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「愛してる、そばにいて」
第10章 贖う②

愛してる、そばにいて0936

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 「………………」
 「………………」
 沈黙が落ちた。
 つくしの言葉に反論しはしなかったが、司に表情は彼女の言葉に同意してはいない。 
 いかにも自信家で、何もかも…欲しいものはすべて手に入れてきた、阻まれることになれていないといった風情の司には、小さな幸せだの、欲しいものを他の何かで穴埋めするような卑小な喜びなど縁のないなのだろう。
 …ありえないって顔してるものね。
 それでも、あからさまに彼女を言い負かそうとはしないのは、司の彼女への優しさなのに違いなかった。
 「…俺はごめんだね」
 「そ…う」
 案の定だ。
 「俺はこれまで欲しいものは全部手に入れてきた」
 今思ったばかりのことが司の口からあらためて語られても、当然意外ではない。
 「……けど」
 「…………」
 司の視線がふっとなにか、自分の中を探るように遠くなって、自嘲の笑みが彼の口の端に浮かぶ。
 そんな表情は彼に似合わないのに、なぜか彼はよくそんな顔を彼女に見せることがあった。
 「本当に欲しいものなんてなかったのかもな」
 「……………」
 「そういうのができて、初めてわかった」
 「司」
 なんと返事を返していいのかわからない。
 彼女を見る彼の熱い眼差しが、熱のこもった声音が、その‘欲しいもの’が何かを言外にでも彼女へと伝えた。
 しかし、それに答える言葉が今の彼女にはなかった。
 自分の胎内に、また再び彼の子供が宿っていることさえ、まだ受け止めきれていないというのに。
 …ううん。
 いや、それ以前、彼の子供を孕んで…流れてしまったことさえ、いまだ現実のことのように思えてはいなかった。
 彼と夫婦になったことに実感が湧かないのと同じように。
 「後で妙な感じに、お前に伝わるのはごめんだから、先に言っておくな?」
 「え?あ…はい」
 口調をあらためた司の言葉に、胸がドキリと波打つ。
 何を言われてしまうのか、………何が自分の身の上に降りかかってしまうのか。
 なぜかいつもつくしは怖かった。
 なにもかもが。
 失われてしまった記憶とともに、喜怒哀楽の感情さえも抜け落ちてしまったかのように、いつも意識にどこか膜がかかってしまったかのように心が鈍っているのに、恐怖だけが残ってしまっている。
 だから、司が導くまま、彼が望むままに彼と結婚してしまったのだ。
 腹に子供が出来たのだからという彼の言葉がなくても、彼に逆らうことなど今の彼女に出来ただろうか。
 …しょせん泡沫の夢。
 いつか誰かの夢が醒めてしまったのならば、いまここにいる自分もまた消えてしまうのだから、と。
 「今、姉貴が親の決めた相手と結婚させられたって話したよな?」 
 彼女が頷くのを確認して、司も頷き返す。
 「俺にもいる」
 「……え?」
 「正確には、もうブッチしてお前と結婚しちまったんだから、オヤジたちにしても後の祭りだけどよ。そういうこともあって、奴らを出し抜いて超特急で入籍しちまったんだが、これだけは忘れんな、俺は何があってもお前を離さない、絶対だ」




*****




 インターフォン越しに運転手に目的地の到着を告げられ、降り立った街角の一角。
 前回流産後の診察を受けた産婦人科医院の巨大な建物を伸び上って見上げた。
 大学病院というわけではないそうだが、それでも産婦人科だけの個人病院にしては、大きな病院だった。
 彼らの車の遥か後方、彼らの目を盗むようにして停まった二台の車に最初つくしは気が付いてはいなかったが、
 「やっぱ、来るなと言ってもついてきたか。ま、運転手がいっから同じことじゃあるけどな」
 という皮肉な口調での司の言葉に、パーティ会場でいつものようには同乗させなかったSPたちも別の車で追尾してきていたことに気が付いた。
 「……市庁舎でも?」
 「いたさ。ま、奴らも伯父貴なり、俺の親に報告して邪魔しようにも、前振りも見せてなかったからな。伯父貴はまあ、マリッジライセンスを取得した時にある程度は予測つけてただろうけど、まさかさすがに18才になって直行とか思ってなかったんだろうぜ?見張るくらいならともかく、俺の機嫌を損ねるわけにもいかねぇから、監禁でもして俺の行動を制限するわけにもいかねぇし」
 ‘監禁’という穏やかならず発言にギョッとする。
 「とりあえず、ここは伯父貴の息が掛かっていて、うちの親も右から左にと探りを入れらんねぇ。…伯父貴には筒抜けだけどな。ま、あのおっさんにはお前を養女にするっていうのも、算段のうちには入ってるだろうし、そもそもお前との結婚を条件にヤツの尻馬にのってやってんだ。多少のことは目を瞑ってんだろ」
 背を押され、促されて病院の自動ドアを潜る。
 何気なく、握っていた左手を掲げ持ち、ふと司が何事かに気がついたかのように目を瞬かせ、「ああ」と立ち止まった。
 「そうだ、すっかり忘れてた」
 「………?」
 スラックスのポケットを探って、小さな箱を取り出す。
 「あ……」
 つくしも映画かドラマだっただろうか。
 恋愛ものによく登場するそれが何か、すぐに思い当たる。
 …指輪。
 司が少しだけバツが悪そうに、けれど、いつもの不敵な笑みを浮かべた。
 「これ。婚約指輪は勝手にハメちまったけど、さすがにこれまでそうはいかねぇだろ?」
 促され、緩く握っていた手を、ゆるゆると開く。
 とたん、伸びてきた司のもう片方の指に、薬指にハマっていた大きなダイヤの指輪が抜き取られ、代わりに婚約指輪よりかはいくぶんかシンプルな金の指輪があらためて彼女の指へと差し入れられた。
 なぜか婚約指輪を見つけた時よりも、ずっと強い拘束力と息苦しさのようなものを感じて、ゴクリと唾を飲み込む。
 ‘Egal was kommt, ich werde dich nie verlassen. ’
 「え?なに?」
 突然、司の口から飛び出した異国の言葉に、つくしが驚く。
 英語ではないのはわかるが、いったい何語なのかさえもわからない。
 戸惑う彼女へ、顎をしゃくって、今彼がハメたばかりの指輪を司が指し示した。
 「それの裏に彫ってある言葉」
 「えっと何語?…なんて?」
 「ドイツ語。さっき言ったろ?何があってもお前を離さないって」
 何度となく自分への執着を口にされるたびに戸惑ってしまう。
 愛の言葉を囁くというよりも、まるでそう口にすることで見えない鎖で彼女を縛り付けようとしているかのように、どこか言い聞かせる響きがあって、その言葉になおさらのこと恐れを抱いてしまう。
 …どうして?
 と思わずにはいられない。
 お前は俺を好きだったんだと言われれば言われるほど、本当にそうだったのかという心の奥底に根付いて、どうしても振り払えない疑問。
 「で、これ。お前も俺にハメろよ?」
 箱だけをポケットにしまい、もう一つ入っていた対の指輪を戸惑う彼女へと押し付けてくる。
 「本当はさっきの市庁舎でのアレも結婚式みたいなもんだったから、そこで指輪交換するのが普通なんだろうけど、……俺にしてみたらあんなん結婚式じゃねぇし」
 つくしにはわからない言葉でやり取りされたあれこれ。
 司も英語はわからないはずだが、係員らしき人の言葉におざなりに頷き、それでも一通りの手順をこなしはしたらしい。
 「どのみち、いずれちゃんとした結婚式はすっから、心配すんな」
 「…司」
 「お前に似合うウェディングドレスを世界中のデザイナーたちにデザインさせて競わせて、お前が一番映えるドレスを選んでやる。それで世界で一番豪華で、誰もが度肝を抜く結婚式をして、……お前を世界中で一番、誰よりも幸せな花嫁ってヤツにしてやるから」
 ―――だから。




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