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「愛してる、そばにいて」
第10章 贖う③

愛してる、そばにいて0964

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 司の欲望を感じ取り、ドキドキとつくしの心臓がイヤな音を立て鳴った。
 冷や汗が流れる。
 先程まで犬だと思っていたものが、狼だと気がついた瞬間のようなヒヤリとした緊張感。
 妙に互いの呼吸音と自身の心臓の音だけが耳について、彼女の緊張を否が応にも高めた。
 …ど、どうしよう。
 司も彼女が今妊娠初期で、流産の危険がもっとも高い時期にいることは承知しているはずだ。
 …だけど。
 心の奥底にある不信感が拭えない。
 つくしが現在の‘つくし’として目覚めた当初から、ずっと胸の奥底に凝おって、なぜかけっして解けることがない疑い。
 この男を信じてはならないのだと。
 いつか、また再び彼は自分を壊してしまう、きっと。
 今までもそうとは知らず、避妊具を使用しなかったり、激しいセックスをしてかなり危険なことをしていた。
 いいなりに流されて良いことであるはずがなかった。
 意を決して―――、
 「つっ……」
 「ハァ~~クソッ!」
 呼びかけようとしたつくしの声を遮り、いきなり悪態をついた司が、抱き込んでいた彼女の身体を離して身体を起す。
 「お前を抱きたくてしかたねぇっ」
 「つ、司」
 恐怖に体が強張った。
 「風呂でヌいてくる」
 一声言い捨て、司がベッドを降りて浴室へと向かった。




*****




 「なんだよ、お前、寝てなかったのかよ?」
 それがさっき、つくしが浴室から出て来た時のセリフと同じ問いかけだったことに、司も気がついたのだろう。
 互いに顔を見合わせ、ぷっと小さく笑い合う。
 いくら夏だとは言え、真夜中だというのに、何度もシャワーを浴びてはそんなことを質問し合っている自分たちがなんともおかしい。
 「……ごめんね?」
 「何謝ってんだよ?」
 怪訝そうに問い返されて、つくしも上手い言葉が思いつかずに曖昧に首を振り、再び横に滑り込んできた司のまだ濡れている髪をなんとなく眺める。
 「髪、乾かして来なかったの?」
 「すぐ乾くし」
 「でも……」
 「なんか目が冴えちまったから、もう少し起きてる。お前はいいからもう寝ろよ?」
 「……ん」
 目が冴えてしまったのはつくしも同じことだ。
 どうやら司は言葉のとおり、もうしばらく起きているつもりのようで、サイドテーブルの引き出しから超小型のノートパソコンを取り出して、ベッドヘッドを背もたれがわりに座って、なにやら画面を覗き込んでいる。
 …仕事かな。
 もうしばらく司も起きているつもりながら、少しくらいたわいない話をしたいと思ったけれど、もし仕事をしているのなら話しかけたりしたら迷惑だろうと遠慮してしまう。
 しかし、なんとはなしにそんな司を眺めていた彼女の視線に気がついたのだろう。
 「寝ねぇの?」
 「…あ、あたしもちょっと眠れなくて」
 「ふぅん」
 「えっと、司は仕事?」 
 「いや、まさか。…ちょっとした暇潰しにネットサーフィンしてただけ。もしかして、液晶のライトが眩しいか?」
 「いや、そういうんじゃないけど。…その、もしよかったら、その…おしゃべりとかしてていいかな。そんなにがっつり聞いてくれなくてもいいから」
 「別にいいぜ?」
 あっさり許可され、嬉しさにつくしの顔が知らず輝く。
 そんな彼女の顔を見る司の顔も優しい。
 逆にジッと見られて、照れてしまう。
 「なに?」
 クシャクシャッと髪を撫でてくれる司の大きな手の感触に目を細めてながら、つくしが尋ねかける。
 「いや、笑ってるからよ」
 「うん?」
 「お前って、そんなたわいないことでも喜んだり……よく笑う女だったんだな」
 「ええ~?」
 妙にシミジミとした口調での呟きはどこか切なく、自嘲気味だった。 
 「司?」 
 「で?何を話したいって?」
 しかし、その意味を問う前に司が話を変えてしまう。
 「あ、えっとね」
 片手間でいいと言ったし、司もパソコンを閉じはしなかったが、それでも先ほどまで動いていたマウスパットを滑る指の動きは止まって、司の顔もパソコンの画面ではなくつくしの顔を見下ろしていた。
 「……でね、日本語語の先生がおっしゃってたんだけど、泡沫って‘うたかた’とも読むけど‘ほうまつ’とも読むじゃない?ほうまつはともかく、うたかただなんて、普通だったら読めたりしないのに、当て字にしてもなんでそんな風に読んだりするんだろって思ってたら、‘泡沫’っていうのは古代中国語が由来の熟語で、日本語にあった‘うたかた’を翻訳したからなんですって!まさか、日本じゃなくってアメリカでそういうことを教わるとか思わなかったから、違う意味でもへぇって」
 「へぇ」
 司までもが感心してくれて、それだけで嬉しくなってしまう。
 アメリカにまで来て日本語というのもなんだが、つくしはまだ高校生だったのだ。
 日本語教育も終了していなかったから、つくし自身が望んで一通り一般教養としての日本で受けるはずだったものも家庭教師から学んでいた。
 「こういうのって熟語の訓読みって意味で熟字訓って言うらしいけど、あらためて思うのが日本語って本当に綺麗な言葉なんだなって」
 「そうか?」
 「儚さ一つを表現するにも行く通りにも表現方法があって、読み方もそうだけど、直接的な言葉だけでなく、何か事象や自然界のものをたとえにしたりして奥も深いよね」
 「そんなもんかねぇ」
 司自身はそれほどそのこと自体に興味を惹かれたわけではなさそうだったが、それでもつくしの話すたわいない雑談も真剣に耳を傾けてくれている。
 「じゃ、例えば?」
 「え?」
 「泡沫の他に、どういうのがあんだよ?」
 「儚さの表現?」
 「そういうのでも?」
 あきらかにつくしへのお愛想で、いかにも取ってつけたような質問にぷっと笑ってしまう。
 「ふふふ、なぁに、それ?」
 「ねぇの?」
 司も楽しそうだ。
 「ん~、水面に揺らぐ月の影とか、砂上の楼閣とかそういうのかな」
 「熟字訓じゃなくって、それじゃもう文章じゃん」
 「それもそっかぁ」
 くだらないことで笑い合って、こんな真夜中に本当に何をやっているのかと思う。
 …司は今日も仕事で、遠出するんだからもう寝なくっちゃいけないのに。
 けれど、あまりに楽しくて、こんな時間をもっと引き伸ばしたいと思ってしまう。
 「時々…」
 「あ?」
 「時々なんだけど。あたしの今のこの生活って、……夢とか、本当はそういう淡くて儚い夢幻なんじゃないかって思う時があるんだよね」



 ―――泡沫に沈む月みたいに、一夜で消えてしまうゆめまぼろし。




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