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「愛してる、そばにいて」
第10章 贖う④

愛してる、そばにいて0999

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 隣に横たわっていた司が、いきなり起き上がってベッドを降りようとし出すのに驚き、咄嗟につくしはその腕を掴んで引き止める。 
 「ど、どうしたの?」
 「……ちょっとシャワー浴びてくる」
 「え?…あ…あぁ」
 一瞬、さっき浴びたはずなのに…と反駁しかけて、手の力が緩んだ隙にスルリと手を外され、司はもう浴室へと向かってしまっていた。
 ここ数年、何度かあったシチュエーション。
 連れ添って4年近くになるとはいえ、こうして二人一緒に―――彼女が起きているウチに司がベッドに横になること自体がそうないことだったから、度々というほどではなかったけれど。
 …て、いうか。
 おそらく司がそうならないように気をつけている。
 必ずしも彼女が寝入ったあとの夜更けに帰ってくるというわけではなかったし、彼女にしても出来るだけ彼を起きて待っていたいと頑張って起きていることが常なのだから、そうしようと思えば、一緒に寝ることだってできるはずなのだ。
 しかし、それを指摘しようにも、彼には持ち帰りの仕事や山積した課題があるのも本当で、たから何も言えずにこうして来てしまった。
 第一、自分が妻としての役割……夫である彼との肉体関係を忌避していながら、彼女に言える言葉があるはずもない。
 …拒んでるわけじゃないんだけど。
 触れられたいとまでは思わないのはたしかだったが、彼に感じていた不可思議な忌避感や恐れ、肉体関係への嫌悪と拒絶感はいまではほとんど克服できているつもりだった。
 それこそ何かきっかけさえあれば、彼の求めにも応じられるはずなのに。
 だが、
 …司の方が私に遠慮してしまっている。
 あるいは3年前にした自身の誓いに縛られているのかもしれない。
 横たわったまま、ほのかな温もりを残す、先程まで司が寝ていたシーツに手でそっと触れる。
 …温かい。
 彼女を‘守る’というその言葉のとおり、この4年間、彼女を愛し守り、温もりを与え続けてくれた人。
 それなのに、どうして自分は何年も彼を受け入れることができないのだろう。
 ―――記憶喪失。
 過去の全て、恋人だった司や家族、自分に纏わる人々を忘れ、すべてがリセットされてしまった…それはそうだ。
 それにしても、司はたとえ初対面で出会ったとしても、どんな女でも見惚れずにはいられない、惹かれずにはいられない魅力を備えた男性なのだ。
 実質的なものはともかくとして、夫婦として何年も一緒にいるからこそよけいに強く感じる。
 …司よりもむしろ私の方が、司にメロメロに惚れ込んで、離れたくない、傍にいたいって思うのが普通だよね?
 …私みたいな平凡な女がどうして。
 たとえ同じ学校に在学していたにしろ、彼のような男の目に止まる幸運など、それこそ天文学的な数値だと誰もが思うことだろう。
 おそらくそうしたことのすべてが、失われた記憶の中にある。
 司によって癒され、心の傷が塞がってゆくに連れて、以前は気にならなかった、いや疑問に思うことすらほとんどなかったことが頭をよぎることになり、そして過去の記憶への渇望が生まれ始めていた。
 怖気づく気持ちはある。
 思い出すことが怖い。
 医者や司は言っていた。
 辛いことがあったから、苦しいことがあったから、自分の心を守るために彼女は過去の一切を封印してしまったのだろう、と。
 おそらくその通りなのだろう。
 つくしもそう思う。
 けれど、
 …本当に、このままでいいのかな。
 司のそのままの彼女でいい。
 たとえ何一つ過去のことを思い出さなくても、それでも彼女を愛しているとずっと言い続けてはくれているけれど。
 ガチャリとドアが開く音がして、司が浴室から戻ってきた。
 「あ、髪」
 濡れ髪のまま戻ってきた司の姿に、つくしが起きようとするのを司が押し留める。
 「起きなくていい」
 「でも」
 乾かしてあげるつもりだったのに、重ねて断られてしまう。
 「水浴びて目が覚めちまったし、やっぱやり残した課題が気になるから、もうちょっと書斎にこもってから寝るし」
 「え…」
 時刻はすでに2時近い。
 たしかに午前様帰宅も珍しくない司のこと、それほどまだ末期的に遅い時間帯というわけではないのかもしれないが、彼の場合、次の日……もう今日だが、朝ゆっくりとしているわけにもいかないのだ。。
 いつの間にか、彼の不健康な毎日を普通のことのように慣れてしまっている。
 しかし、注ぎすぎた杯から水が溢れてしまうように、つくしは彼の限界が来るのを危惧していた。
 …いくら若いからって、このまま無茶し続けてたら、絶対に身体を壊しちゃうよ。
 「じゃ、お前はもう寝ろ」
 小さな笑みを残して、ベッドサイドにすら近づくことなく、司が寝室を出て行った。
 寝ろと言われてしまい、実際、眠気による気怠さが全身を覆い出しているつくしだったが、のそのそとベッドの上に身体を起こし、膝をかけて盛大にため息を落とす。
 「はぁ~、また言えなかったよ」
 自分が情けない。
 どうしても司に対して気後れする気持ちを乗り越えられない。
 彼が心配で、無茶をしないで欲しいと伝えたいし、おそらく司ならよけいな口出しをするなと叱咤するのではなく、受け入れてくれる……彼女の気持ちを喜んでくれるはずだ。
 たとえその心配を考慮して、スケジュールを彼が緩めてくれるかどうかは別にして。
 それに……。 
 寝返りを打って、彼に向かい合った時には覚悟を決めたはずのことも、結局は口にすることができなかった。
 「私ったら、どれだけ意気地がないのよ」
 司の愛情に報いたい。
 報いることこそ、自分にとっても幸せなことなのだと、いつしかつくしも思えるようになったのに。
 …それに、子供の問題もあるよね。
 子供―――司には跡取りが必要なのだ。
 まだ世間に、いや司の両親にすら存在を認められていない自分だったが、それでも司の妻はこの世にただ一人つくしだけ。
 道明寺財閥の御曹司である司の妻となったのだから、今のままずっとこのまま……夫婦でありながらセックスレスの関係に甘んじていていいはずがなかった。 




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