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「愛してる、そばにいて」
第10章 贖う④

愛してる、そばにいて0997

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 …司がヨーロッパに。
 「もちろんお前も一緒だ」
 ハッと司の顔を見返す。
 彼女の様子を注意深く窺っているようだった司が、ふっと破顔した。
 知らず彼女も息を詰めてしまっていたらしい。
 安堵に息を吐き出し、肩の力を緩めたつくしに優しく微笑んで、司が彼女の頭をポンポンといつものように優しく撫でてくれる。
 「当たり前だろ?お前がイヤだって言ったって、一緒に連れてゆくさ。お前は俺の女房なんだから、一日や二日ならともかく、何年になんだかわかんねぇ転勤に、お前をこっちに置いていくことなんてありえねぇし、別居なんかするはずがない」
 「…………うん」
 実際、司は1週間以上になる出張にはこれまでも彼女を同伴していた。
 どうやらそれは彼の独断のようで、めったに顔を合わせることがない楓にたまたま出くわした時に、サラリと言い放たれたイヤミで、彼女がけっして認めてはいなかったことをつくしも知った。
 …でも。
 司が遊びに出かけているわけではなく、仕事で、とても彼女に構う余裕もなければ彼女を連れ歩いても役にたたないことはわかっている。
 それでもたった一人、この冷たく広大に屋敷に取り残されてしまうくらいなら、たとえ彼の宿泊するホテルに閉じこもってるだけしかできなくても、一緒に同伴できる方が嬉しかった。
 そう思えるようになった。
 かつてとはまだしも気のおけないメイドのメアリと残る方がマシだと思っていたというのち、いまは真逆の感慨。
 …あたしもたいがい、現金だよね。
 その間中断してしまう英才教育の課題も、普段以上に頑張っているつもりだ。
 …司に恥をかかせたくない。……少しでも彼の役に立てるようになりたい。
 いつの間にか、彼女の中に生まれた想いと決意。
 いまだ彼を愛しているとはハッキリと彼に言ってやることのできない彼女だったけれど、それよりも1年、2年と―――彼と過ごす時間が長くなるごとに、降り積もってゆくものがある。
 彼に絆され傾いてゆく自分も自覚していた。
 たぶん、もう少し……あと少しのきっかけがあれば、彼を好きだ、愛してると思うことができる、彼に告げることさえできるようになるのではないかという予感がある。
 「……お前にはまた苦労かけることになっけど」
 司の言葉に首を横に振ったのは、どんな思惟もなく自然な発露だった。
 そのことが自分で嬉しい。 
 「ううん、大丈夫」
 「……言葉や習慣もまたガラリと違うぜ?」
 「うっ」
 それを言われてしまうと辛いところだが、ニューヨークに来て初めての頃にもぶつかって、今は乗り越えた壁だ。
 「平気だよ」
 今はあの頃とは違う。
 なんの準備も覚悟もなく、ただ司に連れて来られるままに、自分の意思ではなかった渡米とは。
 …だって、私も司について行きたいんだもん。
 「これでもけっこうフランス語も、ドイツ語も上手くなったんだよ?」
 ある程度誇張が入ってはいたが、それでもそんなつくしの見得に司がふっと小さく笑ってくれる。
 「そうだな。英語も怪しかったお前が、飛躍的な成果だとお前の家庭教師どもから聞いてる」
 「英語も怪しかったって、司だってそうじゃない」
 まるで自分は違ったような顔をしているが、英語に関してだけは司もつくしと似たりよったりの状態だったのだ。
 しかし、司は都合の悪い話はスルーして、さっさと話を変えられてしまう。
 「けっきょく、こっちに来た年のことだけじゃなく、去年も一昨年もロクにお前の誕生日祝いしてやれなかったから、今年こそはその穴埋めすっから」
 「…あぁ」
 つくしも忘れていたわけではなかったが、正直、毎年すまながってくれる司には悪いが、それほど気にしていることではなかった。
 自分の誕生日―――そう聞けば確かに、他の普通の日よりも特別な気はするが、ただでさえ師走の忙しい時期、司がどれだけ激務や勉学に喘いでいるか知っていて、たかがその日を忘れていたとか、どうしても都合がつかずに別々に過ごすハメになったからといって彼を責める気にはとてもなれない。
 「そんなに気にしなくてもいいのに。しょがないことだもの」
 「……でもよ」
 顔を顰めた司の方がよほど彼女よりも気にしてくれている。
 昨年はどうしても司でなければならない出張が入って、当然、司はつくしを同伴するつもりだったが、少しづつ顔を出すようになった社交界でつくしを名指しで指名した招待に出席せざる得ず、別々の誕生日を過ごした。
 その前の年は―――、
 「……2回目だっつーのに、俺が忘れてた年もあったしな」
 どうやら同じことを考えてらしい司のボヤきに驚いて、けれど、本当に申し訳なさそうな彼の表情につくしは思わずふにゃりと笑った。
 「笑うなって」
 「だって、司ったらそんな過ぎたことをいつまでも、グチャグチャと気に病んでるんだもん」
 「……グチャグチャ」
 つくしの物言いが気に入らなかったのか、イヤな顔をする司の表情がまた拗ねた子供のようでまた笑ってしまう。
 ニューヨークに渡米してきた年の誕生日は、司も彼女の誕生日を知らず、彼が知ったのは何日も過ぎてのことだった。
 ひどく落胆して、悔やむ司に、むしろ慰めたのはつくしの方だったが、当然、次年にかける意気込みは想像以上のものだった。
 …意外に気にしぃっていうか、ブルドーザーみたいに自分の意思を通しちゃうかと思えば、だよね。
 しかし、いくら彼が意気込んでいてもたった一年に一回のこと。
 忙しい毎日に青色吐息の司がそのことばかりを気にしていられるはずもない。
 気が付けば、再びやってきた師走。
 その頃もまたロクに顔を合わせることもできない激務の毎日に、ふと気まぐれにケーキを買って帰ったその日が、まさかつくしの誕生日だったとはすっかり失念していた司が、帰宅してそれを知った時の落ち込みよう。
 …それ以来、だっけ。
 雨霰と降り注ぐ愛情を彼のプレゼントの多寡で計るつもりなどつくしにはまったくなかったが、それでも知らずスキップしてしまった彼女の誕生日を、ずっと彼が気に病んでくれていたその気持ちが嬉しかった。 
 「こう言ったらなにかもしれないけどね」
 「……?」
 「誕生日のことは、私にとっては本当にどうでもいいことなの」
 顔を歪めた司に、柔らかく微笑み、彼が誤解しないよう、自分の中の言葉を精一杯にかき集めて、司へと告げる。
 「だって、私にとってこの毎日が誕生日みたいなものだと思うの。……毎日、司がそうやって私のことを気にしてくれて、私のためにあれこれしてやりたい、こうしてやろうって想ってくれるその気持ちが、何よりも嬉しいプレゼントだし、お祝いなんだよ」
 きっと、本当にそうだ。
 長い間、そのことに気が付けなかったけれど。
 ―――でも。
 だからこそ、司を好きになりたい。
 曇りのない気持ちで、愛していると言ってあげたい、本当にそう思ってる。
 今も心の奥底で、彼への不審と嫌悪に怯え、憎む誰かは依然として居続けていたけれど、それでも。




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