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「愛してる、そばにいて」
第10章 贖う③

愛してる、そばにいて0970

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 『あんたのそれはね、ペットの可愛がり方よ。……たしかになんだか何に対しても自信なげで、頼りない感じがする子だけど、そうやってあんたから話を聞いてみると、実際にはけっこう自分の意思をちゃんと持ってる子みたいじゃない?』
 姉のつくしへの評価には、どうしても苦笑せずにはいられない。
 彼女が現在のつくしを見て、そう評価するのももっともなことなのだが、しかし、元々のつくしはそうではなかった。
 …俺がそうしちまった。
 勝気で、司にさえ歯向かってくる勇気と気概を持っていた彼女を壊し、変えてしまったのは司なのだ。
 『………今は大事な時でもあるし、そういう意味では私も無理をさせない方がいいっていうあんたの意見には賛成だけど、だからといってつくしちゃんがやりたいというものを何でもかんでも否定して取り上げてしまうのもどうかとは思う』
 「とりあげるつもりなんかじゃねぇよ」
 できることなら彼女がしたいと思っていることはなんでもさせてやりたい。
 けれど、本当に道明寺家の花嫁修業と称したスパルタ教育を受けることが彼女の望みなのだろうか?
 …全然、そうは見えねぇ。
 たしかに強要されているというわけではなく、自分からもやる気を持って真摯に立ち向かっているようだが、日々生気を失ってゆく様子に、ただ単純に学ぶことが好きでそうすることを楽しんでいるようにはとても見えなかった。
 おそらく学習がどうだとか、学力の問題以外のことを彼女が思い悩んで、その突破口として明後日の方向に逃げたとしか彼には思えなかったのだ。
 だからといって、それがいったい何なのか、いったいつくしが何をどう思い悩んで、本当のところは何を悩んでいるのか、つくしが何も言わない以上、司にも察しようがない。
 …時間とってやんねぇと。
 そう本気で思っているのに、けれど、どうして自分はそれを実行に移さないのか。
 …時間がねぇからだ。
 そのとおりだ。
 しかし…。
 もしも、つくしの心の奥底にある本当の望みを掘り下げ、曝け出させ、……聞いてしまったのならば、自分は今のこの毎日を平然と続けていけるだろうか。
 ―――うちに帰りたい。
 ゾクリとした。
 耳の奥底、いや脳のどこかに焼き付いているつくしの泣き顔と声が蘇って司は知らず身を震わせる。
 自分自身の中にあるエゴに気が付いて。
 …俺が身勝手なのはいまさらだ。
 自分がエゴイストであることなど、当の司自身がよくわかっていることなのだ。
 けれど、そうした開き直りのどこかに、まだ彼にも良心というものが多少は残っているとでもいうのか。
 つくしを一度壊してしまって、それだけで自分はまだ飽き足らないのかと、冷静な自分が自分を責め苛む。
 だが、いまさら彼女を失って、果たしてそれで自分は生きていけるだろうか。
 …馬鹿な。 
 いくら彼女に依存してしまっているにせよ、自分はそこまで情けない男ではないはずだ。
 『つくしちゃん、悪阻の方はあんまりひどくないんだっけ?』
 「あ?…ああ、らしい。前々から胃の調子はあんま良くなかったみたいだし、今のところ、モノ食わないと具合悪くなったりはするみてぇだけどな。かといって、食欲があるってわけでもねぇみたいだけど。とにかく、そういうのはあるけど、ゲェゲェ吐いて何も食えねぇとか一日中気分が悪いとかいうほどじゃないらしい」
 司にもしても二回目のこととはいえ、いまだ妊娠のメカニズムをそれほど詳しく理解しているわけではなかった。
 ただ前回よりは、経験からある程度は察しているつもりではあるのだが。
 『まあ、妊娠は病気じゃないから、あんまり大事にしすぎても良くないらしいしね。具合が悪い時くらいは、家庭教師の授業は休むようにあんたからよく言ってあげなさいよ?』
 「わかってる」
 つくしはかなり生真面目なタチで、こうと決めたら頑固なところがある。
 基本、司にも従順だが、それでも無理はやめろといっても、無理をしすぎるきらいがあった。
 おそらくそれは反抗ではないのだが、無自覚の懸命さが裏目に出てしまっているのだろう。
 …ピアノだのバイオインだの、俺だってロクに弾けねぇつーの。
 趣味でやる分にはいいが、鬼気迫る顔で苦しそうに楽器の前に座っているつくしは、どうみても楽しそうでも、やりがいを感じているようでもなかった。
 …やっぱ一度はちゃんと時間とって、あいつの話聞いてやんないと。
 しかし、これまで他人の気持ちを聞き、その相手の気持ちに添ってやるという経験がまったくなかった司にこそ、そうしたことは難しくどうしていいかわからない部分だった。



*****




 グスッ。
 鼻を啜って、垂れてきそうな鼻水だけではなく涙を堪えて、そっと目を瞬かせる。
 「もうやぁね、玉ねぎってどうしてこうアメリカのでも日本のでも目が痛くなっちゃうんだろ……って、あたし日本の玉ねぎがどんなのだったかなんて憶えてないはずなのになぁ」
 けれど、ふと呟いた言葉に自分の過去が窺える。
 相変わらず自分自身のことや、人間関係に関しては欠片とも思い出せなかったが、それこそ日本の玉ねぎも皮を剥いたり切ったりすると目に痛かったなどなど、自分が日常的に料理もすれば、普通に掃除をしたりしたのだし、逆に他人に洗濯物を任せるような生活はしていなかったということが自然に察せられた。
 …あたしって、本当にこういう生活とは縁のなかった普通の家の子だったんだなぁ。
 トントンと軽快な音を立てての包丁捌きにも危なげがない。
 今日は、司が家に仕事を持ち帰ってやるから早めに帰れるからということで、夕食を一緒に摂る約束をしていた。
 「……この間、司に連れられて行ったパーティでも、やっぱりなんかあたしだけ浮きまくってたし」
 誰も彼もが同伴している司におもねり、いかにもつくしに好意的だったが、その目に浮かぶ冷たい蔑みや好奇をどうしても感じずにいられなかった。
 …どうしてだろ。あたし、そんなに敏感な方じゃないって思うんだけど、けっこう神経質なのかな。
 あるいは、被害妄想の塊になっているのかもしれない。
 そんな自覚もある。
 だか、その一方で、
 …あたしはあの目や空気を知っている。
 たとえ、司のいないところでは話しかけても聞こえなかったフリをされたり、彼女が懸命にコミュニケーションをとろうとなんとか駆使した英語を笑われてしまわなくても、なぜだかそれがわかるのだ。
 …あ、いけない。早く作っちゃわないと司が帰ってきちゃう。
 司も毎日限界まで頑張っていることがつくしにもわかるから、家に帰ってきたのなら少しでも気遣ってあげたい、リラックスさせてあげたいと思う。
 …あたしを大事にしてくれる人だもの。




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