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「愛してる、そばにいて」
第10章 贖う④

愛してる、そばにいて0998

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 「やっとお前もニューヨークの環境にも慣れたところなのに、マジごめんな」
 司は謝るが、転勤は誰にでもありえることで、けっして司のせいではないのだから謝る必要などないものだ。
 「気にしないでって言ってるのに……、それよりね。MBAはどうするの?」
 「……ああ」
 「司は大学を卒業した後、そのまま1月開始の16ヶ月コースでビジネススクール※1に入学するつもりだったんだよね?」
 司とつくしが渡米して4年。
 しかし、元々司は日本の英徳学園の高等部の卒業を待って、ニューヨークに渡米する予定だったのだ。
 いや、彼の両親の心積りこそそうだったが、司は親に反発していて、それも本決まりのことではなかった。
 結局、両親の目論見通り…とも多少違ったが、本来の道筋に従って9月からの大学入学だったから、本当だったら、司は来年の5月後半に卒業を迎える。
 そして、同大学のビジネススクールに入学し、MBA※2取得を目指すつもりだった。
 アメリカの大学は基本単位制だ。
 もちろん、規定の卒業式はあるが、日本とは違って年二回、三回とあるところも珍しくはなかったし、単位さえ揃えばいつでも卒業できるから、司もビジネスとの二足の草鞋という過酷さをも乗り越え、4年を待たずして、わずか3年半で司は卒業を決めていた。
 「えっと、具体的な赴任地は決まっていないって言ってたけど、行った先のビジネススクールに通うつもりなの?」
 MBAを取得できるのはアメリカばかりではない。
 そのつもりなら、それこそ日本で取得するのも可能なものではある。
 緩く前屈み気味に椅子に腰掛けていた司が、フーッと大きく息を吐き、考え込むように額に手をあて、ドサリと背もたれに寄りかかった。
 「どうすっか」
 「…決まってないの?」
 「お前の言ったとおり、あっちで通うつー思案もたしかにあるが、そもそも一ヶ所に定住できる保証がねぇからな」
 「あ」
 そういえば、転々とすることになると、先ほど司が言っていただろうか。
 …司は将来、道明寺財閥の総帥になる人なんだもん。
 武者修行ではないが、そうやって経験を積む必要があるのだろうか。
 それにしては、ビジネスをする上である意味泊付になるMBA取得を優先させないのは解せなかったが、現在総帥である司の父親が病床にあることを考えると、そうしたイレギュラーも致し方ないのことなのかもしれない。
 「ま、なきゃないで困るっつーもんでもねぇし、どうしても欲しけりゃ、その気がありゃいくつになっても取ることはできるんだから、そこは当面保留だな」
 「………そうなんだ」
 司がそう言うのなら、つくしに口出しをすることはできない。
 だが、彼の大学生活もとてもではないが一般学生のように勉学に集中できるような環境ではなかった。
 この年頃の青年らしい楽しみを、何一つ味わうこともできない数年間だったことはつくしが一番よく知っている。
 それが彼ら‘ジュニア’の立場であり、生まれながらの宿命だと言われてしまえばそれまでだったが、なんともやるせなく……そして、同時に、今の司の状況の一因に自分とのことがあるのではないかと気に病んでもいた。
 …私がいなければ、もっと楽ができたんじゃないの?
 そんな疑念と罪悪感。
 それなのに司は謝るのだ。
 いつもーーー。
 他の誰にも、どんな人間にもめったに頭を下げることがない司がつくしにだけ。
 「ごめんな」
 「もう~、転勤のことは気にしないでって言ったじゃない」
 まだ気にしてるのかとつくしは顔を顰めたが、司は緩く首を横に振り、それを否定する。
 「違げぇよ、そのことじゃねぇよ。……お前の大学のこと」
 「え?」
 「お前、大学に通いたがってたじゃねぇか」
 「……ああ」
 つくしもやっと司が何を謝っているのか、わかった。
 …でも。
 それこそ、いまさらなことだ。
 4年前、体調と準備さえ整えば、大学に―――彼が通う大学に通学させてやると約束してくれた司だったが、二度目の流産のことや道明寺家的な事情があって、それは叶わず、だが、道明寺家の若夫人が高卒ということでは格好がつかないということで、通信教育での学位取得を司の両親から義務付けられた。
 つくしの方も努力の甲斐があって、おそらく4年を待たずして卒業することが可能だったが、今尚、燻る気持ちがないといえば嘘になる。
 …私も納得したことだし。
 楓や彼女の夫の心の内はともかくとして、つくしは今の自分の立場や司の立場を十二分に理解していたから。
 「約束したのによ」
 「いいの」
 本当は大学に通いたかったんじゃない。
 ―――少しでも自由が欲しかった。
 そんな本心を飲み込み、小さく微笑む。
 「この4年間で、家庭教師の先生方にビシバシ鍛えてもらったし、大学は通信だからかえってどこに行っても学位を取ることが可能なんだもん。……今すぐは無理かもしれないけど、ヨーロッパに行ったら私も司の奥さんとして、もう少しは司の役にも立てるんじゃないかと自負してたりするんだ」
 そんなつくしの半分冗談めかしたセリフに、どこか複雑なものを含んではいたが、それでもわずかな笑みを司も返してくれる。

 「ああ、もちろんだ。……こっちじゃ、閉じ篭らせちまったけど、あっちっじゃうるせぇババアどもの監視もねぇし、お前には俺の女房としてガンガンサポートしてもらおうと俺も思ってる。俺は人使いが荒いからな。こき使われてヒーヒー泣くなよ?」
 「望むところよ!」
 ドンと胸を叩くつくしに、今度こそ司は破顔した。




*****




 …そういえば、伯父貴のことを言いそびれたか。
 結局、小休憩の後、すっかりやる気を削がれてしまい、学習に戻ることなくつくしと一緒のベッドに入った。
 頑健な司も日常の疲労から、ベッドに入ったとたん瞼が重くなってくる。
 しかし、むしろつくしの方はいつもより夜更かしをしたせいなのか、かえって目が冴えてしまったらしい。
 同時にベッドに入ってから、何度となく寝返りを繰り返し、寝息の状態からしてどうやらまだ寝入っていないようだ。
 「……眠れねぇ?」
 「え?」
 まさか声をかけられると思っていなかったのか、ビクリと逆に司の方が驚くような驚きようで肩を揺らし、つくしが恐る恐るといった体で、背を向けていた状態からこちらを振り返った。
 …なんだ?
 だが、驚いたとは言ってもただそれだけのことのようで、つくしがゴソゴソと今度は司と向き合うように向きを変えた。
 それで人一人分空いていた空間が詰められて、瞬間ふわりと香った彼女の匂いに胸がドキリと鳴る。
 この3年―――つくしが2度目の流産をして以来、司は彼女との約束通り、彼女と同じベッドに寝ても彼女に指一本触れることはなかった。
 軽いキスや抱きしめる程度のスキンシップを除いてではあるが。
 …やべぇ。
 常夜灯の薄明かりの中、彼女の髪の間から覗く首筋やうなじ、パジャマの合わせの白い胸元から目を離せない。
 たちまち身に覚えのある衝動が下腹から湧き上って、思わず司はゴクリと唾を飲み込んだ。




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※1ビジネススクール…国際的には経営学および関連した科目を教える学部から大学院レベルの高等教育機関を指す。日本においては修了者に修士 (経営学)や経営管理修士 (専門職)などの学位を授与する大学院の修士課程や専門職課程を指す場合が多い。
有名どころではハーバードビジネススクール、リーランド・スタンフォード・ジュニア大学、ロンドンビジネススクールなどなど。

※2MBA…経営学修士号のこと。 ビジネススクールと呼ばれる経営大学院で、通常1~2年の間に必要な単位数について、ある一定以上の成績を修めることで取得できる。
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