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「愛してる、そばにいて」
第10章 贖う③

愛してる、そばにいて0972

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 「え?なに?」
 司の言葉を捉え損ねて、つくしが聞き返す。
 「……いや、お前、もしかして伯父貴の屋敷の方がお前にとっては気楽だったのか、って思ってさ」
 「伯父様?」
 正直、それこそ思いもよらぬことで、つくしにしてみれば、司の伯父の屋敷だとてとてもではないが気安くも居心地も良いところだったとも言えなかった。
 「どうして?」
 「お前、伯父貴の屋敷にいた時の方が、まだのんびりしてただろ?」
 「……あ~」
 のんびり…という表現が正しいのかはわからなかったが、たしかにあれこれしなければならないという強迫観念的なものはなかったかもしれない。
 けれど、ニューヨークに来たばかりの頃は、過去のすべてを忘れてしまった自分と周囲の状況に怯えるばかりで、まるで夢の中にいるような感覚で自分でもどこかおかしかった自覚がある。
 今もその傾向がまったくないとは言えなかったが、それでもおそらく多少なりとも‘自分’というものを考え出せるだけ回復したのだろう。
 それに、
 …司がもっといてくれた。
 だから、
 「………誰ともおしゃべりとかしなくても、あんまり苦に感じていなかったんだよね、きっと」
 少なくても寂しいとは感じていなかった。
 それどころではなかったとも言えるが。
 「あ?」
 「あ、えっと、……やっぱりあたしって、少しおかしかったのかな?あの頃って」
 「………ああ」
 司も思い当たるフシがあったのだろう。
 いや、おそらく本人のつくし以上に強く感じていたのに違いない。
 顰められた司の秀麗な顔は暗く、陰鬱だった。
 「大丈夫、きっと頑張りたいって思えるのは悪いことじゃないと思う。あたしもね、何か一つでも自分に誇れるものが欲しいの」
 胸を張って、自分は自分だと言える自信が欲しい。
 でなければ、司に好かれていることすら信じられなくなってしまいそうだ。
 …だって、司はあたしなんかの何が好きなのか、それさえもわからないんだもん。
 きっと記憶があれば、たとえ身分違いでも、あまりに釣り合いがとれてない自分でも引け目に感じず、彼を信じられた気がする。
 けれど、彼を愛していた記憶さえないのだ。
 …自分を憶えてもいなくて、好きかどうかもあやふやなあたしなんかを本当に好きでいてくれるなんて、本当にありえるの?
 かといって、司がここまで自分に良くしてくれる理由はと考えても、彼の言うとおり彼が自分を好きだと、愛してくれている以外のどんな理由も思いつきはしなかった。
 つくしは迷子と同じだった。
 よりどころを失い、ただ不安で不安で仕方がない―――探しているはずなのに見つからない。
 自分を愛していない女を妻にしている司も、愛していない男を夫にしているつくしも、このままではずっと宙ぶらりんのまま、きっとこのままではそのどちらもけっして幸福になどなれはしない。
 …あたしは幸せになりたい。
 そして、生まれてくる子供のためにも、不幸のままでいてはダメなのだと。
 「司はあたしに何もしなくてもいい、好きなことをしていればいいって言ってくれるけど、でも、その好きなことさえ今のあたしにはよくわからない。自分のことなのに」
 「……つくし」
 「だから、できることからやってみたいの。もしかしたら、途中で挫折してしまうかもしれないし、イヤだって放り投げちゃうかもしれない。それでも頑張ったことは無駄にはならないんじゃないかな」
 「………………」
 「それでその頑張ったものの中から、これっていうものを見つけて、あたしらしさを探してみたい。司?」
 「ああ?」
 「いつも心配しさせてしまってごめんなさい。そして、ありがとう。でも、もう少しだけ頑張らせて?無理はしないからお願いします」




*****




 ソファでなんてゴロ寝しても疲れは取れないからと、つくしに風呂へと追い立てられ、ざっと汗を流して、湯船に浸かる。 
 アメリカ人には浴槽に湯を張るという習慣がなく、ほとんどの人間がシャワーを浴びておしまいだ。
 しかし、ここ道明寺邸ではそうした常識は当てはまらず、世田谷の屋敷同様、日本の一般家庭よりも遥か豪華な浴場を有し、ゆっくりと湯に浸かることもできた。
 …さすがにメイプルでも、こっちのホテルじゃ、せいぜいジャグジーがあるくらいで、こうはいかねぇからな。
 ほとんど日本人だという感覚すらない司だが、それでもこうして湯に浸かって疲れが落ちると感じる時だけ、自分が日本人なのだという感慨がある。
 けれど、おそらくつくしは違うのだろう。
 本当は―――、
 『日本に帰りたいか?』
そう、聞いたのだ。
 ほとんど衝動だった。
 そんな質問をするつもりなど欠片ともなかったはずなのに、優しく彼の髪を梳いてくれるつくしの小さな手の温もりに、ついそんなことを聞いてしまっていた。
 「はっ、聞いてどうする」
 濡れた髪から滴る雫を片手で拭い、その手を顔に押し当てたまま呻くように呟く。
 …どうせ、あいつが帰りたいと言ったって、帰してやるわけでもないくせに。
 帰してやれるはずがない。
 そんな自分をわかっていながら、尋ねる自分の欺瞞を嘲笑う。
 彼女を気遣うフリで、その彼女の苦悩や悲嘆を今も生み出しているのは自分だというのに、何食わぬ顔でそんなことを聞く意図を。
 司は自分が彼女にどんな答えを望んでいたのかを自覚していた。
 『お前、日本に帰りたいか?』
 ―――ううん、帰らない。だって、あたしには赤ちゃんと司がいるでしょ?




*****




 司がバスタオルで髪を拭きながら寝室に入ると、つくしが予想だにもしていなかったものを手に待ち構えていた。
 「はい、いつものミネラルウォーター」
 「……ああ、サンキュー」
 手渡されたペットボトルは特に妙なものではなかったが、ついマジマジと今しがたつくしがベッドのサイドテーブルに置いたものを見る。
 ついでつくしを見るが、つくしの方も彼が風呂に入っている間に風呂に入ってきたらしいが、すでに髪も乾かし終え、寝る準備万端な様子だった。
 「ん?なぁに?ビールの方が良かった?」
 「……いや、いいけど」
 嗜好品としてビールや、他の酒類を家に帰っても飲むことはあるが、つくしがいれば大抵のストレスは軽減されるので、必ずしも寝酒は必要としていなかった。
 「じゃ、ここ来て座って?どうせ寝る前にメールとかチェックするんでしょ?司がパソコン見ている間に、あたしが司の髪、ドライヤーで乾かしてあげるね」




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