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「愛してる、そばにいて」
第10章 贖う④

愛してる、そばにいて0995

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 『ごめんなさい』
 本当に申し訳なさそうな顔をして、類の名前を憶えていないことを告白したつくしに、彼が感じたのは、危惧だったのかあるいはまったく真逆の感情だったのか。
 いや、わかっている。
 司はたしかに、安堵したのだ。
 それでも、もし彼女の記憶の欠落が今も進行しているというのなら、道明寺家の意向がどうであろうと、つくしがどれだけイヤがろうと、やはりこのまま病院に通院させずに放置しておくわけにはいかなかったから、その症状が現在も続いているというわけではないことにも安堵していた。
 以前受けた医者からの説明に、直接原因となる出来事の前後にも、やはり記憶が曖昧になってしまうことはよくあることだとは聞いていたことだったから。
 つい物思いに耽ってしまっている間に、動かした指先が、肝心かなめの論拠部分をすっ飛ばし、パソコンの画面をスクロールさせてしまったことに気が付いて、舌打ちをする。
 「チッ」
 持ち帰りの仕事こそ大したものはなかったが、ここのところの激務に、学習面が疎かになりがちだったから、多少は早く帰れた今日、その分を取り戻さなくてはならない。
 本来なら職場に設けた執務室でそのまま寝起きをした方が楽なのだが、一目でもつくしの顔をみたい、会話を交わしたい、わずかな間であっても時間をとれるなら彼女に逢いたい自分の我を優先させてしまっている。
 つくしは自分のために…と思ってくれているようだが、いやそれたしかにあった、しかし、そうではなく自分が彼女に逢いたいからなのだ。
 以前のように見栄を張るつもりは、もう今の彼にはなかった。
 相変わらず天井知らずのプライドは健在だったが、もはや司はつくしに対してだけはそうした部分を否定することはなかった。
 自分にとってもっとも大切なものは、自身のプライドではなく彼女だということがだったから。
 今となってはどうしてそんな簡単なことが、かつての自分はわからなかったのかと不思議なくらいだ。
 しかし、すべては自分がなしたこと。
 過ぎ去って…もう、けっして取り戻すことができないのとを悔いて悩むのは、それこそ彼のプライドが許さない。
 …問題はオヤジやババアだな。
 今のところ、両親ともにつくしのことは静観するつもりではあるらしいが、それでもけっしていまだ彼らはつくしを認めてはいない。
 病床の父親はともかく、顔を合わせることこそそうないが、母親の楓はこの屋敷を本拠地にしているのだ。
 …油断できねぇ。
 先日も、三日間の出張でヨーロッパを往復され、そのうちの中一日をドイツの主要都市の一つであるミュンヘン・メイプルで宿泊したが、そこに見覚えのない裸の女が彼のベッドに侵入する騒ぎがあった。
 後で聞いた話によると、そんな突拍子もない行動をした女であるが、どこぞの大企業に連なる一族の令嬢で、世も末の話だが、遠くにはヨーロッパ貴族の血も入っているとかいう名家出身者。
 もっとも、アメリカ社交界でも放埒な名家令嬢のスキャンダル話など珍しくもないことだが、常に護衛を同伴させ、外泊する時には当然宿泊する部屋の出入り口に厳重な警備を敷いている司の部屋に余人が入り込む余地などあるはずもないのに、そうした人物が彼の部屋に入り込める自体本来ならあり得ざることのはずだった。
 1週間単位の出張になればつくしを同伴している司だったが、たった三日のうちの一泊。
 つくしの体調や体力を考え、彼女を同伴させなかった隙を狙われたことはあきらかで、ビジネスの世界に飛び込むようになって激務から来るストレスなのか、つくしが隣に寝ていない時には眠りが浅い司が目を覚ましたのも当然だったが、寝入りっぱなの無謀な企みは、相手をつくしと錯覚するどころか、危うく半殺しにする凶行へと発展するところだった。
 自分の身体を這っている気味の悪い感触に目を覚ましてみれば、見知らぬ女に跨られ触られまくっていたのだ。
 …マジでブッ殺すところだったぜ。
 目を醒ますのとほとんど同時に、こみ上げてきた嫌悪感と吐き気に飛び起きて女をベッドから蹴り飛ばし、半ば失神している女の首を引っ掴んで、全裸のまま引きずって外に引き出してきた彼に、部屋の外に待機していたSPたちは息を呑み戦慄していた。
 それでも彼がそれだけで―――とりあえず女に大した危害も与えずに済ませたのは、理性が働いていたからだ。
 以前の彼であれば後先考えず、思うだけでなく相手が女性であろうと構わず半殺しにしていただろう。
 今の彼には守らなければならないものがある。
 かつての彼には守らなければならないものも、大事なものもなかったからこそどんな無謀も―――非道も成すことができたのだ。
 つくしを誰にも奪われないために。
 司の呼び出しに血相を変え駆けつけた支配人に、女の処理を任せ、その場で警備担当者数名をクビにして、総入れ替えをし、部屋に戻った時には携帯電話で楓を呼び出していた。
 案の定、シラを切られたが、悪びれない言動はそれが母親承知の企みであることを司に確信させた。
 …もちろん、そうだろうぜ。
 司がそこに宿泊していることですら、普通なら余人が知り得る情報ではないことなのだから。
 トントン―――。
 ノックの音にドアを振り返るのとほとんど同時に、ドアが開いて、つくしが顔を覗かせる。
 時刻を確認すれば、いつの間にか23時を大きく回ってしまっていた。
 帰宅したの自体も、21時を過ぎていて、シャワーを浴びただけですぐに書斎に篭ったからかれこれ二時間近くパソコンに向き合い、没頭していたことになる。
 …まあ、あんま集中してたとは言い難いか。
 「ごめんなさい、邪魔しちゃって」
 「いや、いいよ。あんま集中できなくて、そろそろ一息入れようかと思ってたし」
 「え?そうなんだ。……ってことは、もう寝る?」
 どうするか考え、しかし、明日もまた仕事に一日を忙殺されることは請け合いで、大学の方は秋学期※1での卒業が決まっている現在、特に必須の課題はなかったが、その分自主学習に励まなければならないものが山積していた。
 司の場合、親友たちのようにインターンシップ※2でビジネスに接しているわけではなく、父の病状のこともあり、名目だけとはいえいきなり‘専務補佐’という役職を与えられ、ほとんど実践でビジネスの世界に放り込まれただけに、よけいに時間に追われてしまっている。
 「そうしたいところだけど、まだ読まなきゃなんねぇ資料あるし」
 「…明日、お休みなのよね?」
 「まあ、そうだけど、なんだかんだで午前中は処理しなきゃなんねぇ仕事をここでやんなきゃなんねぇから、午後から完全にオフにするためには寝られねぇ」
 一ヶ月ぶりのオフだ。
 おそらくここでこのオフを逃したら、次に休めるのはいつになるかわからないどころか、下手をすればクリスマスまで半日の休みを取ることすら無理になるに違いない。
 …たまにはこいつを気晴らしに連れていってやりてぇ。
 自分自身も彼女とのデートを楽しみたい。
 綺麗に着飾らせた彼女が嬉しそうに笑う笑顔を見たかった。
 「……そっかぁ。いつもながら大変だね」
 シミジミと呟きを零すつくしに肩を竦め、ふと気になった彼女の顔色の悪さに顔を顰める。
 「つーか、お前、まだ起きてたのかよ?」
 「え?あ…うん」
 「いつも言ってんだろ?俺が寝るのなんて、どうせいつも午前様なんだから、遅くなったあ起きて待ってなくてもいいし、先寝てろよ」
 そうでなくても、つくしは彼に朝食を取らせるために彼よりも毎朝早く起きているのだ。
 …そんなもん用意しなくてもいいって言ってんのに。
 そのつもりなら、シェフに用意させることもできる。
 けれど、つくしが用意しなければ、朝食を摂ることなく彼が出社することを知った彼女がそうするようになったのだ。
 つくし自身も司に負けず劣らず、毎日過酷なスケジュールをこなしていることは司も知っていた。 
 …俺のために。
 楓が課したハードな若奥様教育は、一時期はつくしを神経症に陥らせかねないほどに彼女を追い詰めてしまったこともある。
 さすがにそれは見かねて司が無理矢理にスケジュールを緩めさせたのだが、頑張りたいのだと泣いて頼まれ、さすがの彼もすべてをやめさせることはできなかった。
 ―――だって、私も頑張りたいの。だって、私は司の奥さんだよね?司も毎日無理してるのを知ってる。私のために。だったら、私も司のために少しでも頑張りたい。それが自分のためでもあるって思ってるの。




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※1秋学期…アメリカの大学は、9月から翌年5月までの約9か月間を1年度としている。多くの大学は、9月から12月までの秋学期
翌年1月から5月までの春学期の二つの学期で分けるセメスター制で、秋学期と春学期はそれぞれ独立。入学時期も9月と1月、卒業についてもやはり5月と12月の年に2回あるが、高校の卒業時期が5月末~6月ということもあって、9月(秋学期)に入学するのが主流。セメスター制のほかに、1年を四つに区切るクオーター制や、3学期に分けるトライメスター制もある。とりあえず、司の在学しているのはコロンビア大学ってことにしてますが、この大学がどの学区制かまでは調べてないので、セメスター制かなぁと適当^^;
この過去編では1月にはニューヨークにいましたが、いろいろあって入学には間に合わなかったので、9月入学設定です。

※2インターンシップ… 学生が企業で一定期間、実際に就業体験をする制度。アルバイトとの違いは、どちらも賃金をもらえるが、アルバイトは職種によって多少の条件があるとしても、広くいろいろな世代の人を募集している。これに対しインターンシップは、おもに大学生・大学院生に対してのみ適応される制度。さらに、学部で限定されているケースもあり。アルバイトは収入のため、インターンシップは経験と成長のためという目的の違いがある。

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楓(さん)

こ茶子さん、こんばんは♪
しっかし 楓(さん)、気持ち悪い母親ですね。
もう! いつか ぎゃふんと言わせてやりたい(`A´)
〈・・・絶対、敗北は認めない母親でしょうけど・・・〉

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