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「愛してる、そばにいて」
第10章 贖う②

愛してる、そばにいて0935

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 「……疲れたか?」
 ニューヨーク・メイプルでの司の誕生パーティを終え、そのままの足でニューヨーク市庁舎に立ち寄った二人は、入籍し晴れて夫婦となった。
 つくしの表情は、晴れて…という言葉に相応しいものではなく、困惑したような不安げなものだったが。
 リムジンで横並びに座る隣のつくしの右手をギュッと握り締め、ねぎらうようにして手の甲を指先で撫でてやる。
 「牧……つくし?」
 再度の呼びかけに、つくしが小さく息を吐き出した。
 「ご両親…反対してたのよね?」
 何をとは問われなくても、もちろん司にも彼女の質問の意味がわかった。
 「まあな」
 「……どうしてって聞くのも変なのかな」
 上目遣いに司を窺って、彼の視線を受け止めきれずに反らすつくしの髪を優しく撫でてやる。
 彼女もある程度は察していたのだろう、特にショックな感じではなかったが、それでも明るいとは言えないどこか鬱屈した表情は、何でもないというほどでもないのだろう。
 彼女の髪を撫でたり軽いキスを落としたり、手を握ったりと、セクシャルさを含まない彼女との接触は、彼女を慰撫する意味合いもあったが、司はなんでもない時でもつくしに触れているのが好きだった。
 セクシャルな意味合いでも、そうでなくても、いつの間にかそんな自分に気が付いて、司はむしろ自分で自分に驚いてもいる。
 …女なんて、汚ねぇ生き物だとしか思ってなかったつーのにな。
 もしかしたら、彼女を慰めるつもりで本当に慰められているのは自分の方なのかもしれないと思う。
 彼女の温もりが愛おしい。
 彼女の匂いに慰められる。
 彼女の声を聞けるだけで嬉しかった。
 その大きな目に自分が映っている。
 それを確かめるたびに、感じる無上の喜び。
 …好きだ。
 どんな女にも、人間にも感じたことのない熱く激しく、切ない想い。
 彼女を知ったからそうした感情を知った。
 彼女と出逢った時から司の人生は本当の意味で生き出したのだと、どうしてそんな簡単なことが、これまでわからなかったのか。
 …お前にも好かれたい。
 愛されたい。 
 つくしの為なら、彼女を手に入れる為ならなんでもする。
 それは単なる方便などではなく、司の本心だった。
 「やたらとデカイ家だからな、俺んちは」
 「……………」
 「それを維持して、もっとデカくするために、親はずっと邁進してきた。自分の子供も放置してな」
 皮肉に笑む。
 「そんな奴らにとっては、ガキも家をデカくするための道具の一つで、結婚もそうだ」
 「結婚も…?」
 「ああ」
 司の脳裏に、数年前、恋人と引き離され家に連れ戻され、そのまま政略の相手へと嫁がされた時の姉の暗い表情が蘇る。
 …俺は違う。
 絶対黙ってヤツら―――親の好きにはさせないと改めて心に誓う。
 愛してもくれなかったくせに、これまでの贅を尽くした生活の当然の代価だと、彼の人生そのものを支配しようとする親たち。
 けれど、それらのものは何一つ彼自身が望んだものではなかった。
 どんなに贅沢をさせられようと、好き勝手に振舞うことを許されていようといつも心は渇いて、飢えていた。
 別に何をどう彼女に訴えるつもりだったわけではない。
 それなのに、手を握り締めた彼の手を、ほとんど初めてつくしも握り返してくれたから。
 衝動的に、彼女の唇へとキスを落とす。
 自然に落ちる瞼。
 それさえも嬉しいだなんて、我ながら笑えてしまう。
 …すげぇな、お前。
 何を手に入れても満足なんて感じたことなどなかったというのに。
 胸に広がるこのくすぐったい様な、ワクワクしてそれでいて泣きたくなるような温かさはいったいなんなのか。
 あの……熱海のクルーザーで彼女からキスをされた時にも感じたもの。
 これまで彼が知ることがなかった感情―――おそらく、それが‘幸せ’というものなのだとなんとなく司にも理解できた。
 毎日彼女に逢えるというだけで、彼が学校へと通った理由。
 「…ん」
 キスが深まる前に、チュッと軽いリップ音だけをたてて、彼女の唇を離す。
 それがいかにも難しかったけれど。
 だが、まだ彼女には話しておかなければならないことがある。
 日々の雑事に紛れてしまう前に。
 「…俺の母親の横にいた女、憶えてるか?」
 「ん、綺麗な人だったね。司によく似てた」
 「そうか?まあ、そうかもな、よく言われるし…アレ、俺の姉貴なんだけど、姉貴には昔好きな男がいた」
 「昔?」
 「ああ。つーてもまあ、せいぜい5年くらい前のことか。けど、そいつもお前とおんなじで、どこぞの御曹司ってヤツじゃなかった」
 庶民だった。
 英徳の学生だったから、それでも一般の学校の生徒よりは裕福な家庭の出身だったかもしれなかったが、少なくても道明寺家の令嬢に見合う階級の出身ではなかったのだ。
 「俺らはガキの頃から見張られてる。……普段、たいがい放任つーか、放置されてるも同然だが、異性関係とか家の名前に影響が出かねない素行に関しては神経質なくらいに管理されて、場合によっては横槍が入る」
 「……横槍」
 「姉貴は交際を反対されて何度か家出したりしたけど、そのたびに連れ戻されて…あげく、男んとこにウチの親がしゃしゃり出て圧力かけたらしいな」
 「……………」
 子供だった。
 彼にとっては親代わりで、いつでも大人に見えていた姉だったが、やはりまだ子供だったのだろう。
 親の強大な権力がわかっていなかった。
 そして、その権力を持つ家に生まれたということが。
 いや、
 …わかってただろうけどな。
 それでも止められない想いがある。
 彼がつくしに恋して、許されぬ道を突っ走り、今尚、愚劣だとわかっていながら周囲を巻き込んで、無謀な戦いに挑んでいるように。
 「で、結局、まだ学生のうちに、親が選んだ家のヤツんとこに嫁入った。今はそこそこ満足してるみたいだけどな」
 「そう、なんだ」
 つくしの顔はなんといっていいかわからないといった複雑なものだった。
 それはそうだろう。
 たとえ彼女が記憶を失っていなかったとしても、彼女には遠い世界、身近ではありえない時代錯誤な話だったに違いない
 だが、彼らにとっては今もそれが現実としてある。
 総二郎にしても、あきらにしても、女漁りに励む一方でそうした諦念への密かな反発と…虚無があるのがあきらかだった。
 …類だけは違ったけどな。
 親に認められるような家の女に恋して…だが、そうした女に恋しながら、女の方が自らの狭い世界では窮屈なのだと飛び出して行ってしまった。
 類一人を残して。
 …もし、あのままこいつを日本に残していたら?
 「司?」
 「…いや」
 「お姉さん、辛かっただろうね」
 「……………」
 「でも、今は満足…幸せを感じられているなら良かった」
 「良かった?」
 どこがだ、と思う。
 司には妥協というものがない。
 よく姉が言う『今は、けっこう幸せだから』という言葉を、おためごかしにしか感じなかった。
 「人ってさ、きっとそうやって限られた、与えられたモノの中でも小さな幸せを探せるものなんじゃないかな。たぶん‘幸せ’って一つしかないわけじゃなくって、生きている限りいくつでも出会うことができるものだし、自分でも作っていけるものなんだと思う」
 
 


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