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「愛してる、そばにいて」
第10章 贖う②

愛してる、そばにいて0930

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 会場の中央、ステージになっている壇上へとあがってマイクを握る司をつくしはぼんやりと見上げていた。
 抜群のスタイルに漆黒のタキシードを見事に着こなした司は、背の高い西欧人の大人たちの中にあって、体格的にも引けをとらないだけではなく、その堂々とした佇まいで周囲を圧倒していた。
 とても20才にもならない少年とも思えない風格で立つ彼は、つくしの前の彼ともまた別人のようで、………なおいっそう遠い人なのだという認識を強くする。
 それなのに、
 …どうして。
 そう思わずにはいられない。
 彼の自分への執着が理解できなかった。
 知らず知らずのうちに、気が付けばまだ膨らみも何もない……自覚すらない下腹部へと手をあててしまっている。
 ‘―――――俺は、………I will marry her!(俺は彼女と結婚します)’
 力強い司の英語での断言と同時に、人々の視線がまるで彼女へと一筋の道が開いたかのように一点に集中して、ワ――ッという感性が上がった。
 …な、なに?
 司も英語は話せない。
 だから、先程までは通訳が彼の日本語を翻訳して人々へと伝えていただけで、彼女にも彼の言葉は十分理解できていたはずだというのに、つくしは司の発言をまったく聞いていなかった。
 けれど人々の歓声やまばらな拍手が自分へと向けられてものであることはわかった。
 人、人、人。
 ‘Congratulations!(おめでとう)’
 ‘Congratulations on getting engaged.’
 ‘That's great news!’
 ‘Wow!!’
 口々に何事かを叫ばれ、最初は壇上の司にだけ集中していた人々も次第につくしへと視線を向け、周囲を取り囲むようにして寄り集まってこようとするのに恐れを抱く。
 つくしが人垣から一歩、二歩と背後へと後退る。
 しかし、彼女の人々も好奇の視線を彼女へと向け、口々に中を言い募りながら歩み寄ろうとしていた。
 「つくし様、こちらへ」
 さすがにドッと押し寄せるようなことはなかったが、それでもあきらかに怯えを宿した彼女の表情に気がついたのだろう。
 ほとんどピッタリと張り付くようにして彼女の横に控えていたつくし付きの女SPのミランダが、彼女の注意を引き、壁際への移動を促した。
 しかし、
 「きゃっ」
誰かの足に蹴躓いてしまい、つくしがバランスを崩す。
 「つくし様っ!?」
 ‘Watch out!(危ない)’
 とっさにミランダも動いたが、ちょうど人と人の隙間につくしだけ割り込むようにして倒れ込んでしまい、彼女のその手がつくしの体を支える前に、彼女が倒れ込んだ先にちょうど立っていた男性が彼女を抱え込むようにして倒れるのを防いだ。
 「あ……」
 人々もざわりとざわめき、そんな彼らを残してわずかに空間を開けた。
 慌てて男からつくしを受け取って、ミランダが彼女の体を支えて抱き起こす。
 「つくし様、大丈夫ですか?!」
 「あ、うん。大丈夫…です。ごめんなさい」
 心配げに顔を覗き込む女SPへと頷きを返す。
 「……良かった、お怪我もないようですね。いったん広間の端に移動しましょう。休憩用のソファがありますから、司様がいらっしゃるまでそちらでお待ちになってください」
 「はい」
 つくしにももちろん否やはない。
 女SPの指示に素直に頷き、先導して人々をかきわけるミランダの後へと続こうとして気がついた。
 「あ、そうだ」
 転倒しかけたところを助けてもらったというのに、礼を言っていなかった。
 すでに男は人ごみの中へと消えてしまっていて、興味津々で自分を見ている人垣の中にはいなかった。
 ほとんどの人々は、この場でもっとも注目度の高い……壇上の人々へと関心を戻してしまっている。
 が、それでも彼女へと注目していないわけではないのは、鈍い彼女にも十分自覚できた。
 好意的に見ている人々もいたが、人垣の中の数人、彼女と同年代か少し年上だろうか華やかな美貌の少女たちが、チラリチラリとつくしを振り返り意味ありげな視線を向けては、クスクスと笑って何事かを囁きあっている。
 その目に浮かぶ好奇と―――嘲りを感じ取れずにいられるほどには彼女も鈍感ではなかった。
 というか、数少ないパーティの参加回数の中で必ずそうして視線や悪意を向けてくる人間は少なからずいて、つくしもある程度慣れっこだったのだ。
 それはつくし個人への悪意ばかりでなく、人種差別だったり、司という綺羅星のような男に同伴されるにしては、確かな後見を持たない彼女への嫉妬もあっただろう。
 もちろん、実際には彼らが何を話しているのかまでは、英語がわからない彼女には理解しようもない。
 けれど、すでにどこかなれっこだというような開き直りと諦念めいた感情が彼女の心を覆っていた。
 記憶にはまったくないというのにも関わらず。
 …でも、どうして、あたしがそんな風に言われたりしなきゃならないの?
 何もしていないのに。
 意地悪げにカーブを描いた紅い唇が彼女とすれ違いざま、小さく呟いた。
 ‘Bitch.※’




*****




 ‘久しぶりだね!司くん’
 ‘やあ’
 壇上を降りたとたん、知人初対面を問わず、わっと人々に取り囲まれ司は内心眉根を寄せた。
 いつの間に歩み寄ってきたのか、段下で待ち構えていた伯父も終始にこやかだが、あきらかに会場の一角、主役であるはずの彼の周辺よりもさらに人集りになっているあたりを意識してか、どこか顔を引き攣らせている。
 「司、……あの女が来てるぞ」
 伯父に囁かれずとも、もちろん司も気がついていた。
 その人集りの中心人物、彼の母…道明寺楓の存在に。
 …小物だな。
 しょせん司の父親どころか、母にさえ風下に立つことを余儀なくされた程度の人物だ。
 たとえどんなものを抱えていたにしろ、今、会場の一角で人々に囲まれながらいつもと変わらぬ冷ややかな笑みで接待に専念している鉄の女ならば、公の場であからさまな心情など欠片とも覗かせることはなかっただろう。
 それよりも…だ。
 壇上からは段下の様子は一目瞭然、一望できたからつくしのこともよく見えていた。
 彼女が蹴躓きかけた時には、隣でくだらないあれこれを食っちゃべってる司会役の男を突き飛ばして駆け出してしまいかけた。
 しかし、すぐに鋭い視線を投げかけて彼を見ている楓の存在が、抑止力となって彼の足をその場に縫いとめた。
 どちらにせよ、つくしの傍にはSPがついている。
 そうは思うが、
 …腹にガキがいるっつーのに、気をつけろよっ。
怒っているわけではなかったが、それでもいつもは愛しいだけの彼女のそうした抜けたところが、自分が側にいられない時には苛立ちに変わってしまう。
 元々、壇上にはつくしも一緒に上がらせるつもりだったのだが、顔を真っ青に引き攣らせて嫌がる彼女の拒否にあい、思い改めたのだ。
 あきらかに彼女は萎縮していた。
 萎縮して、逃げ出したがっていた。
 それを押して無理強いすることもできたが、腹に彼の子がいることが濃厚な彼女に司も無理をさせたくなかったのだ。
 それに、
 …無理強いして、イヤがられたくない。
 もう彼女に嫌われるようなマネはできるだけ避けたかった。
 そうしたことを鑑みれば、たかが婚約発表の場に無理やり引き出すこともない。
 どちらにせよ、彼一人で描いたシナリオだ。
 彼が始めたものなら、彼一人で推し進めていけばいいだけのこと。
 それにしても、この場でやるべきことはすでに済ませたのだ。
 あとは一刻も彼女の傍らへと戻りたい。
 それなのに、人々の壁がかれの行く手を邪魔している。
 いつもなら大して苦にもならないことがこの上もなく焦れったく苛立たしい。
 「申し訳ありませんが、婚約者のもとへ戻り……」
 「司っ!」




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※Bitch (ビッチ)…「売女」、「複数の男性と肉体関係を持つ女」もしくは「金銭目的で男性と寝るような女」など、性的な意味で女性を罵る言葉。

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