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「愛してる、そばにいて」
第10章 贖う④

愛してる、そばにいて1003

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 「あの…卒業おめでとう」
 食前酒をサーブしたギャルソンの後ろ姿を見送って、キョドキョドと視線を彷徨わせたり、唇を何度も舐めたりとどこか挙動不審だったつくしが、テーブルの下、膝の上のハンドバッグから小ぶりの長箱を取り出し、そっと司へと差し出した。
 「…これ」
 「お祝いのつもりなの。良かったら使ってもらえたらと思って……」
 遠慮がちなつくしが、それでもどこか期待するように上目遣いで司を見上げてくる。
 言われるままに、箱を手に取る。
 シックな色合いのダークグレイの箱に、円を描いた矢の特徴的なロゴは、司もよく見覚えのある筆記具メーカーのものだ。
 金のリボンを解き、包装紙を解くと包装紙と同デザインの箱が現れ、そっと中を開く。
 ウェルカムカードの下には、予想どおりパーカーの代表的な万年筆の高級モデルデュオフォールド。
 「いいじゃん」
 「ホント!?」
 司が思わずポツリと呟いただけで、固唾を呑むようにしていたつくしがパッと顔を上げて、声が半オクターブ明るく跳ね上がる。
 18金のペン先にはフラッグシップモデルの証である『エース』のデザインが施され、ペン全体のフォルムは優美で美しい。
 デザイン自体は黒一色にクリップやキャップリングなどの各パーツの繋ぎのみに金色をあしらわれたシンプルなものだが、どうやら節約家のつくしらしくなく、オーダーメイド品らしく主軸に描かれている金の幾何学模様は、アレンジされた道明寺家の家紋なのだと気がつく。
 キャップ部分には司の名前が彫られていた。
 もちろん、司はパーカーどころか、万年筆の最高峰と言われるモンブランの最高級品だとて何十本でも所有している。
 けれど、自分の名前が彫られた万年筆が、司の目にひどく眩しく新鮮で、特別の物のように映った。
 司はこれまで物に執着をしたことがない。 
 たとえどんなに高級品であっても、なくなれば次を買えばいい、気に入れば片っ端から買ってしまうから一つの物を大事に使うという認識自体がなかったから、当然、一々自分の物に名前など入れたことなどなかったのだ。
 …俺の。
 世界でたった一つだけ、彼のためだけにつくしによって用意された祝いの品―――彼女の真心。
 「本当はモンブランとかの方がいいのかとも迷ったんだけど。家庭教師の……史学の先生のアレッジ教授が万年筆を愛用されてててね。どうかなって思って、相談してみたら、モンブランはたしかに最高だけど、最近の若い人にはモンブランよりもパーカーの方が人気があって愛用されてるって聞いたから」
 「……アレッジはアメリカ大好きのアメリカ人だからな」
 「ははは…まあ」
 パーカーは現在イギリスのブランドだが、元々はアメリカを代表する文房具のトップメーカーだった。
 歴史的な調印が行われる時などにはかなり頻繁にこのパーカー製品が登場し、太平洋戦争終結にはマッカーサー元帥が、米露調印の際にもブッシュとエリツィンがこのメーカーのデュオフォールドを使用して著名したのは有名な話だ。
 「それでその、えっとぉ……司はなんでも持ってるし、センスもいいから、変なものを買ってしまって趣味に合わなかったりしたら、とか思って、文房具にしたの」
 イイとは言ったものの、あまりに司の態度が淡々としていて、反応が薄かったからだろう。
 いつの間にかつくしの顔が不安そうに曇って、窺うように尋ねてくる。
 「あんまり気に入らなかった?それならそれで、箪笥の肥やしにでも………」
 ついにはおずおずと妙な提案をしてくる。
 しかし、
 「……っげぇ……い」
 「は?」
 「すっげ~嬉しいっ!」
 ジッと万年筆に見入っていた司が、満面の笑みを浮かべ破顔する。
 ジワジワと湧き上がってきたそれが喜びなんだと、……これまでも何度となく彼女とともにいることで、知った新しい感情に出くわすたびにまたあらたな感動を感じて。
 …俺が知らなかった感情。
 誰かに期待して、何かをしてもらおうなんて、はるか幼い日にはもう諦めていたから、これまで司はつくしに一方的に与えるばかりで、たった1つのこと以外、彼女に別段なにも望んでこなかった。
 けれどーーー。
 …こいつがこんなことしてくれるなんてな。
 つくしがくれたものがなんであるかということが重要なんじゃない。
 ただ、彼女が自分の為に何かをしてくれる。
 喜ぶだろうかと気にしてくれることが嬉しい。
 今、たしかに彼女の関心が真実自分に向いているのだと実感する。
 「マジ、サンキューな」
 司の素直な礼に、気後れしていたつくしもほんのり頬を染め可愛らしく微笑んでくれる。
 「これもね。結局は司が頑張って働いて稼いでくれたお金で買ったものなんだけどね」 「バカ。お前が俺を支えてくれてるから、頑張れてるんだから、俺だけが稼いだ金なんじゃなくて、お前も一緒に稼いでくれたのと同じことだろ?」
 そんな自分でも驚くような謙虚なセリフが、考えるまでもなくスラリと口から溢れた。 …本当にそうだ。
 つくしが笑ってくれるから、労ってくれるから、………ただ彼女に褒められたい、認められたい一心で突っ走れてこれた数年間。
 もちろん、そこには彼らの結婚を決して認めようとはしない道明寺家から彼女を守り、ひいては、彼女を取り上げられないようにという思惑が大半だったには違いなかったけれど。
 ―――虐めて、嫌がらせをして関心を得て、そんなことで手に入れていたちっぽけな満足など足元にも及ばない大きな喜びと幸福感。
 「…使ってくれる?」
 「もちろん」 
 「うん」
 ハニカむ彼女のあまりの可愛さに、湧き上がった激情にいてもたってもいられなくなってしまう。
 「くそぉ~!!」
 「つ、司?」




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