、大伯父が度を失い怒声を上げる。
 「私にこんなことをして、ただで済むと思ってるのかっ!?」
 「それはこっちのセリフだろ?黙って聞いてりゃグダグダ、グダグダと。つくしを愛人だぁ?冗談も休み休み言え。……俺の女を侮辱しておいて、そこに転がってるだけで済んでるだけ、幸運だと思えよ?」
 「なにっ!」
 大伯父も司の親族だ。 
 赤と青の斑に青ざめた顔にはショックが浮かんではいたが、蹴り上げられてもまだ、酷薄な怒りを放射している司に対しても、怯えや恐怖をあからさまには覗かせてはいなかった。
 内心はともかくとして。
 「ここが日本で、俺が以前のままの俺だったら、今頃あんたを半殺しにしてたかもな」 
 「……………」
 それでも、凄みを帯びた笑みをうっすらと浮かべた司の顔に、ハッタリとは思えなかったのだろう。
 それ以上に、日本というキーワードに彼の少年期の行状が脳裏に蘇ったのかもしれない。
 さすがにギョッとした顔で、腰を落としたまま後退り、だが、そんな自分にさらにプライドが傷つけられたのか、再び憎悪と憤怒を顔に張り付け、ボディガードの介助を受でノロノロと立ち上がりながら、呪詛を吐く。 
 「貴様はいつかきっとこのことを後悔するぞ、司。私との約定を破り、……この手を振り払ったことを」
 「なに言ってんだか、そもそも先に俺との約定を破ろうとしたのはそっちだろうよ?俺が何も知らないとでも思ってんのか?」
 「………それほど、そのちっぽけな小娘が大事か?」
 一同の位置関係を一べつしながら、とりあえず大伯父たちを刺激することもあるまいと、司も立ち上がって、身を縮こませてしまっているつくしの傍らへと移動する。
 …怯えてんのか?
 エキサイトしてしまっている大伯父からの威迫を避けるように、半ば顔を背けてしまっているつくしの肩へと手を伸ばし、優しく抱き寄せる。
 一瞬ビクリと体を大きく震わせたつくしだったが、構わず抱きしめた彼の腕から逃れようとはしなかった。
 「最初から言ってあったろ?俺が必要なのはこいつだけだと。何度言っても理解が悪いてめぇらの失点だろ?どのみち、俺のことがなくても、あんたにとっては負け戦だったんだ。……言ったらわりぃけど、あのオバハンの息子の俺から見ても、あんたとウチのババアじゃ元々格が違うんだよ」




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