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「愛してる、そばにいて」
第10章 贖う③

愛してる、そばにいて0956

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 「……連絡なんてできるはずがねぇ」
 椿と同じく、タマにもまた、彼から話せることなどないのだから。
 姉を信頼していないんじゃない。
 ―――あの忠実な老女を信用していないわけではなかった。
 彼らはたしかに何があっても司の味方だろう。
 しかし、人には十人十色の正義があって、椿やタマのそれが、必ずしも司のそれと一致しないように、愛にもさまざまなカタチがあるのだ。
 彼女たちの信じる‘愛’が、司が選び押し進む道を、果たして認め後押ししてくれるだろうか?
 …しねぇだろうな。
 理解されたいとも思わない。
 理解されずとも彼はけっしてこの目の前の恋しい女を諦めたりはできないのだから。
 …こいつって、なんか甘くてイイ匂いすんだよな。
 時には彼の思考に霞をかけさせるほどの欲望をかきたて、……そうではない時にも彼女の匂いをこうして嗅ぐのが司は好きだった。
 女たちの香水の匂いも甘い菓子の匂いも気持ち悪いと思いこそすれ、これまでイイ匂いだなどと思ったことなどなかったのに。
 ほっこりとした日溜まりの中、日向ぼっこをするような優しい温もりと穏やかな―――幸福感。
 初めて知る感情に驚いて、…けれど、そうだったのだとあらためて認識する。
 「つくし……お前が好きだ」
 …愛してる。
 だから離してやれない。
 自由にしてやることができない。
 司にとって愛とは奪うもの、手に入れるもの。
 たとえどんな罪を犯してでも、愛する者を手にすることこそが正義であり、彼の愛情だった。




*****




 「う…ん」
 くわぁっと大欠伸をして、寝返った拍子に顔を照らした陽の光の眩しさに顔を顰め、つくしは目を擦りながら、ノソノソと起き上がった。
 「あふぅ」
 もう一度、大きな欠伸。
 口元に当てたてをそのままに、何気なく周囲を見回した。
 縦に寝ても横に寝ても、3,4人寝られそうな広いベッドにはすでに司の姿がない。
 映画の洋館に出てきそうないかにもな洋風窓にかかったレースのカーテンの隙間から覗く太陽の様子からして、それほど遅い時間というわけではなさそうなのだが…。
 ハッ。
 「やだっ、どうしよ」
 …スーツ用意してない!
 アールヌーボーだかポールヌーボーだかのレトロな柱時計を慌てて振り返って、……脱力した。
 9時。
 もうとっくに、司は出勤してしまっている時間帯だ。
 「あたしったら…もう」
 普通の家の‘妻’だったら、夫のスーツの選別と言わず、おそらく夜の夫婦生活を過ごした翌朝にだとてちゃんと朝食の支度もすれば、夫の出勤の見送りもしてあげるに違いない。
 …それなのに。
 司にはそのどれも課せられていない。
 いや、たとえしたいと望んだとしてもできないことだった。
 …ご飯、作りたいな。
 毎晩晩酌をしているらしいのに、ツマミを頼まないという司の身体を案じて、何か用意できればと、家政婦長に頼んでキッチンのついている客間を借りた。
 迷惑な顔はされなかったが、いかにも作り笑いの寒々しい笑みといつも通りの生ぬるい視線に、チラリと浮かんだ軽蔑するような光と顰められた眉尻は、彼女の被害妄想だったのしても、
 『若奥様はそのようなことをされなくてもよろしいのですよ。当家には世界的にも著名なコンクールで優勝したこともある超一流のシェフもおりますし、どのような時間帯にも対応できますから』
遠まわしの断り文句だったとは思う。
 けれど、遠慮がちではあっても珍しくガンとして退かないつくしに、権高い家政婦長も折れないわけにはいかなかったらしい。
 どれだけ権限があろうとも、しょせん家政婦長は使用人、つくしは屋敷の御曹司の‘妻’なのだから。
 インターフォンを兼ねたアンティークな電話を横目に溜息を落とす。
 電話一本で好きな時間帯に食事を取ることもできれば、食堂でも自室でも希望どおりの場所で作りたての食事を摂ることができる環境。
 それも、どこのレストランにも引けを取らない美食をだ。
 …でも。
 ちょっとしたものを軽く食べたい時もある。
 自分は果たして料理を作ることができるのか、そんなことも心配だったが、いざ台所に経てば不思議に、過去の記憶など探らずとも普通に作ることができた。
 日本語を話せることや、一般常識を知らず理解していることと同じことなのだろう。
 …凄い美味しいものを作ったりとか、豪華なお料理ができるわけじゃないけど。
 ごく庶民的なものが食べたい。
 質素で日常的で……家庭的な味わい。
 もちろん、それさえも頼めばどうとでも対応してくれるのかもしれなかったが、つくしは自分が食べられるだけのものを自分で用意して食べたかった。
 自分の身の回りのことくらい他人に頼らずにやりたい。
 元々そういう生活に馴染んだお坊ちゃまの司にそうと望むつもりはなかった。
 しかし、司もそんな彼女の作ったものを美味しいと食べてくれた。
 彼女の拙い手つきでの世話にも喜んでくれていると思うのは自惚れではないはずだし、彼の気遣いでもないはずだ。 
 …マズイものを美味しいとは言えないって言ってたものね。
 そんなことをツラツラと考え、けれど、ぼんやり座っていてもまたも無意味に一日が過ぎてしまうだけだ。
 「いた……いたたた」
 激痛というわけではなかったが、やはりそれなりに激しい情事の後遺症はまだ残っているようで、ギシギシと体の節々が筋肉痛のように痛む。
 …あ、アソコもまだちょっと。
 人に言えないところの痛みと違和感に一人で赤面してしまう。
 これも憂鬱な気分の一つではある。
 …本当は。
 セックスがあまり好きじゃない。
 高校生だったというつくしにも、‘夫婦’というものにセックスは付随するものなのだという知識はある。
 けれど、どうしても快感や悦びよりも、嫌悪感や羞恥が先立って、司が与えてくれる感覚に馴染めなかった。
 …たぶん、気持ちイイって体は感じてるんだよね?
 ちゃんと司の愛撫に濡れてるらしいし、演技というわけではなく反応もしている。
 「でも、…気持ちいいかって言われると」
 自分でもよくわからない。
 …こういうのも流産しちゃったせいなのかな。
 だが、つくしはそれをそのまま正直に司に言えないでいた。
 いつも愛しそうに彼女の触れ、できるだけ彼女にも快感を味あわせようと努力してくれていることもわかっていたから。
 しかし、もともとの自分がセックスをどう感じていたかも憶えていないのだ。
 司は何も言わないのだから、おそらく普通に感じて、普通に気持ちイイ、彼に抱かれることが嬉しいと感じていたのだとは思う。
 ―――セックスもロクに楽しめない欠陥品。




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