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「愛してる、そばにいて」
第10章 贖う③

愛してる、そばにいて0973

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 「は?」
 面食らっている司の手を引き、強引にベッドに腰掛けさせてしまう。
 「乾かしてるから、司はパソコン開いてていいよ?」
 サイドテーブルの引き出しには、小型のノートパソコンがしまわれていて、ふと目が覚めた時に横を見ると、よく司がベッドに横になったまま画面を覗いていたりするのをつくしも知っていた。
 …気分転換に娯楽とかしてるんだったらいいんだけど。
 司の場合は、わずかな余暇さえもまるで自らに禁じているかのようだ。
 「いいよ、そんなもん別に。俺は自然乾燥で十分だし」
 「何言ってるのよ、濡れたままにしてるとキューティクルが開いちゃって、傷みやすくなっちゃうんだよ!」
 とはいえ、司の髪はクルクルに巻いている以外、女のつくしでも羨ましくなってしまうくらいに、手指にしっとりと肌触りがよく、艶々として美しい黒髪だ。
 …枝毛の一つもないよね。
 強く拒否するほどのことでもないと思ったのか、肩を竦め、つくしの好きにさせてくれる。
 「熱かったら言ってね」
 「……ああ」
 ベッドの上って膝立ちのまま司の背後に立ち、ドライヤーのスイッチを入れる。
 ブオォォォォォ―――ッと音を立て、出てきた温風を司の髪にあて、ざっと手櫛で空気を入れながら乾かしてゆく。
 …西田さんって、てっきり無愛想な人だと思ってたけど、ちゃんと聞いたことには答えてくれる人だったんだな。
 司の髪を乾かしながら、そんなことを思うともなく思う。
 現在の司の第一秘書の西田は、元々は司の母・楓の懐刀と呼ばれる人物で、司が道明寺HDの専務としてビジネスに関わるようになったことから、彼の教育係としてつけられた人物だと司から聞いていた。
 西田の役割は会社内だけのことに留まらず、司の学習面や体調面や日々のスケジュールの管理も任されているらしく、毎朝毎夕司の送迎にあたっている西田とつくしも顔を合わせない日はほとんどない。
 …もしかしなくても、あたしといるよりももっとずっと司と一緒にいるよね?
 会社での様子はわからないが、司の出張の同伴もしているらしいから、ほとんど365日ベッタリと言っても過言ではないだろう。
 しかし、そうであるにも関わらず、つくしとの接触は必要最低限、屋敷の使用人たち以上につくしにとっては取っ付き難い相手だった。
 そこには、ビジネスに関して何一つ知らない自分が、西田のような精鋭の秘書に気安く口を聞いてもよいのかという気後れもあったし、司の動向にほとんど興味がなかったこともある。
 …あたしったら、本当に司に頼ってばかりで。
 彼を好きになれない、愛せない、そんなことを悩みながらも彼に依存して、だというのにこれまでの彼女は自分の不満や悩みにばかり囚われ、司のことは見てあげていなかったのだ。
 司だって人間なのだ。
 疲れもすれば、心が苦しい時もあるだろう。
 つくしが慣れない世界に四苦八苦しているように、本来ならまだ学生のみの上で、いきなりビジネスの世界に叩き込まれて、戸惑ったり苦労したりしないわけがない。
 ―――もしかしたら、今日の専務はいささかお気持ちが荒れていらっしゃるかもしれませんが、どうか労わって差し上げてください。
 いつもは司がつくしに連絡を寄越す余裕がない時に、彼の急なスケジュール変更などによる社泊や出張の予定の伝達をするだけの西田が、そんなことを彼女へと告げた意図はいったいなんだったのか。

 実際には気持ちが荒れているところなど微塵も見せず、どこか疲労が色濃いようではあったけれど、いつもどおりの優しい司で、彼女への気遣いに満ちて、つくしに心配させるような素振りは欠片もなかった。
 けれど、
 …部屋に帰ってきた時の司の顔は、すごく落ち込んでるみたいだった。
 いつも自信に満ちて、不安や失望など感じたことさえないような顔をした男が、彼女の顔を見てホッとしていなかったか。
 思えば、そんな日はこれまでもいくらでもあって、きっとそんな日には司も落ち込まされるような何かがあったに違いないのだ。
 ―――今日、会食する予定だった取引先の代表にドタキャンをされまして。
 司が本来予定になかった早帰りをし、珍しく彼女と夕食を摂ることができたのはそんな理由だった。
 ―――時々、いえかなり頻繁にでしょうか。専務が挨拶や交渉を申し出られた相手が一度受けたにも関わらず、専務にではなく………社長や他の役員と先に話を煮詰めてしまって、専務との会談を本当の意味で形式的なものに留めてしまうことがままあるのです。
 西田のいう言葉は最初かなり回りくどく、つくしはなんのことを言っているのかサッパリわからなかったが、彼女がまったくわかっていないふうなのにため息をつき、噛み砕いて説明してくれた。
 ―――専務は立場はともかくとして、いまだ大学生ですらないまだ18才の少年です。
 道明寺財閥総帥の唯一の後継者として社交界では一目置かれる一方、ビジネスの場ではまだなんの経験もない見習いに過ぎない。
 ‘案山子の小僧と話をするほど暇ではない’とまで言われたこともあったそうだ。
 たとえ上辺だけでも司と会って話をしてくれればまだ良い方、あきらかに彼を上層部での交渉が決裂した場合の保険として繋ぎに使って、社長や他の実権を持った役員との交渉がまとまった場合には、今回のように土壇場で会談そのものに断りを入れられることも珍しくなかったらしい。
 …司は愚痴ったりしない。
 けれど、それはおそらくつくしにだけではなかっただろう。
 司はプライドの高い男だ。
 無視をされ蔑ろにされたことなど、誰にも話せるものではないだろう。
 しかし、話さないから、愚痴らないからと言って傷つかないわけではないはずだ。
 プライドが高ければ高いだけ、司にとってはショックなことだったに違いない。
 司には、婚家という有力な後見がいない。
 ホンの一時期は、司の伯父―――父親の従兄弟がその役割を担っていたが、司が実家に戻ったことで半ば決裂した状態で、かろうじて繋がりはまだ保っていたが、しかしそれもかなり危うい均衡の上でのことで、どちらかといえば互いに政敵であり上辺だけのことであるのは双方承知のこと。
 司が失敗することを内心では期待し、司とその両親を失脚させる機会こそ虎視眈々と狙ってただろう。
 そして、そうした婚家や油断ならない親族以上に強力な後見であるはずの両親との間も、現在微妙で、よもや一人息子の司が後継者から外されることはあるまいが、彼の両親は息子に対して見せしめるようにしてあえてそうした難易度の高い相手との交渉にバックアップもなくブツけていた。
 いや、おそらく正しく見せしめなのだ。
 ―――お前にはなんの力もない。力のないお前が親に逆らってやっていけると思っているのか、という。
 …あたしのせいなんだよね?
 つくしと結婚したから、なんの後見もないつくしを妻になど娶ったから、だから、司の父や母は………。
 「あちっ!」
 「あ!ご、ごめんなさいっ」
 髪を抑え、わずかに飛び退いた司の声に、つくしは慌ててドライヤーのスイッチを切る。
 「やだ、どうしよ。もしかして、火傷しちゃった?!」
 振り返った司が、青くなるつくしの頭をポンポンと小さく撫で苦笑した。
 「大丈夫だって、ちょっと熱かっただけだから、気にすんな」
 「……うん、本当にごめんなさい」
 「一々、些細なことで気にすんな」
 司の気遣う言葉に、つくしはただ首を横に振った。
 …あたしのせいで、ごめんね、司。




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