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「愛してる、そばにいて」
第10章 贖う③

愛してる、そばにいて0968

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 帰宅して開口一番、お前の一日のスケジュールはいったいどうなってんだと言われ、楓の秘書だという人に渡された一覧を手渡した。
 着替えもせずにその用紙を片手にざっと目を通した司の目が険しくなって、すぐにどこかに電話をかけ出す。
 「おいっ、どういうこった!なんであんたが、こいつの一週間の予定表なんつーもんを作成しなきゃなんねぇんだよ?はぁ?なんだそりゃ!」
 さっきからこんな調子だ。
 どうやら司がほとんど一方的にがなり立てているだけで、ほとんど相手にされていないらしいのが、彼の表情がドンドン険しさを増してゆくことでつくしにもわかった。
 「つくしが了承したことだからって……おいっ!!勝手に切ってんじゃねぇよっ、クソッ!」
 「つ、司!」
 いきなり手に持っていた携帯電話を司が床に投げつけたことにギョッとして、毛足の長い絨毯敷の床にゴツッと鈍い音を立てて転がった携帯電話をつくしが慌てて手に取った。
 見たところ傷らしい傷もなければ、壊れているようには見えないが、精密機械だ、見た目だけではその是非は判断しようがない。
 「こ、壊れてたら、どうしよ」
 「ほっとけ」
 「ほっとけって、これ仕事用の携帯電話なんでしょっ?」
 つくしが差し出した携帯電話を、それでもチッと舌打ち一つで受け取って、司が軽くいくつかのボタンを押して故障を確認してゆく。
 「…別に、壊れてねぇし」
 「良かったぁ~」
 当の本人よりよほど、つくしの方がホッと安堵して大きく息を吐き出した。
 「そんなことより、お前、ちゃっとそこ座れ」
 「……え」
 「話がある」
 先ほどからの司の言動や、電話の内容を聞いていれば何の話かはつくしにだとて容易に察しがつくことだ。
 「えっと、……いつもよりは早い時間とはいえ、もう22時になっちゃうし、先に司、お風呂に入って着替えてきちゃったら?」
 「座れって言ってんだろ?」
 「………………」
 つくしに怒っている…というわけではなさそうだが、それでも怒りに爛々と目を光らせた司はどこか獰猛な肉食獣のようでつくしを怖じけさせていた。
 そんな彼女の気持ちが、司にも伝わったのか、座れの一点張りで、つくしの気遣いにも一顧だにしようとしていなかった司が大きく息を吐き出し、鉾を収める。
 「ハァ……わかったよ。風呂入ってくる」
 「えっと、お夕飯は?」
 「機内で済ませてきた」
 「そ、そうだよね」
 もう夜食の時間帯だ。
 いつニューヨークに戻ってきたのかは知らないが、それでもつい数時間前にこれから飛行機に乗るところだとメールで連絡が入っていたのだ。
 「お前、携帯見てねぇだろ?」
 「あ!」
 司は、かなり事細やかに自分の事情を一々報告してくるマメな男だ。
 ニューヨークに戻ってきたことも連絡してきたのだろうと、いまさらながらに気が付いて、慌てていつも立てかけてあるキッチンカウンターの充電器へと目を向ける。
 が、
 「あれ、携帯がない」
 「……はぁ~、またかよ?お前のことだから、また寝室かどっかに置きっぱなしにしてんじゃねぇの?」
 「え~、そんなことないよ。司がロスから飛行機に乗るっていうメール、ちゃんと見たもん。あ!そうだ、ドイツ語の授業の時に怒られちゃって、電源切ったまま学習室に置いてきちゃったんだ」
 「……お前を怒るようなヤツがいんのかよ」
 浴室に向かいかけていた司が再び振り返って、眼光を鋭くする。
 「えっとぉ、それはまあ仕方ないことかなぁって……」
 司の剣幕につくしの語尾がムニャムニャと勢いを失って行く。
 …そりゃあ教わってる立場なんだもん。怒られることだってあるよ。
 「それになんだ、フランス語にドイツ語だぁ?英会話はまあ、こっちに暮らしている以上必須だから最優先でお前にも教師つけたけど、経済学といい、どんだけお前に詰め込むつもりだあのクソババァ。あれだこれだと、そんなもん俺はお前にやらせろだなんて言った憶えねぇぞ?」
 「……そのお義母様が」
 「………………」
 司も彼女の楓から課せられた学習計画表を一読したのだ、もちろんわかってるに決まってる。
 オドオドと彼を上目遣いで窺うつくしの顔に、司も気持ちを抑えて一旦は自分が折れた。
 「しょうがねぇな。俺も寝不足と疲労で気が立ってっから、ツマンネーことでお前を怒鳴りつけちまいそうだし、とりあえず風呂入って気分変えてくるわ」
 「う、うん」
 司が激しい気性なのはつくしにももうわかっていることだが、それでも彼が気分で彼女を怒鳴りつけたり、八つ当たりするようなことはなかった。
 それが彼の努力であり、つくしへの愛情であることもわかっている。
 …司、あたしが勉強するの反対なんだ。
 つくしもまたショックを感じていた。
 「……勉強すんのが反対なんじゃねぇよ」
 「あ」
 気がつかないうちにまたも内心を口に出してしまっていたのだろう。
 困ったような顔の司が、彼女の頭を小さくポンポンと叩いて宥める。
 「ただ無理させたくねぇだけ。風呂入ってくっから、お前は……」
 まだ洋服姿の彼女を見てわずかに首を傾げたところからして、風呂に入ったかどうかを尋ねられたのだろうと見当をつける。
 「えっと、あたしもお風呂、まだだけど」
 「……一緒に入るか?」
 ギョッとする。
 前にもたしか何度か誘われたことはあるが…、
 「じょ、冗談」
慌てふためき首を横に振りまくるつくしの態度に、司もあっさりと諦め苦笑して、今度こそ踵を返す。
 「別に冗談じゃねぇんだけど、まあ、いいや。お前もイロイロと疲れてるだろうし、俺はサブの寝室の方の風呂入るから、お前も風呂入ってこいよ」




*****




 気分を変えてくると言ったとおり、秀麗な美貌に滲む疲労は相変わらず色濃かったが、それでも先ほどまでの殺伐とした空気は鳴りを潜め、司もつくしの話を冷静に聞く余裕が出たらしい。
 傍によるのも躊躇われるような、危険は気配はもう彼からは感じられない。
 …良かった。
 「あのね、司が心配してくれるのはすごく嬉しいけど、妊娠は病気じゃないんだって」
 司の片眉が器用に上がった。
 「だから?」
 「……あたしも勉強がしたい」
 「勉強ってお前」
 「働くのでもいいんだけど」
 「は?ありえねぇだろ」
 バッサリ切られてしまったが、つくしも想定の範囲だから苦笑するだけで落胆はしない。
 「今も有名大学の教授とか、著名な人をわざわざあたしの為に呼び寄せてくれて、最高水準の勉強をさせてもらってることはわかってる。でもそれって、……英会話とかここで生活する上で最低限必要なマナー、途中で通えなくなった高校の勉強を補う為くらいで、すごく緩くだよね?」
 「…………………」
 つくしが言うほど緩いわけではなかったが、彼女が司と引き比べてそう言っているのは、彼にもわかった。
 「司は凄い頑張ってるのに」
 それがひどく申し訳なく、そして……悔しい。
 「あたし、…以前はどうだったのかわからないけど、でも、今の自分の生活が普通じゃないことくらいわかってる」
 「……普通じゃない?」
 戸惑ったような司の顔に、つくしもなんと説明していいいのか迷う。
 それでも自分の中を探り、精一杯に伝える努力をする。
 「その…お金持ちの生活がとか、そういう意味じゃないの。まあ、ある意味それも普通じゃないんだろうけど、そうじゃなくてね。……司は9月から大学生で、今はその準備とおウチの仕事を手伝いながらビジネスの勉強を頑張ってるでしょ?」
 「まあな」
 「メイドさんにはメイドさんの仕事があって、シェフさんにはシェフさんの、庭師さんには庭師さんの仕事がある。このお屋敷の人でなくても、学生には学生の、誰かの奥さんには奥さんの、お母さんにはお母さんの仕事や役割、やらなければならないことがあると思うの」
 「……………」
 「じゃあ、あたしは?あたしは何をすればいいの?……司の奥さんとしても、あたしには何もやることがない。家事をやったりする人は別にいて、司のお仕事のサポートをしようにもあたしには何もできることがないよね?」
 つくしの訴えは司には意外なことだったようで、その顔にはあきらかな驚きが現れていた。
 「何をって好きなことしてればいいじゃねぇか。何もわざわざ苦労なんてしなくても、買い物でも、趣味でもなんでも、やりたいことをして楽しくしていればいい。俺はそれで全然かまわねぇ。お前はただそこにいてくれるだけで、俺の傍にいればそれでいいんだ」
 司はきっとそう言ってくれる気がしていた。
 自惚れかもしれないけれど、でもきっと彼ならそういうだろうと。
 でも、と、つくしは緩く首を横に振った。
 真剣な顔で。
 自分の気持ちを彼にわかって欲しい。
 「あたしはそれだけじゃ、イヤなの。贅沢なのかもしれないけど。……何も努力せずに得たもので、本当に大切なものなんてないのと一緒で、本当に幸せを感じる為には、何かを一生懸命に頑張らなきゃダメなんだよ」
  



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