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「愛してる、そばにいて」
第10章 贖う④

愛してる、そばにいて0977

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 「つくしっ!」
 「……………」
 司の声掛けに、つくしがゆっくりと振り返る。
 彼女はベッドに腰掛け、ただぼんやりと蹲っていた―――いつか、彼から受けた仕打ちに打ち拉がれて魂が遊離してしまっていた頃のように。
 「つくし!!」
 足音荒くつくしのもとへと駆け寄った司が、彼女の両肩を掴んで揺すぶる。
 虚ろだったつくしの表情が、そんな彼の乱暴な仕草に顔を顰めて我に返った。
 まるで人形から人間に戻ったかのような、劇的な変化は彼女の心がまだ現に留まっている証。
 「つか…さ?」
 目を瞬かせたつくしが、鬼気迫る表情で彼女を覗き込む司を見上げて怪訝に首を傾げる。
 「……ハァ」
 「なに?どうしたの?」
 「お前………」
 「あ、お帰りなさい。ごめんなさい、さっき帰宅メールもらってたのに、うっかりしててお出迎えにも行かないで」
 シュンと項垂れるつくしの顔は、司を出迎えられなかった申し訳なさと、自己嫌悪に萎れてはいたが、さきほどまでのどこか危うさはすでに見受けられなくなっていた。
 それでも、あの顔を忘れることができない。
 いや、忘れるわけにはいかない。
 …こいつ、マジでヤバイ。
 本能が告げる警告を無視することがどれだけ危険なことか、司ももうすでに十分に思い知っていた。
 元々彼女は妊娠を望んではいなかった。
 それなのに、ここまで意気消沈し、落ち込んでしまっているのは、おそらく流産そのものだけのショックではなく、さまざまな要因が重なって、一時期陥っていた欝状態を悪化させているのに違いない。
 記憶を失ったからといって、心の傷までもが消えたわけではないという実証。
 いや、心の傷が癒えていないからこそ、記憶を取り戻すことがないのだ。
 その記憶があまりにも痛くて、辛く、苦しいものだから。
 持ったままでは生きてはいけないという彼女の心が作り出した防衛本能によるものだったのだろう。
 「あの、司?」
 「いや………」
 心配そうに見上げてくるつくしの頭を柔らかく撫でてやり、小さく微笑みかける。
 「そんなにすまながらなくていい。出迎えだって、お前は使用人じゃねぇんだから、一々そんなもんしなくていいんだぜ?」
 本心だ。
 …出迎えしてくれたら、むっちゃ嬉しいけど。
 それだけで幸せになれる、そんなことを言ったらこの目の前の女はきっと引くだろうことが、司にも容易に想像できる。
 つくしがいまだに彼の熱く激しい自分への恋慕に、戸惑っているのは司にもわかっていたことだった。
 「ここに戻れば、お前はいるんだし」
 「………うん」
 「それより、お前、夕飯食ってねぇんだろ?」
 「え?」
 夕飯どころか、昼も朝も、ロクにしていないことはメイドからの報告でわかっていた。
 昨日もその前も……。
 流産した当日や次の日は、彼女の気持ちを思えば食事が喉を通らなくてもしかたながいと司も見逃したが、さすがにあれから一週間近くが過ぎている。
 その間、食べたり食べなかったり。
 本人もそれなりにいつまでも俯いてばかりいられないと奮起しているようだが、あるいはもはや自分の力だけではどうにもならない問題なのではないだろうか。
 …医者に診察させるべきだ。
 道明寺家としての意向がどうの、精神科などを受診させてつくしの道明寺総帥夫人としての将来に傷を付けることがどうのと躊躇している場合ではないのはあきらかだった。
 …そのわりに、ババアが押し付けた家庭教師どもとの学習なんかは再開してやがるし。
 どうみてもそうしたことが、彼女の精神状態を悪化させる要因になりこそすれ、改善させられるとは思えない。
 「俺も飯、まだだし、一緒に食おうぜ?」
 ―――今日は会食があった。
 幸い司が未成年だということからアルコールこそ入ってはいなかったが、取引相手の都合に合わせた結果、二連チャンで夕食を食べるハメにな。
 もちろんメインは会談なのだから、二回夕食を食べたとはいえ、ガッツリと食事をとったわけではなかったが、それでもまったく食べないわけにもいかず、元々少食の司にとっては、正直、ここでつくしに付き合って食事を摂るのはキツかったが、それでも彼女一人に食事をしろと言っても、また食欲がないの一言で片付けられてしまうだろう。
 「…でも、あたし」
 「すげぇ腹減った。……俺、一人で飯食うの嫌いなんだよ。お前も知ってっだろ?」
 そうまで言われてしまっては、お人好しのつくしには断りをいれることができない。
 「ん、あ……ごめん、ご飯、作ってない。えっと、少し待ってくれるなら、急いで作っちゃうから」
 慌ててベッドから降りて、寝室を出ようとするつくしの上腕を掴んで引き止める。
 「いいよ、わざわざ作ってくれなくても」
 「……でも」
 揺れる眼差しが、自分が作りたいと言っているのはわかっていたけれど。
 「もう、こんな時間だし。お前の飯はめっちゃ食いたいけど、せっかく作ってくれても、お前もそんなに量食えねぇだろうし、俺にしても今晩のところは軽食で十分だからさ」 せっかくつくしが丹精込めて作ってくれる食事を残したりしたくなかった。
 さすがの司も、軽くつまむ程度ならともかく、つくしの作ってくれた食事とはいえ完食できる自信がない。
 「お前の飯食うのは明日の朝の楽しみに取っておいて、今日のところは厨房から簡単ものの運ばせて、それで済まそうぜ」
 どうしても、と言い張られれば、司も折れるつもりだったが、ジッと彼の顔を見上げ、つくしも我を張らずに頷く。
 「……ん、わかった。メイドさんにはあたしからお願しておくから、司は先にお風呂に入ってきちゃって?」
 「いや、メイドには俺から連絡しておくから、お前の方こそ風呂入っちまえよ?……お前もまだ夜着に着替えてねぇし、風呂まだなんだろ?」




*****




 目の前に料理の皿を並べられれば、それなりに口にすることはできた。
 とはいっても、いつものように一人っきりの食事ではなく、目の前でつくしの話に耳を傾け、相槌をうち、時には話題を振ってくれる人がいてくれるからこそではあっただろう。
 …司、疲れてるのに。
 『すげぇ腹が減った』というわりに、まさにつまむ程度で大して食が進んでいる風ではない彼の様子に、明日を考えてセーブしているというよりは、実は司がすでに食事を済ませてきていたことに思い当たる。
 元々、少食なタチで、大柄な体格なわりに食欲旺盛な男ではなかった。
 こんな時間なのだ。
 すでに22時を回ってしまっている。
 おそらく食欲がなくて、司が……というか、彼女を心配して気にかけてくれる人がいなければ、朝食や昼食をスキップしてしまいがちな彼女の為に疲れた小さなウソ。
 こんな時に、より強く感じられる。

 彼が自分を本当に愛して、大切にしてくれているのを。
 だから、言えなかった。
 ―――日本に帰りたいと。
 



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