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「愛してる、そばにいて」
第10章 贖う②

愛してる、そばにいて0932

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 「でも、好きな子だなんて、いつの間にそんな子が出来てたのよ」
 「……どこまで聞いてんだ?」
 「どこまでって」
 「ババアから何か聞いてんだろ?」
 探るような視線に、だが、椿は戸惑うばかりで、どうやら本当に司の質問の意味がわからないらしい。
 「お母様が画策した婚約を蹴って、あんたが家を出たってことだけ。それにしたって、他家に嫁に出た私に、家のことをそうそう口にしたりする人じゃないでしょ?お母様は」
 「じゃあ?」
 「あんたがあんまりに私の電話を無視するから、なんかあるんじゃないかと思ってこっちからお母様に探りを入れたのよ」
 それにしても、母親が司のことをあくまでも姉に隠し通すつもりだったのなら、欠片ともその事情を椿に悟らせるような愚を犯すことはなかっただろう。
 あるいは、姉を通じて、司に翻意させる算段があったのかもしれない。
 が、直情的なところがある姉だ。
 かつて自身の恋愛の折に、何度となく家出をしたことさえある。
 むしろ事情のすべてを椿に話してしまい、この娘こそが突拍子もないことをしでかし、と仕返しのつかない事態になるやもしれないことも危惧していたか。
 どちらにせよ、鉄面皮なあの母親にしても、今司が引き起こした事態は一朝一夕では片付けきれぬ問題なのには違いなかった。
 …伯父貴を引っ張り出してなかったら、そうでもなかったかもしんねぇけどな。
 「ふぅん。なら、姉ちゃんが、あいつ……牧野のことを知ったのは、今日が初めてってことかよ?」
 「あぁ、……そうというわけでもないかな。たしかにあんたが勝手に決められた婚約話やお母様たちに反発して、荒れそうだとは思ってたけど、まだ高校生でその結婚話が本当に具体化するかどうかまでは、この先わからないじゃない?案外あんたのどうしよもなさに、相手が愛想つかしてご破算になることだってありえる話なんだし、そのことだけで家を出ちゃうなんておかしなことだと思って、あきらと総二郎に連絡とったのよ」
 「……なるほど」
 そういえば日本を発つ直前も、この姉からあきらと総二郎に連絡が行き、使いっぱしりはごめんだとブーイングを受けていたことが思い出される。
 司は実の弟だが、あきらや総二郎も椿には弟のようなもので、何かと言うと面倒をかけられ、それこそていのいいパシリ同然に使いまわされることも少なくない。
 一方、類はといえば、彼も椿にとっては弟のようなものではあるのだが、類の場合はああみせて案外要領がいいところがあって、この姉さえも上手く躱して適当にいなしているところがあった。
 「英徳の後輩なんでしょ?」
 「……まあな」
 わずかに声を潜め、
 「ウチに住まわせて同棲してたって本当のこと?」 
 「……………」
 特に肯定はしなかったが、それでも否定しない彼に肯定と見てとったのだろう。
 だが、皮肉に笑むだけで一向に口を開こうとしない弟の表情に何事か感じていることはたしかだったが、こうした公の場で聞くには憚られることがあることは、察したに違いない。
 本来ならばあけっぴろげに喜んで、祝福してくれるだろう椿の顔もどこか怪訝にくすんでしまっている。
 「そう、あんたがねぇ。………まあ、こんなところであれこれ根掘り葉掘り聞くのもなんだし、後で詳しいことは聞くつもりだけど、どうするの?これから。まさか本当に大真面目に、あの伯父の庇護下でお父様たちと真っ向対決するつもりなわけじゃないんでしょ?」
 権謀術数を好まないとはいえ、椿も道明寺家の一族に生まれ、似たような家に嫁いだ女だ。
 物事の趨勢、権力というものをイヤというほどに理解している。
 もちろん、伯父がどんな男なのかということも。
 「どうだかな。……それもオヤジたち次第だが」
 自然、視線が流れ、すぐにでも対峙することになるだろう母親の方へと向きかける。
 が、
 「……………」
 視界の端、どうしても気にせずにはいられない女の姿を何気なく探して、それに気が付く。
 …あれはっ?!
 つくしが誰かと話している。
 彼以外の男と。
 それに気が付いた瞬間、司は目をカッと見開き、姉をその場に残し、走り出していた。
 「司っ!?」




*****




 「日本に…そうなんですか」
 日本語が上手だという話からなんとなく雑談が広がって、相手の青年……コロンビア大学の3年生だという彼には、やはり一時期日本に留学していた経験があることがわかって、わずかながらに親しみが沸く。
 過去の記憶はない。
 けれど、やはり自分は日本人なのだという認識がつくしにはある。
 自身に関わる個人的なことはたしかに憶えていなかったが、常識的なことやあんがい知識的なものまで失われてしまったわけではないようだった。
 そんなふうに、少しづつでも自分が憶えていること、憶えていないことを確認して、少しでもわかることがあるのは嬉しい。
 …もしかしたら、そうやって少しづつでも点と点を結ぶようにして、思い出せることもあるのかもしれない。
 そんな風に思う。
 自分でも不思議な話だが、記憶を失ったことを不安にも恐ろしくも思うのに、なぜか積極的にその記憶を取り戻したいという思いが彼女には欠落していた。
 そして、そんな自分を今初めて自覚して、逆に驚いてしまう。
 …あたし?
 彼女付きのミランダもすぐに飲み物を持って戻ってきたが、怪しい人物の入り込む隙などない場所でのことだ。
 特に青年との会話を邪魔することなく、まるで壁の一部であるかのように彼女の背後に控えているだけで、会話に入ることはもちろんのこと、いつもは見張られている閉塞感を感じさせられるというのに気配さえも消し去っていた。
 「君は?」
 「え?」
 「司と同じ学校の生徒だったんだよね?英徳なら、交換留学の制度もあったと思うけど」
 歳が近いということもあるだろう。
 つくしはともかく、ずいぶん積極的な青年の口調はいつの間にかかなりフランクに砕けている。
 「ニューヨークには以前にも?」
 「ああ、いえ。初めてです」
 …たぶん。
 司が通っているような学校なら、そうしたプログラムの一つや二つあってもおかしくはない気がするが、司の話にはそうしたことは出たことがなかったからおそらくそうした経験はないだろう。
 …あたしは普通の家の子だっていうし。あ、でも、あたしもお金持ちの学校に通ってたんだっけ?じゃあやっぱり、少しはお金持ちだった?さすがにあの司が庶民的な学校に在学するとも思えないし、あたしの方がセレブ校にいたってことだと思うんだけど。
 常識的なものは忘れていないはずなのに、それでも司の身の回りのことや物、人の態度や習慣にも戸惑いを感じるし、一瞬の逃避行の時に接した外の世界には異国という戸惑いは感じても、それほどの違和感を感じなかったのだから、やはり司の言うとおり彼の階級の出身というよりは、庶民の出身なのだということは間違いはずだ。
 「もしよかったら、パーティが終わったら、下のカフェででもゆっくりお茶をして、ボクが日本に留学してた時の話でもしない?」
 「え?」
 「ボクも久しぶりに日本の話とか聞きたいし」
 つい物思いに耽りかけていたつくしは、いつの間にやら手を取られ、ギョッと仰け反り、背の高い青年の顔を見上げる。
 どこか唆すような微笑を浮かべ、青年が彼女の手を掲げ自分の口元へと近づけた。
 「ちょっ!?」
 「おいっ!」




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