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「愛してる、そばにいて」
第10章 贖う③

愛してる、そばにいて0975

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 ダダダダダッ、バァ――――ンッ!!
 大音響を立て、ドアをブチ開けた司が、はぁはぁと荒い息を整える間もなく、さっと視線を走らせた先にベッドに横たわるつくしを見つけ、足音荒く駆け寄ってくる。
 「つくし!」
 ‘Please be quiet.(※静かに!)ここは病院ですよっ、きゃっ’
 止めに入った看護師を半ば突き飛ばし、横たわったまま微動だにしないつくしを覗き込む。
 つくしは意識を保っていた。
 しかし、壁の向こう側へと青白い顔を向けたまま、呼びかけた司をチラリとも見ることなく、虚ろな目から止めどもなく流れた涙は、まるで彼女の感情そのものを流してしまったかのように、彼女からソックリ表情そのものが失われていた。
 誰よりも感情が豊かで、コロコロと変わる表情が可愛くて、魅力的な少女だったのに。。
 「つくし」
 先程までの勢いがウソのように、おそるおそる手を伸ばして、司がそっと彼女の髪に触れ、涙を指先で拭う。 
 とたん生ける屍のように微動だにしなかったつくしの目が横へ動き、自分を痛ましげに見つめる司へと流された。
 虚ろだったつくしの目が司を認め、
 「うっ」
くしゃりと顔が歪んで泣き顔に変わる。
 いままでも涙でいっぱいだった大きな目にぶわっと涙が浮かび上がり、……嗚咽と共に洪水のように溢れ出した。
 「つく…し」
 「つ、つかさぁ。えっ、えっ、えぅっ…ううっ。ぁあっ、ああっ、うわあああ、わああああああ」
 溢れ出したおめきは悲鳴だった。
 つくしの悲しみが絶望が、実質的な痛みさえ伴って司の心臓を指し貫き軋ませる。
 「つくしっ」
 幼児のように泣きじゃくりだしたつくしの頭を抱え込み、つくしの痛みを受け止める。 一度目の時には、彼女は嘆くことすらできなかった。
 そんな彼女を囲い込むことにばかり腐心して、司が嘆いてやることすらしなかった―――我が子の死を。
 「わあぁああん、ああああん、司ぁ、つかさぁっ、あああん」
 「……ごめんな。ごめんな」
 …お前をこんなにも悲しませて、苦しませて、泣かせるばかりの俺で本当にごめん。




*****




 ―――初期流産。
 どうやら、前回の流産と同じく、すでにつくしの胎内から胎児は流れてしまっているらしく、ほとんど完全流産に近い状態。
 医師の説明によると、司やつくしの危惧とはまったく違い、彼らのどちらのせいでもない胎児側の事情―――染色体異常によるものではないかという見解だった。
 元々流産自体全妊娠のうちの15%で起こるものなのだそうで、12週までの流産は流産全体の80%にも上り、ある意味つくしの流産は珍しい症例ではなかった。
 だが、たとえ珍しいことではなくても、心や体にダメージがないわけではない。
 望んで妊娠したとは言い難い。
 しかし、それでも記憶を失いいまだ確固たる自分という自意識がなく、夫である人物への愛を確信できないでいる彼女にとっては、お腹に宿った命は一つの希望であり、……今ある自分に繋がる人々や環境の中でなんとか自分がそこにいていいのだ、これでいいのだと思うことができる唯一の縁だったのだ。
 詳しい検査結果はまだ出てはいなかったが、おそらくつくしの場合も彼女自身が原因ではなく、胎児側の異常だろうというのが医師の見解だった。
 けれど、
 …あたしのせいだ。
 妊婦である自覚が乏しく、司に忠告されなければ、いや忠告されても無理に無理を重ねてしまっていた時がある。
 いくら妊娠が病気ではないにしろ、過剰な疲労や精神的ストレスが影響しないはずがない。
 …今、勉強なんかしなくても、全然かまわなかったのに。
 いくらそうするべきだと姑にも言われてしまったにせよ、それは強制ではなかったし、あくまでもつくしがそうと望んで従っていたのだ。
 司にはその必要はないのだと言われていたにもかかわらず。。
 結局、なにかをしたい、宙ぶらりんのままの自分がイヤで、何よりも優先すべきお腹の中の赤ん坊をではなく、自分自身を優先してしまった。
 やっと止まったと思っても、自分でも意図せずして次から次に涙が溢れて、どれだけ司が拭ってくれても拭いきれずに、彼女が頭を乗せている枕はもう涙でグショ濡れだ。
 どこか遠くで赤ん坊の泣き声が聞こえた気がして、……それだけで収まっていたはずの悲しみや喪失感がまたもぶり返してつくしを泣かせてしまう。
 「ふっ、…くっ…ぅ…ん……うっ…うっ」
 「ごめんな、車の準備はさせてあるから、もうちょっと様子見て大丈夫そうだったら急いで帰ろうな?」
 優しい司の声にさえ泣けてくる。
 それでもどうにかこうにか、つくしがコクンと一つだけ頷くと、司が優しく微笑んで涙でぐちゃぐちゃな彼女の頬へとキスを一つくれた。
 日本では通常、胎内に胎児や内包物が完全に胎内から排出されなかった場合は、器具によって子宮内からそれらを掻き出す掻爬手術をするのが一般的だが、欧米では掻爬手術は最後の最後の手段で、ほとんどが自然な完全流産を待つのが主流だ。
 稽留流産と呼ばれる胎内で胎児が死亡している状態のまま留まっている時でさえも、いつ始まるかわからない流産をただ待ち、中々始まらなかった場合にのみ、子宮収縮薬を使って人工的に流産させる。
 今回も医師から、このまま様子を見ていればいずれ前回同様、内包物も胎内から排出されるだろうという見解で、そのまま帰宅を勧められたのだが、前回出血多量によってつくしの命が危ぶまれたことから司が止め置かせたのだ。
 けれど、つくしは病院を出たがっていた。
 産婦人科という場所がら、遠くで聞こえる妊婦の連れた赤ん坊や子供たちの賑わいや声が妙に耳について、ここに留まっているのがいかにも辛かったのだ。
 どう病院側とかけあったのか、つくしの体調を心配した司が彼女の体調が完全に回復するまで、彼女を病院にそのまま入院させる話をつけたのだが、泣きじゃくって帰りたいと強固に主張する彼女に結局は折れた。
 ただずっと傍にいてやれないだけに、司は自分の心配との妥協案として、病院側と再度掛け合って、担当だった日系人の産婦人科医と、ベテランの看護婦を道明寺邸にまで派遣させることを半ばゴリ押しで了承させていた。
 …帰りたい、帰りたい、帰りたい。
 つくしの心を占めていたのは、皮肉なことに彼女が記憶を失う前にずっと願っていた願いだけだった。




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