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「愛してる、そばにいて」
第10章 贖う④

愛してる、そばにいて0978

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 たとえ誰が待ってくれているわけではなくても、誰にとっても無意味な…それどこか疎まれているこの場所から逃げ出したかった。
 …でも。
 それが単なる逃避に過ぎないこともわかっている。
 日本に帰って、そこでもおそらく記憶のない自分と見知らぬ知人や友人たちとの齟齬に悩み、また逃げ出したくなるだろう自分が容易に想像できた。
 誰もいない。
 どこにも居場所がない。
 …家族がいる。
 つくしに彼らの記憶がないとしても、彼らはたしかにそこにいて、つくしのことを憶えていてくれているはずなのだ、……大切な家族だと思ってくれているはずなのだという想いを諦められない。
 「……なあ?」
 「え?」
 いつの間にか自分の中の物思いに耽って、司を意識の外に締め出してしまっていたらしい。
 らしくなく遠慮がちに呼びかけられ、慌てて司を振り仰ぐ。
 「あ、ごめんなさい。聞いてなかった。えっと、なに?」
 「ぁあ、それはいいけど。医者いかねぇ?」
 「え?」
 …医者?
 つくしは前回同様すでに完全流産の状態で、いまだ出血は続いていたが前回のように出血多量で死にかけるというような重篤な状態には陥らず、同伴させ産婦人科医師や看護婦もすでに昨日付で病院へと戻っている。
 「えっと、トオノ先生の予約は来週入ってるよね?」
 「……いや、産婦人科の医者じゃなく、精神科」
 精神科―――。
 驚きに目を瞠る司も言いにくそうではあったが、それでももちろんそんなことを言いだしたのは伊達や酔狂のはずがない。
 「今週、来週は……産婦人科の予約もあるし、ちょっとスケジュールが詰まってて難しいけど、再来週にはなんとか時間取るからよ。屋敷に医者を呼んでもいいし、俺と一緒に医者に診てもらわねぇ?」
 「………それって」
 急に喉が渇いた気がして、ゴクリと唾を飲み込み、けれど突っ張った感じがするだけで潤わずに、テーブルのミネラルウォーターのグラスに手を伸ばす。
 「あたしの頭がおかしいってこと?」
 日本は言うに及ばず、アメリカでも精神科の敷居は高い。
 当然、つくしにしてみても、自分の精神状態が危うい自覚はあったが、精神科に通うということになると、抵抗感は生半可なものではなかった。
 「そうじゃねぇよ」
 「だって、そういうことなんでしょ?」
 …でも、ちょっと鬱々としているってだけなのに。
 唯一味方であるはずの司にまで狂人扱いされたということが、ショックだった。
 震える唇を噛み締め俯いてしまったつくしに呆れたのか、司がため息をつく。
 「だから、そうじゃねぇって。ただ、お前にも自覚あんだろ?………眠れなかったりは、まあ、今回はしてねぇみたいだけど、流産だなんだでお前が鬱っぽくなっても当たり前のことなんだし、そもそもお前、妊娠前も不安定だったろ?」
 「………………」
 違うとは言えない。
 マリッジブルーやマタニティブルー、流産後半年以内の大欝はつくしに限らず世間でもよくあることで、日本からアメリカへという急激な環境変化も彼女の精神状態の悪化に一躍買っていることは間違いないだろう。
 さらにつくしの場合は、そうでなくても二重、三重にと精神的打撃を加えられてしまっていた。
 むしろ、いまだ曲りなりにともそれなりに自分を保っていられることこそ、彼女の強靭な精神力の賜物なのだ。
 そうしたことは飲み込み、司がなるべくつくしを刺激しないように言葉を選ぶ。
 「……俺が言える筋合いじゃねぇけど」
 ポツリと呟かれた言葉を怪訝に聞き咎める。
 「え?」
 「いや。通院とか継続的に診せるかはともかくとして、今のままだとお前だって辛いよな?」
 辛くないとはいえない。
 後ろ向きな自分が嫌だ。
 メソメソしてばかりで、少しも前向きになれない自分が疎ましかった。
 …あの看護婦さんが言ってたみたいに、あたしは恵まれてるのに。
 財力、名誉、家柄と三拍子揃った背景と、類まれな美貌とカリスマ性を兼ね備えた財閥御曹司という男が、何の取り柄もない平凡な女である彼女を妻に娶ってくれたばかりか、まるで掌中の珠のように慈しんで大切にしてくれている。
 誰に言われずとも、つくしにだって、それくらいわかっている。
 どれだけ周囲から嫉妬されようと、無視され蔑まれようと、それがどれだけ凄いことで幸運なことなのか。
 …でも、あたしが望んだことじゃない。
 そんな小さな声を無理矢理にねじ伏せる。
 「それに……それに、記憶喪失のこともあんだろ?」
 「……あ」
 もちろん忘れていたわけではなかったが、なぜかつくしには記憶を取り戻したいという熱意が希薄だった。
 ―――司同様に。
 時には、自分は本当は誰なのだろう。
 本当に今いる環境が、……司の妻でいることが正しいことなのかという疑問に苛まれることもある。
 けれど、記憶を探るということは自分の心の深淵を覗き込むことと同意だった。
 「お前の記憶喪失は外傷性のものじゃない」
 まるで厳かな神託のようなその司の言葉に、思わずつくしはビクリと身体を震わせる。
 「お前がどうしてもイヤだということは、俺も無理強いしねぇ。けど、……今のまま放置していることが、お前の為になるとも思えねぇんだよ」
 「………司」
 「俺も精神科の医者なんてよくわかんねぇけど、医者に診せることでお前の心が少しでも癒されるなら、そうしてやりてぇんだ。……な?考えてみてくれよ」




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