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「愛してる、そばにいて」
第10章 贖う④

愛してる、そばにいて0993

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 「嫌いじゃないよ」
 胸に広がる安堵、そして、わずかな失望。
 彼女の言葉が、自分の問いかけに対して肯定ではないことに対して安堵する気持ちと、‘愛してる’とまでは言ってくれないことへの失望だった。
 …ふっ、当たり前じゃねぇか。
 まだ彼女が自分に慣れ親しんだ人間への‘好意’以上の感情を抱いてくれてはいないことをわかっていて、それでもいいといまだ彼女を束縛しているのだから。
 それでも、少なくても、かつてのように彼女に嫌われてはいない。
 今度こそ間違った道を選ばないと誓って、何度となく繰り返した過ちにもわずかな光明が見えた気がする。
 小さく柔らかなつくしの体の温もり。
 その香りを鼻先に嗅いで、抱きしめていればどうしても欲望が沸き立つ。
 だが、もう彼は誓いのとおり、彼女にこれ以上の無理を強いるつもりはなかった。
 たとえそれがどれだけ苦しくても、辛くても、
 ―――もう、二度と彼女に嫌われたくない。彼女を失いたくはなかったから。
 「それならいい」
 「………司」
 「まあ、このまま寝んのは、正直、今の俺にとって蛇の生ころがし…じゃねぇ、生たまご……でもねぇ、生………」
 どこかで聞いたような格言が思い出せない。
 「……生殺し?」
 「そうだ。生殺しだ」
 「ぷっ、司ったら」
 別にわざとボケたつもりはなかったが、この妙に重くなってしまった空気を変えることのきっかけにはなったようで、苦しげに表情を曇らせていたつくしが小さく噴き出し、わずかに晴れる。
 クスクスとひとしきり笑って、つくしも先程までどこかに残っていた緊張が緩んできたのか、体の強張りが解れ、自然に司の胸に手を置いてウトウトし出した。
 「……ねみぃの?」
 「ん……」
 すでにつくしの口調も緩慢で、瞼も落ちかけている。
 「なら、もう寝ちまおうぜ」
 チュッ、チュッとつくしの瞼や鼻先に軽いキスを落とし、あらためて彼女の華奢な身体を抱き抱え直して、司も目を瞑った。




*****




 「……静から?」
 プライベートルームに戻ってすぐ、司が脱いだ上着やネクタイを手渡された代わりに、つくしが差し出した手紙には、ずいぶん懐かしい人物の宛名書きが記載されていた。
 「へぇ……、ついにあっちで独立して弁護士事務所を設立したのか」
 司がつくしを連れ、ニューヨークへと渡米してかれこれもう4年、二人がフランスの名もなき小教会で、二人っきりの結婚式をあげてから3年の月日が経っていた。
 彼がこの幼馴染みの近況らしきものに触れたのも、数年ぶりのことになるか。
 たしか彼らが渡米した次の年、本来ならつくしが高校を卒業する年に、静から当時彼女が居住していたフランスで、所属していた弁護士事務所の同僚と結婚するとの報告を受けていた。
 藤堂物産の一人娘とも思えぬ地味婚で、身内と友人たちだけを招いた結婚式。
 司も当然、幼馴染みとして、他の3人の親友たちと共に招待されていたが、当時、司自身、実家との相克と闘争―――右も左もわからないビジネス界へ足を踏み入れたばかりで、まだ地位を確立してやれていなかったつくしのそばを離れるわけにもいかず、またさりとて彼女を同伴することもできずに、結局、静の結婚式は欠席していた。
 結婚式に出席した総二郎とあきらから、後で類も欠席したことを聞いている。
 「わぁ!今日のケーキは、モンブランとガトーショコラなんだぁ」
 彼の衣類を片付けに行ったはずのつくしの歓声が、ダイニングテーブルの方から聞こえて、手にした手紙を持ったまま司もそちらへと歩み寄る。
 屋敷には当然、専属のパティシエもいて、なまじな店よりもはるかに美味な菓子を常に食べることができた。
 しかし、つくしは司がたびたび目に付いた店で、買ってきた土産を殊のほか喜んだ。
 最初は本当に気まぐれ、ふっと空いた時間にたまたま思いついて購入のがきっかけだったのに、どんな高価なものを与えてもめったに喜ぶことがない彼女の嬉しそうな顔に、気が付けば気まぐれとは言えない頻度で、出先に行けば事前にリサーチまでして購入してやることが日常になっていた。
 「けっこう外まで長蛇の列になってたぜ」
 「え?まさか、司が並んでくれたの?」
 驚いて振り向くつくしの腰に両腕を回して、肩先に顎を乗せていた司が、「あ~」と視線を彷徨わせる。
 「……西田が」
 正確には第一秘書の西田がさらに部下に言いつけて、司が用向きを果たす頃までに用意させておいたのが正解だった。
 いつものことなので、つくしにしても司の間にある行間を読み取ったらしい。
 「遊びに出かけているわけじゃないんだから、一々お土産とか出張のたびに買ってきてくれなくてもいいのに」
 「……嬉しくねぇの?」
 「嬉しいけど」
 困ったような顔は迷惑というよりも、司に遠慮しているものなのだと今の彼には察することができた。
 チュッとつくしの頬にキスを一つ落として、腕の中の温もりを堪能するように腕に力を込める。
 「いいんだよ。お前が美味いって言って喜んでくれれば、それで。毎日ひーこら、コキ使われてる俺の数少ない楽しみ奪うな」
 「え~」
 今度の困ったような彼女の顔は、照れからくるものだとわかっていたから、司も軽いスキンスップだけでそう彼女を困らせることなく、両腕の力を抜き解放してやる。
 「あ、それ…」
 そのまま、持ち帰りの仕事をする前に、ひとっ風呂浴びるかと踵を返しかけた司の手にまだ握られている静からの弁護士事務所設立の知らせを目に留め、つくしに呼び止められる。
 「それ…って、前に結婚式の招待状をくれた人からの手紙でしょ?」
 「あ…ああ」
 「幼馴染みの…女の人、なんだよね?えっと、…その、なんだって?」
 別段隠すことでもないが、かといってつくしに興味を持たれる程のなんだというものでもなかった。
 だが、その間をどう思ったのか、ただ彼女の顔を見ただけの司に、慌ててつくしが前言を撤回しだす。
 「あ、いやっ、ごめん。詮索するとかそういうつもりじゃなくってっ」
 「いや、別にかまわねぇけど。……ほら」
 元々司はお喋りなタチではない。
 聞かれれば答えるし、彼女の楽しそうな合間合間に相槌を打って、連想したことを一言二言話すの常だったから、百聞は一見に如かずと手に持った手紙の封筒ごとつくしへと手渡してしまう。
 「え…見ていいの?」
 「見ろよ?」
 「……うん」
 恐る恐る手を伸ばし、既に切られた封筒から簡単な近況と本題が書かれた手紙と同封された写真を引き出し眺める。
 「……この人」




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