「愛してる、そばにいて」
第10章 贖う④

愛してる、そばにいて0990

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 「……いい」
 「え?」
 言葉に迷うつくしの声に被さって、司が彼女の言葉を遮った。
 「いい。お前は何も誓わなくて」
 目を見開く彼女の髪をもう一度撫で、わずかな苦笑と―――自嘲だろうか、唇の端に刻んで、司は彼女から視線をわずかに外して小さく吐息をつく。
 「もうお前に何も無理強いしたりしねぇって言ったろ?」
 「……司」
 まるでバカの一つ覚えのように彼の名前を繰り返し呼ぶことしかできないでいる自分。
 「それでいい」
 「え?」
 「そうやって、俺の名前を呼んでくれるだけでいいんだ。……他には望まねぇ」
 あまりに、あまりにささやかな望み。
 この世の全て、彼が望めば手に入らないものなどないに違いない。
 そんな彼が、自身のすべてをつくしへと投げ出して、それなのに彼女には何も望まない、ただ名前を呼ぶだけでいいと言う。
 「この結婚式や誓いは単なる俺の自己満足ってヤツだ。どのみちなにがあったって、俺はお前を離すつもりはねぇんだ。それなのに、お前にまたよけいなもんまで背負わせたりしねぇさ」
 誰よりも彼女を縛る男が、心を縛ることはしないと言ってくれるから。
 「よし、もう結婚指輪はしちまってるし、とりあえず、こんなところで終わりにしとく………」
 彼らを見守っている神父の方へと向きかけた司の腕を咄嗟に掴み寄せ、つくしはつま先立ちに司の頬へとキスを贈る。
 …ごめんなさい。
 こんなにも愛してくれているのに、応えられない自分で、と。




*****




 「なんだよ、まだ怒ってんの?」
 ガシガシと髪を豪快にタオルで拭きながら、司が寝室に戻ってみれば、ベッドに座り込んで雑誌の記事を見ていたはずのつくしが、彼の姿を認め、慌ててベッドの中へと潜り込んでしまう。
 あまりにあからさまなその態度に苦笑して、だが、そんな彼女の態度に腹が立つよりも、可愛いと思う自分におかしみを感じる。
 かつての自分だったら些細なことでも逆らうことを赦せなかっただろう。
 そして、今も彼女以外の人間だったら許せなかったに違いない。
 …どんだけだよ、俺も。
 教会で二人だけの結婚式をして後、つくしはホテルに帰るまでずっと膨れて、司を無視していた。
 司にしても、分刻みのスケジュールに無理やり予定外の寄り道をさせてから、気にはしていてもつくしの機嫌をとる暇がなかった。
 それまでと同じように、秘書と打ち合わせをする司の横で、いつの間にかつくしはぼんやり車の窓の外を眺めていた。
 だからよもや、ホテルに帰ってからもその怒りが持続しているとは夢にも思わなかったのだ。
 …いや、怒ってるつーのともちょっと違うか。
 怒ってる…のには違いないだろうが、それでも彼女のソレが、怒りよりも照れであることが今の彼にはわかっている。
 ほんのりとピンク色に染まった顔は泣きそうなのに、哀しそうではなくて、涙ぐんで潤んだ目元や耳の赤味が、彼女が感じている恥ずかしさや照れ臭さを司にも伝えていた。
 …全然違う。
 彼を怖がって、嫌ってーーー彼と居なければならないことを悲しんでいた頃の彼女とは違うのだと。
 そのことに気がついた時、司の胸に湧き上がったのは嬉しさだった。
 彼を愛してくれたわけではない。
 特別だと言われたわけではなかった。
 それでも自分が彼女にとって、ただ厭わしい、嫌って憎んでいるだけの対象ではないことが嬉しかったのだ。
 無造作にベッドに腰掛けて、蓑虫になってしまっているつくしの頭と思しきあたりを、ポンポンと小さく叩いて宥める。
 「機嫌直せよ?」
 「……………」
 「無視すんなって」
 「ボソボソッ……ボソッ……もんっ」
 「あ?なんだって?」
 ボソボソと呟かれた言葉を聞きそこねて、布団越しに彼女の口元のあたりに耳を寄せ、尋ね返す。
 「……おい?」
 語気を強めたわけではなかったが、それでもいつまでもそうしているだけでは拉致があかないとつくしも思ったのか、わずかに布団を持ち上げ、その隙間から何とも言えない複雑な表情の赤ら顔を覗かせた。
 「ぷっ、なんだよ、その顔」
 「わ、笑わないでよ!司が悪いんでしょっ!?」
 「……悪いって、なんでだよ?」
 もちろん彼女が何を抗議しているのかなんて、司にもわかっていたが、ニヤニヤと笑ってあえて彼女に答えさせる。
 「キ、キスッ!」
 「……キスぅ?」
 「そ、そうよっ。きょ、教会で、あんな厳粛な場所でっ、あ、あ、あんな、あんなキスするなんて、恥ずかしすぎるわよっ!!」
 「ああ、ディープキスしたことな」
 「……………っ」
 頬ではあったけれど、それでも彼女から初めてされたキスに有頂天になった司が、感激のあまり神父の前で、きわめてディープなキスでお返ししたことをつくしは怒っていた。
 「誓いのキスじゃん」
 「ど、どこがよっ!神父さま、呆れてたわよ!!」
 「別に俺らだけじゃねぇと思うけどな。…だいたい元々はお前の方からしてきたんだし?」
 「っ!!」
 それでも違うとは言わずに、てるてる坊主よろしく布団をかぶったままつくしがさらに赤くなった顔を両手で隠して呻く。
 他人の目を一切気にしない司にしてみれば、なにをそんなに恥ずかしがる必要があるのかまったくわからないことだが、些細なことでそんな風に恥ずかしがって拗ねている彼女を可愛いと思う。
 わずかに覗かせていた顔をさらに深くかぶった布団に隠して、ぷるぷる震えているつくしの様子に、司もからかいすぎたことを反省する。
 …ガキかよ。
 そうも思うのに、彼女が可愛くて愛しくて仕方がない。
 以前にもたしかにそう感じていたはずなのに、その感情の意味を彼は自分で自覚していなかった。
 彼女のコロコロ変わる表情が可愛くて、そんな彼女を見たくて……見つめられたくて。 日々を惰性で生きていただけの彼の前に現れた太陽。
 何をしていても彼女のことを考えずにはいられなくて、彼女のことを考えるだけで毎日が輝いた。
 …お前だけだ。
 彼を幸せにするのも、彼を絶望させることができるのも。
 自分が‘結婚式’などという姑息な手段で彼女をつなぎ止めようとしているのも自覚していた。
 いまや司も彼女がどんな女であるか理解している。
 優しさ、温もり、誠実さ、そんなものを当たり前のように信じて、人を疑うことを知らない女。
 愚直なまでの生真面目さで、つくしは常に人生を一生懸命に頑張っていた。
 以前は‘子供’で、……そして今は、彼女のお人好しにつけいって、司はそんな彼女を絆そうとしているのだ。
 …それでも、俺はっ。
 どんなに無様でも、何を犠牲にしようとも彼女だけが欲しい。
 以前の彼は、膝まづき、愛を乞うなどどれほどプライドが傷つくかと思っていたのに、自分の気持ちを認めてしまえば、何もかもが楽になった。
 今はまだつくしに愛されてはいないことくらい司にだとて察せていた。
 それでもあれほどこんがらがり解く方法さえ見つからなかったつくしとの関係が、司が変わっただけで、いとも簡単に紐解け、彼女も彼を厭うことなく戸惑いながらも受け入れてくれる。
 もちろん、彼女の‘記憶喪失’ゆえではある。
 それでも、司が彼女を支配しようとすればするほど遠ざかっていった彼女が、彼が膝を折りすべてを捧げることで、近づいてきてくれるのを実感してもいた。
 …お前はいつか俺のものになる。
 根拠もない確信。
 蹲るつくしを布団ごと両手で囲い込んで、そっと囁きを落とす。
 「しょうがねぇだろ?俺はお前にすげぇ惚れてんだぜ?お前があんまり可愛いことすっから、どわっとかぐわっとキちまって我慢できなかったんだよ」
 「だ、だって、あれは、誓いのキス…をしてなかったからっ」
 すっかり亀の甲羅かダンゴムシになってしまったつくしに、含み笑いを溢しながら、それでも彼女の可愛い顔が見たいと、甘えて、彼女を口説く。
 「なぁ、この間みたいに髪、またドライヤーでやってくれよ?……してくんねぇの?」




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