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「愛してる、そばにいて」
第10章 贖う②

愛してる、そばにいて0933

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 「あ…」
 「Oh!」
 険しい顔をした司が、つくしと青年の背後、息を切らせて立っていた。
 その視線が、つくしの手を握っている青年の手へと落ち、なおいっそう険しさを増し、危険な色を帯び出す。
 「やあ、司、ボクは……」
 「誰だてめぇ、人の女に気安く触ってんじゃねぇよ」
 フレンドリーに話しかけようとした青年の手を、つくしの手からから叩き落とし、司が眼光鋭く青年を睨み据える。
 とたん、顔を青く引き攣らせた青年は、気さくでフレンドリーな雰囲気を一転させ、どこか小狡い卑屈さを露呈させてしまっている。
 けっして司は怒声をあげたわけではなかった。
 それでも低く強い威嚇を帯びた恫喝は、よほど肝の太い人間でも怖じ気ずにはいられないものを含み、名だたる大財閥の御曹司には似合わぬ荒廃と凶暴さを滲ませ、青年ばかりか怒気を直接浴びせられているわけではないつくしさえも怯えずにはいられない。
 …怖い。
 何度となく、司に抱いた恐怖と…拒絶感。
 大切にされている。
 優しくされている。
 愛されていると実感する日々の中で、この目の前の美しい男を信じて愛することができないのはどうしたなのだろう。
 怯えているつくしの視線に気がついたのか、チラリと彼女を振り返った司が顔を歪めて、チッと舌打ちを打つ。
 「来いっ」
 怖じけて後退る青年にはもう目もくれず、司がつくしの手首を掴んで、足早にその場から引き剥がす。
 「い、痛いっ」
 骨も折れよとばかりに握り締められた手首が軋んで思わず呻く。
 しかし、いつもは心配症なくらいに彼女を気遣う司の横顔は、抑えきれない怒りに堅く強張って、彼の歩幅についてゆくことができずに半ば引き摺られ、苦痛に顔を歪めている苦鳴にさえ気がついてくれない。
 つくしの心臓がドキドキと激しく動悸打ち、体が小刻みに震えてしまう。
 あきらかな怒気を纏った司の横顔は、美貌なだけによけいに非人間的に冷たく、無慈悲で恐ろしかった。
 …ひどいことをされるっ。
 きっと自分はこの目の前の男に、バリバリと喰われて今度こそ完膚なきまでに壊されてしまうのだという危機感と―――絶望。
 悲鳴をあげて逃げ惑いたいのに、蹲ってしまいたいのに、紫に変色するほどに戒められた手首の拘束が彼女を捕らえて、けっして逃がしてはくれないのだ。
 頭の中で渦巻く恐怖が、ドンドンと膨らんで、まるで風船のようにバチンと大きな音をたてて破裂してしまいそうになってしまう。
 そして、その限界が来てしまった時には、きっと………。
 目がチカチカとする。
 …ああ。
 「だっ」
 誰か、誰かっ!
 「………ハァ~ッ」
 あまりの恐怖につくしが叫び声をあげようとしたその寸前、司がいきなり立ち止まって、大きく息を吐き出した。
 ドンッ。
 「きゃっ」
 恐怖に囚われ、下ばかり見ていたつくしは、司が立ち止まったことに気がつかず、広い背中に激突してしまった。
 危うく勢いのまま、背面側に吹っ飛ばされそうになったところを、掴まれていた手首を引かれ、ガッシリと抱き支えられ事なきを得る。
 「あっぶねぇ」
 「……………」
 「ちゃんと前見て歩けよ。こんなところで大の字になんて転がったら、大事になっちまったかもしれねぇだろ?」
 怒鳴りつけるようではなかったけれど、それでも至極真面目な声音は固く、彼女の粗相を厳しく咎めていた。
 それでも……それでも、先程まで濃厚に放射していた怒りの波動はいくぶんか穏やかに凪いで、少なくても暴発の気配は失せていた。
 まだ怯えて震えている彼女の体を一瞬だけ柔らかく抱きしめ、離す。
 強い力で握られていた手首も解放され、とたんドッと通った血流に痺れていた部分が痛みを訴えた。
 「…っ」
 思わず顔を顰め、先程まで司に掴まれていた手首を抱え込んだつくしの様子に慌てて司も彼女の手首を覗き込む。
 「わりぃっ、大丈夫か?」
 「……………」
 おずおずと俯けていた顔をあげたつくしの目に映った司の顔は、声音のとおり先程までの怒りや凶暴さをすっかり拭いさって、彼女への心配一色に塗り替えられてしまっている。
 再び伸ばされた手に手を掴まれるが、先ほどとは違い気遣いに満ちた力加減は柔らかく、大きな手のカタチに痣になってしまっている手首を見る司の目は後悔に満ちて、バツが悪そうな彼女を心配する顔は本当に彼女に対して申し訳なく思っているのが、つくしにも十分に伝わるものだった。
 「ごめんな、乱暴にしちまって、強く掴みすぎたせいで痣になっちまってる」
 無言の彼女へとおもねるような顔は、どこまでも真摯で彼女に許してもらいたがっていた。
 「……怒ってるか?」
 怒っているかと問われれば、正直怒っているよりもまだ先ほどの恐怖の余韻が残っていて、呆然としてしまっているという方が正しかったが、それでも目の前で一生懸命彼女の機嫌を取り結ぼうと焦っている司を見てしまえば、いつまでもだんまりを決め込んでいるのも気の毒になってしまう。
 何をされたというわけではないのだ。
 たしかに乱暴なほどの力加減は彼女に恐怖を与えたけれど、これまでも彼に暴力を奮われたことがあるわけではないのに、勝手に彼を恐れて怯えてしまうのは彼女なのだ。
 …司のせいじゃない。
 彼は彼女を助けてくれこそすれ、彼女を怯えさせるような男ではなかった。
 記憶を失った時も、きめ細やかな気遣いで彼女をサポートし、一人ぼっちの彼女の面倒を見て、守ってくれた。
 …強盗に襲われた時だって、もしかしたらひどいことをされたり、もしかしたら殺されたりしたかもしれないのに、この人は助けてくれた。
 常にSPに守られているような大金持ちのお坊ちゃんが息せき切らせて、自ら彼女を捜して助けてくれたのだ。
 つくしは逃げ出したのに、自分の今の現状からーーー彼から。
 「俺を嫌わないでくれ」
 密やかな声音での嘆願に、驚いて彼の顔をジッと見てしまう。
 いつも真っ直ぐに他人を睥睨する彼には似つかわしくなく、視線をキョドキョドと彷徨わせ、わずかに頬を赤く染め、彼の今感じている羞恥を軽んじることはつくしにはできなかった。
 彼に感謝しこそすれ、どうして些細なことで怒ったり…嫌ったりできるだろうか。
 「牧野?」
 あまりに反応がなかったからだろう。
 わずかに焦れたような声で、呼びかけられてしまう。
 唇を舐め、気持ちを取り直し、……なんとか小さな笑みを浮かべることに成功したつくしが、頷きかける。
 「大丈夫、怒ってないから。……司のことを嫌ったりもしてないよ」
 それに司があからさまなくらいにホッとした顔をになった。
 胸にわずかに生まれる想いがある。
 それはもしかしたら、温もりとか、愛しさいう言葉に変換できるのかもしれない。
 まだ、彼を愛しているとまでは言えなかったが、それでも彼を恐れる気持ちとはまた別に、彼に絆され……情を感じ始めている自分を否定することもできなかった。
 彼を愛せれば、と思う。
 司を、自分ゆえに誰かを傷つけたりしたくはなかった。
 …この人を好きになれるよね?
 痣になってしまった手首を撫でてくれる仕草は殊の他、優しい。
 まるで彼女を宝物のように触れてくれる大きな手。
 たぶん、彼は本来傲慢なくらいに自信家な少年なのだろうと思う。
 それなのに、なぜかこうして彼女の機嫌一つ、表情一つでひどく不安そうな顔をすることがある。
 …なぜ?
 先程とは違う疑問。
 どうして、彼はこんなにも彼女に気を使うのだろう。
 おそらく誰もが彼におもねって、機嫌を窺うことがあっても、彼がそうすることなどこれまで必要がなかったに違いないというのに。
 「とりあえずくだんねぇ集まりだけど、お前の顔を売るにはここで顔見せしておくのが一番だし、それなりに顔が効く連中にも俺たちの婚約を周知しておく必要がある。無理はさせないし、かったりぃだろうけど、もうちっとつきあってくれ」
 「……はい」
 それがどういうことなのか、つくしにはわからない。
 けれど、おそらく階級の違う彼女と結婚しようという司にとっては重大事項であることは、つくしにもなんとなく感じられた。
 たとえ彼女が望んでいないことなのだとしても、そのために司は生まれながらに持つ家や栄光、宿命から背を向け、ここニューヨークへと来たのだ。
 茨の道―――。
 「いたいた、司ぁ!こんなところにいたのね。もう~急に突っ走って行っちゃうから、いったい何事かと思ったじゃないっ」 
 鈴が鳴るような…と形容するに相応しい女性の美しい声が後ろからかけられ、振り返る。
 どこかで見たような美貌の女が、呆れたような顔で、よく似た容姿の男―――司を見ていた。
 「あ!」
 …司に似てるんだ。
 そして、その華やかな美貌の女性の背後、そのよく似た二人との相似性もあきらかに、怜悧な美貌の中年の女が、眼光鋭く司を睨み据えていた。
 「公の場でみっともない姿を晒して、いったいあなたはどういうつもりなのかしら?」




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※略取…力で奪い取ること。法律では、暴力的におどして連れ去ることを言う。誘拐との違いは、「略取」は被害者またはその保護者の意思に反して、暴行、脅迫等によって、支配下に置くことを言うが、「誘拐」は人を騙したり、誘惑したりして、被害者の判断を誤らせた上、任意に随行させ、実力支配下に置くことを言う。
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