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「愛してる、そばにいて」
第10章 贖う②

愛してる、そばにいて0926

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 「……………」
 てっきり避妊のことで、また抗議されるのだろうという司の予想とはまるで異なる問いかけ。
 つくしには通り一遍の説明はしてあった。
 ただし、その一部―――真実の一端を大きく歪め、司の都合が良いように、彼がさも彼女の恋人であったかのように。
 小脇に抱えたつくしの首の下に腕を入れ、腕枕をした手で彼女の額や頬を撫でる。
 自然、彼女の瞼が閉じて、その瞼を指先で触れるとピクピクと震えているのがよくわかった。 
 「あの?」
 つい零してしまっていた笑みが伝わったのだろう。
 戸惑ったような怪訝なつくしの声に、司は呼吸一つで情けない顔を引っ込め、何気ない表情を作って、彼女の顔から手を除ける。
 とたん、彼の欺瞞を見透かすかのような彼女の大きな眼に射抜かれてしまう。
 けれど、
 「ああ、そうだぜ。お前は俺の恋人で、お前の腹には俺の子供がいた」
 彼女の背を抱いていた手を腹部へと回して、そんな名残を欠片とも残さない彼女のへそのあたりをそっと撫でさする。
 くすぐったかったのか、あるいは気恥しかったのか、ほんのり頬を染め身じろぐつくしが可愛らしい。
 …さっきまで、さんざんいろんなとこ触ってたじゃねぇかよ。
 そんな風に思うが、どれだけ彼と濃密な時間を過ごそうと、恥ずかしがる彼女。
 呆れる気持ちもないわけではなかったけれど、そんないつまでも初な反応を見せる彼女がこの上なく愛しく、彼の庇護欲をかき立てた。
 日本の名門私立校・英徳学園。
 学園を支配するF4。
 F4のリーダーである自分・道明寺司。
 出会い。
 そんなことを、司の視点で、彼が知りうることだけを端的にあるいは彼の都合の悪いところは端折って、淡々とつくしに言い聞かせてゆく。
 まさに‘言い聞かせる’と言って正しかっただろう。
 「俺は道明寺財閥っつーとこの、跡取り息子って奴だな」
 「……お金持ちのお坊ちゃまんだね」
 「ま、そんな感じだな」
 以前のように、それを自負することなく事実を事実だと認めるに留める。
 つくしの‘お坊ちゃま’という呟きにも、嘲りや反発はない。
 実際、今の司には、自分の身の上さえもだからどうしたという気持ちしかなかった。
 たとえどれだけ他人に羨まれる立場に生まれようとも、かつての彼女が言ったように、そのことが少しも彼にとっての幸福には繋がらず、常に飢えと渇きしか彼に与えてはくれず、唯一求めた彼女を手に入れる役には微塵とたりとも役には立ちはしなかっただから。 …いや、役には立つか。
 彼が‘道明寺司’だからこそ、そこらのチンピラたちでは成し得ぬことができ、彼女を欺きこの腕に抱くことができているのだから。
 その皮肉と、卑劣さ、醜悪さに、自分で自分に反吐が出る。
 それでも彼女を諦められず、なお囲い込み、捕らえずにはいられない自身の業の深さと執着が可笑しいと内心で自嘲する。
 「あたしは……ど、…つ、司みたいにお金持ちのうちのお嬢様じゃないのよね?」 
 「……だな」
 どもりながらでも、‘司’呼びで呼び直された自分の名前に自然、彼の唇に笑みが滲んだ。
 自分でも意識していない無意識の笑み。
 そんな些細なことでさえも、彼の胸にじんわりと染み入る悦びがある。
 彼女が空が青い、風が気持ちいい、花が綺麗だと笑顔を見せるたびに感じる嬉しさと同じ喜び。
 「あたしの……お父さんと、お、母さんってどんな…人?」
 「……………」
 思わず無言でつくしの顔をジッと見下ろす。
 彼の手に握られていない方の手の指を軽く噛み、つくしは自身の記憶の中を探るようにどこか遠い目をしていた。
 「司?」
 それでも彼の視線に気がついて、彼女に怪訝に見上げられてしまう。 
 その視線と合って、自身の嘘と欺瞞に気づかれてしまうことを怖れて、司は視線を反らした。
 「さあ」
 「……さあ?」
 「あんま、会ったことねぇし」
 「……カノジョの親なのに」
 「自分の親にさえ、ほとんど会わねぇよ」
 「……………」
 どこに説得力を感じたのか、そんな司の返事に数回瞼を瞬かせて、納得したわけではなかったのだろうけれど、それでもそれ以上彼女が司に突っ込むことはなかった。
 「けど、……仲良かったみたいだぜ」
 「え?」
 「俺んちにいても、さ。父ちゃんや母ちゃん、……弟、家族のことばっか心配して、逢いたがってた」
 …帰りたがってた。
 「……そう」
 「でも、今は俺がお前の家族だ」
 「司」
 …俺がお前の家族になる。
 どんなことをしても、何があっても、今度こそ彼女の一番になるのだ、と。
 そして、彼女の腹に宿っていた彼の子供―――娘が、彼ら二人のかすがい、切ることのできない楔となるはずだったのに。
 …守ってやれなかった。
 彼が追い詰めた。
 「あたしの…赤ちゃん」
 「……っ」
 「本当は、司と…あたしと、それに、あたしのお腹にいた赤ちゃん、三人で家族になるはずだったんだね」
 小さく震えだした彼女の体を強く抱き寄せる。
 しっとりと濡れた温かな感触に、痛む慈悲や後悔など持ち合わせてはいないはずの司の胸が軋んだ。
 「…ごめんね。ごめんなさい。あたしのせいで、あたしの不注意で階段からなんて落ちちゃったから、だから、……赤ちゃんを生んであげられなかった。ごめんなさい、司」
 …お前のせいじゃない。
 「お前のせいじゃねぇよ」
 「…っ……ぅっ…………」
 泣き濡れる彼女を抱きしめ、彼女の体以上に震えている自分の手をグッと握り締め、彼女の髪に小さなキスを何度も繰り返す。 
 …ごめんな、の、けっして声には出せない言葉と共に。




*****




 いつの間にか寝入ってしまったつくしの髪を撫で、長い髪を背中に流してやり、すっかり肌蹴てしまっている彼女の裸の肩まで掛ふとんをひきあげる。
 涙に濡れた顔は、まだ十分に幼く、自分と一つしか違わないなどとは信じられないほどに無邪気であどけなかった。
 …お前が謝る必要なんかねぇんだよ。
 謝るべきは、懺悔するべきか彼であって、けっして彼女ではないというのに、彼のウソと欺瞞が、彼女にいらぬ苦悩と罪悪感をさらに背負わせてしまっているのだ。
 ―――流産した胎児は娘だった。
 アメリカに渡米してしばらくして、流産した彼女の処置をさせていた病院から、胎児の染色体検査の結果が司の下へ送られてきていた。
 しかし、司はあえてそのことをつくしに伝えなかった。
 いまさら、そうしたことがわかったとしても、彼女の苦悩と罪悪感…悲嘆を深めるだけに何の益にもならないことがわかっていたからだ。
 「ごめんな」
 …お前を守ってやるつもりだった。
 見ることができなかったわが子へと、今度こそ司はハッキリと口に出して謝罪した。
 彼女の腹に宿った我が子の存在を純粋に喜び、待ち望んでいたとは言えない。
 それでも、それがたとえつくしを縛るための方便としてだったとしても、彼女と自分の間に出来た子供を愛さなかったことなどありえなかっただろう。
 それなのに。
 「まるで、自分ではない誰かの夢の中にいるような気がするの、か」
 寝入り際に彼女が夢現に呟いていた言葉だ。
 誰かの夢―――というのならば、それは司の夢に他ならなかったに違いない。
 彼が紡いだつくしの悪夢。
 しかし、それは司にとって、この上なく甘美で幸福な‘愛の夢’だった。




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