FC2ブログ

「愛してる、そばにいて」
第10章 贖う③

愛してる、そばにいて0971

 ←愛してる、そばにいて0970 →愛してる、そばにいて0972
◇更新情報他雑文 『こ茶子の日常的呟き』へ
【君を愛するために】オススメ作品!?
ランキングもよろ(・ω-人)
ブログランキング・にほんブログ村へ
いつも応援ありがとう♪
**************************************

 「なんかお前、目…赤くね?」
 道明寺邸の家具としては小さなテーブルに二人向かい合い、つくしの作った食事に舌鼓を打っていた司が、料理を飲み下し、彼女の顔をジッと見て顔を顰めた。
 「え?そ、そうかな?」
 「……なんかあったのか?」
 部屋に戻ってきた司はかなりグタグタで、体力があるはずの彼でも相当キツい毎日を送っていることが一目瞭然な有様だった。
 もっともそれは昨日、今日のことに限らず、つくしにしても珍しいことではなかったが、それしても、まだ大学も始まっていない今でさえこんな状態で、この先大丈夫なのかと心配せずにはいられない。
 …いつも大丈夫だって言ってるけど。
 司は会社のことや勉強のこと、自分のことはほとんど喋らない。
 愚痴を言うような男ではなかったが、それだけではなく自分自身のことさえあまり語ることがなかった。
 だから、未だに司がどんな男で、何を考えているのかつくしにもわからないところがある。
 …今日だって、西田さんが話してくれなかったらあたしは何も知らないままだった。
 どうして司はいつも何も話してくれないんだろう。
 もしかしたら、だからこそ、彼のような男が自分みたいな体も弱ければ心も弱い、なんの取り柄もないような女を好いて大切にしているのが信じられない、自分の妄想かなにかのように感じてしまっているのかもしれなかった。
 「何かって、一日中お屋敷にいるんだもん、何かあったりするわけないじゃない?」
 あえて明るさを装って否定する。
 自分より頑張っている人に愚痴なんか言えない。
 青色吐息な状態でも愚痴を言わない人に、愚痴を言うことなどできるはずがないではないか。
 …我慢してるのはあたしだけじゃないでしょ?。、
 そして、その我慢もおそらくつくしのせいなのだ。
 司以外には個人的な会話を交わす相手がおらず、必要最低限必要なやりとりと勉強だけの毎日で、ほとんど情報を遮断された状態のつくしでも何ヶ月もこの屋敷に滞在していればわかってくることもある。
 …司って、元々このニューヨークのお屋敷にいたわけじゃないんだよね?
 つくしと同様、日本にある英徳学園に高等部まで在籍していたというのだから当たり前のことだろうが、それにしても、司の言葉の端々からも、彼が日本ではこのニューヨークでの生活のように、多忙を絵に書いたようなぎっしりと詰め込まれた毎日ではなく、わりにゆったりと自由に過ごしていたことが窺えた。
 ほとんど一日中顔を合わせない生活をいていても、彼がとてもプライドが高く、唯我独尊をゆく人間であることは容易に察せられたし、そうした男がいきなりビジネスの場に放り込まれて、どれだけの戸惑いとストレスを感じるものなのか。
 ―――この娘のせいで。
 たった一度顔を合わせただけの楓の言葉が妙に耳に残っていた。
 「家庭教師に苛められてんのか?」
 「えっ!?」
 「……奴ら、何人もの経済界やら政界著名一家の子息子女を叩き上げた連中だから、歯に衣着せねぇし、けっこう平気でムカつくことも言うだろ?」
 歯に衣着せぬどころか、けっこうなイヤミも頂戴してはいるが、
 「まあ、それはしょうがないよ。あたしがダメダメなのは本当のことだし」
 そんなことに参っているわけではない…はずだ。 
 「……お姉さん、綺麗なだけじゃなく賢い人なんだね」
 「は?姉貴?」
 「うん。フランス語の先生がお姉さんが小さな頃に教えてたけど、たった4才でも教えたことはすぐに吸収して、凄い優秀だったって」
 「ふぅん?」
 「やっぱりそういうおウチに生まれた人は、みんな優秀な人ばかりなのかな」
 …それに比べて、あたしは全然ダメダメだ。一生懸命に頑張ればできるってものじゃないんだよね。
 ならどうしたらいいのか。
 生まれながらの資質だと言われてしまえば、もうつくしにはどう努力しようもない。
 「はっ、姉貴云々はともかくとして、ガキの頃からガッツリ詰め込まれてる連中と比べてもしょうがねぇだろ。……なんなら家庭教師変えさせっか?」
 「え?」
 「ヤなこと言われてんだろ?クビにしちまえばいい」
 「そ、そんな」
 「別に教師なんかいくらでもいるんだ。たかが家庭教師風情が、お前を凹ませるなんて許しておけるか」
 …冗談だよね?
 しかし、司の顔は至極真面目で、どう見ても冗談のようには思えない。
 「そんな。何度教えられてもできないあたしが悪いんだもん。クビになんてしないで」
 あるいは、教師の方から辞めたいと申し出られてしまうかもしれなかったが。
 「じゃ、……やめるか?」
 「やめない!」
 司の言葉に、つくしは何を考える間もなく即座に首を横に振っていた。
 きっと、やせ我慢するな、無理するな、そんな必要はないんだからときっと言われてしまうのだろうけれど、それでも。
 しかし、
 「……そっか。俺は今もお前がそんな追い詰められたような必死こいた顔して、泣かされてまで頑張る必要はまったくねぇって思ってるけど」
 「こ、これは玉ねぎっ、そ!玉ねぎの汁が目に入っちゃって、痛かっただけで、泣かされたとかそういうのじゃないよ!」
 たとえ白々しいにしても。
 司も案の定、信じたわけではないだろう。
 けれど、微苦笑に顔を歪めただけで、そのことに関しては特に何も言っては来ない。
 「お前は昔から、そういう女だったもんな」
 「……え?」
 「俺はお前の痩せ我慢も強情も好きだからよ。お前がやりたい、頑張りたいって言う限りは邪魔しねぇ」
 「司」
 「他がどうだっていいいさ。外野の声なんて気にすんな。お前がやりたいようにやれ」
 口元に手をあて、つくしがとっさに俯いて涙を堪える。
 今度の涙は悔しさや悲しさなんかじゃない。
 言葉にするならたぶん‘嬉しさ’が一番近かっただろう。
 …でも、なんて言えばいいのかわからない。
 てっきりやるだけ無駄なことなどするなと言われてしまうと思っていたのに。
 …それなのに、司はあたしがやりたいようにやれって言ってくれるんだね。
 いつものように大きな手が彼女の頭をポンポンと小さく優しく撫でてくれる。
 「な?」
 「スンッ。……う、うん」
 「ただ、俺が言ってんのはお前がやりたいことは認めるってだけで、愚痴んなって言ってるわけじゃねぇからな?」
 「え」
 今度こそ驚かされて司を仰ぎ見る。
 ほとんど寝に帰っているような状態の毎日を過ごしている司が、彼女の屈託やストレスに気がついているとは思わなかったのだ。
 …でもそうだよね。
 司はいかにも傲岸不遜で他人の機微を気にするような男には見えなかったが、彼女に関しては事細やかな気遣いと優しさを見せてくれる。
 …優しい人。
 そんな彼をいまだ心のどこかで恐れ、……疑っている自分が奇妙なくらいに。
 「特に今は妊娠して大事な時期なんだし、体だけじゃなく、精神面でもよけいなストレス抱えたまんまにしたりしねぇで、俺には言いたいこと言えよな?」




*****




 風呂に入る前に、少し食休みをしたということで、なぜか居間のソファに横たわった司に膝枕をさせられてしまっている。
 「重いか?」
 ほとんど無理矢理につくしをソファに座らせて、強引に彼女の膝に頭を置いてしまったわりには殊勝な質問だ。
 …なんだか。
 思わずクスリと笑ってしまって、目の上に腕を置き目を瞑っていた司が怪訝に目を開け、彼女の顔を仰ぎ見る。
 「……なに?」
 「ううん。重いかって聞かれたら、そりゃあ重いけど、少しくらいなら大丈夫だよ。でも、こんなところで横になってるより、さっさとお風呂に入って寝ちゃった方が疲れは落ちるんじゃないの?」
 ふっと小さく笑っただけで、司が再び目を瞑ってしまう。
 …ヤだ、ってことだよね?
 無意識に司の髪に手を触れ、梳いた感触は意外にも柔らかく手触りがいい。
 …なんだかペットみたい、とか言ったらきっと怒られちゃうんだろうな。
 気持ちよさそうに目を細めているところがまたよけいに彼女にそんな感慨を深めさせてしまう。

 司ならばジャガーや豹のようなネコ科の大型肉食獣になぞらえるのがぴったりだろうか。
 …全然ペットとかじゃないか。
 けっして、人の手に慣れることはない危険な獣。
 けれど、だからこそよけいに彼らは気高くも美しいのか。
 「……お前さ?」
 「ん?」
 てっきり眠ってしまったのだと思っていた司が、ポツリと囁きにも似た小さな声で呟きを落とす。
 「なに?司」
 「お前………に帰りたいの?」




web拍手 by FC2

関連記事


総もくじ 3kaku_s_L.png イベント
総もくじ 3kaku_s_L.png だから今日も I'm so happy…百回分の花をあなたに
総もくじ 3kaku_s_L.png ******【司×つくし】******
総もくじ 3kaku_s_L.png 愛してる、そばにいて
総もくじ 3kaku_s_L.png 百万回の微笑みを愛の言葉にかえて
総もくじ 3kaku_s_L.png 陽のあたる処でシリーズ(短編集)
総もくじ 3kaku_s_L.png Fly me to the havenシリーズ…36話完
総もくじ 3kaku_s_L.png アネモネ…全171話完+α
総もくじ 3kaku_s_L.png ******【類×つくし】******
総もくじ 3kaku_s_L.png 中・短編+
総もくじ 3kaku_s_L.png パッション…①24話②22話完
総もくじ 3kaku_s_L.png 陽だまりの詩シリーズ(短編集)
総もくじ 3kaku_s_L.png ****【総二郎×つくし】****
総もくじ 3kaku_s_L.png 中・短編-
総もくじ 3kaku_s_L.png ****【あきら×つくし】****
総もくじ 3kaku_s_L.png 中・短編^
総もくじ 3kaku_s_L.png ***【その他CP】***
総もくじ 3kaku_s_L.png 中・短編'
もくじ  3kaku_s_L.png 倉庫
総もくじ  3kaku_s_L.png イベント
総もくじ  3kaku_s_L.png だから今日も I'm so happy…百回分の花をあなたに
総もくじ  3kaku_s_L.png ******【司×つくし】******
総もくじ  3kaku_s_L.png 愛してる、そばにいて
総もくじ  3kaku_s_L.png 百万回の微笑みを愛の言葉にかえて
総もくじ  3kaku_s_L.png 陽のあたる処でシリーズ(短編集)
総もくじ  3kaku_s_L.png Fly me to the havenシリーズ…36話完
総もくじ  3kaku_s_L.png アネモネ…全171話完+α
総もくじ  3kaku_s_L.png ******【類×つくし】******
もくじ  3kaku_s_L.png 拍手小話+
総もくじ  3kaku_s_L.png 中・短編+
総もくじ  3kaku_s_L.png パッション…①24話②22話完
総もくじ  3kaku_s_L.png 陽だまりの詩シリーズ(短編集)
総もくじ  3kaku_s_L.png ****【総二郎×つくし】****
総もくじ  3kaku_s_L.png 中・短編-
総もくじ  3kaku_s_L.png ****【あきら×つくし】****
もくじ  3kaku_s_L.png 拍手小話^
総もくじ  3kaku_s_L.png 中・短編^
総もくじ  3kaku_s_L.png ***【その他CP】***
総もくじ  3kaku_s_L.png 中・短編'
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
もくじ  3kaku_s_L.png ストック
もくじ  3kaku_s_L.png R短編集
もくじ  3kaku_s_L.png アネモネ R
もくじ  3kaku_s_L.png 恋愛の品格 R
もくじ  3kaku_s_L.png 愛妻生活 R
  • 【愛してる、そばにいて0970】へ
  • 【愛してる、そばにいて0972】へ

~ Comment ~

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます
管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【愛してる、そばにいて0970】へ
  • 【愛してる、そばにいて0972】へ
にほんブログ村 小説ブログへ💛
スポンサーリンク